星を観る人魚姫
あれから、二年後。
私は前の仕事を辞めて、冗談半分で昔憧れたペットショップでの仕事をするために、トリマー資格を取って、晴れて大きなペットショップに就くことが出来た。
私は泳げているのかな。
王子様は見つけられそうにないし、姫なんていうほど綺麗でもないけど。
私、夢の中を泳げているのかな。
「いらっしゃいませ」
高校生だろうか。なんだか初々しい顔をしている。すべてが始まる春なんだから、もしかしたら新一年生かもしれない。
その子は餌の整理をしていた私に近づいてくる。
「あの…白い猫っていますか?」
「白い猫ですか。いますよ」
「出来れば毛並みが綺麗で、若い猫」
その子の目はそれ以外受け付けないといったように、真剣な眼差しだった。
白い猫か…それに若くて綺麗な猫。
それなら適任の猫がうちにはいるじゃないか。
「こちらです」
このペットショップには、看板娘といえる看板猫がいた。その猫は憎いくらいの可愛さをもち、純白の毛並みをもつ子猫だ。
その猫のところまで案内すると、彼女は目を丸くしていた。
「似てる…」
「……ペットを飼った経験があるんですか?」
「はい。この猫みたいに、綺麗な猫で…。私の成長を見守ってくれた大切な猫です」
"見守ってくれた"…か。
わざわざ過去形になっているところからみても、亡くなってしまったのだろう。
「椅子……」
「あぁ、この小さい椅子はこの猫の好きなもので…なにかとこの椅子に寝ては、戯れてるんです」
「へぇ…もしかしたら生まれ変わりかもしれないですね。ここまで似てくると」
「……そうですか。なら、本当に生まれ変わってきたのかもしれませんね」
「そう言われたら信じますか?」
彼女は猫を真っ直ぐと見ている。懐かしむように。憐れむように。
「信じ…るかもしれません。どうせ生まれ変わっても…同じ事しかしないんだろうなとは」
「あははっ。わかります。きっとまた喧嘩するんだろうなぁ…」
「喧嘩?」
「な、なんでもないです!」
彼女は未だ悩んでいるのだろうか。なかなか決断出来ずにいる。
「名前は…もう決まってるんですか?」
「いえ…そうだ。お姉さんの名前はなんですか?」
「え…どうして?」
「このままだと私、前と同じ名前をつけそうだし…それ以外思いつかないので」
苦笑いをしながら彼女は私の応えを待つ。
「本当にそれでいいの?」
「はい。気に入ればですけどっ?」
「ははっ…えと、私の名前は…水谷紗江といいます」
「………いい名前ですね」
「ありがとう」
「……ほんと……いい名前だよ」
彼女の声はか細く、なんて言っていたのか聞こえなかった。…けど。
「私、この子にします」
「ありがとうございます」
この子もまた。
泳げるようになったのなら。
「今日から君はサエだよー」
彼女は猫を見ながら、笑う。
「なんだか変な感じだなぁ…」
そんな彼女の姿を見て、微笑む。




