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こんぽじしょん! 美少女達とボカロP目指してみた。  作者: raiga
第三章 ストリンジェンド 〜ディミニッシュコード〜
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その5

「申し訳ございません、先生まで付き合わせてしまって」

 都内近郊の閑静な住宅街。愛珠と澪は静かなその道を二人並んで歩いた。

「やー何言ってんのよ! これくらいお易い御用よ〜」

 教師という職に誇りを持っている愛珠らしく、澪の休日の急な呼び出しに参上してくれたのだ。そんな彼女の事を澪は少し感謝していたりするのだが、礼の言葉を素直に口にするタイプでは無い事はお互いに承知済みだ。

 澪の私服姿はそれはそれは美しかった。

 シックなブラックのワンピースにこれまたブラックのヒール、腰にはホワイトのベルト。少しだけ大きめなネイビーのトートバックを左肩に下げ折れそうな程細い左腕にはダークなワインカラーベルトの腕時計が光る。装飾品などは一切身につけておらず、シンプルながら彼女の美しさが存分に引き立つそのコーディネートは恐らく街に出れば周囲の視線を集めるだろう。

 そんな彼女に愛珠もまた見入ってしまった。

「……黒崎、あんたモテるでしょ?」

「きゃん!?」

 澪は驚きのあまり思わず子猫のような奇声を上げた。

 そんな彼女を視て愛珠は、

「そういう素が可愛い所とか……少なくともこれはあたしが男だったら惚れてるわ」

 下から上まで彼女の美麗なボディーラインを舐め回す様にガン見してにやにやと奇妙な笑顔を浮かべる。

 澪はそれを見て肩を抱きしめて防御姿勢を取ると、

「……それは犯罪の匂いがします」

 罪人を見るような目で一瞥した。

 そらそうだ。これでもし愛珠が男だったら犯罪臭プンプンだ。正当なツッコミ。

「あーあたしも男ほーしーいーわー!」

 生徒に嫉妬している大人げない女はくるくると回転しながらそんな事を切実に叫んだ。男が欲しいならそういう意味不明な態度をまず改めたらどうなのだろうか。

 そんな愛珠の事は気にせず澪は、

「あ、ここですかね」

 とあるスタジオを指差しそう言った。

 地上五階の少々大きめのビルが住宅街の一角に唐突に現れた。四、五階はこちらから見える面は全面ガラス張りという近代的な雰囲気だが、玄関扉は木造で趣きあるものだった。

 そう、ここが――――澪の元へ舞い込んだYAMANOからの仕事の現場。

「ま、取りあえず入りますか」

 急に真面目に戻った愛珠は澪を先導して扉を開けた。


 ――すると唐突に、天然パーマの男性が眼前に飛び込んで来るのだった。

「はいはーい黒崎澪さんですね〜お待ちしてましたー」

 ――その時。

 目が合う、愛珠と、――野島。

 そして――――――、


「「何でアンタがここにいんのよ(いんだよ)―――――――――――ッ!?」」


 二人の絶叫フォルティッシモに反射的に耳を塞ぐ澪。

 対する二人は震えながら互いに指差し合った。

「茅ヶ崎愛珠……いくらなんでもお前が女子高生のフリするのは無理があるぞ?」

「ちっがうわよ! 今日はあたしの可愛い生徒の付き添いですぅー! てか女子高生のフリは無理ってどういう意味かしらー?」

「えー分からなかったですか? じゃあハッキリ言ってあげますよ! アンタはもうババァだって事だよ!」

「バ……ババァですって!? 生憎あたしーまだー二十代なんですけどぉー」

「きっも。失せろ」

「なっ! てめえ言って良い事と悪い事ってのが…………」

 血眼になってガツガツ言い合う二人。大の大人が交わす言葉とは思えない。

 そしてそんな放っておいたら何時間も続きそうな二人のどーでも良いやり取りを澪はあくびをしながら眺めた。

 だが澪の身にも、あくびをしていられない出来事がこれから起こるのだ。

「ちょっとー野島さん早くピアニストの子連れて来てよー」

 小さな少女がそう言ってスタジオの奥からこちらへ向かって走ってくる。

 その少女の名は…………


「「なんで澪(彩)がここにいるのよ――――――――――――――――――ッ!?」」


 その若々しい絶叫アクセントを聞いて大人達の方は静まり返った。

 澪は目を皿にして顎をがくがく震えさせた。彩も状況を掴めぬ様子でキョロキョロと周囲を見渡すのだった。



「……――――という訳でしたー作戦大成功ー!」

 そのスタジオの地下にある部室と同じくらいの少しだけ狭いレコーディングブースに集まった澪、愛珠、野島、彩、紫音、凛子の六名は一翔の言葉に絶句した。

 一翔の計画はこうだった。

 野島と計画していた新曲レコーディングのピアノプレイヤーに黒崎澪を指名したいのだが、当然普通に誘っても来てくれる訳が無いのでYAMANOの名前を使い仕事内容を伝えず学校を通す事で勧誘する事にした、とのこと。結果は大成功だった。

 澪はそんな彼の解説を汚物を視るような目で聞いていた。

「社会のゴミが。」

「……澪さん、そんなに怒らないで、ね?」

「あれ、最近のゴミって喋るんですか?」

「……ちょ、流石の俺も泣いちゃうよ……?」

 すると澪はぷいっと一翔に背を向けてトートから楽譜を取り出し、貴方に興味ないオーラを出しながらそれを読み始めた。彼女の背景には『話しかけたら殺す』って書いてある。すっかりへそを曲げたようだ。

「でもなんでうちらにまで黙ってるんだよー!」

「そうだよひでーな一翔も」

「笑止。」

 電研部部員達からのブーイングも一翔へ降り注ぐ。

「や、だって話したら……そんな方法良くないって言い出す人もいそうじゃん? 彩とか」

 特に彩は澪と昔関係があった仲だ。そういった無粋な手段を取って再び澪を傷つけるかもしれない事に慎重になりそうだ。敵を騙すにはまず味方からか。

 頬を指差し少し考え込んでから、

「んまぁ……それはそうかも」

 彩もそれを自ら認める。


「で、なんで野島がここにいんの?」

 続いては愛珠の静かな怒号。

 だが一翔は冷や汗を流しながら全力否定する。

「や、それは俺も知らないっすよ。てか野島さんと茅ヶ崎先生って顔見知りだったんすか」

 ……その件に関しては本当に偶然だったようだ。

 一翔は野島に目線でちょいちょいと助け舟を仰ぐと、

「……茅ヶ崎がうちの事務所辞めてからちょっと後、俺も部署移動になったんだよ。んで今はYAMANO出版の人間。移動になってから雨宮と一度仕事した事があってその付き合いで今回の企画の話を受けて、んで俺がそれに乗った」

 そんな初耳だらけの話を受けて愛珠は落胆の息を漏らした。

「偶然に偶然が重なりって事かしら……あのメール出して来たのはてっきりあたしと繋がりがあるからアンタに任せただけかと思ってたんだけど…………」

「……俺はあのメールが茅ヶ崎んとこに行ってた事を今知ったよ。学校宛に出しただけだし」

 野島は澪の担任が愛珠とは知らず澪の担任宛にメールを出した。

 愛珠はその事と部署移動の事を知らず、ただ単に自分に繋がりがあるからメールだけ野島が出して担当者は別にいるものと勘違いしていたようだ。ラノベラブコメ並のすれ違いだ。偶然とはなんと恐ろしいモノなのか。

「あっははー世間って狭いっすねー!」

「「「「「「お前が言うな!」」」」」」


「んで黒崎、あたしはアンタがこの仕事やりたくないって言うなら、担任として、この野島とか云うクソ野郎を説得してあげるけど……どうすんの?」

 隅で縮こまる澪を覗き込み、愛珠はそう問いかけた。当然だ、これは列記とした詐欺だ。もう犯罪だ。澪がこのタイミングで仕事を断ると言えばそれは真っ当な意見として通らなくてはおかしい。

 澪は楽譜から目線は逸らさず、しかし手は止めて、

「…………やります。一度引き受けた仕事を私個人の理由で断るのはプロ失格ですから。」

 とか細い声で返答した。

 愛珠は、今度は安堵の息を漏らす。

「そう……。じゃあ頑張って演奏して来なさい」

 それからその綺麗に整った頭を撫でた。一翔はうわっいいなーと思いながらそれを眺望する。勿論いいなーというのは愛珠に撫でてもらいたいではなく澪の髪を触りたいなーって方だ。

 ――たがそんな澪の表情は何故だろう、意外にもニヤついていた。

 ワクワクで震えていた。

(本当はやりたくて仕方ないのに……素直じゃない子)

「あーもうそういう所が可愛いんだからっ!」

「……先生辞めて下さい。」

 急に背後から抱きしめてきた愛珠の事を無視しながらそう言う澪は、やはりどこか嬉しそうな気がした。


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