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第5話 魔法使いエルシャ

○北地区 サーヘル大学付近の通り


「2年前まで冒険者ギルドでチームを組んでたんですか」

「そんな大したチームじゃなかったけどね」


 俺は依頼先に向かいながらリリアにフィリア達との馴れ初め話をしていた。


「主な仕事は草刈りや手紙の配達、薬草の採取、お店の接客業とかだったけどね。 魔物討伐よりお金にならないけど需要は高かったよ」

「それぞれの特技を生かしてたんですね」


  本当の話、フィリアとニヒルは基本的に商人だったので魔物討伐なんて出来なかったためだが。

 チームのパーティーが皆、ト○ネコでは正直言って話にならない。 フィリアは気が強く、すぐに手が出る(俺に限り)凶暴女だが、戦闘能力は普通の女の子と変わらないのだ。


「では魔物討伐の経験は無かったのですか?」

「う~ん、実はそうでもないんだ」

「え? じゃあヒロトさんが一人で?」

「違う、途中で強力な仲間が参加したからなんだ」

「もしかしてその方がエルシャさんですか?」

「まあね、彼女のおかげで俺達の仕事が大分楽になったよ」

「凄い人なんですね」


 俺はリリアとそんな会話をしつつも大学の前に着いたので一旦立ち止まることにする。


「ここだよ」

「え、ここですか? じゃあ先程まで続いていた壁って......」

「全部大学の敷地」

「え――!?」


 俺の言葉にリリアは驚きを隠せず声を上げてしまう。 目の前には5メートル近い高さの門があり、周囲を3メートル近い壁に囲まれた一帯こそサーヘル大学の敷地なのだ。


「中を見るともっとビックリするよ」


 門をくぐると俺達の目の前には先程歩いていた市街地と違って広大な草原が広がり、中央には本講堂と呼ばれるドーム状の建物がある他、扇状に3~5階建ての研究所や学生寮が立ち並んでいた。


「すごい......」


 城塞都市の中とは思えない余りの広さにリリアは言葉を失ってしまった。

 無理もない、面積40万平方メートル(東京ドーム10個分)はこの街の中央に建つ「総督府」の敷地より遥かに広いのだから。


「市民にも開放していて運動会やコンサートが開かれたりもするんだけど、実際はこれでも広さは足りないけどね」

「え、なんでですか?」


 リリアが疑問を口にすると同時に


「魔物が逃げたぞ!!」

「は、早く捕まえろ!!」


 学生達の怒鳴り声と共に3メートル近い大きさの走竜が研究所の中から姿を現し、彼らの手から逃れるかのように逃げ回っていた。


「ガゴオオンン!!」


 そいつは研究所の生活によっぽど嫌気が差したのか尾を振り回して暴れ狂い、何人かの学生が餌食となっていた。


「教授!! だから言ったでしょ、大学の中で竜は飼っちゃダメだって!!」

「ワシの研究のためにはどうしてもこいつが必要なんじゃ」

「何言って......うわ!?」


 教授に文句を言っていた学生は走竜の尾が直撃して吹っ飛ばされてしまった。 このように大学内では様々な魔物の研究も行っているため、時にはそれらを外で散歩させたりする必要があったのと脱走対策のために広大な敷地と高い塀を必要としているのである。


「この野郎!!」

「みんなで押さえ込め!!」

「きゃああ!?」

「もっと応援を呼んで来い!!」

「おいおい、貴重な研究材料だから傷つけるでないぞ!!」

「うるさい!!」


 教授の言葉にお構いなしに学生達は大きな虫取り網や首輪、鎖にサスマタを持ち寄って走竜を押さえにかかるも奴は必死で振り払おうとしていた。


「逃がすか!!」


 魔法に造詣の深い学生が火魔法の一種である「ファイアーボール」を投げつけるも危険を察知してか走竜は避けてしまい、後ろの学生寮に直撃してしまう。 


「あたしの部屋がああああああ」

「ぶへ!?」


 部屋を燃やされてしまったためか持ち主の女性は発狂し、先程の魔法使いに見事なヘッドロックをかましていた。 その光景に学生達が騒然とし一瞬立ち止まってしまう。 一方、走竜はチャンス到来と思ったのか自由を手に入れるために門のある俺達の方へ走り出してきた。


「危ない!!」

「きゃあ!!」


 迫り来る走竜、恐怖を感じたのかリリアは悲鳴を上げて俺の体にしがみつく。


「仕方がない、ちょっと下がってて」

「ヒロトさん!?」


 俺はリリアを後ろに下げると腰のホルダーに刺していたドライバーを両手に持って先端に氣を送り出し、「うらあ!!」っと言って地面に刺す。


ボゴオンン!!


 地面がメリ上がると同時に目の前に巨大な土壁が現れ、直進してきた走竜は激突してしまう。


「グエエエエエ......」


 勢い良くぶつかった為か奴は唸り声を出し、そのまま目を回して倒れてしまった。


「ふう、こいつは追加料金を頂かないとな」


 俺はドライバーを地面から抜き取るとそのまま腰のホルダーに戻してリリアの方に視線を移す。


「大丈夫かい?」

「そんな...詠唱も無しに魔法を発動させるなんて」


 あまりの光景に彼女は口をパクパクしながら呟いていた。

 しまった、この世界の常識では魔法発動には必ず「詠唱」が必要なのを忘れてた。


「小声で言ってたから聞こえなかったんじゃないかな?」

「でも、なんであんなに強力な土魔法が使えるんですか?」


 そうだった、彼女には俺は火と風の特性持ちだと伝えたばかりだったんだ。 これでは隠していた意味が無いな。


「大丈夫ですか!? う、これは!!」

「ヒロトさん!!」


 リリアに対する説明に困っていると先程まで走竜を追い回していた学生達が集まってきた。 


「走竜を一人で倒してしまうとは流石です」

「まだ腕は衰えてませんね」


 彼らは口々に賞賛の言葉を送ってきたが、隣にいたリリアは大勢の学生に囲まれたのが恥ずかしかったのか顔を赤くして後ろに隠れてしまった。


「引退したのが勿体無いですよ」

「2年前の事件以来ですね......」

「はいはい、話はそこまでだ。 教授はどこだ?」

「イデデデデデデ!!」


 学生の一人が余計なことを言おうとしたので俺は彼の頭を掴んで力を加える。


「い、痛いです、教授ならあちらに」


 学生の指差す先には一部の学生達と共に俺が出現させた壁の成分を採取しようとしている教授の姿があった。


「ふむふむ、こいつの固さはまるでレンガのようじゃの」

「......」


 俺は再びドライバーを手に取ると壁に刺して今度は水魔法の詠唱をかける。


ビチャ!!


「うわ!? 何するんじゃ!!」

「勝手に他人の魔法を調べないで下さいよ」


 水分を含んだため先程まで固かった土壁はドロドロに解け、教授達の頭の上に降りかかってしまった。


「お主の魔法は非常に興味深いからのう」

「俺を実験動物みたいな目で見ないで下さい」


 泥まみれになってしまった教授と呼ばれるこの人の名前はパシオン・ドヌール、サーヘル大学の代表教授であり、フィリアと同じ「委員会」の一員でもあるのだが研究のことになると見境なくなるマッドサイエンティストだ。


「ワシは世界の魔法技術の向上のために言っとるのだ」

「いい加減にしないとうちの会長に言いますよ」

「う......」


 教授のしつこさに俺はフィリアの名前を出して黙らせる。 彼にとってフィリアは最も苦手な存在であり、定期的に開かれる会議においてはいつもやり玉に挙げられて絞られているのである。


「それはそうと今回の依頼場所はどこですか?」

「ああ、それじゃが......」


 教授は今回の修理依頼場所を指差してくれたが


「燃えてますね......」

「燃えとるのう」

「ああああああ私の部屋がああああ」


 燃え盛る学生寮の前には犯人である魔法使いの学生の首を絞めつつ号泣する女性の姿があった。


「消火頼めるかのう?」

「追加料金取りますけどね」


 俺達は本来の目的とは程遠い消火活動をする羽目になった。



○サーヘル大学 学生寮


「教授!どうしてくれるんですか!!」


 私達が消火活動の終わった部屋の片付けをしていると先程、魔法使いの学生さんの首を絞めていた女性が入って来て教授に攻め寄っていた。


「あれはワシのせいではないわい」

「研究資料が無くなった挙句に今日からどこで寝ればいいんですか!!」


 その女性は若く見えるが腰の位置まで伸ばした金色の髪はボサボサで服装も薄汚れており、碧色の瞳の下にはクマが出来ていたことから、教授と同じ研究者の一員であることが伺える。


「代わりの部屋をすぐに用意させよう」

「そんなの無いですよ!! ただでさえ学生数の増加で部屋が足りないって言ってるのに寮を増やしてくれなかったんですから!!」

「商事ギルドの会長に断られたんじゃ」

「あなたがしっかりしないからですよ!!」


 部屋を失ったことがよっぽど頭にきていたのか彼女はなかなか引き下がろうとはしない。 そんな教授の姿を不憫に思ったのかヒロトさんが間に入ってきた。


「エルシャ、落ち着くんだ......」

「ヒロトくん!!」


 ん?今エルシャって言ってなかった?


「今回は不幸な事故だったけど大きな怪我人がいなくて良かったじゃないか」

「あたしの部屋が無くなったのよ!!」

「あんなによく燃えたのも君が日頃からちゃんと整理しないからだと思うけど......」 

「うぐぐぐぐ」


 確かに、焼け跡を掃除していて気付いたのだがこの部屋は異様にゴミが多い気がする。 大半は燃えて消し炭になっていたが、箒で掃くたびに消し炭の中からゴロゴロと物が出てくることから火災の時の室内はかなり散らかっていたことが分かる。


「とりあえず、もうお昼だから食堂に行こうか」

「グズ...」


 私達はエルシャさんを励ましながら一緒に食堂に向かうことにした。



○サーヘル大学 食堂


「ううう、あたしの研究資料があああああ」


 食堂に着くと同時にエルシャさんは私達が持ってきた料理を次々に口に頬張りながら泣き喚いていた。 その光景に心なしか私達の周りには誰も近寄ろうとしない。


「教授が走竜なんて連れてくるから!!」

「さっきの学生の話だと君も乗り気だったって聞いたけど」

「う......」


 そうか、この人も教授と同じ人種の人なんだ。 だとするとさっきのことも自業自得ではないのだろうか。 私のそんな気持ちをよそに彼女は気を紛らわそうとしているのか自棄食いを続けていた。


「はあ~毎度のことながら君には呆れるよ」

「グス、グス......今回の件で研究から外されちゃったしどうやって生きていけばいいのよ......」


 涙と鼻水を流す彼女を見ているとなんだかこっちが悲しくなってきた。 本当にこの人は優秀な魔法使いなんだろうか?


「外で下宿を探したら?」

「お金が無い......」

「また給料全額使い切ってしまったのかよ!!」


 この人、生活能力は全く無いみたい。


「だってえ、欲しかった研究資料を教授が用意してくれないんだもん」

「大半は飲食費で消えてるだけだろ!!」

「だからさ~お金貸して♪」


 先程と打って変わって「テヘ、ぺロ♪」っと舌を出して笑顔でヒロトさんにおねだりするエルシャさんであったが彼は「いくら貸したと思ってるんだ!!」と怒ってしまった。


「だってえ、頼れる人が君しかいないのよ」

「70年近く生きてるくせに年下に金を借りようとするな!!」


 ん?今何か気になることを言ってたような......


「あのう......エルシャさんって何歳ですか?」


 ヒロトさんの口から出た言葉に疑問を持ってしまい思わず口を挟んでしまった。


「この娘は?」

「ああ、紹介が遅れたけど今日から俺の元で働くことになった娘で名前は」

「リリアです、よろしくお願いします」

「ふ~ん、あなたにしては珍しいわね。 こんな可愛いお弟子さんを持つなんて」


 エルシャさんは私の顔をジーっと見つめた後、口を開く。


「なかなか良い光の特質を持ってるようだけど魔力の制御方法を知らないみたいね」

「分かるんですか!?」


 私の言葉にエルシャさんは胸を張って「あたぼうよ!!」と答える。


「こいつは「魔法紙」を使わなくても相手の魔法の特質などが分かるんだ」

「まあね、フフン」

「凄いです!!」


 色々と問題がある人だったけどエルシャさんの実力は本物のようだ。 


「そこでお願いがあるんだけど」

「何かね、君がお姉さんに頼みごとがあるとは珍しいね」

「リリアの個人教授として魔法を教えてやってくれないか?」

「ほほう......」


 エルシャさんはテーブルの上に手を置いて顎を着けると同時に


「協力してもいいけど一つ条件があるわ」

「ん、なんだ? 金なら出すけど」

「君のところに住ませて貰えないかね」

「おい!!」


 その言葉と同時に彼女の頭にヒロトさんがチョップをお見舞いする。


「いった~い!」

「冗談にも程があるぞ!!」

「だって~エルフの私が外で下宿なんて借りたら危ないじゃない」

「エルフなんですか!?」


 エルシャさんの言葉に私は思わず席を立ち上がって驚いてしまう。


「そうよ、珍しいでしょ~」


 そう言いながらエルシャさんは耳元にかかっていた髪を上げるとエルフの特徴である細長く尖った耳を見せてくれた。


「だからそこまでのお力があるんですね」

「そうよ、まあ私の実力はエルフの中でもずば抜けてるけどね」

「こいつは私生活は駄目エルフだけど能力に関しては信用できるぞ」

「もっと敬いなさい、オホホホホ......」

「調子に乗るな!」


 ゴチンっと再びチョップをされてエルシャさんの目は涙目になってしまった。


「一緒に住むにしてもフィリアが認めねえよ!!」

「いいじゃない、減るもんじゃないし」

「駄目だ」

「ちゃんと個人教授するから!!」


 段々話がおかしな方向に行ってる気がするが私が思うにエルシャさんはこれを機会にヒロトさんと一緒に住む計画を立てているようだ。 話の内容から察するに彼を巡ってフィリアさんと一悶着あったのかもしれない。


「もういい、リリア、午後の現場に行くぞ!!」

「あ、ちょっと待ってください!!」

「私を置いてかないでよ~」

 

 痺れを切らせたのかヒロトさんは席を立ち上がると同時に食堂から立ち去ろうとし、私も慌てて工具箱を持って彼の後を追いかける。

 エルシャさんはヒロトさんに断られたのが辛かったのか席に座った状態で何やらブツブツ呟いていた。



○夕刻 酒場「バッカス」


 午後の仕事を終えたヒロトとリリアの二人は夕飯を食べるために先日訪れたばかりのこの店へと足を運ぶ。


「あ、ヒロトさんにリリアちゃん、いらっしゃ~い」


 店に入った二人を看板娘でもある二アが出迎える。


「まあ、リリアちゃん可愛い!!」


 リリアの仕事服を見て二アは可愛さのあまり思わず抱きついてしまう。


「猫耳似会ってる~」


 リリアの帽子に縫い付けられた猫耳を弄りながら二アは二人をカウンターへと案内する。


「実はねえ~あたしも猫耳があるんだよ」

「え!?」


 二アはいつも着けていた花飾りのついたカチューシャを外すと同時にピンっと張った猫耳をリリアに見せる。


「ほ、本物ですか?」

「本物だにゃ~」


 彼女はリリアに見せ付けるようにピコピコと耳を動かしてみせる。


「えええ!?」


 リリアはふとカウンターにいる親父に目を向けると彼の短い頭髪に耳は生えてなかった。


「私のお母さんが猫族だったんだよ」

「そうだったんですか」


 二アの言葉になぜかリリアは安堵の気持ちを覚えてしまう。 まあ、ムサイおっさんの猫耳など誰も見たくは無いだろうが。


「それはそうとヒロトさん」

「ん?」

「あちらにお待ちの方が」


 ヒロトが二アの指差す方向に振り返ると奥のテーブル席に見慣れた女が眠りこけていた。


「おい!!」

「ふにゃあ~待ってたよ......」


 待つのが退屈でしばらく飲んでいたのかエルシャの周りにはワインの空き瓶が転がっていた。


「いい加減にしろよ!!」

「だって~」

「一緒に住めないって何度言ったら分かるんだ!!」

「ふ~ん、なら許可があればいいんでしょ」


 彼女はニヤニヤしながら懐から一枚の紙を取り出すとテーブルの上に「ダン!」っと置く。


「これは......」

「むふふ...文句無いでしょ」

「お前、フィリアに何したんだ?」

「どうでしょうねえ」


 その紙にはフィリア直筆のサインがあり、内容は「リリアの個人教授のためにヒロトの部屋の使用を認め、一緒に暮らすことを承認する」と書いてあった。


「まさか、あいつが認めるなんて.......」




 遡ること3時間前......


 商事ギルドの一室にてある極秘会談が行われていた。


「リリアの個人教授を願い出るのは良いけど一緒に住むことは認めないわ」

「やっぱ駄目?」

「駄目」


 フィリアの言葉に机の上で足を組んで腰掛けていたエルシャは「仕方が無い」と言いながら懐からある物を取り出す。


「そ、それは......」

「あなたにとっては喉から手が出るほど欲しい物でしょ」

「く......」

「契約成立ね」


 エルシャは契約書の内容を確認すると「よろしくね」と言い残し、鼻歌を歌いながら部屋を後にする。


「良いのかい、姉さん?」


 心配して声をかけるニヒルに対し、彼女は「仕方が無いわ」と言いつつ机の上へと視線を移す。


「これはこの街の発展のためにも必要なものよ。 あの女、いつのまにかここまで調べ上げてたのね」


 机の上にはエルシャから渡された地下水路の図面が広げられていた。


「これがあれば次の会議で主導権を握れるわ」

「僕達の夢だもんね」

 

 薄ら暗い取引の結果、フィリアは政治取引の資料を手に入れ、エルシャはヒロトの部屋の居住権を得たのである。



そして現在......



「教授ってひどいんれすよ~」

「お前、それ何度目だ?」

「すぐお尻を触ってくる変態なんれすよ~」


 一緒に暮らせることになったのが嬉しかったのかエルシャはご機嫌であった。


「飲みすぎだぞ!」

「いいじゃな~い、今日から一緒に住むんだしさ~」

「やれやれ、一体どんな手を使ったんだ」


 やたらと絡んでくるエルシャ、その姿は今朝会ったときと違って髪は綺麗に整い、真新しい服を着て、風呂に入ってきたのか心地よい香りを漂わせていた。


「ねえ、今夜どう?」

「何がだ?」

「お姉さんとエッチなこと......」

「アホか」


 ヒロトはエルシャを無視してカウンターの方に視線を移すとリリアが楽しそうに二アと親父に今日あった出来事を話していた。  


「奴隷だったんだってね」

「フィリアから聞いてたのか」

「一応、弟子のことは知っておかないとね」


 急に真面目な表情になったエルシャはかつての思い出を語り始める。


「あの時、あの酒場で君と出会ってなかったら今の私は無かったと思う」

「そうだな、俺もエルシャに会ってなかったらこの力に気付かなかったんだもんな」

「一応聞いておくけどあの娘にあなたの力のことは話したの?」


 エルシャの言葉にヒロトは「まだ話していない」と答える。


「まあ、あなたの力は明らかにこの世界にとって異質な存在だからね」

「下手に教えればあの娘の頭を混乱させてしまうしな」

「でもあの娘を守る為にその力を使ってしまったんでしょ」

「ああ」


 エルシャはヒロトの腕に自らの腕を回すとそっと彼の耳元で囁く。


「彼女のことは任せて、ちゃんと魔力をコントロール出来るようにして見せるから」

「頼む......」

「お姉さんに任せなさい!!」


 彼女はそう言って胸を叩いた後、ヒロトと自身のグラスにワインを注ぐと「乾杯!」っと言って飲み始める。


「今日のお酒はまた格別に美味しいわ~」


 その後、酔いつぶれたエルシャを担ぎヒロトはリリアと共に店を出ることになるのだが、彼女の財布が空っぽであることに気付き、彼女に嵌められたことを実感するのであった。



--次の日--


「ムニャムニャ......ヒロトくんはせっかちなんだから......」


 エルシャは夢の中でヒロトとキャッキャウフフなことをしているのか嫌らしい寝言を口ずさんでいた。


 しかし......


「クシュン!!」


 部屋が寒かったのかクシャミと同時に目覚めてしまう。


「こ、ここは......」


 寝ぼけ眼を擦りながら室内を見渡すと信じられない光景を目撃してしまった。


「ちょっと!!」


バタン!!


 エルシャが勢い良くヒロトの部屋のドアを空けると室内にはフィリア達と楽しそうに朝食を食べるヒロトの姿があった。


「なんであたしが資材倉庫で寝なくちゃいけないの!!」

「ゴミ部屋に住んでた時よりも良い部屋じゃないか」

「あたしをペット扱いしないでよ!!」


 エルシャが寝かされていたのは工作室の隣にある資材倉庫であり、床の上にむしろが敷いてあるだけであった。


「まあまあ、落ち着いて......」


 そう言いながらもヒロトはサンドイッチをムシャムシャ食べていた。


「契約が違う!!」


 なおも食い下がるエルシャであったがヒロトの隣に座って紅茶を飲むフィリアが口を開く。


「この部屋にいるのはリリアを教える時だけでしょ? 住む部屋までは指定してないわ」

「うそ!?」


 エルシャがもう一度契約書を読み直してみるとそこには確かに「リリアの個人教授のためにヒロトの部屋の使用を認め、一緒に住むことを承認する」と書かれてあった。


「と言う事だからリリアの個人教授の時以外はこの部屋に入って来るなよ」

「この階の倉庫をあなたの部屋として用意したから好きに使って良いわよ」

「ちょっと!!」

「この階自体が俺の家だから一緒に住むことに変わりないよ」

「エルシャさん、よろしくお願いします」

「くうううううう」


 3人から冷たい言葉を浴びせられ、エルシャはその場でヘナヘナとしゃがみこんでしまう。

 上手くヒロト達を出し抜いたつもりが最終的に騙されてしまっていた事実に気付いてしまうのであった。 



 したたかな一面を見せるエルシャでしたが最終的に主人公達に嵌められてしまいました。

 天才エルフも契約については百戦錬磨の実力を持つ商人達を騙すことは出来なかったという訳です。

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