第1話 いつもの夢、その続き。
これは夢。そう、いつも見る夢。
わかっている。あくまでも夢なのだ。
蓮の花。一面、蓮の花が浮かぶ湖。
近くの蓮の花。遠くの蓮の花。
散る花。まだ、蕾のままの花。
ぐんと伸びた茎の先の、
めいっぱい広がった大きな葉。
群生している部分は、まるで森のようだ。
アタシの足は何故か水の上に乗っている。
沈まない。夢だからかもしれない。
「またココに戻って来てしまったのね」
夢の中のアタシの声は、現実の声よりずっと好きだ。
本当に骨や空気を振動させる声と違う、不思議な響き。空気の代わりに心を振動させているのだろう。
「またココに戻って来てしまったのね」
もう一度同じ事を呟いてみる。今度は言葉の意味をしっかり噛みしめながら。
めまぐるしい夢の旅路は、いつもこの一面の蓮の湖に帰還する。よく見ると遠くには蜃気楼のように微かに白い風力発電の風車がゆっくり、本当にゆっくりと回っているのが見て取れる。
そう“いつものよう”に。
それはつまり、アタシの心の奥底にある景色ということなのかもしれない。
「イカル」
声に呼ばれて振り返るとそこには誰もいない。
「あぁ、またか」そう思いつつも好奇心は隠せない。
「誰?誰なの?」
辺りを見渡しても見えるのは蓮の花と大きく広がった葉と、水と、水と同じ色をした空だけ。
「イカル。ここだよ、イカル」
声は遠くから、近くから聞こえる。
すぐそこに居るようにも、とても遠くから呼びかけられているようにも思える。
夢の中には距離という概念は存在していないようだ。ギリシャ神話の、美少年ナルキッソスを愛したエルフの少女、エコーのようにその声はいつまでもアタシの周りをぐるぐる回っている。
「誰?何処にいるの?」
そう言いながらアタシは水に沈まないのを知っているのに、何故か蓮の葉の上を飛び移りながら、
どこまでも続く湖でアタシの名を呼ぶその声の主を探し始めた。
天へ向かって長く伸びたか細い茎の先の、大きな蓮の葉の上は一見してとても心許なさそうだったけれど、そこはさすが夢の中というべきか、とても安定していた。
実際、体験したことはないけれどまるで無重力の空間のように、
アタシの体はとても軽やかに葉から葉へと飛び移れた。
しかし、いつまで経っても声の主は見つからない。
いつもはここで目を覚ますのに、今日の夢はなんだか少し違う。
「何処にいるの?あなたは一体・・・」
そう言い終わるか終わらないうちにまた声がした。
今度はすぐ耳元で囁くような、しかしハッキリとした声だった。
「イカル、ぼくを見つけて」
この作品を、人目にさらすことについて
かれこれンン年悩んでしまった気がします。
*2007年表記から訂正。
2003年に短編小説集を某出版社から出版する話をいただいた際。
本当なら、この子(Discover)を本にしてあげたかったのですが、
〆切りとの兼ね合いもあり、その後小説自体を書くことを辞め、
完成させられないまま今に至る、という経緯があります。苦笑
しかしながら、
思い入れのある子(作品)でもあるので。
当時のデータ原稿を基に、加筆修正しつつ
これから少しずつupして行こうと思います。
(何せ18歳当時の思考をトレースしつつなので恥ずかしいやら苦行やら…)
何かと至らぬ点も多いかと思いますが、
お付き合いの程、宜しくお願いします。