三角形の演劇合奏曲
私は彼が好きだ。
それと同時に彼女のことも好きだ。
そして奇妙な三角形が出来上がった。
最初から彼の事が好きだったわけではない。むしろ嫌っていたかもしれない。何せ、大好きな親友である彼女を取られたから。
彼女は彼の事が好きだ。出会った時から。私はそんな彼女を全力で応援した。
でも、だんだんと彼に対して取られたという気持ちから、何故か好きという気持ちに変わってしまっていた。
心苦しい。私は彼の事が好きになってしまって。大好きな彼女は、そんな彼が好きだ。私は必死に胸の痛みを押し殺して、彼女の理想の私を演じて、応援する他無かった。
演じるのなら得意だ。私はほぼ毎日、怠い身体を起こしてエアロビをし、発生練習を兼ねた後、その日の課題を演じる。
そんな演劇部に彼もいる。だからこそ、私は最適な仲介役であり、最悪な組み合わせなのだ。
気を引き締めて、今日の課題に取り組む。内容は恋人の二人。「鈍感な彼に不意に出た彼女の言葉。」演技の相手は彼。最悪すぎる。
高鳴る焦燥を抑え込み、彼の言葉を受け止める。そして私はこう言う。
「私は君の事が好き。」
そう、静かに発する。彼しか聞こえないくらいか細いもので。彼は驚いたような顔をする。ここまで台本通り。
だけど。
「本当に好きなの。」
不意に出た彼女の言葉は予期せぬものだった。自分自身、驚いていた。
彼は少し焦った様子で、暫く間が空いたけど、その後は何もなく終わった。
彼は最後までたじろいでいた。私はそんな彼をずっと目で追う。その視線もまた彼をたじろがせているのかもしれない。
男って単純。くだらない。
けど、勘違いされてもまずいし、私が彼に言い放った言葉は事実だ。
部活が終わって彼女の所へ向かう。彼女もまた、部活帰りで私を待っているだろう。
教室で待っていた彼女に、私は決心をして私の気持ちを伝えた。誰もいない教室で、静かに私の声は響いた。それは彼女にしか聞こえないか細い声で。
その静寂は打ち破られる。彼女は案の定怒ってしまった。普通に聞いていたら、恥ずかしくなるくらい、彼女は彼に対しての愛を叫んでいた。私の方が前から…だとか、私が好きだったのになんで…とか。私は黙って受け止めていると、彼女は最後に言った。
「私は彼が好き。本当に好きなの。」
台本通り。
私は高鳴る焦燥をぶちまけた。
「あはははははっ!」
私の頭の中で鳴り響く合奏曲は、次第に早くなり、ついに終焉を迎えていた。
「だってさ、隼。」
そう言うと、彼が出てくる。私は目配せで、彼女をどうにかしろと押し付ける。
彼女は呆然としている、恥じるのも忘れて固まってしまっていた。私はそんな彼女に少し笑いながら「うまくやんなよ」と彼女に彼を押し付ける。
「冴愛……。」
"演技かわからない笑顔"を彼女に向けた。
私は教室から出て、幕を引く。
いつから演技だったかなんて、忘れた。
でもやっぱり、まだプロには程遠い。
この鼓動も隠しきれるようにならなきゃ。
胸の痛みだけが、私に拍手をくれた。