表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それさえや。   作者: 源 俊一
第一期
11/27

自暴自棄の指針


「まーた、なんか考えてるでしょ」


久しぶりに会った彼女は、なんだか幸せに満ち溢れた顔をしていて、少しだけ悔しかった。

2年前までは、浮かない顔でよく私の所に来たというのに。中学からの親友である私は、ただただ呆れるばかりだ。


「貴方をどう貶めようかを…ね」


近場の喫茶店はいつもより賑わっている。

コーヒーを少し苦く感じながら、苦笑いで微笑む。


「怖っ。もう…咲依はいっつも何か考えてるよね」

「聞き飽きたよ、その言葉」

「そう?いい加減、その四畳半ってところから抜け出しなさいよね」

「抜け出すとかそんなものじゃないんだっての…」

「あ、ごめん。よくわかんないからやめた」

「あのねぇ…」


彼女は最近、大学の同期の男と結婚した。

それからというもの、自惚れまくっているのだ。


あぁ…嫌になる。荷物が次々と追加されていくこの空間から早く逃げ出したい。


しかし、そうもいかないのだ。彼女を呼んだのは紛れもない私なのだから。


「はぁ…それじゃ本題に入るけど、紗絵は…その…5年くらい旦那さんと付き合ってた訳じゃない?」

「そうだねぇ…それがどうしたの?」

「いやその……なんか…コツとかあるの…かなぁ…って。恋愛の……?」

「えっ…?」


もう息が出来ないくらいに荷物が溢れてしまって、整理が追いつかない。もう捨てる事さえままならなくて、視界が揺らぐ。


あぁ、やっぱやめときゃよかった。



「うそうそうそ!?あの引きこもりの咲依が!?恋!?恋愛!?嘘でしょ!?」

「ちょ、声がでかいって…」

「へぇ〜、咲依が絵以外に興味をもつなんてね。どうしたの。いや、その前に誰?」

「順序良く質問してよ、片付かないでしょ」

「あ、でもそっか。高二までは彼氏いたよね。また彼?」

「そんなわけないじゃん。違う人」

「だよね〜。彼に振られたから完全に引きこもっちゃったんだもんね〜」

「わかってるんだったら、わざわざ言わないでよ…」


調子が狂う。紗絵はずっとニヤニヤしながら私を眺めている。


「コツかぁ…ないなぁ」

「絵を描く事しか私には取り柄もないし、引きこもりだし……なんて言っていいのかわかんないし。やっぱ無理かなぁ」


自分で驚いていた。四畳半で泣いている。

埋れていた段ボールが忽然と消えた。四畳半で一人、泣いている。


急に惨めになった。


「自分に強くなることじゃないかな」

「……強く…なる…かぁ」

「咲依は自分の絵をどう思ってるの?」

「どうって…」


紗絵はカフェオレを飲み干して、はぁっと息を吐く。体を伸ばしながら、記憶を遡る。


「昔から私に見せてくるたよねー。高校の時は、ずっと彼氏の絵を描いて自慢してさ。私が落ちこんでた時も絵を描いてくれたよね」

「あったね…そんな絵」

「咲依の絵は上手いよ。私は絵に関して詳しくないけど、咲依の絵には言葉があると思うんだ。言葉っていろんな形があると思うんだけど、咲依の言葉はカラフルで、わかりやすい」

「つまり、何がいいたいの?」

「なんだよ、かっこよく纏めていたのに」

「聞いてるこっちが恥ずかしい」

「だから、咲依はそのままでいいってことだよ。自分の絵に自信を持ってさ。自分に強くなって。絵で伝えればいいんだよ」


自暴自棄の四畳半に一つの荷物が生まれた。

中身を開けてみるが、やっぱりそこには何もなかった。

だけど、なんだか。自分が好きになれる匂いがした。


「今度、紗絵の絵を描いてあげようか」

「私?ほんと?いいの?」

「うん。ついでに旦那さんも。結婚記念に」

「ありがと。咲依。……にしても、あの咲依が恋愛かぁ…」

「もうやめてよ…」


彼女の言葉は少しチクっとして。

小さな小さな針のような言葉だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ