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第31話 抗う者達

 PC故障も重なったために更新遅れました。

 申し訳ありません。

○日本 某所 温泉旅館


「ふう......」


 深夜の温泉旅館の一室でヒロトは傍らに眠る女に視線を送る。 歳の頃は30代に差し掛かり、肌に衰えが見えるものの、体つきは20代前半に近く余分な脂肪の無いガッシリした筋肉とそれなりの大きさのある胸を持ち、口元からアルコールの匂いを漂わせている。


「やってしまった...」


 落ち着いたことにより、彼の脳裏に先程までの行為が思い浮かび始める。

 以前の職場では良き上司と部下であった彼女との関係......今の職場に移ったあとも良き同僚として過ごしてきたわけだが、彼女に誘われた今回の旅行で一変してしまう。

 日中は彼女の希望で様々な名所を巡り、宿に着いた後は温泉に入った後で地元の特産品を使用した料理に舌鼓をうち、食後は旅の思い出を交えての酒盛りを展開していたのだが次第に彼女の顔が虚ろになった途端にヒロトの体に抱きつき、彼の唇を奪ってしまったことにより普段は押さえていた欲望が燃焼してしまい、体の関係にまで至ってしまったのである。


「う、う~ん...」


 ヒロトの言葉に反応してか女はゆっくりと瞳を開ける。 


「す、すみません、あなたの体に手を出してしまって...」

「良いのよ、私も楽しませてもらったしね」


 女はそう言うとゆっくりと起き上がる。 モデルのようにバランスのとれた体格を持つ彼女であったが、窓から漏れる月明かりに照らされたその背中には大きな傷跡があった。


「君には私の我侭に巻き込んでしまった過去もあるし」

「違う、俺は自分の意思であなたについて行くって決めたんです」

「ふふ、可愛い部下を持てて幸せよ」


 ヒロトの言葉が嬉しかったのか彼女は自らの胸に彼の顔を押し当てて口を開く。 


「今日はまだ寝かせないわよ...」

「え......」


 この日は夜遅くまで二人の愛し合う姿が見られることになる。



○現在 魔物の巣付近


「おい、もうすぐだぞ」

「う~ん、良いとこだったのに」

「何を言ってるんだ?」


 チズに起こされ、魔女は眠気眼を擦りつつ起き上がる。


「お前が居眠りするなんて珍しいな」


 水筒の水を飲んだあとタバコに手をかける魔女に対し、チズは魔法を使ってナイフの先端から火を出して彼女のタバコの先端に近づける。


「ありがと」

「ああ」


 チズもまた、魔女から渡されたタバコに火をつけて煙を吸い込む。 


「どんな夢を見た?」

「懐かしい思い出よ」

「そうか、あの男とのことだな」

「知ってたのね」

「薄々な、遠目でしか見なかったがあの男はやっぱりお前の知り合いなんだろ?」


 チズの言葉に魔女は黙って煙を吐いた後、口を開く。


「今回の件が成功すればやっと帰れる」

「ここまでの権力を手に入れたお前が何で帰ることに固執するんだ?」

「ここに私の居場所はないわ。 もうこんな世界にいるのはうんざりよ」

「それは私も同じだ。 ロキが死んで以降、ひたすら私達を置き去りにしたクソ王子を殺すことを目標として生きてきた。 その目的を達成した今となっては私に生きる意味はもう無い」

「お互い似た者同士かもね」


 チズはふと魔女と出会った頃を思い出してしまう。 王子への復讐を果たしたものの、双方の陣営から追われる身分となったために生き残った部下達と共に盗賊稼業で生計を立てていたのだが、ある隊商を襲ったことを機に彼女の運命は大きく変わることになる。

 護衛もいない絶好の獲物と思って襲撃したものの、そこにいた魔女の力によって全ての武器は封じ込められてしまい、突然意識を失わされてしまったのだ。

 目覚めた時、目の前に不適な笑みを送る魔女を見てチズは舌を噛み切って自決することを決意したのだが魔女はチズの自決を防ぎ、あろうことかラクロアに連れて行き手厚く歓迎したのである。 更には故郷に戻りたがっていた部下の帰郷を手助けし、戦えなくなった部下の再就職の斡旋までしてくれた魔女の厚意にチズ達は恩義を感じ、魔女の誘いを受ける形で彼女の手駒として行動するようになったのである。


「もし私が元の世界に帰ったらあなたはどうするの?」

「お前が新しい身分を用意してくれたから今度は傭兵にでもなるさ」

「ホントに戦バカなんだから」

「戦うことこそが私の生き甲斐なんだから仕方がないだろう」

「ふふふ、そうだったわね」

「ああ、そうだったよ」


 不意にお互いの口元から笑みが漏れ、笑い声を発し始める。

 口数こそ少ないものの、お互い良き友人としてこれまで過ごしてきたのだが今回の行動を最後に二度と会うことは無くなる。 その名残惜しさからかこの日のチズはいつにも増して多弁であった。


「そういえばお前の本当の名前を聞いてなかったな」

「今更何よ」

「教えてもらってもいいだろう?」


 チズの言葉に魔女は一呼吸おいた後で口を開く。


「サオリよ、水神佐織みずかみさおりそれが本当の名前よ」

「サオリか...良い名だな」

「私の名前を聞いてくるなんてどういった風の吹き回しなの?」


 サオリの言葉に対し、チズはもどかしそうにしつつもこう答える。


「聞いておかないと後悔するかもしれないからな」



○ラクロア内 森林深く


「ここね」


 森に潜む魔物の襲撃をかいくぐり、サオリ達一同は目的の場所を見つけだす。 そこは何の変哲もない洞窟に見えるものの、中に入ると天井から輝く不可思議な明かりによって照らされており、一同がその中を進んでいくと目の前に人の背丈ほどの白い扉の姿が現れる。


「いつ見ても気味が悪いな」

「趣味が悪いわね」


 口々に不快な言葉を口にする仲間をよそに女はそばにあった端末の様な物に手をかざして何やら暗証番号のような言葉を呟くと機械音と共にその扉は中心から左右に開かれる。

 まるで自動ドアのような動きをする扉の動きにサオリを除く一同は驚いてしまうも元の世界で体験済みの彼女は何の疑問も持たずに中に入っていく。

 白一色の広い室内であったが、あちこちに機械音を響かせる機器で溢れており知る人が見ればどこかの大学の研究室の姿を思い浮かべてしまう光景であったが、サオリは目当ての物が部屋の中心にあることを発見するとそれに手を伸ばそうとする。


パアン!


 突然響いた銃声...弾丸はサオリの側にあった機器に当たって鈍い音とともに火花を散らしている。

 その光景を見た一同はそれぞれの武器を抜き出し、銃声のあった入り口の方へ振り返る。


「サオリさん、もう終わりにしましょうや」

「ヒロト君、久しぶりに会った割には手荒い歓迎ね」


 サオリの目の前にはお手製の散弾銃を片手に佇むヒロト達の姿があった。


「8年ぶりね、ちょっと老けたんじゃないの?」

「あなたこそ、俺より年上だった筈なのに何でいなくなった頃と容姿が変わってないんですか?」


 久しぶりに顔を会わせたためか、ヒロトはサオリに向けていた銃口を下ろして問いかける。


「ふふふ、女は化けるものよ」

「ふざけるな!! 我が一族を貶めた挙げ句に多くの人々の命を奪ってきたお前が何を言う!!」

「お前はここで始末してやる!!」


 フィリアとニヒルは怒りに身を任せてそれぞれの手に持つ散弾銃の銃口を向けると共に予め装填してあった散弾を発砲するもそれはサオリの目の前に迫った瞬間に空中で停止し、地面にこぼれ落ちてしまう。

 サオリの配下達はその光景を合図に、銃口を避けるかのごとく散り散りになりそれぞれの武器でヒロト達に襲いかかる。


「ぎゃあ!?」


 フィリアに狙いを定めた一人の男がアミの手によって斬り捨てられて地面に倒れ込む。


「邪魔をする奴は同族であろうと斬り捨てる」


 アミはヒロトによって改良されたカッターソードの改良型である「雷斬り」を両手に持ってチズ達復讐連隊の面々と対峙する。 この刀は折れやすかった試作品である以前の物とは違い、魔物の体から産出される金属を加工して強度を増した代物であり、並の剣と打ち合ったところで簡単に折れない上に重さは以前の物より軽く、細長くなった刀身の先端は鋭く尖らせてあり、今までと違って斬るだけでなく突き刺すことをも可能とした一品である。

 

「姉さんの邪魔はさせん!!」

「ぬくぬくと戦争で儲けてきた連中に思い知らせてやらなきゃいけないんだ!!」


 双子と思われる狐の耳を持つ「フォックス族」の兄弟をアミは躊躇うこともなく片方の胸を貫き、もう片方の首を斬り裂く。 その隙に飛びかかってきた四腕族の男の姿があったが、アミは胸を貫いていた剣の先端をポキリと折ると短くなった剣を投げナイフのように男の頭部に投げて命中させる。

 

「うおおおお!!」


 ランスを片手にアミに向かって突進するケンタウロス族の男がいたが、ニヒルの放った銃弾が命中してその場で倒れ込んでしまう。

 

「ガオオオオン!!」


 熊族の男が大斧を地面に振り落とすもアミはクルリとバク転して避わす。 何度も男は斧を振り回してアミを殺そうとするも彼女は巧みに身を捻らせて避わしていき、男の斧が壁に突き刺さった瞬間を見逃さずに彼の口の中にクナイを差し込む。


「ガガガ!?」

「イーグニス!!」


 アミが詠唱を呟いた瞬間、男の口に突き刺さったクナイが爆発して男の頭が吹き飛び、そのまま倒れてしまう。

 新装備の「爆発クナイ」、火薬を内蔵しており本体から延びる通電性の高い銀糸を編み込んだ紐を導火線にして火魔法の特性のあるアミの魔法によって爆発させる代物であり、相手の急所に突き刺して爆発させることにより従来なら倒すことの難しかった巨大な魔物等を倒すことのできる恐ろしい一品である。


「同族のくせに奴らに味方するのか!!」

「裏切り者ニャ!!」


 エルシャとフィリアはエルフ族の男と猫族の女に目を付けられてしまい、二人の持つ弓矢によって執拗な攻撃を受けてしまっている。 戦闘に関しては素人に近い二人であり、銃がなければ全く太刀打ちできない有様であった。


「ピュンピュンとしつこいわね~」

「何とかしないと......」


 矢避けに使っている物陰からフィリアは試しに手鏡をかざして様子を見ようとするも、すぐさま矢が命中して割れてしまう。


「く、高かったのに!!」

「いい腕、さすがはエルフ族で一、二を争う弓使いね」

「早くしないと魔女に逃げられちゃうわよ!!」


 そう呟く二人の視線の先には5人の仲間を殺したことに対し、並々ならぬ殺意を抱くチズと彼女の行動を防ごうとするアミの斬り合う姿があった。


「よくも仲間を!!」

「お前が言えた口か」


 お互いの剣を激しく叩き合いつつも前回と違ってアミの動きはチズとは遜色無く、対等以上に戦えている。


「これ以上罪のない人々を殺させはしない」

「私達の犠牲の上で戦争で儲けてきた連中なんて死んで当然だ」

「兄さんはそんなことを望んでいない!!」

「ロキのことを言うな!!」


 お互いの感情までもがぶつかり合い、激しく言い合いつつも剣を握る力を緩めようとしない二人。

 この二人の間には最早埋まることのできない溝が出来ていることが明らかであった。


「何でロキが殺されたというのにお前は平然としていられるんだ?」

「戦いで死ぬことは私達にとって本望だ。 お前の方こそなぜそれに固執する」

「二度もおめおめと生き延びたお前の言うことか」


 剣を打ち合う度に繰り広げられる会話。 あまりの凄まじさに周囲の人々は全く干渉できない状態であった。


「人狼族同士の戦闘ってここまで激しいとは」

「私達がどうこう出来る次元じゃないわね」


 その光景を見ていたフィリア達の元にニヒルが駆け寄る。

 

「姉さん、ヒロトさんを見てない?」

「一緒じゃなかったの?」

「ついさっきまで一緒だったんだけど僕がアミさんの援護をした途端にいなくなっちゃったんだ」

「まさか!!」


 3人は飛んでくる矢に注意しつつも物陰からのぞき込んでみると先程までこちらに弓を向けていた筈の二人の姿はなく、「雷電」を片手に一人で復讐連隊の面々と斬り合うヒロトの姿があった。


「どけえ!!」


 ヒロトは向かってくる男達の武器を次々とへし折り、峰打ちの要領で彼らの首筋や胴の部分に打ち付けて倒していく。 その姿は日頃から見せる穏和な姿とは一変し、鬼神の如き強さであった。


「ふふふ、相変わらず正義感が強いわね」

「もうやめてください、こんなこと馬鹿げています!!」


 愛用武器であろう槍を片手にサオリは不適な笑みを送っている。 


「優しかったあなたが何故こんな馬鹿げたことを」


 ヒロトの言葉に対し、サオリは一瞬だけ表情を曇らせたのだがすぐに顔を上げると共に口を開く。


「そろそろ替わるね」

「え?」

「私よりも君に会いたがっていた人よ」


 その瞬間、黒一色であったサオリの瞳が金色に変色し、髪の毛の色が青く染まっていく。


「嘘だろ......」


 説明の出来ないサオリの豹変ぶりにヒロトだけでなく遠目で見ていたフィリア達も言葉を濁してしまう。 サオリは体の変化が終わると共に右手に持つ槍の感触を確かめた後、ヒロトの姿を確認すると同時に口を開く。


「会いたかったぜ、親父!!」


 訳の分からぬ言葉と同時に彼女は持っていた槍の先端をヒロトに突き刺そうとするも彼は間一髪でそれを避わす。

 

「サオリさん、何があったんです?」

「うるせえ、今の俺はお袋じゃねえ!!」


 先程までサオリとして振る舞っていた彼女は今やヒロトの命を狙う暗殺者と化しており、彼に容赦のない攻撃を繰り出してきている。 ヒロトに対する一方的な憎しみを持つ彼女の攻撃に彼は戸惑いのあまり防戦一方であった。


「君は誰だ?」


 その言葉に対し、サオリはギリッっと歯を食いしばった後で口を開く。


「俺はお前の娘だ!!」

「え!?」


 予想外の返事に油断したためか、ヒロトの体に槍が突き刺さる。


「ヒロト!!」


 フィリアの言葉も虚しく槍を突き刺せられたヒロトはそのまま地面に膝を着いてしまう。 彼の腹部から真っ赤な血が流れ始めてしまい、灰色のツナギを血に染めていく。

 それはフィリア達にとって一度たりとも目にしたことのない光景であった。


「あはははは、やっとお前を殺すことが出来た」

「かは、お、お前は一体......」


 出血により意識が朦朧とする中、ヒロトは目の前にいるサオリに問いかける。


「あの時、お袋のお腹の中にはあんたの子供が妊娠してたのさ」

「え......」

「その子供ってのが俺さ。 この世界に召喚された影響でお袋の体と胎児の状態であった俺の体は融合しちまって一つの体に二人の意識が入り交じるようになっちまったんだよ」

「そんな......」

「俺はお袋をこんな目に遭わせたお前が嫌いだ、だからこそ元の世界に戻って殺してやりたかったんだよ」

「ううう......」

「トドメは刺さないでおいてやる。 せいぜいその場でもがき苦しむんだな」


 地面に倒れ込むヒロトをよそに彼女は目的の物である「封印石」を強引につかみ取り、それを引き抜いてしまう。

 その瞬間、盛大な警告音と共に室内の照明は赤く染まり、地響きが響き始め壁に亀裂が走る。


「......時間切れのようだな、決着はシティでつけよう」

「何!?」


 アミの言葉を無視し、チズは彼女の傍から離れると二人の間に瓦礫が落ちてしまう。


「もう暴走は始まった、私は一足先に連中が苦しむのを眺めさせてもらうよ」

「チズ!!」

「ぐずぐずしているとお前の大切なパートナーが死んでしまうぞ」

「何だって!!」


 アミがヒロトの方に視線を移すと地面に倒れ込んで瓦礫に埋もれようとしているヒロトの姿があった。


「うおおおおお!!」


 降りしきる瓦礫の中、アミはヒロトの傍に寄って彼の体を背中に担ぐ。

 任務は失敗し、まんまと「封印石」を持ち去られたことにより、「魔物の巣」と呼ばれるこの装置の暴走が始まり、付近の地面から次々と魔物が生まれ始まる。

 

 悲劇は刻一刻とラクロアに迫ろうとしている。

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