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それさえや。   作者: 源 俊一
第二期
24/27

文化祭一日目


文化祭が始まった。

風もなく晴天の青空の下、生徒たちの雑踏と喧噪が響き渡る。


私、皆月左枝はそんな中を颯爽と駆け抜ける。


文化祭一日目は生徒のみの公開で、二日目と後夜祭が一般の人も見れる公開日だ。


私は二日目と後夜祭に大きな仕事を抱えながら、一日目の仕事を取りかかる。


私たちのクラスの出し物はダンスで、体育館を借りて踊る。

男子も女子も混ざって2曲。そして、ある一人の女子と男子だけ除いてもう1曲。

これは私から持ち出した話で、やりたくないというものも出ると覚悟していたが、みんなこぞって参加してくれた。


それは、彼女へのサプライズ。


夏休みに彼女以外のクラス女子と連絡を取って、秘密の練習をする。ついでに飾り付けも終え、サプライズ用のクラッカーなども用意した。


こちらに力を入れすぎて、男女混合で2曲やる方のダンスがおろそかになってしまってないが不安だが、今不安になっている暇はない。


文化祭はすでに始まっていて、あと1時間余りで本番なのだ。


私はクラスでダンス練習用に借りた演劇実習室のドアを勢いよくあける。そこにはもうほとんどのクラスの人が集まっていた。


「遅いよ、左枝~!」

「ごめんっ!」


本当はもっと早くから学校にいて、本番2時間前にはここにこれたのだけれど。

・・・なんてそっちの事情など知らない彼女らに話すのも面倒臭いのでここは素直に謝ることにする。


「本当、ごめんね。」

「ほら、本番まで時間ないから早く!」


そういって、練習通りの配置にみんなが構える。

本番は一回限り、文化祭といえどみんな本気だ。


「ねぇ、小依の件は・・」


後ろに構えていた女子が私の耳元でそっと囁く。


「大丈夫、夏休みに練習した通りやれば」


そう相手に伝えるてから、周りを見渡して彼女を探す。

右側後方を見ると、彼女と目があった。そして彼女はにっこりと笑う。


そう、サプライズをする彼女は有村小依。私の親友。


ばれていないだろうか。いや、むしろ少し避けてしまっていたから変な勘違いされていないかな。


そんな心配をよそに、音楽が鳴り練習が始まる。



より一層高まる喧噪に私たちは耳を傾け、刻々と刻む針に目を向ける。


「そろそろだ」


私たちは既に体育館に身を移し、黒幕の裏で待機していた。

黒幕を少し開けて、客席を眺める。

ポスターやクラスみんなの口立ての効果だろうか。思ったより人がいた。


緊張するねだとか騒いでいる内に、開始の時間が来た。


私たちは黒幕から出て、ステージに並ぶ。

MCの子が紹介を済ませると、練習通りの配置に着く。


音楽が流れ、練習の成果を文化祭の青春に燃やす。


2曲目が終わって拍手が響く。題目的には終わりだが、私たちにとってはこれからだった。


「お伝えしてませんでしたがもう一曲あります」


MCの子が私と目を合わせ、言葉とともに合図を取ると私はクラスの女子たちを誘導して配置に着く。

男子は先に黒幕の裏に待機させてある。何をやるまでは伝えてないが、もう一曲やるということだけは伝えてあった。

あともう一人。


「この曲は皆月左枝さんが有村小依さんに用意したものです。みなさんも一緒に有村小依さんの誕生日を祝ってあげてください!」


小依の誕生日は文化祭後だけど、3日前ならいいかなって思って。


音楽が流れ始める。JPOPの歌で何かを祝うソングとして有名になったものだ。私たちは秘密の特訓をしてきた成果をここで発揮する。


肝心な彼女はというと。優秀な男子たちの手によって客席の一番前で棒立ちになっている。おまけに口が開きっぱなしだった。


私はそんな小依を見てにやけながら、踊りきった。

そしてMCの子からマイクを受け取り、大きく息を吸って。


「小依ーー!誕生日おめでとーー!」


そう思いっきり叫んだ。それと同時にきれいに装飾した垂れ幕がステージの上から垂れ下がる。

クラッカーをまばらに鳴らすと、少し間をおいて客席から拍手が鳴る。


黒幕がステージを左右から閉めていくとき、私の体が倒れる。

それは小依が私に勢いよく抱き着いてきたからだった。


「ありがとーー!」


そう私の耳元近くで、クラスみんなに叫ぶと小依は私の体をさらに強く抱きしめると。


「3日はやいよ、ばか」


とびっきりの笑顔で、囁いた。



教室に戻って椅子に座り休憩をする。ここからはもう自由時間だ。

クラスの人大半は他のクラスの出し物を見に行っていて、教室で休憩しているのは私と小依だけになった。

私たちは隣り合わせに机をくっつけて、私は小依の感想や質問を聞いていた。


「ねぇ、私からもあるんだ。サプライズ」


小依が突然そう切り出した。


「へぇ。どんなの?」

「サプライズなんだから言えないよ」

「ちぇ、ひっかからなかったか」

「・・・ほんと、変わらないなぁ。左枝は」

「そうかな。小依と出会ってから私は変わったよ」


小依はうーんと唸ると、私の目をまっすぐ見て笑う。


「・・そう、そうかも。でも私の知っている左枝からはちっとも変ってないよ。やっぱり、どんなに変わろうとしたって左枝は左枝のままだよ」

「それじゃぁ、人が変わろうと努力するのを否定しているみたいね」

「違うよ。変わったって所詮人の物差しで決められるものなんだよ。小依は変わったって思ってても、私はその変わった姿も元の姿のまんまってこと」

「・・どういうこと、それ。意味わかなくなってるよ」


「あぁ、もう。つまりね!いつも真面目で賢くて、ちょっと意地悪で、少し暗い左枝も、今日のように笑って、楽しんで、私のことを大切に思ってくれる明るい左枝も、全部私の知ってる左枝ってこと!」


いつからか私は明るい小依に憧れを持っていた。私には持ってないような持ち前の明るさが好きだった。

でも私には到底できないなとずっと思っていた。


今日やったこと。それは本当に自分がやったのかと今更不思議に思うほど、意外だった。


でもそれは自分が変わろうとして。変わっていかなきゃと思ってやったことだったけど。


そんな私も。小依にとってはずっと私の姿だったのかもしれない。


「・・・ありがとう」

「あぁぁぁ~~・・恥ずかしい。何言ってるんだろうね!私!」

「そういえば、サプライズってなんなの?」

「えっとね実は・・ってあぶない!不意打ちやめてよっ!」

「あははっ、やっぱ無理だったか」


いつの間にか聞こえていなかった喧噪がまた耳に入ってくる。

私たちだけの空間はそれほど近くて特別なものだった。


「他のクラス見て回ろうよ!遊んで、食べて・・あ、2組のホットドック美味しいらしいよ!」


小依は立ち上がって、私の手を引く。その手はとても温かく、柔らかかった。


「私の知っている小依はね。本当はずっとさみしがり屋で。わがままで。いっつも無理して笑っている小依だよ」


「え・・?」


「泣きたい時に泣いていいんだよ。私がお節介なのは知ってるでしょう?」


ずっと我慢していたくせに。

どうせ私を支えるために、彼女は笑顔でいてくれた。明るくいてくれた。

だから私は変わろうとした。けど。


支えていたほうは案外私の方なのかもしれない。


「・・っ・・左枝えぇえええっ・・!」


小依は崩壊したように涙を流し始め、私の胸に抱き着いてきた。

今度の小依の腕は簡単に振りほどけるほど弱かった。


「よしよし・・」

「・・っ・・ホットドック食べよぉお・・っ!」

「はいはい。わかったから。母親にねだる子供か、お前は」

「・・・よし、いこうっ?」


小依は私の胸から顔を上げる。彼女は顔を赤くしながら笑っていた。


「やっぱり・・強いよ、小依は」

「へへ・・っ!」


その笑顔に負けないような笑顔を私は彼女に向けた。

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