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それさえや。   作者: 源 俊一
第二期
26/27

文化祭後夜

後夜祭。

ついに始まった。

ここで全てが終わり、そして始まるだろう。


「やめてよ、気持ち悪い」

「今に始まったことじゃ無いでしょ、今の言動もさっきの事も」


傍にいる二人が言い争う。


「……これを企画したのは皆月だよ。私じゃない」

「え……ここでなすりつけてくる?」


ステージ脇にいる皆月左枝が自分を指差して苦笑いをする。


「確かに神崎は何も言ってないよな」


後ろから声が聞こえる。二つの棒を軽々しく手の中で回しながら、私のフォローをする。


「いやいやいや、了承してくれたじゃん!面白そうとか笑ってたじゃんっ!」

「うん、確かに面白そうだね」

「ほら!」


「はぁ…」


言い争ってた二人も、後ろから聞こえる声も一斉にため息をした。


いつものどおりの景色だ。


午後5時に終わった文化祭は、まだ活気が止まないまま後夜祭へ。後夜祭といっても文化祭の延長戦みたいなものだが。


私達は、ステージの上に立っている。


文化祭の公演が終わった後、ステージ脇で私はフカシギのメンバーに問い詰められた。

「後夜祭!?聞いてないけど!?」

「しかも最後に弾いたあの曲って…」


ここまでの騒ぎになるとは意外で、私は苦笑いをしながら言い放つ。


「自我共同論をやる」


静寂が私達を包み込む。ちょうどよくステージでやっていた他の有志団体の出し物が終わったせいかもしれない。

暫くするとドラムをやっていた一条春樹が口を開く。


「あの…それはそうと…俺、叩けないよ?」

「……あぁ、大丈夫。春樹はフカシギのメンバーだからね」

「……へ?」

「君以外は本物の自我共同論のメンバーってこと」

「……いやいやいや、冗談…」

「自我共同論のメンバーが全員"さえ"という名前なのは知ってるでしょ?ギターの菊池灑江。ベースの成川嗄会。ボーカルの私、神崎櫻枝」

「……まじ?」

「まじ」


春樹の顔は見たことない顔をしながら、だんだん空いた口を閉ざしていく。


「灑江…なんで今まで黙ってたんだよ」

「……ごめん。分からず屋で」

「そういう問題じゃねぇだろ…」


春樹は呆れた顔で灑江を一瞥すると、ベースの嗄会の方を向く。


「しかも、ただでさえここのグループにいるのにも驚いたのに、あの嗄会さんが自我共同論だったとはね…」

「ま。誰しも秘密はあるし。言いたく無いことだってあるし。黙ってた方が面白いのもあるしね」

「そうはいってもよぉ…」


春樹がドラムスティックで頭を叩き始める。


「でも、ドラムは?紹介がなかったけど」


嗄会は腕組をして、訝し気に私を見る。


「…そう。来るの?別クラスだからっていっても随分会ってないような気がするけど」


私は信じている。


「来る。絶対に。」



そして今に至る。


ステージのカーテン越しからざわめきが大きく聞こえる。きっとポスターを見たのだろう。


フカシギの演奏が終わった瞬間に、左枝が私の指示通り動いてくれたのだろう。


「そういえば見たよ。新しいポスターになってたね」


予想通り、相棒の黒いドラムスティックを持ってやって来た三原然恵。


私の知っているいつもの然恵だ。少しガサツで不器用で、女の子らしさとか興味なくて。自分が面白そうと思ったことしかやらない。


「新しいポスター?なにそれ」


ベースの成川嗄会もいつも通りだ。ギターの菊池灑江とはいつも喧嘩して。怒ったら凄く怖くて、裏表が激しくて。

でも、一番人を見る目が長けていて。


「皆月が一生懸命貼ってたね…そういえば」


ギターの菊池灑江は春樹と上手く行ってるのかな。少し大人しめで、自分をなかなか出さないけど。ギターの腕前と隠された個性は一流で。


「走ったよ〜、もうほんと。貼ったらすぐ人は集まるわ、押しつぶされるわで…あ、余りあるよ。はいこれ。」


作詞と編曲の皆月左枝は、とても人思いな詩人家で。私の思い通りの詞と編曲をしてくれる音楽上の完璧な理解者で。


「新ボーカル加入…?」

「そう。そろそろ来ると思うんだけど…」

「お、おお、遅れてすみません!!」


そして新ボーカル。藤木さえ。


「わ、わわ、こ、これが自我共同論の…メンバー…!って、灑江!?」

「うそ、なんで?……もしかして神崎、あの時電話で聞いた理由って…」

「そう。ちゃんと約束通り三冊買ってあげたでしょ?」


灑江は頭を抱えながら私とさえの両方を見回す。


「そうだけど…まさかさえが…あぁもう。"さえ"ばっかでほんとめんどくさい」

「あ、あのっ、成川嗄会さんですよね。あの成績がいつもトップの…」

「う、うん。よろしく。さっきも菊池が言ったとおりこのグループ"さえ"ばっかだから苗字で呼んでね……って違う。新ボーカルってなに、神崎」


全員の視線が私に当たる。

あぁ、私は幸せ者だ。


「新曲。この前私がデモを送ったでしょ?それのボーカル」

「あぁ…あれの…ってあれをここでやるのか?まだ一回も合わせてないのに」

「え、合わせてないんですか!?……そういえば私も覚えるものは覚えましたけど、合わせてはいませんよ!?」



「いいよ。やろう」


突如、ドラムの音が鳴り、言い争いを遮る。鳴らしたのは勿論然恵だ。


「私達に合わせるも何も要らないでしょ。そもそも合わないんだから」


ドラムの音が鳴ったからか、ステージのカーテン越しのざわめきは静寂へと変わった。


「私達が音で合わせたことある?」


正直言って、私達は下手だ。きっとプロから見ればただの素人だ。


「……それもそうね」


ベースを構えてチューニングの最終確認をする。


「……なんか久しぶりだね、三原の仕切り」


ギターのベルトを肩にかけ、軽く弾き始める。前奏部分をリピートしている。


「勝手に私を忘れるなっての」


椅子に座り直し、ドラムの位置を確認し、足で一定のリズムを刻み始める。


「大丈夫なんですか…?」

「好きに歌っていいから。私達が合わせる」

「でも…」

「私についてこれるのはこの三人しかいない。私達が合わせるのは音じゃない、心だよ。新ボーカルさん」

「……はいっ!」


新ボーカルはマイクの前に立ち、私は後ろに下がる。


「あぁ、やだやだ。神崎が羽を生やし始めたよ」


ベース。


「春樹見てるかなぁ…」


ギター。


「あんなドラムじゃぁ、神崎には付いていけないよ。やっぱ私じゃなきゃね!」


ドラム。


「空に飛ぼう」


始まる。



ステージのカーテンが開き、観客が目に入る。体育館一杯に広がる観客は、みんな違う目をしている。


ステージの下にマイクを持って左枝が現れる。


「自我共同論。新曲。どうぞお聞きください」


「それさえや。」


私達は空を飛ぶ。遠く遠く。高く高く。どこまでも。


一枚一枚紡いで来た、新たな翼を持って。


宙へ。




結局、自我共同論のゲリラライブは新ボーカルを迎えての新曲1曲と自我共同論のボーカルによる自我共同論の持ち曲を2曲やって幕を閉じた。


「どう?サプライズ。どうだった?」

「どうだったもなにも…凄過ぎてなんとも…」

「しっかし、あの新曲の歌詞どっかで聞いたことあるフレーズが多かったなぁ」

「だってあれ……私が書いた詞だもん」

「……えっ?」

「どうやら、サプライズが被っちゃったみたいね」


隣では同じクラスの皆月左枝と有村小依が話している。

まさか同じクラスの左枝さんが自我共同論のメンバーだってことも驚いたし、自我共同論のメンバーがこの学校の生徒なんて。


それに顔を初出し。こんな場所で。こんなイベントで。


でも誰も偽物とは疑わない。それほどみな本物を知っていて、本物だと確信しているからだ。


あぁ、私はまた恋をしてしまった。

今度は人じゃないからタチが悪い。

でも人じゃないからこそ、我儘になってもいいよね。


「……あぁ〜、また趣味増えちゃったなぁ…抱えきれないや」


恋なんて、しなきゃよかった。

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