第9話 迫り来る影
第8話を投稿した後の反響に驚いております(第7話の3倍近いアクセス数)。
私自身、原因はエルシャの乳なのかフィリアたちの猫耳ダンスなのかよく分かりません。
詳しく説明できる方募集中です。 (作者)
○自由都市国家 首都 シティ 南東門
この街には4つの門があり、それぞれがこの国の周辺を囲む4大国の首都に続く道である「ギルドロード」へと繋がっている。 4大国とは中央大陸の真ん中に位置する自由都市国家「ラクロア」の周囲に存在し、時計回りの順で説明すると北東には森林地帯の広がる「イーストノウス」、南東には大陸最大の港のある「イーストサウス」、南西には広大な農業地帯である「ウェストサウス」、北西には豊富な鉱山資源のある山岳地帯「ウェストノウス」と国が並び、それぞれがラクロアと国境を隣接している。 この特殊な国家関係のルーツは500年前の人類初の統一国家誕生にまで遡り、初代皇帝が4人の息子達にそれぞれの地を領主として治めさせたことに始まる。
因みにこの息子達は現在の4大国の国家元首である国王達の祖先でもある。
春真っ盛りの晴れた朝を迎えたこの日、海洋国家と知られるイーストサウスに行くための手段として利用されるこの門の前に一人の女が立っていた。
「2年ぶりだな......」
黒一色のフードに身を包んだ女は門番の所で簡単な手続きを済ませると中へと入る。 街の大通りには各国からやって来た多くの商人達の荷馬車が行き交わし、交差点では自警隊員が号笛と誘導棒を使って誘導しており、作られたばかりの歩道には多種多様な人々の姿があった。
「スラムも無くなってたし、以前と比べて豊かになったな」
かつてと違い、賑やかさを増している街の姿を見て彼女の表情から思わず笑みが零れ落ちる。
彼女は2年前の一件以降、中央大陸の南東に位置するイーストサウスで過ごしていたのだが、今回は職場の上司から直接託された任務の為にこうして戻って来たのである。
「やはり始めのうちはあそこで情報収集するべきだな」
彼女はそう呟くと東地区に向かって歩いて行く。
○東地区 酒場 バッカス
カランコロン......
「いらっしゃい」
フードの女が店に入ると同時にカウンターにいた親父が声をかける。 彼女はフードを被ったまま、カウンターに座ると「久しぶりだな」と声をかける。
「お?」
親父が険しい顔をすると彼女は頭に被っていたフードを取り、顔を露にする。 その顔を見て、親父は驚きつつも声を潜めて話し始める。
「お前さんがこの街に来たってことは何かあるんだな?」
「ああ、仕事でちょっとな」
「そうか、一体何がお望みなんだ?」
親父の言葉に彼女はフードを再び羽織ると同時に「その前にいつものをもらえるか?」と呟く。 その言葉に彼は「ああ、あんたがいつでも来て良いように用意してあるぜ」と言い、カウンターの下にある棚から一本のビンを取り出す。
「フフ、これだよ」
「店でこいつを頼むのはあんた位だからな」
女はグラスにそれを注ぐと満面の笑みで一気に飲み干す。
「プハア、今日はいつもより暑かったから冷えたこいつは格別に美味いな」
「もう一杯どうだ?」
「ああ、頂こう」
男の薦めに従って彼女はさらにグラスを進める。
「良い街になっただろ?」
「ああ、以前と違って人と異なる種族も増えているな」
「会長の采配の結果だよ、この街では基本的に人種差別は禁止してるしな」
「頑張ってるみたいだな、安心したよ」
女は親父とそんな会話を繰り広げた後、本題の話に移る。
彼女の任務は後に大きな騒ぎに繋がることなるのだが、それは彼女にとって不本意なことであった。
○シティ 中央広場
今日は週末の安息日であり、多くの労働者やギルドの職員が仕事を休んで家族や友人、恋人達と共に広場で開かれている「織物市」に足を運んでおり、リリアも二アに誘われる形でそこでショッピングを楽しんでいた。
「ねえねえ、これなんかリリアちゃんにピッタリじゃない?」
「え~そうですか?」
今日のリリアは普段着ている灰色のツナギと違い、脛までの長さの花柄模様の入ったショートドレスを着ており、厚手の布でスラッシュの付いたダック・ビル・シューズと呼ばれる靴を履いていた。
「この猫柄が可愛いよ」
「猫大好きですね」
「だって猫だもん」
普段のエプロンドレスと違い、今日の二アは最近街で流行のTシャツと向こう脛が見える位の長さのショートスカートを着ており、猫耳を隠すためにサンハットを被っていた。
「リリアにはこれが似合ってるわよ」
フィリアが持ってきたのは今、彼女が着ているのと同じ物で可愛いボタンと袖口などにレースのフリルが付いており、赤と黒のストライプが入ったシャツであった。 ヒロトの世界ではその服をゴスロリと言う。
「そ、それはちょっと......」
「何? 私のプロデュースしたこのファッションはダメなの?」
フィリアと同じゴスロリファッションを着る勇気はリリアには無かった。 因みに近年はフィリアの影響でこの街のファッションは大きく様変わりし始め、ヴィクトリア朝のロングスカートやコルセットなどが主軸であった女性のファッションも、着やすいTシャツや膝下までの長さのスカート、娼婦達の間でしか使われていなかったタイツやガーターが使われるようになり、徐々にではあるが日本の原宿に近いファッションが広まりつつある。 尚、男性に関してそれまでは派手な色合いの上着や羽飾り、ロングブーツが主軸であったが、近年はヒロトが社交界で着用している肉体と衣服がピッタリフィットしたラウンジスーツと、外出時に上から羽織る物としてダンディズムをアピールしたフロックコート(シャーロックホームズの時代の服装)が流行の兆しを見せている。
「街のファッションリーダーを自負するあなたがそんな態度を取っちゃダメでしょ」
フィリアを宥めるように後ろからエルシャが近付く。 今日の彼女は薄汚れたシャツと脚の形に合ったズボン姿と違い、麦藁帽子を被り、ヒロトを誘惑したときと同じ襟を開けて袖は無く、肩を見せている木綿製の碧のワンピースでスカートの丈は膝下までしかなく、まぶしい素肌を見せる足には白いサンダルを履いていた。 コルセットの代わりに胸の下には絹のリボンを巻き、前側で蝶々結びで留めてあったのだが、彼女が移動するたびに豊満な胸が服越しにタユンタユンと揺れ、彼女の美貌も手伝って周囲の男性達の注目を浴びている。
「ほう、それで勝ったつもりなの?」
「え?」
豊満なバストを見せ付けるエルシャを見たためかフィリアの後ろから黒いオーラが出始める。
「あなたがエルフだなんて時々信じられなくなるわ」
「いや~昔はもうちょっと清楚だったんだけどね」
「実は淫魔だったんじゃないの?」
「そうは言われてもねえ、この胸だって前までこんなに大きくなかったし」
「......」
「肩がこるから困ってるのよねえ」
「......」
冷たい空気が流れる中、エルシャは左手を胸に置き、もう片方の手を頬に当てて顔を紅く染めつつも「まあ、彼が大好きだから良いんだけど」と呟く。
ピキ!
エルシャのその言葉にとうとうフィリアの理性が吹っ切れてしまう
「この牛女があああ!!」
目をグルグル回しエルシャに掴みかかるフィリア。 こうなってしまってはニヒル以外、誰にも止められない。 しかも、頼みの綱のニヒルはこの時に限ってヒロトと再開発計画の打ち合わせに行っていたのでここにはいない。
「止めて! この幼児体型!!」
「何を!! まだお仕置きが足りないみたいね!!」
「鞭は止めて!! あ、ちょっとだけならいいかも」
「このアバズレがあ!!」
小柄な体格ながら長身のエルシャに背後から掴みかかり、腕を回して首を絞めるフィリア。 二人は周りの人が見ているのをお構い無しに地面の上でのた打ち回り、時折エルシャの口から「ギ、ギブ、ギブ......」と声が漏れるもお仕置きが止む気配は無かった。
そんな光景を見たリリアと二アは「他人のふり、他人のふり」と呟きながらその場を離れることにする。
「あの一件以降、二人共ケンカが多くなったね」
「元々同じチームだったのに何で今まで気付かなかったんでしょう?」
「何かエルシャさんとはこの街に来てから関係を持ってしまったみたい」
「そうですか......」
ヒロトの醜態ぶりに彼の弟子であるリリアは思わず「はあ~」と溜息をついてしまう。 あの一件以降、エルシャを追い出すことはしなかったもののヒロトに対するフィリアの監視の目が鋭くなったため、毎朝落ち着かない朝食を取る羽目になっている。
「何かニヒルさんの仕事の負担が大きくなったので申し訳ない気がします」
「リリアちゃんが気にすることじゃないわよ」
「でも......」
実際問題、師匠の失態を弟子が尻拭いする必要なんて無いのだが。 リリア自身責任感が強い性格だったので二アに申し訳ない気持ちを持っているのだ。
「どの道、彼が会長になれば忙しくなるんだしね。 今の内に慣れておかないと。」
「二アさん......」
恋人を想う一途な気持ちにリリアは憧れを抱いてしまう。 幼い頃からこの街で兄弟同然に過ごしてきた二人にとって多少のハプニングなど問題ではなかったのだ。 それに比べ、一人の男を巡って人目気にせず醜くい争いをするフィリアとエルシャはなんと浅ましいことか。
「もう同棲して大分経つし、彼のためにも私がしっかりしないとね」
実はヒロトに限らず二ヒルもまた、恋人である二アと既に同棲生活をしていたのである。
二アの働く酒場の近くのアパートの一角を借りており、同棲を始めてから既に1年余りが経過している。
「彼が頑張ってるってことは結果的に私達の結婚が早くなると思ってるよ」
「そうですね、私も応援します!!」
「ありがとう」
リリアの応援を受け、彼女は胸のペンダントを握り締める。 それはニヒルと同棲を始めた頃にお揃いで買った物であり、中にはお互いの肖像画が入っている。 今の彼女は酒場の看板娘ではなく、愛しい人を思う一途な少女であった。
「ねえ、そこの通りに美味しいケーキを出す喫茶店がオープンしたらしいから行ってみない?」
「はい!!」
二アに誘われ、リリアは笑顔で答えると同時に仲良く手をつないで喫茶店へと向かう。 その後ろでは自警隊に連行されつつも「フー、フー」と鼻息を荒げてお互いの髪を引っ張り合うフィリアとエルシャの姿があった。
◇◆◇◆◇
ブルルル
「何だか寒気が......」
「風邪ですか?」
なぜか寒気を感じたヒロト。 彼は今、ニヒルと交流の深い貴族や豪商の御曹司達を相手に再開発予定地についての説明を行っている。
「ここが商品の保管場所にするための場所です」
彼が案内したのは都市の外壁の外側であり、かつてはスラムでひしめき合っていたために荒地となっていた光景を見て御曹司達は眉をひそめている。
「こんな所に大切な商品を置かせるつもりかね?」
豪商の御曹司がそう尋ねるとヒロトは「その通りです」と答える。
「何を考えてるのだ!?」
「商品が奪われてしまうではないか!!」
御曹司達が声を上げる中、ヒロトは悪気も無く言葉を続ける。
「計画では南西門から南東門の間の外壁の外側を凸型に突き出す形で新しく外壁を作ります。 その後、旧外壁を取り壊してその資材を他の場所の外壁の材料にすることで建設コストを安く抑え、魔物に脅かされること無く安全に街を拡大できます」
「ふむ、その方法なら安いコストで魔物に脅かされること無く安全に拡大できるな」
建設業に造詣の深い商人の御曹司が同意する。 この世界において魔物の襲撃は台風や地震以上に大きな問題となっている。 突発的に何百もの集団で都市を襲ってくることもあるため、この世界の都市と名のつくものは総じて高い城壁を必要とするのだが、その反面で街の発展を阻害する問題が発生している。
豊かな都市は急激に人口を増やしていくのだが、限られた土地であるため必然的に奴隷や貧困層といった社会的な弱者が壁の外に追いやられ、スラムを作り出してしまうのだ。
そこは満足な水源や下水処理システムも無い環境のため、疫病が蔓延しやすく魔物の襲撃に怯える状況であったため、必然的に治安の悪化も招いてしまっている。
「ご存知の通り、かつてこの街の周囲にあったスラムは公共投資や自警隊(自衛警備隊の略称)などの影響で今や綺麗に取り払われ、住民は全て街の中に住むかギルドロードにある信号塔施設などに住んでおります」
「確かに、現会長とヒロト殿の手腕によって長年この街の問題となっていたスラムがなくなったことには父も驚いていました」
「我が領地も参考にしてみたい」
ヒロトの言葉に貴族の子弟達は頷いている。 彼らの領地においても疫病や犯罪者を輩出しやすいこのスラムの問題は深刻になっていたからだ。
「ここで問題となるのが水源や下水処理施設の件になります。 私共が住むこの街はかつて統一王朝時代に作られた遺物を利用したもので、外壁のほかにも優れた上下水道施設を完備した都市であることは皆さんもご存知だと思われます」
ヒロトは傍にいた職員に指示をし、一つの図面を広げて御曹司達に見せる。 それは先日、エルシャがフィリアに取引と称して渡された図面のコピーであり、この街の上下水道のラインが細かく記されていた。
「この図面から分かるとおり、従来までは街の中に限られていたものと考えられていた上下水道が壁の外にまで広がっていたことが明らかになりました。 これは恐らく統一王朝時代において街の拡大計画があったために作られたと思われます。 現にそこの工事孔を見て分かるとおり、この図面に間違いが無いことは既に確認されております」
御曹司達はヒロトの指差す工事孔に集まり、中を覗き込むと目の前に、石造りの用水路が流れている光景を見つけてしまう。
「これを利用することにより建設にかかる費用は大幅に節約することが出来ます。 また、お手元にある資料を見て分かるとおり、この国の資源を利用したコンクリートの使用によって今後、更なる費用の削減に繋がる予定なので当初の試算より安くすることが可能となりました」
その言葉に御曹司達の中から「確かに」「これは実に興味深い」「我が領土でも試してみたい」と興味深い声が聞こえてくる。 ヒロトが「黒の魔術師」と呼ばれる由縁はこのように、今までこの世界に存在していなかった技術を広めているところにある。 若く、将来に対する夢のある御曹司達にとって彼の技術はとても魅力的に感じてしまう。
「それでは皆さん、今日はもう予定が詰まっておりますので馬車へお戻り下さい」
ニヒルの案内によって御曹司達は名残惜しそうに引き返していく。
「予想以上の反応ですね」
「ああ、計画通りだ」
ヒロトとニヒルは御曹司達が二人の計画した策に上手く掛かったことに安堵の声を漏らす。
「父親に対するコンプレックスがある分、新しい技術に対する探究心が高いな」
「彼らが熱心に話を進めてくれれば父親達も反対できないでしょうね」
「何せコンクリート技術はまだ試作段階で実用化に至って無いからな」
「新しい技術に対する風当たりは強いですからね」
二人の目的は御曹司達に再開発計画の有用性を知ってもらい、実家から多額の援助を引き出してもらうことである。 この計画は統一王朝時代に100年もの時をかけて作り上げた事業をたった10年で成し遂げようとする壮大なものであり、そのためには短期間で多額の費用を集める必要がある。
「親方の話だとある程度使えそうなサンプルが出来たみたいだから安心して話を進めてくれ」
ここで話題となっているコンクリートとはかつてローマ時代の建築物に使われていた物のことを指す。 これは運河の拡大工事で掘り起こされた砂を細骨材とし、古い建物などを解体したときに出る煉瓦や石材を細かく崩した物を粗骨材として(この二つを合わせて骨材と言う)、石灰石を焼成して得た生石灰を水和させた消石灰を主原料とするセメントと水を合わせた物(ペーストと言う)を掛け合わせた代物で、更にこの付近の地層から取れる火山灰を利用したポッツォラーナと呼ばれる混和材(高耐久性や水中施行等急硬性が求められる場合に使用される)を使用することによって高い強度を得ることが出来、ローマのコロッセウムなど優れた建築物に欠かせない代物である。
ローマの建築物を見て分かるとおり、現在のコンクリートと違って寿命が長いことで知られ、二千年以上のときを経て機能している優れものであり、費用対効果も高いことから再開発計画の目玉材料として使用する予定である。
「研究が進めば、今まで問題となっていた金属の精錬作業の折に不純物として捨てられていたスラグ(鉱滓とも言い、金属を溶かした時に表面に浮かび上がる黒っぽいもの。 金屎とも言う)や石炭を燃焼した後に出る灰、ゴミの焼却灰などをセメントの材料にも出来るから将来的には更なるコスト削減が実現出来る筈だ」
「今まで街を悩ませていたゴミ問題まで解決できるなんて素晴らしいですね」
「俺の世界でコンクリートは水の次に利用されている建築材料だからな。 優れたリサイクル性と耐久性、ブロック状にすれば石材の代わりにもなる。 現に石材資源の少ないニホンでは要塞建設などにも重宝されていたしな」
「なるほど、戦闘で壊されることがあってもわざわざ遠くから石材を運ぶ必要が無く、すぐに補修できるから軍事的にも有効ですね」
「フフフ、そういうことだよ」
計画の先行きの明るさを実感しつつ二人は別々の馬車に乗り、移動している間に同席している御曹司達からの質問を受ける。 移動中の彼らの口から出たのは「この技術を是非とも我が国に教えて欲しい」「家に帰ったら父に計画の参加を勧めます」「部下をこの街に留学させて技術を学ばせて欲しい」など好感を持つ言葉ばかりであり、時間が経つのも忘れて(ワザと遠回りして時間が掛かるようにしてる)懇親を深めることが出来、後に新たなスポンサーの獲得に繋がることになる。
夕刻......
「美味しかったね~」
「はい」
喫茶店でのスイーツタイムを済ませ、リリアと二アはホクホク顔で市街地を歩いている。
「ねえ、家に寄ってかない? 夕飯も用意するし」
「良いんですか?」
リリアの言葉に二アは「いいの、いいの。 彼も今日はヒロトさんと遅くなるって言ってたし」と答える。 ヒロトとニヒルは御曹司達に現場説明を終えた後、街の中のレストランで接待をする予定なのだ。
「何が良い?」
「えと......シチューって出来ます?」
「良いよ、一緒に作ろっか!」
「はい!!」
仲良く手をつないで二アの家に向かう二人であったが、後ろから二人を追う人影があった。
「間違いない、あの娘だ」
フードを被った女はそう呟くと二人に気付かれないように後を追い始める。 しばらくして、二人が人通りの無い路地に入った瞬間に女は行動に移すことにする。
ゴス!
「!!」
後ろから何者かにわき腹を突かれ、二アは声も出せずにその場でうずくまってしまう。
「に、二アさん!?」
驚くリリアであったが突然目の前に来た女によって口を塞がれてしまう。
「大丈夫、殺してないわ」
女はそう言うと二アの口を塞いだまま彼女を抱き上げて走り出す。
「フ、フン!」
必死で抵抗するリリアであったが次の言葉で我に返る。
「久しぶりね」
「あ、あなたは」
「3年ぶりだけど覚えてくれてたのね」
その女はリリアにとってかけがえの無い人物であった。
「生きてたの...」
「あなたを見捨てるもんですか」
かつて奴隷商人に売られるまで孤児院で一緒に育った人間との再会にリリアの目から思わず涙が零れ落ちる。
しかし......
「少女を誘拐するとは良い度胸だな」
「!!」
二人の目の前にもう一人のフードを被った女が現われる。
「通してもらえないか? 出来るだけ関係の無い人間を巻き込みたくない」
「誘拐を見過ごせと言うのか? 私の正義に反する行為だな」
女は二人の前を遮るかのごとく正対する。
「どいてもらえないなら仕方が無い」
「やめて!!」
リリアが制止するのも構わず、彼女の傍にいた女は腰から一本の片手剣を抜き出す。 それは、薄い刃厚で片側にのみ刃のある直刀であった。
「ほう、変わった剣だな」
「斬られたくなければどけ!!」
「いやだね」
その瞬間、鋭い切っ先が行く手を遮る女が立っていた場所を掠める。
「!?」
確実に仕留めた筈の攻撃が当たらなかったことに女は一瞬、驚いてしまう。
「いい太刀筋だ、だがな......」
「な!?」
ガ!!
突然腕を蹴られ、女は痛みによって剣を手放しカランカランと地面に落としてしまう。
「バ、バカな!!」
「良い腕を持ってるがまだ幼いな」
「く!?」
余りの実力の差に女はリリアを庇う様に後ろに下がる。 その光景を見て不思議に思ったのか行く手を遮る女は更に口を開く。
「おや、どうやら訳があるようだな」
「お前に話す筋合いは無い!!」
「待って、お願いします、話を聞いてください!!」
二人の間に割って入るかのごとくリリアが間に入る。
「どうやら知り合いだったらしいな」
「はい、彼女は私の姉なんです」
「ほう、じゃあこの周りにいる連中は知らない人かな?」
「え!?」
その言葉を合図に物陰などから人が現われる。 皆、一般市民の服装をしており老若男女問わず、手には剣や投げナイフなどの武器を持っていた。
「これは!?」
「どうやらお前の行方を追ってこの街に紛れ込んだ連中みたいだな。 感じからしてどこかの国の暗部みたいだ」
「く、奴等か」
「なんだ、知り合いだったのか」
3人の周りをジワジワ詰めていく暗部の者達、女は先程落とした剣を拾い、行く手を塞いでいた女は腰から2本のショートソードを抜き出す。
「いけるか?」
「ああ、この程度一人でも問題ない」
「その娘をちゃんと守れよ」
その言葉を合図に戦いの火蓋が切って落とされるのであった。
戦闘シーンに関してはこれから色々と一工夫する予定です。
まあ、普通に刀で斬り合うってのは実はあまり現実的でないです。 鉄砲の無い時代の戦死原因の第一位は弓矢だと言われており、長い戦争においては戦死よりも病死や餓死のほうが多いという記録もあります。
暴○ん坊将軍みたいな場面は普通の刀では非現実的なので、私としては現在の技術を生かしつつ、魔法の特性を合わせた方法で実現できるようにしていく所存です。