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Discover(ディスカバー)   作者: K@YO(かぁよ)
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第8話 下手くそな鼻歌と、虚勢。

挿絵(By みてみん)


「ルシィ~インザスカァ~イウィズダイヤァモ~ンズ♪」

少しはずれた音程の鼻歌でケイは機嫌良さそうに右端の上段から順に下駄箱の中を眺めている。


「それ、ビートルズだね」

腕を振り回されて引っ張ってこられたシアンは、それでも楽しそうにしている。余っていた学ランの袖を丁寧に折り曲げながら、ケイの斜め後方に立って彼の前の下駄箱の中を覗き込んでいる。

「Lucy in the sky with diamonds・・・だっけ」

「へぇ」二人の会話を聞いていたシュウジは思わず顔を上げて感心するようにシアンを見た。英語の発音がキレイだったからだ。


「ん~、オレ英語アカンから歌詞はよーわからんけどな。なんか好きやねん。ちなみにサビしか歌詞知らんから、無限ループでこの部分やねんけどな」


ケイは振り向いてにっこりと、シュウジ的には(すこし不気味だ…)と、思う笑顔で言った。


「ルーシーはお空にダイヤモンド達と共にいる・・・?変なタイトルね」

マコトも下駄箱の中の体育館シューズを物色しながらブツブツと独り言のように答えている。次期生徒会長ともあろう彼女が、盗人に注意をするでもなく加担すらしているが、いいのだろうかとシュウジは1人内心ハラハラしていた、が。そんなことを口にしたところで彼女の気が変わるとも思えなかったし、何より気が変わってもらってはそれはそれでシュウジ的にはが“がっかり”なのでやはり何も言わないでいた。


「・・・お!コレくらいちゃうか。シアンお前、足のサイズ二十四㎝か?」

少し小さめのわりあい綺麗な体育館シューズを一対引き出すと、ケイはそれをシアンの足下にポイッと放って彼に履くよう促した。


「ぴったり。よくわかったね、ケイ」

それを履いたシアンは、ケイの顔を見てにこにこ笑った。出会って間もない、年齢も違う二人がもうすっかりお互いを名前で呼び合っている様子は何となく微笑ましいものがあった。基本的には馬鹿みたいに明るいくせに、不機嫌を装う癖があるケイがニコニコしているのもまた、不思議な光景でもある。


以前ケイにその事を指摘した時、シュウジに向かって「俺はクールやねん」と、細く整えられた眉をきりっとわざとらしく片方上げて斜め四十五度の角度に顔の向きを固定したケイは、普段より少しトーンを落とした声でそう言ったものだった。何の漫画の影響を受けたんだか、とシュウジは呆れたが「そうか」とだけ答えて、その話は終わった。


白い体育館シューズを履いて嬉しそうに自分の足元を眺めているシアンは、先ほどまで履いていた市民病院のスリッパをすのこの上に丁寧に揃えて置いた。律義な性格だ。


「でもお前、ほんとに小さいな。それって女子のじゃないの?」

シュウジも思わず笑いながら、ケイが靴を引き出した下駄箱の名前を見た。

「え?ほんとに?」シアンも確かめるように下駄箱に目を細めて近寄る。体育館下の下駄箱は電気をつけないと本当に暗い。それに、シアンは少し目が悪いようだった。

「あ。ほんとだ。ツカモトカヨコさんだって。女の子のだ」シュウジとシアンは名前を確かめると二人同時に吹き出した。


「気にしなぁ~い~ユセィイェス~♪」

ケイはまた別の歌を口ずさみながらマコトの方を向き、ケイより二十cm近く小さな彼女を見下ろすような形で立った。


首を軽く傾げ「さてさて」と呟いた後、


「これからどーすんねん?カイチョーさん」と、少し威嚇するようにマコトに訪ねた。

ケイはどうする気なんだろう?とシュウジは思いつつ、そんな二人を見守る。

「どうするって、君はどうするつもりなの?」マコトもシュウジの内心と同じ質問をした。その質問を予期していたかのように、ケイはあまり動じずに片眉だけ動かして、

「ん~、チャリンコでB湖でも行こかな~って感じ?」と答えた。


マコトの顔から視線を外し、首を反対側に傾け右手でうなじの辺りを撫でるような格好になった。どうやら、恰好つけて顔には出さないようにしているみたいだな、とシュウジは思った。本人は気づいていないようだが、それは困っている時にする彼の癖の一つだった。


「アタシも行く」


そんなケイの心情を知ってか知らずか、一瞬の躊躇もなくマコトは即答した。ケイもしばらく考えるような素振りと、意味ありげな視線をシュウジに向けてきたが「あ。そぉ」と意外にもあっさりと答えた。

 シュウジはケイの視線の意味が分からずにいたので、気にはなったがすぐに考えるのを中断された。それは、ケイがまた妙に外れた音程の大声で、

「ほな!行くで。みなさぁん~♪」と、言ったからだった。


そのまま彼は振り返りもせずに、がに股で体育館の出口に向かって歩き出した。どうやら、シアンを気に入って上機嫌な事が、ケイの苦手なマコト嬢の同伴に彼が寛大になった最大の理由のようだった。

シュウジも、自分で分かるほど彼女の同伴を喜んでいる。


シアンは何も言わず、ただ嬉しそうに微笑んでケイに付いて歩いていく。

「わぁ、B湖って初めてだな。大きいんでしょう?」そう言ったシアンの言葉に一同はまた、驚きで目を見開き立ち止まる。そしてしばしのフリーズの後、全員が「え?」と言ってシアンの顔を見つめた。


「・・・お前。S県の人間やんな?」とケイは恐る恐る、と言った様子で眉をひそめた。それを聞いたシアンは「うん、勿論」と答え、無邪気に笑った。彼らの住むS県という県の県民にとって、県の中央にどんと鎮座したその巨大な湖を知らないものは、まさに“モグリ”だと言える。それくらい生活に根付いたものだと全員が思っていたのだ。


「そう言えば、B湖って湖ですよね?じゃ淡水なんですね。しょっぱくない。あ、でも僕海も行ったことないや」と。

その言葉を聞いた全員が全員、首を項垂れて深いため息をつくしかなかった。


「ま、えぇわ。初B湖っちゅー事で、な?な?」呆れ顔のケイも半ばヤケ気味にそう言うと、左手は腰に置き右手は高く空へ振りかざした。その姿は、まさにゴリラ、否、少し進化した『猿人』かもしれない。


体育館を出ると、無駄にでかい図体を揺らしてケイはまっすぐ駐輪所のある正門の方向へ歩き出した。


また間がだいぶあいてしまいましたが、、、汗


若者ーズのターンは、

まったりムードのお話が続きますね。


それぞれが旧知の仲である男女三人。


シュウジとケイ、ケイとマコト、マコトとシュウジ


この三人の微妙なバランス。


そして、突然彼らの前に現れた謎の少年シアン。


四人四様、それぞれの思いは・・・?

彼らはこれから何処へ向かうのでしょうか。

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