表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それさえや。   作者: 源 俊一
第一期
7/27

三角形の演劇合奏曲


私は彼が好きだ。

それと同時に彼女のことも好きだ。

そして奇妙な三角形が出来上がった。


最初から彼の事が好きだったわけではない。むしろ嫌っていたかもしれない。何せ、大好きな親友である彼女を取られたから。


彼女は彼の事が好きだ。出会った時から。私はそんな彼女を全力で応援した。


でも、だんだんと彼に対して取られたという気持ちから、何故か好きという気持ちに変わってしまっていた。


心苦しい。私は彼の事が好きになってしまって。大好きな彼女は、そんな彼が好きだ。私は必死に胸の痛みを押し殺して、彼女の理想の私を演じて、応援する他無かった。


演じるのなら得意だ。私はほぼ毎日、怠い身体を起こしてエアロビをし、発生練習を兼ねた後、その日の課題を演じる。


そんな演劇部に彼もいる。だからこそ、私は最適な仲介役であり、最悪な組み合わせなのだ。


気を引き締めて、今日の課題に取り組む。内容は恋人の二人。「鈍感な彼に不意に出た彼女の言葉。」演技の相手は彼。最悪すぎる。


高鳴る焦燥を抑え込み、彼の言葉を受け止める。そして私はこう言う。

「私は君の事が好き。」

そう、静かに発する。彼しか聞こえないくらいか細いもので。彼は驚いたような顔をする。ここまで台本通り。


だけど。

「本当に好きなの。」

不意に出た彼女の言葉は予期せぬものだった。自分自身、驚いていた。

彼は少し焦った様子で、暫く間が空いたけど、その後は何もなく終わった。


彼は最後までたじろいでいた。私はそんな彼をずっと目で追う。その視線もまた彼をたじろがせているのかもしれない。


男って単純。くだらない。


けど、勘違いされてもまずいし、私が彼に言い放った言葉は事実だ。


部活が終わって彼女の所へ向かう。彼女もまた、部活帰りで私を待っているだろう。


教室で待っていた彼女に、私は決心をして私の気持ちを伝えた。誰もいない教室で、静かに私の声は響いた。それは彼女にしか聞こえないか細い声で。


その静寂は打ち破られる。彼女は案の定怒ってしまった。普通に聞いていたら、恥ずかしくなるくらい、彼女は彼に対しての愛を叫んでいた。私の方が前から…だとか、私が好きだったのになんで…とか。私は黙って受け止めていると、彼女は最後に言った。


「私は彼が好き。本当に好きなの。」


台本通り。

私は高鳴る焦燥をぶちまけた。


「あはははははっ!」


私の頭の中で鳴り響く合奏曲は、次第に早くなり、ついに終焉を迎えていた。


「だってさ、隼。」


そう言うと、彼が出てくる。私は目配せで、彼女をどうにかしろと押し付ける。

彼女は呆然としている、恥じるのも忘れて固まってしまっていた。私はそんな彼女に少し笑いながら「うまくやんなよ」と彼女に彼を押し付ける。


「冴愛……。」


"演技かわからない笑顔"を彼女に向けた。


私は教室から出て、幕を引く。


いつから演技だったかなんて、忘れた。

でもやっぱり、まだプロには程遠い。

この鼓動も隠しきれるようにならなきゃ。


胸の痛みだけが、私に拍手をくれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ