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それさえや。   作者: 源 俊一
第二期
22/27

笑顔と涙の共通鍵暗号


人は誰ひとりとして共有者と呼べるものはいない。

もし誰かに共有者と呼べる者がいるならば、それは嘘だ。

共有しているとお互い思いあっているだけ。

強いて言えば、偽物の共有を共有してるだけ。


今、文学部の私たちはある本の解釈について啀み合う。


「違う・・そういうことじゃないんだよなぁ~」

「じゃぁ、どういうことなんだよ」

「こう・・なんかこう今までと少し違うのよ。」

「んー、だから俺が言ったことではなくて?」

「それもそうなんだけどさぁ・・」


例えば。


「泣いている」


そう聞いて、どう解釈するだろう。


泣いているとただ一言聞いて、大泣きしている?普通に泣いている?

苦し泣きしている?笑い泣きしている?もらい泣きしている?


そう曲が始まる前に前奏があるように。言葉にも前奏が必要だ。


「面白い番組があった。泣きながら笑った。」


そう聞けば、笑い泣きしているように聞こえる。


だがこうも考えられる。もしかしたらその番組に出ていた人が見知った人で。何か理由があってその人のことを見て泣いてしまったのかもしれない。


笑ってごまかしているのかもしれない。


嘘泣きかもしれない。


面白いという意味もいろんな捉え方がある。興味をそそる面白い、単純に笑える面白い・・。

漢字変換ミスで「尾も白い」と言いたかった可能性だってないわけじゃない。


こういったように、何一つこれだと定まったものは一つもない。

同じ固定概念があってもそこにほんのちょっとでもズレがあれば、それは「同じ」じゃない。


「似てる」それだけだ。


・・ここまでつらつらと語ってきたけれど、これは前奏に過ぎない。


「この気持ちが分かるのは私だけだ。」


独占しているわけではない。お前にわかるもんかと言い放っているわけではない。


元々、理解し合えないものだとわかっているから当たり前の言葉。


白は無色。という常識として捉えられているものを言っただけ。


私に何も悪気はない。


「なにそれ。俺にはわからないっていうの!?莎雅にこの作者の何がわかるの!?」


けれどこう言われる。もちろん向こうも悪気はない。


彼は彼で、彼の常識で語っているだけだ。言っている事は所詮同じ。


「じゃぁ、私の気持ちの何がわかるの」


言葉で溢れているこの世界では言葉以外のものがかならず邪魔をする。

言い表せないものというものが、時として言い表せない力を持つ。


「・・ごめん」


わかる。その気持ちがわかる。そう言って欲しくて、自分の言葉をいったつもりなのに、わかると言って欲しくない。

共有したいのに、共有していると言って欲しくない。


似てると言われたくないから。


だってそれは、どこかが「違う」ってことでしょう?


「ごめんね。分からず屋で」


そう言って私はいつも泣く。


「・・いいよ。いつものことだ。俺もむきになってごめん」


そう言って彼はいつも笑う。


私は、そう私は。

君と「同じ」になりたいから。だから「わかる」なんて言わないで。


・・こんな私に笑顔でいられる理由が、私にわかるまで。

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