顔のない偽善者の名前
「嗄会さん、ここ教えてー。」
「あぁこれはね…こうして…。」
「成る程、ありがとー。」
私は成川嗄会。この学校では"嗄会さん"と呼ばれている。そう呼ばれているのは、仲が悪いとかそういうことではなく、単に私が学年一位の成績を持っているからという理由だ。
「嗄会さん、この仕事頼める?」
「いいよ。この前のやつと同じ?」
「ありがとう!助かるー。もう、嗄会さんがいれば生徒会も楽なのに。入らないの?」
「生徒会の仕事で時間削られるの嫌だし…」
「そっかー。残念だなぁ。」
生徒会の仕事を手伝う時に、毎回言われる。これは善意があって手伝うだけで、生徒会の仕事がしたいわけでも、ましてや楽しいわけでもない。
ただ、頼まれると断れなくて。
そうやっていつも、自分をごまかしてきた。
結局、自分は弱いだけなのだ。
放課後。
「嗄会さん、一緒に帰ろう?」
「うん。」
いつものメンバーが私の周りを囲む。そして手を取り合うように、私と共に帰路につく。
みんなの話を聞き流し、適当に返事をする。聞き流しているので、もちろん内容は覚えてもいないし、関心もない。
何故なら。そう。
「嗄会さんは真面目だからね~、近くで出来たケーキ屋さんなんて興味ないよね。」
「興味はあるよ。」
「そうだよ、嗄会さんは行く時間がないだけだって。ね?」
「そうだね。塾とかあるし。」
「はぁ…まぁしょうがないよね。」
嗄会さんだもん。仕方ない。
真面目だから。仕方ないのだ。
そんなことを言ったらお終いだ。
私だって興味もあるし、たまに寄ったりもする。でも、周りの目というのは実に残酷で卑屈でややこしい。私のイメージというもののおかげで、私は自分で自分を制限してしまっている。
塾?そんなものは行っていない。そもそも、私の家にそんなお金の余裕はない。
真面目だから?あんたらが頭が悪いだけ。
私だって理想の高校生の生活をしたい。友達と一緒にいろんなお店回ったり、少し遠出してみたり。少しハメを外したっていい。
だけど、私にはできない。そう、世間体が邪魔をする。学校という世界の世間体は一番厄介で単純なのだ。
そもそも、毎日顔を合わせなければならない間に、少しでも亀裂が入ったら逃げられやしない。そして狭い囲いのなかで乱反射するかのように噂などの情報は流れていく。
そうやって私は、理想を殺された。
「はぁ…」
家に帰ってから、自分の部屋で一息つく。
いつしかため息も少なくなってきた気がする。それこそ最初はこんな現実に悲しくなってため息ばかりだったが、今はもう呆れている。
案外、こんなものでも悪くないと思ってるのかもしれない。いや、思い始めてるのだろう。
「うん…?」
携帯が鳴る。携帯を取ると、一件のメール。今日一緒に帰った友達からだ。
「またこういうメールか…」
内容は愚痴。というか悩み相談。今日のメンバーの一人が気に食わないらしい。
私は以前にも違う人から同じようなメールを貰ったり、悩み相談役のようになっている。自分からなったわけじゃないが、一番最善な答えを出してくれると期待しているのだろう。
「だけど……面白い。」
結局、人は皆何かを隠しながら生きている。あんな仲良さそうに見えたって、実際私が知る限りドロドロしている。
自分の都合良くなんて絶対に行かない。みんなお互いの都合がかぶることなんてうまい話じゃあ、この世の中は廻らない。
だからこうやって。第三者目線になってみると本当に面白い。いつしか真剣に答えていた私が馬鹿らしくなってきて。
でも知っている。いつか自分が干渉することになる時が来る。
次の日の帰り道。ちょうど明日から夏休みというところ。
またしばらく学校で会えなくなるね。でも、夏休み中一杯遊ぼう。
そんな雰囲気の中、私はずっと笑ってしまう。清々しい笑顔で。
どうしたの?
そう尋ねられた気がした。だから私は。
「ほんと馬鹿ばっか。」
別に洒落たわけじゃない。私が思ってることを正直に、そして賢く解答してあげただけだ。
冴愛先輩。
私は別に人に恋をしたわけじゃないけど。
嫉妬したという正直に話してくれた言葉、今なら分かる気がします。
私は、こんな馬鹿馬鹿しい現実が好きで。
私は、こんな自分に嫉妬しています。




