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それさえや。   作者: 源 俊一
第一期
4/27

針をもって言葉を刺す



彼の言葉は狂暴だ。

狂暴というと悪く聞こえるが、別にこの言葉ほど暴れ狂ったものではない。


針。

そう、細くて小さな針。

チクチクと刺さるような言葉。


「お前、頼り甲斐が無いな。」



今日も言われた彼の言葉。私はいつも「ごめん。」としか言えない。


彼は私をどう思ってるのかわからない。もしかしたら、嫌いなのかもしれない。

「付き合ってる」という認識はきっとお互い無い。

「親友」という立ち位置のまま。


私は……私はどうなのだろう。


好きと言ったことも無ければ、嫌いとも勿論言ってない。

曖昧に時は過ぎて、私はいつも「ごめん。」という。

可笑しいかもしれないが、別に彼の言葉が嫌な訳ではなかった。

しかし歳を重ねていくにつれ、そして彼との時間が増えるに連れ。彼の言葉は鋭さを増し、私の痛みは漸増する。


「痛っ。」


私は服を作るのが好きで、暇があれば縫っていた。手縫いで縫う服は次第に形を成してきていた。


縫い針が指を刺す。ぼーっと考えながらやっていたからこうなったんだ。と自分を責めながら指をくわえる。血の味が舌に染みる。

不安なんだ。

この血のように血脈を辿り心臓に着き、また身体を巡回するように。何度も何度も同じ言葉を繰り返す。傷つけて外に出てしまったら、心臓が止まってしまうのではないかと不安で切り出せない。


彼は針のように鋭いものを向けてくるのに。


そうか。彼は私を。


雨の日。いやその日は晴れていた。

しかし大学から帰る頃には雨が降っていた。

そこに彼がやってくる。

きっと彼は言うだろう。私はいつものように傘を忘れていた。

天気予報はいつも見ていない。どうせ当たらないと思っているから。


彼は口を開く。


「傘また忘れたのかよ。馬鹿だな。」


私は目の前の水たまり越しに彼を見る。

知っている。

彼は雨の日はいつも雨に濡れて私と帰っている。

雨は勢いを増し、水たまりは波紋を広げ、彼を映さなくなる。


仕方なく。本当に仕方なく。彼の顔を見上げる。


「お前も忘れてるくせに。」


彼の真似をして言ってみる。私は針をもって彼の言葉を刺した。


彼の顔は可笑しかった。不意をつかれたその顔は確実に私の針のせいだ。


彼のこんな顔初めて見た。


「好きだよ、浩。」


そう言って笑う。すると彼も照れ隠しのように笑う。


「当たり前だ。紗絵。」


水たまりを飛び越えて、歩き出す。


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