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それさえや。   作者: 源 俊一
第一期
9/27

世界の中心で本を描く



「なにか足りないんだよなぁ…なんていうの?ふわふわしてるっていうか…内容が空に飛んでる感じ?」


「はぁ…そうですか」


「うん。ごめんね、またの機会に」


「はい。ありがとうございました」


五回目。間違った内容も掴めないまま、私の作品は私の手によって破り捨てられる。


彩りある恵みをくれるのではなかったのか。私の「彩恵」という名前は。


色すらない。私には偏った発想しか出てこないのだ。いつも同じストーリー、主人公、オチ。ただ名前が変わっているだけで、辿るルートは全く同じ。


作家として終わりだ。


これでもついこの前までは、売れていた名前だった。

「小日向彩恵」と聞けば、一時期一斉を風味した作家の名前だと世の中は言うだろう。


……たぶん。


いやいや。それだけ稼いだし、テレビにも出たし!ドラマ化もしたし…。


…今はもう、どん底。あの時の話題は一瞬で消えて、今はまた新しい人の名前で盛り上がっている。

またその人も消えて行くのかと思うと、嬉しさ半分、奇しくも同情をしてしまう。


何故こうなってしまったのかわからない。むしろ、あの時何故流行ったのかと考えるようになってしまった。


もう私に書ける物語はないのかもしれない。別の仕事についてみるのもいいかもしれない。


例えば、その体験をまた本に書いたりすれば…。


なんて、また淡い期待をしてしまっている時点で、終わってしまっているのかもしれない。


パソコンの前で倒れこむ。暫くして白紙の原稿データを眺めては、また倒れこむ。


私は今、世の中の末端にいるのかもしれない。すぐそばには真っ暗闇が広がっていて。私はずっとその闇を見下ろして、手を広げている。


落ちないように、落ちないように。バランスを取っている。いっそ両手を閉じて、落ちてしまえば、妖精かなにかが私を助けてくれるかもしれない。


しかし、その妖精は笑って言うだろう。


「そんなことさえ出来ないのか」


そうやって、落ちる私に手を降るんだ。


「それさえ…?」


なにか見えた。落ちる時、闇とは反対方向になにか光が。


「そうか…」


私は末端ばかりを見ていた。末端に立っているなら、後ろを向いてみればいいのか。


末端に立って、前を向いた所で。上を向いて歩いた所で。落ちるだけだった。

なら、後ろを向けばいいじゃないか。

そう、今の私のように。後ろを向けば、またもう一つの末端が遠く見えてくる。


私の人間としての末端と、作家としての末端がお互い後ろを向けば、いつか出会える。世界の中心で、出会える。


ほら。何処かの恋みたいに。


私は、私の作品が好きだ。諦めたくない。自分の作品が悪いとはなに一つ思ってない。私には「小日向彩恵」という名のプライドがあるんだ。


「末端の恋を見せてやる!」


私は叫ぶ。キーボードを弾きながら、奏でるように手が動く。


好きだ。好きだ。私には私の好きな世界があるんだ。大好きなんだ。


「絶対、負けるもんか」


他人の本に嫉妬しながら、今日からまた恋する私の本を描き続ける。


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