星になった椅子
父親と喧嘩をした。
今思えばくだらない事で喧嘩をしていた。
でも私は、刃向かう事ができるようになったんだなと感じる。今までは一方的に怒られるだけで、ただ後から愚痴愚痴言うだけだったから。
本当は刃向かえる事が楽しくて、余計に発展させてしまった。
そんな中でも、いつものように陽気に暮らす「サエ」がいた。
私が飼っている白い猫は、毛並みも綺麗で美しい女性だった。
私でも憧れるようなその猫に、「私が人につけるならこれが良いランキング」の中で、一位だった「サエ」と言う名前をつけてあげた。その猫の美しさに献上してあげたのだ。
サエの定位置は、私が食事の時に座る席。食事の時はサエの食事が終わったら、私の腿の上に乗る。
喧嘩している時もすやすやと。私たちの喧騒が子守唄のように、私の席で寝ている。
私とお父さんはそんな姿を見て、一時休題したのだから、憎たらしいほど愛されているのだ。もちろん私も。
家族は役割分担をしてサエの世話をしている。毎日ローテションで、今日の私はサエの毛並みをよくするために、洗う役目だ。
いつも通り、サエは私の椅子の上にいた。体を抱えようと手を伸ばすと、サエは瞬時に威嚇をし始めた。
「……サエ?」
こんなの始めてで戸惑った私は、必死になってサエに何度も手を伸ばした。サエも必死に私を拒む。ついに立ち上がって全力で拒んだサエと私の手で、椅子が音を上げた。
「あーあ…」
椅子は足を折って崩れてしまった。するとサエは役目を終えたように、その場で寝そべる。何度も鳴きながら。
私は少なからず気づいていた。サエが悲しい事も、泣きたい事も。
だから、その夜サエがベランダに出て、ずっと空を見上げていたのも。私はその意味をなんとなく感じていた。感傷的なその目は、夜空の星を尊く眺めていた。
私は思う。
椅子は星になったのだと。
でも次の日。
「サエ……!?」
同じ場所同じ位置で、まるで後を追うようにサエは永久の眠りについていた。今思えば、この椅子も。サエを飼い始めた時に買った物だった。どちらも寿命というものだったのか。それでもサエは早すぎないか。
私はあの時。椅子を譲っていれば。
壊さなければ。サエは生きていたのだろうか。
失ったものがあまりに大きくて、そして自分への責任が重すぎて。暫く私は落ち込んでいた。
数日たって。また父親と喧嘩した。
今回は止める"彼女"がいない。だけど、私たちはほぼ同じタイミングで、壊れた椅子に振り返った。
にゃあ。
そう鳴いた声が、聞こえたから。
私は父親に勝ち、椅子を残す事にした。壊れた椅子をそのまま置き、いつでもサエが戻ってこれるように。そして、眠れるように。
サエ。私の成長をそこで見守っててよ。