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それさえや。   作者: 源 俊一
第一期
13/27

正義を唄う本棚



「昨日ね、また歌を聞いたんだ」

「へぇ、どんな歌?」

「私が小枝と会う歌」

「ふーん。佐伯と小枝が出逢ったの?」

「そう。私と貴方が」


やっぱり、彼女が話す「人工衛星の歌」というのは彼女の記憶なのかもしれない。


記憶障害の彼女が時々昔のことを思い出したり、覚えていたりするのは。その「人工衛星の歌」と言われる彼女の前世の記憶が、前世ではなく彼女の失った記憶なのだ。


ヘッドホンを外し、彼女は私と足取りを合わせる。そして、同じ道をゆく。


彼女。佐伯は、私と同じ高校に通っている。いや、私が佐伯と同じ高校に通っていると言った方がいいかもしれない。


「出逢った時にさ、私運命感じてたんだよね」

「運命…?」

「私、佐伯の前では嘘がつけないんだよね。そんな人初めてでさ」

「私も、この歌を信じてくれたのは初めての人だと思う」

「そっか…」


なんかいいな。少し恥ずかしいけど、こうやって素直に話せる相手がいて。


「嘘つきだったの?小枝って」

「うん。今もだけどね」

「誰でも嘘はつくよ。でも、小枝の嘘は違うのかも」

「どうして?」

「なんか…私に嘘を言っていたとしても。私にはヒーローに見える。正義のヒーローみたいな」

「正義の嘘ってこと?」

「そう…ってあれ。なんかデジャヴ?」

「そうだね。私もデジャヴ」

「うーん?今、嘘ついてない?」

「ははっ…佐伯にはほんと嘘つけないね」


笑いながら登校して。教室で机を中心に喋りあって。

蟠りのない会話はやっぱり楽しい。


「そうだ。最近、はまってる本があるんだ」


私はそう言って、鞄から一冊の小説を取り出す。その本は普通よりノートのように薄い本。


「なんていう本?」

「それさえや。っていうタイトルの本でね。まるで私達を書いてるかのような、「さえ」という名前の女の子達が主人公なの」


この本を読んでわかった。佐伯には嘘がつけないんじゃなくて、嘘をつきたくないということ。

記憶が無くなるから嘘をついても構わないと少しでも思った私が憎かったのだ。


「貸してあげるからさ、読んでみなよ」

「うん。ありがとう」


この本の作者である、「小日向彩恵」は最後にこう言っている。


「私は二年間この本を書き続けてきたけど、それさえも感じないくらい過ぎるのが早かった。それだけ、私はこの本を書くのに。彼女達を描くのに熱中していたからだと思う」


「末端にいる彼女達は、何かひとつ足りなくて。それさえできれば。と、もどかしくなる。でも末端にいるからこそわかることも多い。だから…」



「自分自身を愛してあげて下さい」



ふぅ。次は何を書くかな。暫くまた、末端に立ってみるのも、いいかもしれない。


また、世界の中心で会おう。


それまで、さよなら。



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