その1
氷の鉄槌――鋭くそして強靭で氷柱の様な無数の音槍は、瞬く間に彼の胸へ飛び込み突き刺さった。
収容人数一三〇〇人、巨大な反響版、無数の照明とカメラマイク、そして一階席にはバルコニーまで設置された凡そ高校に付属する施設とは思えない規模のコンサートホールを味方につけ、完璧に操られた音はこれまた正確に客席へと乱散するのだった。
一体どんな人間がこんな事を――――……
「まるで氷の魔女だ…………!」
その少女――名は黒崎澪。
眉をぴくりとも動かさず冷徹な迄に凛とした彼女が淡々と鍵盤に触れるその姿を見た彼は思わずそう呟いた。
情景が変わる。
舞上がった音の粒はまるで霧雨のように冷たく、何処か悲しく客席へ降り注ぐ。
と思うと続いては嵐の中心に居るのかと錯覚させる程荒れ狂った音の鉄球に思わず打ちのめされる。
時間芸術――音楽。
時が刻まれれば音色も変わる。
それなのに。
それなのに彼女自身は全く持って表情を変えず、「こんなの朝飯前よ」とでも言うかの如くその艶やかな黒髪を靡かせながらさらりと鍵盤を叩くのだった。
一目惚れ、或は一聞惚れとでも言うのだろうか。
その姿に、音に。
彼――――雨宮一翔は確かに惚れた。
*
「おっはよ――っ!」
分厚い防音扉を勢い良く投げ飛ばすと同時に一翔はそう叫んだ。
室内には三人の少女が。
そのうちの一人――古びたドラム椅子に座した小柄な少女は、ビクリとその場で立ち上がるとぷるぷる震えながら一翔を指差した。
「えっ一翔っちが朝練……ッ!? ……今日の天気予報晴れって言ってたから傘なんか持って来てないやぃ…………。」
「心配すんな。そん時にゃー俺の傘に入れてやんよ!」
「いやうち結構雨に打たれるの好きなんで大丈夫っす。……いやしかし一翔っちが朝練なんて絶対打たれて気持ち良い小雨じゃない、か………………」
「ハハハー何を言ってるんだいマイハニー。俺様の左側、いつでも君の為に空けてあるんだぜ?」
「あ、でもこっから駅迄って割と近いしまあ濡れるのアリかもなー」
「そうっ! 俺の心にはいつも君の笑顔がっ!」
「……何、このビミョーに噛み合ってない会話」
薄桃色のリボンでその煌びやかな金髪を両サイドに止め上げた紅色目でチワワの様な小動物系美少女――桃沢彩はドラムのスティックを持ったまま一翔の元へ駆け寄った。
「……で、一翔っち。今日はどんな御用で……?」
彩は左手人差し指を立てると一翔の二の腕をぷにぷに、と突きまくる。
「そりゃ一翔が朝練に来るなんて理由は一つっしょ…………なぁ?」
「笑止。」
ワインレッドに黒いネックのストラトキャスターなるギターを抱えた少女――大崎紫音は左隣でぼーっと立つ蒼いベースを引っさげた大崎凛子へ、そう言いながら視線を送った。
彩はそんな二人の会話に何か思い当たる節があったのか、ビックリマークを頭上に立てると、
「あぁそっか! ……新しいの、出来たんだね?」
どうやら一翔が朝練に来る理由、と云えばただ一つという共通認識があるらしい。
「さーて今回はどんな無茶なのが来んだー?」
少しだらしなくもカッコつけて構える紫音。
「期待。」
真っすぐと起立ししっかりベースを握りしめた凛子。
「うぉー! オラわくわくが止まんねぇッ!」
真っ赤な炎を目に灯しながら一人勝手に盛り上がる彩。
その時、三人の美少女の視線が一斉に一翔へと集まった。
するとキラリと目を光らせた一翔は、
「ふっ……それでは皆さんお待ちかねッ! 私、雨宮一翔の新作をご覧あれっ!」
――――バッ!
右手に持った焦茶色の手提げ鞄から数十枚の紙と一枚のCDを取り出し大胆にも空へバラまいた。
その正体は――――楽譜だった。
「をっしゃぁ! ドラムはどれじゃい――!」
「タブ譜を探せタブ譜を――!」
「収集。」
八畳程の地面にバラまかれたA4の紙の中から三人の少女達は自分の担当する楽譜を探す。『美少女達、地べたに這いつくばる』と云う若干滑稽な姿を、一翔は堂々と腕を組み鼻を高くして誇らしげに見下ろす。微妙にウザい。
やはりそんな彼の姿にイラついたらしく、
「アンタはさっさとそいつをCDプレーヤーに入れんかいっ!」
「おぶふッ!」
彩のげんこつハンマーが一翔の左足を砕いた。
そんなこんなで紙を全て回収し終え床が見えた頃合い。
床に広がった楽譜が無くなり少女達が各々の定位置に戻った所、
「じゃ、再生するな」
そう一言、一翔はCDプレイヤーの再生ボタンをポチリと押すと――――…………
――――――――――――――ッ!
音楽が――響いた。
一体この狭い部屋をどんな風に改造したのだろうか。床、天井、四方至る所に設置された無数のスピーカーからとある音楽が流れ始めた。
優しく奏でられるアコースティックギターの和音。
それをそっと支える優しく暖かいベース。
そこに刻まれるのはそっと彩りを加えるように囁くドラムのリズム。
音楽をがっと盛り上げるのはキーボードによって奏でられるストリングスのハーモニー。
そしてその上、音で何かを語るもの――――……。
機械によって人工的に作られたような音声――ボーカロイドによって歌われる愛の告白。
そしてそれに隣り合り寄り添うグランドピアノの音色。
そう、この音楽は――――ボカロによって歌われるラブソングだった。
四分弱の曲が終わるや否や――彩は突然一翔の両肩をがっしり掴んだ。
「一翔、アンタ一体何があった…………?」
何かを諭す様にそう言う彩は先程迄の彼女とは打って変わった真剣深刻な眼差しだった。
それもその筈…………、
「一翔がラブソング書いてくるなんて今迄一度たりとも無かったじゃない――――――――――ッ!!」
あまりの彩の絶叫に美少女他二名は耳を塞いだ(一翔は腕を掴まれていた為それが出来なかった模様)。
一翔はそれをあまり追求されたくなかったのか、冷や汗を洪水の様にだらだら流し始めた。何か隠し事があるのは間違いない。
「い、いやぁーお、俺もたまにはラブソングでも書いてみよっかな――……なんて」
明らかに狼狽えてそんな風に何かを誤摩化した。
「嘘だ! だって前一翔にラブソング作曲してって頼んだ時、『俺は男らしくてカッコいい音楽が好きなんだ。ラブソング? あんな女々しいのはご免! 俺は自分の書きたい曲しかかかねえっ!』とかぬかしてたじゃん!」
「つまり一翔はラブソングを好きになったか或はラブソングを書きたいと思う理由が出来た、と……」
「……笑止。それ愚問。」
「うぐっ……」
三者の疑り深き視線がぐいぐいと一斉に集まると一翔は気まずそうに目線を泳がせた。
ラブソングを書きたいと思う理由なんて……そらリアルでラブしてランデブー以外に何かあるのだろうか、いやない。
「さぁ、どういう事か説明してもらおうかしら――――――――。」
悪魔のような血相をした彩は一翔へそう問いつめた……、いやこれは威圧と言った方が正しいか。
一方の一翔はあたふたあたふた、言葉の海に飛び込んで必死にごまかしに適当な言葉を探す。
そして思いついた様に、
「でっ、でもー……曲は! そう、曲はなかなか良かっただろっ!?」
「今は曲の善し悪しの話してんじゃないの。」
「……スミマセン」
切り札撃沈。怒った女を止める事は男には出来ない。手をゴリゴリ鳴らす鬼女の前で一翔はぷるぷると子猫のように震えていた。
「まぁまぁももちゃんも抑えて抑えてー」
そんな彼女の左肩をそう言いながら軽く叩いたのは紫音だった。
これは一翔への助け舟……? 一翔の心に一筋の光が差し込んだのだが、
「一つ一つ順番に問いつめて行きましょうや…………。」
真っ黒な顔でそう言った。光は直に陰った。
「そうですね紫音先輩……まずどっちの腕から折ってやりやしょうか――――。」
うん、残念ながら助け舟は途中で彩の方へ向かったようだ。攻めが二倍になる。
一翔の浮遊するその視線はまだどちらの勢力にも在籍していない薄暗いショートマッシュの美少女、凛子に向けられ、懸命に救済を訴えた。だが…………
「ぐっ!」
凛子は真顔のまま親指を立ててグッジョブサインを送る。要するに『観念しろよガンバ☆』って意味だ。
「うぅ〜凛子せんぱぁーい…………」
それを見た一翔は絶望の意味を込めた溜め息をついた。
こうして2VS1の1傍観なる壮絶な戦いの火蓋が切って落とされたのだ。
「っていうかさ、そもそもこのピアノパートってなんなの?」
紫音は壊れたおもちゃの様に静止した一翔の腕からスコアを取り上げるとそこに記されたピアノパートを指差し一翔にそう問いかけた。
「うぐっ! ……そ、それはですねぇ――――」
「そうだよ! うちの部活は私がドラムで一翔がキーボード、紫音先輩がギターで凛子先輩がベース。あんたがピアノやるってなら分かるけどちゃんとキーボードパートは別にあるしピアノなんて誰も演奏出来ないよ!」
スコア――日本語で言う所の総譜。曲に使う全ての楽譜が総合して載っている楽譜の事だ。どうやら一翔の作曲したこの曲のスコアにはキーボードギターベースドラムボカロの他にピアノというパートがあるのだがこれを演奏出来るプレイヤーはここには居ない。
「まさかボカロみたいにピアノパートは打ち込み、とか?」
ボカロ曲の楽器の音を録る時、プレイヤーはヘッドフォンなどからボカロの声を聞きながらそれに合わせて音を出しレコーディングする。
それと同じ感じでピアノの音もボカロと同じように予め準備した音源を流しながらそれに合わせて他のプレイヤーは演奏する。もしこうすればピアノプレイヤー無しでもこの曲は成り立つ。
「いや、ダメだ。このピアノは打ち込みじゃ味が出ない」
だが当然そのような形にすればピアノは予め録音された音を再生するだけなのだからライブ感や生音の味と言った物は出ない。無機質になってしまうのだ。
「……と一翔は申しております、オーバー」
「なるほど。このピアノパートはちゃんと誰かが演奏する、と」
「……墓穴掘った…………」
戦意喪失意気消沈。一翔の体は湧き出る冷や汗で湿り切っていた。
「じゃあ一体誰がこのピアノパートを…………」
「そしてそれとイキナリラブソング書いて来た事に果たして関連性はあるのか……」
二人の美少女は顎を手で撫でながらサ◯デーの表紙を飾る頭脳は大人な小学生さながらに頭を悩ませた。
――そんな時。
「ピアニストに一目惚れ。」
ベーシスト凛子ははたまた無表情のまま俯き加減でぼそりとそう呟いた。
…………………………
暫しの静寂の後、
「「それだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!」」
二人は勢い良く凛子の顔を指差した。漫画だったら集中線トーン貼るくらい勢いがあったに違いない。しかし凛子はそれに臆する事無く無表情のまま二人へ「ぐっ!」、とグッジョブサインを返す。これが最近のお気に入りらしい。
絶体絶命、いや既に試合終了敗北決定。
一翔はそんな有様で頭を抱えて俯いた。リアルORZだ。
「ね、ね! そうなんでしょ?」
「図星ね! 図星なのね一翔!」
二人はぐへへへと不気味な――いや気持ち悪い笑みを浮かべ一翔に近寄り、子犬のようにしっぽフリフリはしゃぎ回って囃し立てた。
ぐぅの根も出ないとは正にこれ。一翔は真っ青になって、
「ダ――――――――――――――――ッ!」
大声を上げて開き直った。
「ああ、そうだよ! 昨日の入学式コンサートでピアノ弾いてた黒髪美少女に惚れたんだよ! 悪いかボケ!」
「開き直ったぞ」
「ああ、案外簡単に白状しちったな」
一翔があまりにもあっさり白状するもんだから名探偵の出番は無くなってしまった。
「「チッ」」
「おいチッってなんだよ、チッって!」
紫音と彩の、シンクロ舌打ち。二人は真っ黒なジト目で一翔を一瞥した。
私立八川音楽高等学校――通称八音。
東京の郊外に位置する全校生徒四百名程度の所謂音楽高校だ。今年で開校九十八年を迎える伝統ある学校で、技術水準は自他共に認める日本トップ校。その分入試の倍率は非常に高く特にヴァイオリン科とピアノ科の入試は毎年倍率三十越えも珍しくない。
一翔らが所属する電子音楽研究部――通称電研部――では仰々しい名前とは裏腹にただボカロ曲を動画サイトにアップロードする事が目的の部活で部員は四名。かくかくしかじかで去年彼らが新設したまだ新しい部活動なのだが、その時の話はまた次の機会にしよう。
そんな八音の伝統行事の一つが入学式コンサート。全学科中最も入試の総合成績が良かった生徒による演奏を入学式で披露しようという何とも強引なソロコンサートだ。
そのコンサートで今年ピアノの演奏を披露した少女に―――――……
「あんたは一目惚れした、と」
「あーそーですよ悪いですかッ!? あ、あと音に惚れただけですよ? べ、別に本人の事も好きになっちゃったわけじゃないんだからっ!」
「男ツンデレ笑止。」
「笑わないで下さいよー凛子せんぱぁい!」
「ふっ笑止!」
「紫音さんまで!」
一翔は何だか煮え切らない様子で地団駄を踏んだ。
その様子を彩は遠くからぼんやりと眺めるだけだった。彼女らしくない。意識が明後日の方向にあるのが分かる。
「………………」
それから丁寧に整ったツインテールの右側の方を指に巻き付けて遊んでみせちゃったりしている。
不思議に思った一翔が何気なく声をかけてみる。
「……彩、どうした?」
「…………えっ、ナニ?」
一翔の一声で我に返った彩ははっとして目をパチパチと瞬きした。
「何って……なんかぼーっとしてたから……あ、もしかして俺に好きな人が出来たかもって不安になっちゃった?」
「ぶ、ゔぁか! そんな事で不安になるかボケぇい!」
「ひでぶっ!」
彩は左手に持っていたスティックを投げ飛ばし、正確に一翔の左頬へクリーンヒット。
「大体あんたうち以外の女の子にも同じような事言ってるじゃない!」
「ハハハ、何言ってるんだい我が姫。俺のプリンセスは君ひと――――おぶっ!」
二本目クリーンヒット。
「死ね。キんモい。」
一翔の精神と身体がズタボロになった所で閑話休題。
紫音は防音加工が施された二重窓から登校してくる生徒達を見下ろしながら口を開いた。
「ま、でも正直上手かったよな彼女」
「同意。」
二人はぼんやりと昨日の記憶を辿りながらそう口にした。
そんな大崎姉妹の同意に一翔は目をキラキラ輝かせる。
「ですよねっ!? そこで俺はあの子を是非ともこの我々が創り出した愛すべき電研部の一員にするべくこの曲を一日で書き上げたって訳ですよっ!」
一翔は意気揚々とワルツを踊りながらご機嫌にそう答えた。
そんな一翔をにやにや見つめる紫音は、
「そしてあわよくばそのまま部内恋愛に発展させたい、と」
「……破廉恥。」
「ちっがいますよッ! 本人に惚れたわけじゃなくて音に惚れただけですって!」
一翔はムキになって否定する。あくまで一目惚れではなく一聞惚れだと主張したいらしい。
「名前はなんて言ったっけ――――えっと――……」
「黒崎澪。」
「お、凛子よく覚えてたなぁー」
「上手い名前覚える。」
「……妹や、そろそろてにをはの使い方覚えてくれ…………。」
「笑止。」
「はぁ……」
出会った時からそうだったのだがこの凛子という少女、兎に角会話の文字数を少なくしようとする傾向にある。どういう経緯でそうなったのかは知らないが。
紫音は窓の外をぼんやり見ながら溜め息をついた。
「あ、噂をすれば」
紫音は突然窓の外を指差した。
「えっ澪ちゃん!?」
一翔は咄嗟にドラムセットを一蹴りで飛び越えると窓に飛び込みへばりつく。
詮索モードオン、レーダーセット、標的黒崎澪。一翔は二つしか無い目玉をグルグルとフル回転させて少女を探す。
「あ、あれですかね?」
彩も彼女に気付いたようだ。
「おぉ、あれか!」
「発見。」
狭い窓に四人が密集している端から見れば奇怪図の完成。
四人の視線の先には確かに昨日の少女が居た。
品やかに真っすぐと肩まで伸びた黒髪にすらりと伸びた真っ白な四肢。
凛と真っすぐ前を見つめるサファイアの様な眼に薄くて溶けそうな唇。
黄金比を元に作られたのではとさえ思ってしまう程美しいデコルテのラインから続くは程よく豊満な胸。
ミニスカートと真っ赤なリボンがまだ二日目だというのに随分様になっているのは彼女の内面から溢れるセンスが要因だろうか。
そのハムスターのような小さな指で左の髪を搔き上げ耳にかけると澄まし顔で校舎へ歩くのだった。
「一翔が惚れるのも分かるわ…………あれは可愛い」
「合点。」
「な? あの子入れたいだろ? な?」
凛子の合点頂戴して調子に乗ったのか、一翔はそう言って彩の背後へ駆け寄った。
だが彩は若干困惑した様子で、
「え、……あーう、うん…………確かに可愛いし上手だったしピアノ担当って今居ないし、そりゃ電研部に入ってくれれば嬉しいけど――――……」
だがそんな言葉とは裏腹に彩は何だか曇った表情だった。
「……けど、なんだよ?」
一翔は彼女の顔を覗き込む。
「え、いやぁ……その、ほら、うちの部って活動結構特殊でしょ?」
彩は何だか強引に笑顔を作ってみせた。
それから「あー」と一言紫音が話に割って入る。
「まーいくら入って欲しくてもあの子がボカロ好きじゃなかったら難しいくない?」
紫音も眉をひん曲げて吐き出すように言った。
しかし一翔は、
「いや! 俺はなんとしてもあの子と一緒に音楽がしたい!」
情熱で燃え上がった右手を掲げ、スポドリか何かのCMの様に天井を見上げ目を輝かせた。
「俺、あの子の音楽聞いた時ピンと来たんですよ! 氷の様な冷たくて鋭い音をまるで遊んでるように自在に操るあの姿! まさしく彼女は天才だって! 彼女と一緒に音楽を作れば素晴らしい作品が出来上がる! そう俺の直感が言ったんですっ!」
その熱い視線を今度は部員達に向け、
「一曲でもいい! 彼女と一緒に音楽を作りたい! それが俺のクリエイターとしての魂に刻まれた本能なんですっ!」
心からそう叫んだ。何だか妙に説得力があり、真に迫る雰囲気だった。
それを受け、少女達は少々困惑気味に互いの顔を見合った。
それから最初に口を開いたのは紫音だった。
「ま、まあじゃあとりあえず放課後、彼女の教室に誘いに行ってみましょうよ」
「……そうですね、一応聞きに行ってみましょうか。このバカがピアノ必用な曲書いて来ちゃった事ですし」
「一応。」
「……み、皆…………!」
一翔は目を潤わせて少女達を感謝の眼差しで見つめた。
それから時計を指差し、
「じゃ、また放課後ってことでいいですか? もう時間も時間ですし」
部屋の壁に設置された無機質な時計を四人で見上げる。
時刻八時二十八分。
「わお、もうこんな時間かー。 じゃ、また後でー!」
「承知。」
「有り難う御座います!」
言葉を切ると各々楽器の手入れを始め、手早く且つ丁寧にケースにしまっていった。
(澪ちゃんと喋れるのかー! いや、ちょっときんちょーする…………)
一翔の心は既に踊り過ぎてテクノパーティーだった。