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それさえや。   作者: 源 俊一
第一期
8/27

正義の嘘は仮面の裏に


「あ、それ私も持ってる〜。」


嘘。


「いやいや、実はあれは……。」


嘘。


「え〜、大丈夫だよ」


嘘。


全部くだらない嘘。

嘘をついたって到底何が起こるでもない嘘をついて、私は毎日を過ごしている。

何個目の嘘かなんて、数えられない。

無数の星のように散らばる私の嘘は、いずれ巡り巡って悪いことに繋がるかもしれない。


でも私は私であるために、意地を張って、強がって、ばれてもなんとかできるような嘘をつく。そうやって、私を作り上げて、話を合わせる。


なんて便利なものだろう。


でも中学三年になったある日。

私を知っている人には必ず一回は嘘をついている私は、初めて嘘をつけない人に会った。


「私たち、前にも会ってる気がするね。」


そういう彼女はまさに運命の人の如く、素直に話せる相手だった。なんで嘘をつけないのか、出会ったばかりの私はわからなかった。


彼女は記憶障害を患っていることを知ったのは、夏休みのことだった。


それまで気づかなかったのが奇跡のように、たまたま彼女の家に遊びに行った時に、彼女の親から聞いた。


そうか。私が嘘をついたところで、彼女はそれを覚えていないのか。


でも、彼女は記憶障害なんてないように私と振る舞う。私のことは覚えてるし、たまに過去のことを覚えてる時もある。


性格も記憶も不思議な彼女はなんだか、私には知らない世界を知っている気がして。


嘘のない人生を送った彼女は、私には輝いて見えた。


「進路なんてどこだっていいよ。」


そういっていた春の私を悔やんでいた。

嘘だ、そんなの嘘だ。行きたい高校はある。でも、どうやったって本当のことを言うのが怖い。怖くてたまらなくて、不安でしょうがない。


可笑しいよ。


「それも嘘なら、貴方は正義の嘘をついてるのかもしれないね。」


彼女は夏休みの課題と睨めっこしながら、私に応える。


「正義の嘘?」


「きっと、貴方の中の何か。その恐怖と不安に対する正義の味方なのかもしれない。でも、決して嘘は正義になれない。その矛盾に苦しんでいるんだよ。」


ヘッドホンをしながら目を瞑り、彼女は休憩に入る。


嘘だ。嘘。そんなの嘘。私は。


あれ?何が嘘なんだっけ。

……やっぱりわかんないや。私の嘘は何が本当の嘘なのか。


彼女のおかげでわからなくなった。


「ま、嘘だけどね。」


彼女はヘッドホンを外し、微笑みながら。

そうやって正義の嘘をつく。


「嘘つき。」


私、彼女と同じ高校に行きたい。


そう言おう。


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