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それさえや。   作者: 源 俊一
第二期
25/27

文化祭二日目

文化祭二日目が始まった。

雲のない晴天は相変わらずだが、昨日とは活気がまったく違う。


祭りだった。

学校の文化の祭りではあるが、まるで有名どころの地域喝采の祭りのような盛り上がり方だった。


昨日とはまた違う喧騒と雑踏が私の耳を劈く。


少しばかり耳障りだった。


「鞍馬君の出るのはどれなの?」

「5組の教室だよ。二階に上がって、左にずっと行くとあるから」

「何時からだっけ?」

「12時から。それが終わったら一緒に回ろうよ、指惠先生」

「いいよ。うーん、しかし懐かしいなぁ。高校生活終わってからまだそこまで経ってないけど」

「またそうやって…今を楽しもうよ」

「……そーだねっ」


とてもじゃないが、生徒と先生という関係には見えない二人が私の横を通り過ぎる。


男の子は先生が好きなんだろうな。全く彼らを知らない私でも、その雰囲気は感じ取れた。


そういうのもいいかもな。


適当に感想を頭の中で言いながら、学校の中に入る。私服で入ってきたから、一般客だと思われたのだろう。配っている子から、パンフレットを手に渡された。


私、ここの生徒なんだけれど。


でも文化祭一週間前から今日まで休んでいて、私服で来たら間違えるのも当たり前か。


だらだらと歩きながら、展示されているものや、出し物を見て回る。


「……ん?」


私は階段にずらっと貼ってある各クラスの出し物のポスターの中に一際目立つポスターを見つけた。


「……これは、自我共同論のプロフィール写真…」


自我共同論というネットで有名な、名前も顔も未公開のバンド。

新曲は毎回不定期で、自我共同論の公式サイトに載せられる。

再生回数は一瞬で伸び、今や大手音楽会社も目をつけてデビューさせようとしてるとか。


その自我共同論の公式サイトのトップを飾る5人の人影の写真。


「嘘でしょ…」


自我共同論という名前は書かれてないが、曲を聴いている人ならこれが自我共同論だとすぐわかる。

まさか、文化祭でやるというのか。それともコピーバンドかなにか?


「……ま、いっか」


目的の時間まで暇はある。止めた足を再開させ、また適当に歩き始める。

看板を持ちながら一生懸命呼びかけをする生徒、他校との繋がりを持つ子が他校の子と談話してる生徒。


私の目には新鮮な景色が広がっていた。


時刻はあっという間に過ぎて、目的の時間の13時を腕時計が指し示す。


「体育館は…と…」


進行方向を変えて、体育館へ。


体育館へと続く道は少し静かで、穏やかに鳥の鳴き声が聞こえてきた。


暑苦しい空気を放つ入り口から中に入ると、既にステージの上には目的の人達が楽器を構えていた。

私は用意されている椅子の一番後ろに座る。


「どうもみなさん、フカシギです」


この高校ではいろんな意味で有名になった有志バンド「フカシギ」だ。

メンバーはギターボーカル以外、仮面やフードを深く固定して被ったりして、顔を隠しているのが特徴だ。


ギターボーカルの神崎はなぜ顔を出してるのかは知らないが、だから神崎の名だけ「フカシギ」の名と共に有名なのだ。


「聞いてください。make,your world」


フカシギが弾く曲はみんなが知っている有名な曲のアレンジと自作の曲だ。

他にも有志バンドはいるが、アレンジ曲を弾く…ましてや、自作の曲を弾くバンドなんてこのグループくらいで、そういう新鮮味でも有名。


「でもなにより…」


音が鳴り、体育館中が「フカシギ」の曲に耳を傾ける。いや、奪われると言った方が正解かもしれない。


中毒性とでも言うだろうか。嫌いな人は嫌いと言い切るだろうアレンジを、軽々しく弾いて歌う。


「やっぱり、上手いよ。神崎は」


私じゃ到底掴めない。そういう距離にいる。


ひと休憩を入れて、自作曲に移る。


自作曲は去年と同じだったが、テンポを上げていたり、音を変えていたり。同じ曲だと気づくのが容易ではないくらいのアレンジで弾いてきた。


時刻はあっという間に30分になっていた。有志バンドが取れる時間は大体30分と決まっている。曲も終えたから、そろそろ終わりだろう。


「最後に1曲」


そう言って、神崎は少し前に出る。後ろのメンバーは少し驚いた仕草をしていた。

神崎はそれを見て、下がってるように促すと、ギターを弾き始める。


「これは…」


何処かで聴いたことがある前奏。そして神崎が歌い出した瞬間、一つのグループ名が頭をよぎる。


「自我共同論の曲…」


気づいた人も少なくないのか、客席がざわめき始める。

当たり前だ。コピーしているのならすぐわかるが、これは似すぎもなにもまるで自我共同論本人のように聞こえるからだ。


神崎は一番のサビの途中で歌うのをやめ、ギターは未だ弾きながら。


「後夜祭」


そう言いながら、私の方へ視線を動かす。


「後夜祭で待ってる」


ボーカルの神崎と目が合う。その目の奥には私の知っている彼女が映っていた。


「待ってるから」


最後に声には出さずに、口でそう言っていた。


確実に、私に向かって。


フカシギは足早に楽器を片付けてステージから去って行った。


新しい発見とはなんだったんだろう。彼女には追いつけないこと?私がいなくても彼女は…。


いや違う。


フカシギの曲を聴いて疼いている私がいる。

彼女のテンポはナチュラルに来るもの。例えばジャズのように。それだけ難しく、自由なものなのだ。


それは例え何十年間もやってるプロでも合わせられやしない。


「指惠先生、後夜祭も行きましょうよ」

「うーん…さすがにその時間までは…」

「でも今日一日暇なんでしょ?」

「そうだけど…」

「あのバンドまた後夜祭でやるんですよ?好きでしょ、あれ」

「どうして?」

「ずっと前屈みになって魅入ってましたよ。先生」

「げ…ほんと?」

「ついでにいうと目も輝いてました」

「そ、そんなことないよ!…でも確かに見たいけど…だって自我共同論みたいで…」

「俺も思いました。もしかして本人なのかな…」

「そんなわけないとは思うけど…って鞍馬君も知ってるんだ。」

「はい。ほらほら、気になるのなら、このまま学校にいるだけですから。ね?」

「えぇぇ〜?」


付き合っちまえよ…。


私の前を歩く二人に頭の中で愚痴る。無意識に発したものだから、つい言ってしまったのではと慌てて口を押さえたが、二人は振り向きもせず前を歩いて行った。


「あは…ははは…」


なにやってんだろ、私は。こんなの私らしくないじゃん。なに口なんか抑えちゃって、女の子ぶってさ。


そっか…これが、新しい発見…いや、再確認…かな。

発展途上の下を向いて歩けば、見えなかったものが見えてくる。

それは見えてなかっただけで、私はずっとその方を向いていたんだ。


あぁ、こんなはずじゃなかったのに。


全部あいつのせいだ。


「全部あいつのせいだよ!」


今度は本当に頭の中の言葉を思いっきり吐き、空を見上げた。


少し雲が出てきただろうか。私の目には雲は透けて、青空の向こうが見える。


「あー、すっきりした」


後夜祭まで、あと5時間。

私は一度来た道を辿り、家に向かう。そして私の相棒を持って来なくては。


「楽しくなってきた」


ありがとう、お母さん。


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