人工衛星の歌を聴く
私には前世が見える。
人の前世が見れれば、面白かったかもしれない。もしかしたら人気者になって、話題の人とか言われて、テレビに出てたかもしれない。
そんな柔な期待をしながら、何度も挑戦したけど、見えるのは私の前世だけ。
何も面白くもない。私の名前が今も前世も「佐伯」だったってことくらい。
中学三年になってからの長い坂を登る。登校には毎日ここを登らなければならない。
でも、今日からは少し違う面持ちで登りきる。
初日は諸連絡のみで授業は無く、再び長い坂を今度は下って行く。
「入試……かぁ…」
中学三年生になった私は、否が応でも進路を考えなければならない。正直、自分のレベルにあってればどこでも良かった。
だけど、やたらと考え込んでしまう自分がいた。
「ぁあ〜、もう!」
むしゃくしゃして、家に着いたらすぐベットに飛び込んだ。
そこでデジャブが起こる。
前にもどこかで。同じ言葉で、同じ時間。ちょうど私はこういうことをやったなと頭をよぎる。
最初は誰にでもあるデジャブかと思った。この事を友達に言って「そんなこと誰でもあるもんだよ」と言われた以来、そこまで気にしなかった。
でも、私にはくっきりと見える。わたしの姿。私の声。いや、デジャブの私はもう少し声が高いかも。
それに、一瞬ならまだしも、暫く頭にこびりついて離れない。デジャブがずっと脳内再生されて、まるで同じ事をしろと指示してるかのように。
実際に私は全く同じことをしている。
ベッドで少し嘆いた後、何事もなかったかのように起き上がり、冷蔵庫を開ける。開けてはみたものの、何も無いことに落胆しながら、自室に戻って机に向かう。
ここまでは同じ。
目を瞑り、「人工衛星の歌」を聴く。
私の前世の記憶はまだ終わってはいない。机に向かってから、本を読んだり勉強をしたりしている。
私はその記憶からやっと逆らってみせる。イヤホンを取り出し、イヤホンから流れる無音の歌に耳を傾ける。
前世の私は未だ、机に向かって正直だ。
ある休みの日。
私は外に出て、散歩をする。
「人工衛星の歌」が流れる。
前世の私は住んでるところも同じだったのか。とことん、同じことをしている。
人工衛星のように、毎日地球と交信しながら、同じところにずっと佇んでいる。変わらない場所で、いつも同じ事をしている。
私は変わらない私から歌を聴く。
「人工衛星の歌」は今日も私と交信しながら、前世の私を伝える。
「なんも変わらない…」
私は何も変われない。私はまた同じ場所にいる。
何も変われないのなら。
「きーめたっ」
その流れに沿ってみるのも悪くない。
逆らう事は幾らでもできるのだから。
前世の私は、昨日の私と似ていた。