正義の嘘は仮面の裏に
「あ、それ私も持ってる〜。」
嘘。
「いやいや、実はあれは……。」
嘘。
「え〜、大丈夫だよ」
嘘。
全部くだらない嘘。
嘘をついたって到底何が起こるでもない嘘をついて、私は毎日を過ごしている。
何個目の嘘かなんて、数えられない。
無数の星のように散らばる私の嘘は、いずれ巡り巡って悪いことに繋がるかもしれない。
でも私は私であるために、意地を張って、強がって、ばれてもなんとかできるような嘘をつく。そうやって、私を作り上げて、話を合わせる。
なんて便利なものだろう。
でも中学三年になったある日。
私を知っている人には必ず一回は嘘をついている私は、初めて嘘をつけない人に会った。
「私たち、前にも会ってる気がするね。」
そういう彼女はまさに運命の人の如く、素直に話せる相手だった。なんで嘘をつけないのか、出会ったばかりの私はわからなかった。
彼女は記憶障害を患っていることを知ったのは、夏休みのことだった。
それまで気づかなかったのが奇跡のように、たまたま彼女の家に遊びに行った時に、彼女の親から聞いた。
そうか。私が嘘をついたところで、彼女はそれを覚えていないのか。
でも、彼女は記憶障害なんてないように私と振る舞う。私のことは覚えてるし、たまに過去のことを覚えてる時もある。
性格も記憶も不思議な彼女はなんだか、私には知らない世界を知っている気がして。
嘘のない人生を送った彼女は、私には輝いて見えた。
「進路なんてどこだっていいよ。」
そういっていた春の私を悔やんでいた。
嘘だ、そんなの嘘だ。行きたい高校はある。でも、どうやったって本当のことを言うのが怖い。怖くてたまらなくて、不安でしょうがない。
可笑しいよ。
「それも嘘なら、貴方は正義の嘘をついてるのかもしれないね。」
彼女は夏休みの課題と睨めっこしながら、私に応える。
「正義の嘘?」
「きっと、貴方の中の何か。その恐怖と不安に対する正義の味方なのかもしれない。でも、決して嘘は正義になれない。その矛盾に苦しんでいるんだよ。」
ヘッドホンをしながら目を瞑り、彼女は休憩に入る。
嘘だ。嘘。そんなの嘘。私は。
あれ?何が嘘なんだっけ。
……やっぱりわかんないや。私の嘘は何が本当の嘘なのか。
彼女のおかげでわからなくなった。
「ま、嘘だけどね。」
彼女はヘッドホンを外し、微笑みながら。
そうやって正義の嘘をつく。
「嘘つき。」
私、彼女と同じ高校に行きたい。
そう言おう。