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こんぽじしょん! 美少女達とボカロP目指してみた。  作者: raiga
第二章 パルランド 〜モデラート〜
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その2

 続いての計画は大崎姉妹発案だ。

 今回の作戦名は『音で殴れば分かり合える!計画』らしいが内容は見てのお楽しみとの事。紫音がピアニカ、凛子がタンバリンをそれぞれ手に部室を出て行った時点で何となく予想はつくのだが…………。

 例の如く紫音の胸に取り付けたピンカメラ(もうバレているので堂々と付けた)から送られてくる映像を一翔と彩の二人で閲覧していた。

「さあ始まりました『音で殴れば分かり合える!計画』解説はドラマーの……」

「あ、そういうのいいから」

「えー! 彩だってこういうの好きだろー?」

「生憎うち今、そうゆー気分じゃないんでっ」

 どうやら監視カメラの件が相当頭に来たらしい(主に胸が映り込んでいた件で)。先程の作戦のあまりであろう手作りのクランチクッキーを口に頬張りながらプンプンと頬を膨らませる。そんな彩の態度を見てちぇっ、と残念がる一翔は、

「今回の作戦は秘匿との事で未だ公開されていませんからこちらも胸が高鳴りますね〜」

 と誰にも需要の無い台詞を一人淡々と喋るのだった。

 そんなこんななうちに大崎姉妹が一年一組に辿り着く。

『おい黒崎澪はどこじゃー!』

『何処。』

 教室のドアを堂々と足で蹴り飛ばした紫音。田舎の番長の如く腕を組んで威圧的に構えるその大胆な態度は先程以上に生徒達の視線を集めた。

 しかし当の澪本人は、

『また貴女達――――……。今度は何をプレゼントしてくれるのかしら』

 と呆れたようにそう吐露し、またしても視線は音符から離れなかった。

 そんな澪の元へ二人は堂々と闊歩し、虎の如き目つきで澪を見下した。

『続いては私らからの音楽のプレゼントだぜ!』

『みゅーじっく。』

『……そう。私クラシック以外は聞く気ないのだけれど』

「おっとーやはり最初は相手にされてないみたいだが大丈夫かー?」

 と、こんな風にして『音で殴れば分かり合える!計画』の火蓋は切って落とされた。

 さてどんな作戦なのだろうか、大崎姉妹はお互いに持っている楽器を構えた。

 そして――――――……、


 タンタンタタッタタタタンタタッタタタタタンタッタタタンタタタカタカタカタカッ!

 ドファソラレピヒャ――――――――――――――――――――――――――――ッ!


 音楽――――いや騒音が始まった。

 二人が創り出すノイズと云う名のハーモニーに周囲の生徒達は一斉に耳を塞ぐ事で対応してみせた。

『ふふぁふぁふぁふぁどうどぅぁー! キミもおんがくかならはのしいりすうにこころおどるだろう?』

『必聴必死。』

「……ピアニカ咥えてる方は若干何言ってるか分からないけれど兎に角攻める! さあ対象シズク、どうするのかっ!」

 ところが澪の方はそんな騒音に動じる素振りも見せず『あっここはクレッシェンドか……』等と呟きながら先程までと何ら変わらず楽譜を読み続けた。要するに無視だ。

 そんな彼女の態度に紫音達が黙っているはずも無く、

『私の歌をきけぇぇぇええええええええええええ!』


 ダダダダンダダッタンダダボコボコテレレレピキャー―――――――――ン!!

 ドミレファシシシピポラパバボレボ――――――――――――――――――――!!


 更に騒音はその音量を上げた。

 さあこれならどうだ。ところがどっこい、澪は『あっここピアノなんだ……ちょっと私の演奏五月蝿過ぎたかも』等と呟き鉛筆で『小さめに』と楽譜に書き込むのだった。自分の演奏の五月蝿さは気になるのに何故この騒音は気にならないのだろうか。


「おい、何の騒ぎだー!?」

 その時、このクラスの担任――茅ヶ崎愛珠(ちがさきえみ)が一年一組の扉を開けた。愛珠の鋭い眼差しは教室内を手早く見渡すと直に騒音元の姉妹の姿を捕らえこちらに迫ってくる。

「アンタ達何やってるの? あ、もしかして前衛音楽かしら。新しい音楽に挑戦するのは歓迎するけど昼休みに教室でやるのは辞めてくれるかしら――――――?」

 怖い怖い。顔が笑ってるのに笑っていない。鬼火を背景に微笑む愛珠の圧迫された姉妹は、

「……り、凛子……演奏はこれくらいにしておこうかぁ!」

「……承知。」

 咄嗟に足を大回転させる二人。文字通り風のようにその場を去った。

 火事場の馬鹿力と云う奴だろうか。それだけ愛珠の笑顔には鬼の様な恐怖があった。


 …………………………。

 途端に返る教室。愛珠は戻って来た静寂に安堵の息を漏らした。

「ったくー電研部の連中はー。何だったのかしらね?」

「勧誘だったらしいですよ、部活の」

 興味なさそうにぼそりと澪は漏らす。

「は、勧誘? ……あれが?」

「……私に聞かれても」

 そりゃあんな騒音合戦、誰が見ても部活の勧誘には見えないだろう。愛珠は呆れたように頭を抱えた。

「はぁーあんな変な勧誘するなら個人情報漏洩なんかしない方が良かったかしら? 流石に十万くれるって言われたら生徒の個人情報の一つや二つ渡しちゃうわよねぇー」

「…………そういうものなんですか?」

「そういうもんよーそーゆーもん! 黒崎さん、世の中はね金なの金!」

「……そうなんですね。」

「ったく部活の勧誘は良いけど教師の休み時間妨害すんのは辞めて欲しいわー。担任のクラスで問題起こしたら責任私に負わされるし」

「は、はぁ…………」

「黒崎さんもなんかトラブルに巻き込まれたら必ず私に相談してね。そういうの他の先生にバレたら茅ヶ崎先生の責任問題が云々言われちゃうからさ〜 あー社会ってなんでこんな面倒くさいのかしらー」

「……善処します」

 茅ヶ崎愛珠の教師とはまるで思えない爆弾発言の数々に周りの生徒達は顔を青ざめた。しかしそんな中ただ一人、全く動揺せず楽譜に目を落とし続けた澪であった。



 各学年のHRが終わった頃合い。

 桃沢彩は一年一組の教室の前に立っていた。

『な、なんだかきんちょーするなぁ――――……』

 彩は頬をピンクに染め、俯き加減でもじもじしながらこれまた可愛らしいピンクの紙手提げを後ろに構えているのだった。

 一体どういう事なのか。

「さーて始まりました『告白de勧誘計画』解説はギタリストの大崎紫音さんです」

「よろしゃっす!」

 またしても変な風にマイクを構えた紫音はそんな風に言った後「みんなー今日はありがとー!」と完全に何処かのライブ気取りだった。

 告白de勧誘計画。

 一翔発案の計画だ。先程ちょっと澪と彩がいい感じ(所詮部活の会話が出来ただけだけど)だったのを良い事に、今度は愛の手紙付きでスィーツを渡せば良い所まで行けるんじゃね?という何とも横暴かつ穴だらけな計画だ。

「つーか成功するとか特に考えてません!」

「うん! ももちゃんのレズ展開に萌えたいだけです!」

「……ダメ人間。」

 ぐへへへへと珍妙な笑顔を浮かべる紫音一翔とは打って変わり、凛子は完全に興味を失ったようで教室の隅でぐっ!ぐっ!っとぐっじょぶサインを連発している。……カッコいい角度は何処だか計っているらしい。

 とは言え勿論彩が最初からこんな計画に賛成するわけがないのだがそこは、

「うん、彩可愛いから絶対行けるって! だって彩可愛いもん!」

「女子力高いし、面倒見良いし、優しいし、明るいし……あーももちゃんが頑張ってくれれば澪も落ちると思うんだけどなぁー!」

「え、……やっぱそうなっちゃうかなぁーがははは! えっへへーじゃあやってみちゃおっかなぁ〜!」

「……笑止。」

 ……というやり取りを経ての結果だった。

 彩という子はなんとも扱い易い子だった。

「おっとー一年一組、ここで遅めのHRが終わったようです」

「まー入学二日目のHRなんだから伸びて当然か」

 教室からは生徒が溢れるように飛び出してくる。

 澪の姿は…………恐らくまだない。

「こーれは紫音さん。対象シズクは教室から出るのは遅い方なんでしょうかね?」

「んまー彼女の性格から考えてそう考えるのが妥当でしょうね。人ごみとかぜって―嫌いだぜあいつ」

「なるほどー!」

『仮入いっちゃう?』『うんうん、いくいくー! 私吹奏楽!』『ねぇねぇ、一緒に駅前のファミレスいかない?』『ごっめん! この後レッスンなんだー』『てか担任すっごい面白かったね』『うんうん! すっごいテキトーで笑っちゃった〜』

『おっといっけねぇ……澪を探さねーと……!』

 雑音の中、必死に目を凝らして澪を探す。いつもの彼女だったら猪の様に突っ込んで彼女の元へ向かうのだろうが……緊張しているのだろうか、足がすくんでいた。

「おっとー彩選手、おどおどと立ちすくんでいる! 一歩で遅れたか――っ!」

「まぁ、例え相手が女の子でも告白するんだからそりゃ緊張はするわな……いやー萌えるわ。」

「萌えますねぇ……!」

「……理解不能。」

 するとそこで黒崎澪発見、まだ自席から一歩も動かず譜面を読んでいるようだ。動いていないというのはこちらとしては助かる。

 彩は彼女に照準をあわせると、少し動揺しながらも、

『……よし!』

 そう意気込み震える足をなんとか一歩ずつ動かして彼女の元へ近づいて行くのだった。

「おっと彩選手、対象へ近づいて行く――――――――ッ!」

「キタァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアア!」

「……ぐっ!……ぐっ!」

 そして…………、

『黒崎澪さん…………っ!』

『貴女も懲りないのね……――何かしら。』

 彩による決死の声かけも虚しくいつも通り淡白にそう答えた。

 画面越しでは紫音と一翔がドキドキしながら目を皿にして食い入るようにそれを見つめていた。

 それから遂に。

『私…………』

「「おぉ!?」」

『私! 貴女の事が好きですッ!!』

「「キタコレ―――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!」」

 彩はそう言って手に持った紙袋を差し出した。ざわつく室内。教室に残っていた生徒達数名の視線もそこへ集まった。

 紫音は悶えて床をゴロゴロ転がり、一翔は息をはぁはぁと荒くさせた。お互いに共通するのはとろとろにとろけたその緩い表情だろうか。

 さあ、返事はどうなのか。流石にここまで来ると紫音達でなくても気になってしまう。凛子も教室の端から画面を眺めていた。

 しかし澪の返事は多くの人が予想していた回答とは異なる意外なものだった。

『…………貴女は何処まで私をバカにすれば気が済むのよ――――――……。』

『……澪?』

 とても重く、どっしりとした言葉。言葉の端々に感じる棘。無機質なトーン。

 そしてそれから激しく彩を睨みつけると、

『私をバカにして楽しんでるのかしら――――貴女は。』

 いつもの冷たい視線とはまた少し違う……そう、まるで恨みから蔑んでいるような鮮烈な眼でそう語った。

 その眼の意味――――それは恐らく憤怒。

 瞳の奥には確かにそんなどす黒い感情が渦巻いていた。

 その様に、彩は、文字通り言葉を失った。

『ごめん私……そ、そんなつもりじゃっ……』

『じゃあどんなつもりなのよ』

『……勧誘?』

『これが貴女の言う勧誘なの? 随分とズレた価値観ね。』

『ごめんなさい……嫌だった、よね? 本当にごめんなさい…………。』

『謝らなくていいから。少しでも申し訳ないという気持ちがあるなら今直ぐここから立ち去って』

『……分かった』

 ここまで言われてしまっては下がるしか無い。彩はその寂しげな背中を澪に向けて静かにその場を後にした。

 この対応は余りにも予想外だったのか――一翔と紫音も絶句していた。

「……本末転倒。」

 固まる空気。

 一翔と紫音、二人の表情も唐突に曇った。冗談半分でやった事が勧誘を絶望的にしてしまったのだから。

 そして何より。

 澪と彩両方を傷つけてしまった事への罪悪感が――二人にとっては最も辛い事だっただろう。

「まさかあそこまで……悪い事しちゃったな――……。」

「そうです、ね」

 二人は俯いたままそんな会話を交わした。


 温い。とても温かった。

 この後彼らは――この時した行動の温さを知る。


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