第25話 襲撃された街
○シティ内 メルカトール家 邸宅敷地内の中庭
月明かりの灯る深夜、主のいなくなった屋敷の中庭で一筋の光がともされている。 その光は赤や緑といった多彩なものがあり、周囲に硝煙の香りを漂わせており、その光のそばには一人の女性の姿があった。
彼女の姿はヒロトと同じく黒い髪と瞳を持っており、浴衣を身に纏い赤い花輪の下駄を履いており、懐かしさを噛み締めるがごとくその美しい光に見入っている。
「こんな所に呼び出して何の用だ?」
いつのまにか彼女の後ろに立っていた女が問いかける。
花火を持つ女と違って茶色の髪と青い瞳を持つその女の頭部にはアミと同じ犬耳があることから彼女もまた人狼族であることが伺える。
「綺麗でしょ、これ花火って言うのよ」
「早く用件を話してもらえないか?」
人狼族の女の言葉に対し、黒髪の女は花火の光が小さくなると同時に新しい花火に火を灯し、青白い光を出したあと、口を開く。
「今、イーストノウスで流行り始めているこれの出処を調べてもらいたいの」
「お前にしては珍しいな? どういった風の吹き回しだ」
「あなたにロマンチックな話をしても無駄でしょう?」
「......」
黒髪の女は頬に手を置き、光を眺めながら呟く。
「私と同じ存在が現れたみたいなの」
「召喚者か?」
「多分ね、私がこの世界に広めたラクロア紙の特徴を上手く生かしていることを考えると日本人かも」
「お前が以前いたという国の名前だな」
「ええ、すぐに正体を突き止めて私に報告してもらえないかしら」
「いいだろう」
人狼族の女はそう言い残すと闇の中へと消えていき、黒髪の女は一人取り残されてしまう。
「面白くなってきたわね、どんな人かしら......」
黒髪の女はこれからの展開に興味を抱き、一人花火の光を眺めながらほくそ笑むのであった。
○シュミットの工場
「野郎共!!早く入口を塞げ!!」
愛用の鎚を片手に弟子達に激を飛ばすシュミットであったが、状況は悪くなる一方であった。
昨日の夕刻、彼はいつもどおり作業を終えて弟子とその家族達と共に夕食を取るために食堂に集まっていたのだが、突然街に魔物の大群が襲ってきたことにより事態が一変してしまう。
この街には元々魔物の襲撃に備えて4m近い高さの壁で外周を覆っていたのだが、如何せん魔物の数が多すぎたため、門に殺到してきた奴らを完全に防ぎ切ることはかなわず、街への侵入を許してしまったのである。
本来、街の防衛を担っていたはずの守備兵や傭兵達は既に壊滅しており、領主をはじめとした有力者達は既に逃げ出しており、シュミットの下には逃げることの叶わなかった女性や子供、お年寄り、怪我人達が集まっている状況であった。
「どりゃあああ!!」
侵入してきた最期の魔物を倒し、何とかバリケードの再建に成功したのだが、ここもいつまでもつのか不明だ。 この工場の敷地内には彼を頼って数千人近い人々が集っているがその多くは戦闘に参加出来る訳ではなく、実質的な戦力はシュミット達ドワーフ族を含む100人に満たない男達のみとなってしまっている。
「我々が不甲斐ないばかりですまない」
シュミットに謝罪の言葉を述べる守備隊長であったが、彼もまた昨日からの戦いの影響で体のあちこちを負傷しており、包帯を巻いていた腕からは血を滲ませていた。
この二人、日頃は街中で出会っただけで喧嘩するほど仲が悪かったのだが、つい先程生き残った部下と共に魔物に取り囲まれていたところをシュミット達によって救出されたことを機に、今は協力し合って何とか困難を打破しようと模索するようになっている。
当初、この街の防衛には守備隊と傭兵、腕に覚えのある冒険者達を合わせて400人近くの戦力が当たったのだが、千体以上の魔物の威力を前にしては所詮、多勢に無勢であり戦闘が始まってから間もなく門が破壊され、多くの魔物の侵入を許してしまう。
守備隊達は必死に戦ったが、死や疲れを知らぬ魔物達の手によって次々と倒されていき、今や戦えるものはここにいる守備隊長を含めて40人程しかいない。
「避難民の中から戦えそうな者を徴用しては?」
「無理だ、慣れない武器を与えたところで足手まといになるだけだ」
生き残った守備兵の言葉に対し、シュミットは苦言を漏らす。
今や街中が魔物の巣窟となっており、逃げられなかった人々が集まるこの工場はこの街唯一の最期の砦となろうとしている。
産業スパイや爆発事故を考慮して工場の周囲はヒロトの力添えもあって丈夫な3m近い壁で周囲を覆っており、今のところこの出入り口以外で破られてはいないが、街の周囲に散らばっている魔物達が一斉に集まれば時間の問題であろう。
「あんた、少しは休んだらどうだい? 昨日から全然眠ってないんだろ?」
いつのまにか傍にいたシュミット婦人がシュミットの体を案じて声をかけるも彼は黙って首を横に振る。 予断を許せない現在の状況で実質的な指揮官である彼が眠りにつく訳にはいかなかったのである。
「せめてヒロト殿がおれば......」
シュミットは魔物達が襲撃してくるのと入れ違いにリコルド村の調査に出かけてしまったヒロトの身を案じ、空を見上げてしまう。 今の自分に残された手立てはヒロトの帰還を願うことしかない事実に彼は虚しさを覚えてしまうのだが、援軍の望めない現在の状況では仕方のない状況であった。
「うわあ!?」
「破られたぞ!!」
シュミットの願いも虚しく再びバリケードが破られ、魔物達が侵入し始める。 男達は何とか押し止めようと各々の武器で戦うも一人、また一人と倒されていき、シュミット達に雪崩込もうとしていく。
「く、もう駄目か、おい! 早く子供達を連れて裏口から脱出するんだ!!」
「あんた!!」
「守備隊長、女房を頼む」
「おい!?」
シュミットは一人、愛用の鎚を片手に魔物達に立ち向かおうとする。 仲間達のため、彼は自らの命を賭けて一秒でも長く時間を稼ぐことを決意しており、その背中には一片の迷いも見られなかった。
「ここで漢を上げる最後も悪くないな」
鎚を握り締め、迫り来る魔物達に一人対峙する中、シュミットの脳裏には様々な思い出が頭を巡り始める。
鍛冶師であった父親の下で修行してきた少年期。
なかなか愛の言葉を伝えられず、結局告白まで3年も掛かってしまった妻との恋愛。
40年前、集落を訪ねてきたパシオンの漢気に惚れ込み、妻を一人残して旅立った青年期。
自分の工場を持ち、多くの弟子達と共に物作りに汗を流した日々、そのどれもが今や輝かしい思い出となっていた。
「女房のためにも最期の花を咲かせるとするか」
正にこの物語において死亡フラグを立ててしまったシュミットであったが、そのフラグを叩き折れる唯一の存在の乱入によって現実に戻されてしまう。
「どけどけどけどけえ!!」
シュミットの目の前には魔物達をひき殺しつつバリケードの残骸を突破するトラックの姿があり、工場の敷地に入った途端に車体の上部に立っていたアミが飛び上がる。
「やあ!!」
彼女は空中で一回転すると同時に腰にぶら下げていた2本の剣を抜き出し、魔物の群れの中に着地する。 その瞬間、鮮血と共に付近にいた複数のオークの首が落とされてしまう。
「楽しませてくれそうだ」
舌先で口元を舐め、笑顔で魔物達を切り刻むアミの姿を見てシュミットは驚きのあまり空いた口がふさがらなかった。
彼女は大海の割れるがごとく侵入してきた魔物の群れの中を斬り刻みながら進んでいき、その姿に恐れをなしたのか逃げ出し始めるゴブリンやコボルトの姿も見受けられる。
それこそかつて敵味方双方から恐れられた「鮮血の乙女」と呼ばれるアミの真の姿であった。
「はあ!!」
運転席から降りたヒロトがドライバーを地面に突き刺すと破壊されたバリケード付近の地面が盛り上がり、巨大な土壁が出現して出入口を塞ぐことに成功する。
「ヒロト殿!!」
突然現れたヒロトの姿を見てシュミットは思わず笑みをこぼしてしまう。
彼はシュミットの姿を確認すると笑顔で口を開く。
「急いできたから喉がカラカラだよ」
「エールでしたらすぐにお持ちできますぞ」
その言葉と同時に思わず笑い合ってしまう二人であったが、魔物を殲滅したばかりのアミも近づいて口を挟む。
「私にはミルクをくれ!!」
「アミちゃん!!」
全身に魔物の血を浴びているにもかかわらず、シュミット婦人はアミの姿を見て思わず抱きついてしまう。
「うちの旦那を助けてくれて有難う!!」
「奥様.....」
アミの記憶が戻って以降も婦人とアミの関係は変わらず、実の親子のように仲が良い。
婦人は間一髪で夫であるシュミットの命を救ってくれたアミに対する感謝の気持ちで胸が一杯であった。
「感動の再会はあとにしてすぐに作戦会議を開くべきだな」
ヒロトの提案で一同は彼の研究室で今後の方針を相談することになる。
○ヒロトの研究室
「事態は最悪の展開みたいだな」
「既に領主をはじめとした有力者達は腕に覚えのある者を護衛に引き抜いて街を逃げ出してしまいました」
「現在戦える人員は儂の手勢が45名、守備隊の生き残りが32名、傭兵が13名、冒険者が7名の97名しかおりません」
「それに俺とアミ、ジョーンズを入れてたった100人か」
工場の周囲には未だに千体近い魔物がおり、ヒロトの力でバリケードは強化されたものの、未だに余談を許せぬ状況に変わりはない。
「人員以前に最大の問題は食料だよ。 ここには普段300人近い工員が生活してるけど今ここには3000人近くの避難民がいるためにどんなに節約しても三日が限度よ」
「三日以内に援軍が来る可能性は?」
シュミット婦人の言葉を受けて俺はジョーンズの方に視線を移すが、彼は首を横に振るだけであった。
「付近の街はせいぜい逃げ出すか良くて街の防衛に力を入れるだけだろうな」
「せめて領主達の護衛として引き抜かれた守備隊がいればもう少しマシだったな」
「申し訳ない」
アミの言葉に守備隊長は苦虫をすりつぶしたような表情をして答える。
本来、この街には二つの守備隊があったのだが、もう一つの守備隊は領主の護衛に引っ張られてしまい、半分以下の戦力で彼等は立ち向かう羽目になったのだ。 日頃からシュミット達ドワーフ族を馬鹿にしていたこともあって俺はあこの人のことが好きになれなかったのだが、彼が率いる守備隊の命懸けの働きによってこれだけの生存者を確保できたのも事実だ。
「守備隊長は出来ることを精一杯やってくれたんだ、彼を責めるべきでない」
俺の言葉に対し向かいに立つシュミットは黙って頷く。 共に街を守ってきたこの二人の間にはもう、敵対し合うことは無いであろう。
「原因は分からないけどこのまま立てこもるのは得策では無いわ。 でも上手く奴らを街から追い出したところでリコルド村のように別の集落を襲う可能性があるしね」
エルシャの言葉を受け、俺達の間に重たい空気が立ち込め始める。
確かにそうだ、例え逃げおおせたところで奴らは他の獲物を目当てにして移動するだけだろう。
リコルド村で起きた悲劇をみすみす他所の村で再現するような事態にしてはならない。
「ここで奴らを殲滅しよう」
「ヒロトさん!?」
俺の言葉に対し、隣にいたニヒルは驚いてしまうがアミは無言で俺の前に近づき、口を開く。
「勝算はあるのか?」
「なるようになるさ」
俺は殺された村長達のためにもここで魔物を殲滅を決意するのであった。
その日の夜......
「まだ起きてたのか?」
「こいつが心配でな」
俺の傍らにはエルシャの魔法の効果で未だに深い眠りにつくフィリアの姿があった。
今回の作戦のために俺はエルシャに頼んで再び昨日と同じ魔法をかけてもらい、わざと意識が戻らない状態にしている。
「このまま黙らせておいて良いのか?」
「彼女をこれ以上悲しませたくないんでね」
アミの言葉に対し、俺は寝息を立てているフィリアの髪を撫でつつそう答える。
正直言って正面から10倍以上の戦力差を相手取るなど誰が見てもまず不可能だ。 しかし、このまま立て篭ったところで食糧不足で餓死するのは目に見えている。 今のところ避難民達は静かにしてくれているが明日になれば間違いなく不満を口にしはじめるだろうし、強引に脱出するべきだと喚く奴らも出てくるだろう。
一応、その対策としてシュミットに一通りの作業を指示してあるものの、作戦本番の三日後までに工場が無事でいられる保証はない。 それ故にこの壁の周囲から魔物達の注意を逸らしつつ、街の中に引き止めておく必要がある。 しかし、そのことをフィリアに話したら彼女は間違いなく反対するに違いない。
「巻き添えにしてすまない」
「何を言ってるんだ、私は好きでお前について行ってるだけだぞ」
アミの記憶が戻って以降、俺は彼女に対して自由に生きることを選択させようとしたのだが、何を思ったのか彼女は俺達と行動を共にすることを選択している。
理由としては未だに行方不明となっている仲間の消息を探したいとのことだが、普段は冷徹で粗暴に見える印象のある反面、誰よりも繊細な心を持ちつつ細かな気遣いのある姉御肌を見せている。
「健気なワンちゃんね」
「な!? ふ、ふざけるな!! わ、私はお前のその、無鉄砲なところが心配になっただけだ」
突然背後からエルシャになじられ、アミは顔を赤くする。 戦闘服姿のアミと違い、彼女の今の服装は白一色の上着を着ており、医師としての本領を発揮して負傷者の治療にあたっている。
「悪いけどまたフィリアのことを頼む」
「世話のやける坊やね」
俺の言葉に対し、エルシャは満面の意味で答えてくれる。 これから死地に向かおうとしている俺にとって彼女のその笑顔は女神の微笑みにも見える。 かつて患者の選別行為をしてきたことから「死の女神」とあだ名されていたが、今回は俺の意図を真っ先に汲んで協力してくれたことに今は感謝の気持ちで一杯だ。
「生きて帰ってきて下さい、さもないと姉さんに怒られちゃうんで」
ニヒルの言葉に対し、俺は「分かった」と答える。
こいつも何だかんだ姉の身勝手に振り回されつつ、今日まで彼女の幸せのために俺との間を取り持ってくれていた。 始めの頃はお坊ちゃんのような印象を感じたが、こいつはもう今や立派なチームの一員だ。
「よし、行くとするか」
俺は並々ならぬ想いを隠し、フィリアのために戦いの地へと向かうことにする。
◇◆◇◆◇
カン、ゴト......
工場を囲む壁の周りを彷徨く魔物達の周囲に幾つかの塊が投げ込まれ、奴らの視線を集める。 その瞬間、眩い光とともに塊が爆発して近くにいた魔物達は吹き飛ばされてしまう。
「今だ!!」
爆発を合図に壁の頂上から3人の男女が飛び降りる。
「エルシャ、あとのことは頼む」
「気をつけてね」
ヒロトは壁の上にいるエルシャにそう言い残すとアミとジョーンズと共に市街地へと走り始める。
「思ってたよりも見つからないね」
「ここにいる魔物共は人間の匂いを嗅いで行動する習性があるからな」
オークやゴブリンといったこの街にひしめく魔物共は人間と同じ武器や鎧を身につける反面、知能は低く匂いで相手の存在を確認する風習があり、それ故に視力は低くて犬と大差無い状態らしい。
だからこそ奴らの武装は視力を必要とする弓が無く、剣や棍棒を武器にするのだが、余りにも力が強いために並みの人間の腕力では太刀打ちできないのである。
知能の低い奴らは地面を掘る、梯子を使ってよじ登るといった工夫が出来ず、単純に壁よりも強度の低い門を己の力で強引に破壊することで街に侵入してきた訳だ。
今回、俺達は第1目標として歩道脇にある側溝の中を身をかがめつつ匍匐前進をしながら破壊された門を目指している。 時折、俺の耳元に魔物の足音が耳に入るが生活排水の流れるヘドロの中に身を屈めていたこともあってか今のところ発見されていない。
「ここだ」
先頭を行くジョーンズの案内で俺達は門のそばにある門番の詰所にたどり着くことに成功する。
「ここからなら十分だ」
俺はそう答えるとヘドロにまみれた体をよじらせ、ドライバーを地面に突き刺し、巨大な土壁を出現させて出入口を完全に塞いでしまう。
成功だ、これで奴らはこの街から出ていくことは出来ないはずだ。 だがその反面、俺達の退路も無くなったことも意味することになるがな。
「相変わらずお前の力は凄いな」
城壁と変わらないような強度を持つ土壁を出現させた俺に対し、ジョーンズは賞賛の言葉を送る。 しかし、俺の視線の先には突然壁が出現したことに気づき、わらわらと集まってくる魔物達の姿がある。
「やれやれ、上手くいかないもんだな」
愛用のムチを器用に使い、次々と近付いてくる魔物を斬り刻んでいくジョーンズ。 彼のムチには鋸のような刃が埋め込まれており、風の特性の使い手である彼の魔法の力によって鋭利な斬れ味を発揮している。 それはかつて冒険者時代に出会った腕利きの職人によって作られたらしく、貴重な魔法石をふんだんに使用した贅沢な代物らしい。
「はあ!!」
俺は周りの地面をぬかるませ、魔物達の足止めをしている。 正直言ってこの方が一体一体相手をするよりも魔力の負担が少ない。 何せポ○モンの如くあちこちからひょっこり出てくるんだしな。
「遅い!!」
走りながら体を捻りつつも次から次へと迫り来る魔物の首を落とし、退路を確保しようとするアミ。 正直言って俺達だけで魔物共を殲滅できそうな気もするが疲れを知らぬ奴らと違い、俺達には疲れや疲労といった言葉があるためいつまでもこうして戦い続けることなんて出来ない。
「こっちだ!!」
アミの案内に従い、俺達は一件の民家の中に入る。 食堂を営んでいたと思えるこの家は魔物に襲撃されたためか室内は荒らされており、主人であろう男とその妻らしき女性が厨房の中で倒れている光景があった。
「可哀想に」
「そんなことよりここには食料がある筈だ。 今のうちに何か腹に入れて休んでおけ」
先程まで死闘を演じていたにも関わらず、アミは厨房に吊るされていたソーセージらしき束を手に取り、そのまま牙を立てて噛みちぎる。 ジョーンズに至ってはいつの間にか手に入れていたパンを片手に外の見張りをしている。
二人共俺以上に数々の修羅場を経験していたためか動揺は見られず、こんな状況でありながらも俺と違って優先事項をはっきりさせている。 二人を見習って俺も何か口に入れるべきだと思い、テーブルの上にあった柑橘系の果物に手を伸ばそうとした瞬間、床下から奇妙な物音を聞いてしまう。
「まさか!?」
咄嗟に床に倒れている男の体を動かすと目の前に貯蔵庫であろう小さな扉を見つけてしまう。 俺は意を決してその扉を開けると中には震えている幼い妹をかばいながらも俺に視線を向ける男の子の姿があった。 そう、厨房で倒れていた夫婦は幼い子供達を守るためにわざと床の上に倒れていたのである。
「なんてこった......」
このまま陽動作戦を展開するつもりの俺達であったが、事態は思わぬ方向へと進むことになる。