04.story『地獄からの来客』
どうも皆様、ブラストでございますm(_ _)m
今回はメモリールーツ第4話を公開いたします。
今回の話は前回登場したガイとグレイ、彼ら二人の実力を解禁!対するはリュウとセナ、どうか今回も一目見ていただければ幸いです。
『いつまで寝てるつもり?さっさと起きて』
「……う、うぅ……」
透き通るような高い声、それに呻き声を上げながらうっすらと目を開けて声の主を確認すると、目の前には女性の様な人物、セナの姿が……。
「え、え~っと……あんたは?」
「声聞いて分からない?これだよ、これ」
胸に下げている青いネックレスを手に持ち、それをリュウに見せつけるとその人物が先程戦ったブレイドの正体である事をようやく理解する。
「お前さっきの!」
「そっ、君と同じ鎧羅」
「へぇ~……ブレイドの正体ってお前だったんだ」
「さっきからじろじろと見てどうしたの?」
「いや、お前ってさ……女だった────」
ドスッ!そこまで言いかけた瞬間に響く鈍い音、その音と共にリュウの顔面に一発拳が入り、痛みによる絶叫が響く。
「見て分かれ、俺は男だ」
「ッてぇ!!!テメェッ!いきなりぶん殴ることねぇだろが!!」
「ふん、そっちが悪い」
「いや、だって見て分かれって言われてもどう見てもお前──」
「それ以上言ったらもう一発殴るよ?俺は、女って言われんのが腹立つんだ」
「それまたどうして?」
「女だったらどうせ弱そうとかそういうイメージ持たれるからだよ」
「いや、別にそう結論付ける事はないんじゃ……?」
「うるさい。とにかく情報聞くんでしょ?変な事で私語するなら情報教えないよ?」
「おっと、そうだったな。じゃぁ早速聞くけどこの街がどういうとこなのか、教えてくれないか?この街じゃゴブリンの集団とか、ブレイドのお前とか見たとこ鎧羅って奴ばっかだったけど」
「……まぁこの街はさっきの通り、異常だらけ。数年前からこの街の治安は突然変わったらしい」
「変わった?」
「突然ある一人の男に制圧されたんだよ。抵抗する者も全員、簡単に返り討ちされて……力の差を見せつけられ、勝ち目なしと知った町の人の抵抗意識はすぐに消沈。それからはその男の部下、さっきのゴブリン達に監視され、奴隷にされ、支配するものと支配に虐げられる人に別れた街になったって訳」
「支配された町か」
「他に聞きたい事は?」
「あぁ、じゃぁ一気に話変わるんだけどこれについて知ってる事教えてくんない?」
「本当にがらりと話変わったね」
自分の胸に下げた赤いネックレスを手に持って苦笑いするリュウを呆れるように溜め息を零すも、口を開いて言葉を続ける。
「えぇ~っと、まずこれについて何を聞きたいの?」
「まぁ全部だな」
「はぁ~、確か記憶失くしたんだったね。いいよ、教えてあげる。まずこのネックレスは自分の戦闘意識の表れで『鎧羅』の姿になれるのは知ってるよね?」
「あ、あぁ。まぁ一応」
「チップを嵌めたネックレス。それを正当所有者が使う事で初めて鎧羅の姿になれる」
「正当所有者」
「そっ。ネックレスを持てば誰でも変身できって訳じゃない。このネックレスは元々本来持つべき一人、正当所有者だけが持てる代物。まぁ簡単に言うと俺が持つ「ブレイド」をアンタが使っても、アンタの持つ「セイバー」を俺が使っても効果はなし。ネックレスはただの飾りになる訳さ」
「なるほど」
「例えるならネックレスは鍵、それを扱う正当所有者は鍵穴。そのどちらが欠けても効果は発揮しない。これがこのネックレスについて」
「それは分かったけど、さっきのゴブリン見て思ったけど、「鎧羅」の姿ってのは鎧を纏うだけじゃないんだな?」
「鎧羅の姿は人それぞれで別れてるんだ。俺やアンタの様に鎧を纏うのをアーマーフォルム。さっきのゴブリンの様に身体全体が獣や動物に変化するのをチェンジャーフォルムって言うんだ、まぁネックレスで分かるのはこのぐらいかな?俺もこのネックレスについては他人から聞いた訳だし」
「聞いたって誰から?」
「知る訳ないだろ?まぁ一つだけ分かるのはこのネックレスをくれた人だ」
「くれたって誰が?」
「だから知る訳ないって。かなり前の事だし」
「ふ~ん、何か俺と一緒だな?」
「一緒?」
「俺もこのネックレス渡されたんだよ。知らねぇ男からな」
「案外二人とも同じ人物から渡されていたりしてね。ってまぁ、こんな話はいいか、それより俺が知ってる情報はこのぐらいだけど、他に聞きたい事はある?」
「ん?あ、あぁ、じゃぁ最後に一つ聞いていいか?」
「何?」
「ここどこ?」
二人が今いる場所は地下の様に洞穴や洞窟のように所々に飛び出している岩肌、場所でまさに隠れ家とも言うべき代表的な場所。
「昔、地下工事してたんだけど結局工事を終えないまま中止になって、この状態のまま放置。外のゴブリンの目を逃れるためにも、一部の人がここを隠れ家にしてるんだよ」
「さっきからお前、何か他人事みたいな言い方してない?」
「まぁ大きく分けたら俺も外部から来た人間だし」
「はぁ?」
「用事でこの街に立ち寄ったんだけど、この異変に巻き込まれてね」
「俺は仕事でこの街を出る訳にはいかないけど、アンタは何でこの街にまだ留まってるんだ?街から出ていけば面倒事から解放されちまうぜ?」
「それは……」
*
「「セナ姉ちゃーん!」」
突然遮るように響く声、二人が振り向いた先には元気な様子でこちらに駆けていく子供たちの姿が……。
「はぁ~、あのね何度も言うけど俺は「セナ姉ちゃん」じゃなくて「セナ兄ちゃんだから」ってまぁ行っても無駄だけど……それより皆どうしたの?」
「セナ姉ちゃん中々帰ってこないから心配になって来たんだけど……」
「俺の事なら心配しなくていいよ。それにこの場所が見つからないとも限らないから、皆は俺の事気にせずにできるだけ奥に行って、大丈夫。必ず俺が皆をいつか外に出られるようにしてあげるから」
「うん!お姉ちゃんも気を付けてよね」
子供たちが奥に向かう後姿を見送って視界を戻すが、何がおかしいのか、腹抱えてつらそうに笑いを堪えているリュウの様子が……。
「何笑ってる?」
「セナ姉ちゃんって(笑)」
「くたばって来い!!」
ガンッ、と連続で鈍い音が響き、再度「ぎゃあああああッ」と大きな絶叫が地下全体に木霊し、声が止む頃には殴られた痕であろう赤く腫れた瘤を作るリュウの姿が……。
「アンタってマジ最悪だね!」
「だーかーら悪かったって。にしても本気で殴りやがって」
「アンタが悪い」
「ったく……にしてもさっきの子たちは何なんだよ?もしかして弟か何か?」
「ん?あ、あぁ、違うよ。あの子達は親を連れられ、一人ぼっちになった子供の集団ってとこかな。今は俺があの子たちの親代わりってとこ」
「ふ~ん、それじゃぁお前がこの街に残る理由ってあの子たちのため?」
「……まぁね」
「いわゆる同情?」
「そんないい物じゃないよ、俺はただ支配する者が嫌いなだけ、あいつら見てると過去のトラウマ思い出しそうになるんだよ」
「えっ?」
「それに……あの子たちを見て、他人事とは思えないし」
「最後何て?」
「別に」
聞こえるか聞こえないぐらいの小声で呟いたセナの言葉に疑問を持つも、どこか寂しげな表情を見て、これ以上深くは聞かなかった。
「まぁ情報は話したしアンタとの約束はこれで果たした。俺はもう行くから」
「まぁ待てよ、俺も手伝うぜ?」
「手伝う?」
「だってアンタも俺も奴等に敵対してんだろ?敵の敵は味方って言うし、お互い協力しようぜ?それにアンタの目的はこの街を支配から解放、俺の目的は奴隷になってる人を解放、目的はほぼ一緒だろ?」
「目的や戦う敵が一緒でも、アンタとは無理。足手まとい」
「はっ!?テメェそれどういう意味だ!」
「言葉どおりの意味に決まってるから」
「そりゃまだお前みたいには戦えないけど……」
「だろうね。下っ端如きに苦戦するようなアンタと協同は無理」
「分かったよ。協同はしねぇ。でも俺は勝手に戦わせてもらうぜ?」
「何も分かってないじゃん!足で纏いだから引っ込んでろって言ってんだよ」
「引っ込むかどうかは俺次第だっつーの。それに引っ込むぐらいならテメェに情報聞いたりなんかしねぇし」
「なら勝手にすれば?大怪我しても一切知らないからね」
「心配しなくても平気だよ、セナ姉ちゃん!」
「アンタもう一回しばかれたい?」
「冗談、それよりバイトの方、さっくと進めるか!」
外に出ようと足を進めた瞬間、突如としてドンッ!大きな轟音を起てて目の前の壁が土煙を上げながら吹っ飛び、瓦礫を踏みつけながら土煙から姿を現す二人組の男。
「「!?」」
『ここが隠れ家か』
『やっぱ兄貴の眼に狂いはないね、確かにここなら鼠の隠れ家にお似合いだよ』
「テメェ等一体?」
二人の内、黒緑のネックレスとブレスレットを見に付けた一人の男、グレイはセナとリュウの方を見、突然フッ、と笑みを零す。
「相棒、こいつら当たりだ。同種だ」
「やったね兄貴。いきなりビンゴだなんて、俺達随分ツイてるよ」
「テメェらさっきから何話して──」
「アンタ等、奴らの仲間か?」
突っかかろうとするリュウと引き留めるかのように掴みながら、彼等の方を睨みつけ、セナの言葉に「いいや」と返答しながらそのまま続けていく。
「安心しな、俺等は奴等の味方じゃない。まぁ暇潰しにこの街に来た客人とでも言っとくか」
「そうそう、俺達は別にこの場所の事興味ないからチクったりはしないよ。俺達が興味あるのはあんた達だしね」
「「!」」
セナとリュウを指差すとグレイの下げてあるネックレスからは「Bloody」、ガイのネックレスからは「Giga」のスペルがそれぞれ出現共に、二人は鎧羅の姿へと変わり、ブラッディの姿は黒緑の鎧に所々血の様なラインが刻まれ、ギガの姿は灰色の鎧に腕には強靭なガントレットが取り付けられ、まるで戦えとでも言わんばかりに二人はそのままセナとリュウに突っ込む。
「おいセナ!この場合、協同は止む得ないんじゃないのか?」
「仕方ないね。でも足は引っ張らないでよ?」
「わぁってるよ。ここ等で俺の名誉挽回してやるぜ!」
二人のネックレスにも「Blade」と「Savior」のスペルが出現すると同時に鎧を身に纏って鎧羅の姿へと変わると、左右から来る蹴りと拳をそれぞれ受け止め、互いの相手を弾き返すとセナはガイに、リュウはグレイに向かっていく。
「らぁッ!」
先手必勝と言わんばかりに真っ向から突っ込み、刃を振うがそれを右足を曲げ、膝蹴りで相殺して受け止める。
「!」
「フッ、せやッ!」
そのまま反回転して回し蹴りを背中に叩き込み、リュウが振り返った瞬間に蹴りを叩き込んで突き倒す。
「!」
セナの方では、ギガが振う鉄拳を剣で迎え撃って行くも威力では敵に分があり、剣を拳で弾き返していき、アッパーを喰らわせようと拳を突き上げるが身を引いて、寸での所で避けると、背後に回り込み背中を斬り付け蹴り飛ばす。
「へぇ~、君結構やるじゃん?来たかいあったよ」
「アンタ等、何が目的だ?」
「だから最初に言ったじゃん?俺と兄貴が興味あるのはアンタ達。早い話が暇つぶしを兼ねて、強者と戦いたいんだよね」
「だったら噛みつく相手を間違えたんじゃない?」
「間違えたかどうかはお前が判断する事じゃねぇって」
再度火花を散らしてぶつかる剣と鉄拳。リュウの方では連続で繰り出される蹴りを刃で受け流しながら、苦戦しつつも奮闘している。
「ったく!テメェ足癖悪いな!」
「覚えときな、癖は簡単に直らないものなんだよ」
刃の払いをジャンプでかわすと同時に、そのまま踵落としをリュウの肩に叩き込み、まるで鉄球をそのまま肩に叩きつけられた様な痛みと共に膝をついてしまう。
「うぐっ!」
「せやッ!」
片膝をつくリュウの顔面を蹴り上げて吹っ飛ばすと、何処か不満げに一息つき、氷のように冷たい視線でリュウを見る。
「そんなもんか?歯応えのねぇ。ちったぁやる気見せてみろ」
「けっ、言われるまでもねぇ。準備運動は今終えたとこだ、こっから本番見せてやるよ」
「それは負け惜しみの台詞じゃない事を願おうか」
突っ込み、左足を振るう素振りを見せた瞬間、それをフェイントに蹴り足をおろす勢いを利用して反対の足で蹴り込む二段蹴りを叩き込むが、何とかそれを刃で受け止めて弾き返すと、お返しと言わんばかりに蹴り返すが、その刃を蹴りで真っ向から受け止める。
「!」
「もっと楽しませてみろ!」
剣を踏み台に飛び上がったかともうと、円を描くように蹴りを放ちそれを刃で受け止めるも、威力が強くそのまま弾き飛ばされる。
「この程度かよ!」
「調子に乗ってんじゃねぇ!」
再び繰り出される蹴りを受け止めると同時に相手の体勢を崩し、倒れた隙を狙い刃を振うが刃が振り下ろされる前に仰向け状態のまま両足でリュウの首を挟むと、そのまま持ち上げて投げ飛ばす。
「ぐぅっ!」
「今のは良かったが、次に繋げる攻撃が単調すぎんだよ」
踏みつけようとするがすぐに転がって避け、立ち上がると共に刃を振う。
「だからワンパターンつってんだろ!」
円を描くように右足を振って弾き返すが。弾き返された勢いを利用して回転すると、回転の勢いを殺さずそのまま勢いを付けた刃を振い、強烈な一太刀を浴びせる。
「うぐッ!!」
「これでもワンパターンだってのかよ?」
「なるほど、それでこそ俺も楽しませるぜ」
「うるせぇ。グダグダ言わずにさっさと来いやっ!」
*
乱戦の中、鉄拳を繰り出す拳を何度もブレイドは受け流していき、ギガが放つ右フックをとっさに態勢を低くして避けると共に剣で腹部を突き、怯んだ瞬間に背後に回り込んで、そのまま斬り裂く。
「ふっ……」
「!、貴様ァ……今相棒を笑ったか?」
セナの様子にグレイがピクリ、と反応を見せたかと思うと、リュウに膝蹴りを叩き込んで怯ませ、そのままセナの背後に飛び蹴りを叩き込む。
「ぐっ!」
そのまま繰り出す払い蹴りを飛び越えるも、今度はガイが殴りかかり、蹴りと拳を受け流すのは容易ではなく2対1の不利な状況下で徐々に押されて行く。
「「せやっ!」」
「ぐぅッ!!」
同時に繰り出される拳と蹴りを叩き込んで、吹っ飛ばし、追い打ちをかけようと迫って行くが二人の前をリュウが阻むと共に刃を一閃し、鎧とグレイを纏めて斬り裂き、後ろに後退させる。
「どうだ?これでも俺が足手まといって言えるか?」
「ふん、協同なんだからそれぐらいのサポートは当然だよ」
「けっ、可愛げのねぇ返事。まぁともかく来るぜ?」
「分かってるよ!」
再び向かってくるグレイとガイの蹴りと拳を剣と刃で迎え撃つとそのまま互いの相手を弾き返し、セナの方ではガイが振う拳を避けていき、剣に電気を纏わせるとそのまま突っ込み、相手が付きだす右ストレートを瞬間的に頭を下げて避けると共に、強烈な斬撃を腹部に叩き込み、吹っ飛ばす。
「ぐああああああッ!?」
「!、相棒ッ!?」
「余所見してんじゃねぇッ!」
一気に突っ込み隙を狙って振り下ろす剣をギリギリで回避すると、そのままカウンターキックを叩き込みバキッ、と嫌な音を立てながらアーマーが凹む。
「うぐっ!……ガァッ!!」
「!?」
だが、一瞬よろける様な素振りを見せつつも、すぐに腹部に叩き込まれている右足を掴み、突然の事に相手は身動きが取れていない。
「お前……ッ!」
「素早しっこくて手間を焼いたが、ようやく捕まえたぜ?」
「ぐっ!?」
「終いにしようかッ!」
ダメージの痛みとは裏腹に、グレイに対してニッ、と笑みを浮かべるとそのまま相手を突き飛ばし、振りかぶる刃には赤い炎が灯る。
「!?」
「でやああああああああッ!!!」
炎を纏った刃で一閃。グレイの鎧に炎の閃を刻むとそのまま火花を散らしながら吹っ飛び、仰向けに倒される。
「はぁ……はぁ……よ、ようやく……終わったぁ」
その場に座り込んで一息つくと、「Savior」のスペルが消え、元の姿に戻った彼の身体には戦闘による痣だらけだった。
「また無茶な戦いしたんだね。肉を切らして骨を断つ。本当見てるこっちがひやひやするよ」
「う、るせぇ……勝っただから文句言われる筋合いねぇよ」
「まぁそれもそうだね。一先ず足手纏いだけは卒業してくれたみたいだね?」
「「だけは」ってどういう意味だよ?」
「さぁね?それよりほら手貸すよ?」
「サンキュー」
差し出されたセナの手を取って何とか立ち上がると、セナも少しだけリュウの事を認めたのか、微かに口元を緩ませるとリュウもそれに笑って返す。
「にしても、さっきの斬撃。まだ奥の手なんて隠し持ってたんだ?」
「あぁ、さっきのあれ?あ、あれは……」
「何ひょっとしてまぐれとか?」
「……ま、まぁそうなるかな」
「はぁ?」
先程の戦闘で刃に灯った炎。それを狙ってやった訳でも、リュウの意図的に出した訳でもない。まるでリュウの感情に呼応するかのように出現したあの炎、いまだ謎に包まれた自分のネックレスに対する疑問が気になるも……。
「兄貴、どうする?」
「さぁな、ただ宴にはちょうどいい余興だったぜ」
「「!?」」
突然その言葉後、ムクリ、と身体をふら付かせつつも立ち上がり、二人が再起した事に当然警戒心を抱き、ネックレスを構えている。
「まだ戦うって言うのかよ」
「こいつ等、案外タフなようだね」
「まぁ待ってよ、俺達にはもう戦う意識はないよ。ねっ?兄貴」
「あぁ、十分お前等には満足できた」
今だセナは警戒を解いていないも、既にグレイもガイも元の姿に戻っており、戦闘意識の消失した彼等の言葉は強ち嘘ではないだろう。
「今回は俺等の負けって事で大人しく引いてあげるよ、でも俺等があんたら仕留め損ねた事を、ここの支配者、ザギが知ったらきっと自らアンタ等の首取りにくるよ?」
「俺達もあいつに八つ当たりされないように早めにずらかるが、もしまたお前等と会う音になったらその時は、本当の地獄を見せてやる」
「まぁ生き残れたらまた会おうよ?お互いにね」
ガイの意味深な発言を気にしつつも、その場から去ってゆく彼等を追おうとはせず、ただ茫然と彼等の後姿を見送った。
「ザギ、それがここのボスの名前か」
「恐らくそうだろうね」
「ザギね。それよりさっきの奴等、放っておいていいのか?」
「最初に言ってたでしょ?あいつ等二人はこの街に来た客人に過ぎない、密告もしないと言ってたし立ち去るなら放っておいても問題なしだよ」
「ふ~ん、お前ならてっきりザギの事について洗いざらい吐かせるかと思ってたのに」
リュウの言葉にピタリ、と足を止め何かに気付いたようにハッ、とした様子。セナのその分かりやすい様子に「まさか」と思いながら口を開く。
「お前ひょっとして、「しまった」とか考えてた?」
「べ、別に今からこっちが殴りこみに行くんだから敵の情報なんて必要ないよ。情報なんて実戦には案外何の役に立たないもんだよ」
「お前明らかに動揺してるし……まぁいいけどな、とにかく行くのか?」
「勿論。邪魔者は入ったけど、いい練習にはなった」
「へへっ、じゃぁ行きますか!」
*
時を同じくして、グレイとガイの言った通り二人の敗北したという情報は風のような速さで伝わり、既にザギの耳にも入っている。その事もあってか、「ゴミを一刻も早く排除しろ」という命令が下され、ザギの部下であるゴブリン達の動きはあわただしい物となっている。
「メンバー総動員してゴミ排除だとよ」
「やってらんないぜ、あの二人が勝手に犯した失態なのに俺達はその尻拭いをしなきゃならないなんてよ」
「そう言うな、早急に排除してザギ様の機嫌を損なわないようにしなくては俺達の命が危ない」
「わぁってるよ」
街の見張り役する大柄な男性とかったるそうに呟く小柄な男性。彼らもまたザギの命でセナやリュウ達の始末に動こうとするが、突然“パンッ!”と乾いた音が響く。
「んだよ、今の音?お前も気になってるよな?」
振り替えると同時に“ドサッ!”と何かが倒れる音が聞こえたかと思うと、先程まで会話を交わしていた男性が地面に突っ伏し、ふと小柄な男の足下には赤い液体による水溜りが……。
「え、な、何だよこれ!?」
紛れも無く赤い液体の正体は人による血。先程の乾いた音は恐らく銃声、そしてこの男は頭を撃ち抜かれて今この場に倒れた。脳がそこまでを理解した時、身体中を恐怖心が駆け巡り、ガタガタと体が震える。銃撃者の姿は見えなくても、確実に自分達を狙える場所に位置してるのは間違いない。そして間違いなく次に銃撃者が狙う標的は────。
もはや恐怖でそれ以上は考えられない。逃げる事だけに脳を使い、すぐに逃げなくてはと震える足で立ち上がった瞬間、また“パンッ!”と聞こえる銃声と共に、男の意識は途絶え、地面には赤い液体が広がって行く。
『あ~ぁ、殺ちゃった。ザギさんの部下射殺なんかしちゃって、オレっち知りませんよぉ?』
『知るかよ、俺は雑魚などどうでもいい。早くザギと抵抗者の一世一代の勝負を見学したいだけだ』
ある建物の屋上、鎧を纏い手に持つライフルのスコープ越しに二人の骸を見つめる一人の人物。硝煙を噴き上げているライフルを見た所、狙撃手の正体はこの男と見て間違いないだろう。スコープから視線を外すと男の鎧は消滅し、元の姿に戻った男の胸にはネックレスが下げられており、そしてその男を茶化すかの様に声を掛るのは癖のある喋り方に茶髪の髪と胸に左下げた黄色のネックレスが特徴的な一人の男性。
『まったく端から見たらオレっち達、完全ザギさんの裏切り者同然っすよ?』
『んなもん知るか、雑魚に余計な時間取られてたまるか。さっさとザギの勝負を俺は見てぇんだ』
『バレてザギさんに打ち首されてもオレっちは責任取りませんよ?』
『心配ねぇ。グレイやガイ動揺俺達も客人の身だ』
『それでもやっていい事と悪い事ありますからね?』
『殺って今さらグダグダほざいてんじゃねぇよ。ばれたらばれたで、そん時考えりゃいいんだよ』
『ほんとマイペースですね。面倒事に巻き込まれるのはオレっちマジ勘弁なんすけど?』
『けっ、俺が何しでかすか、大方分かった上で同行してる癖によ?』
『オレっちが同行するのは腹心だからですよ。主人放置する腹心なんて聞いた事ありますか?少なくともオレっちは聞いた事無いっすよ』
『だったら主人のため、腹心らしく抵抗者の行く手は阻む雑魚狩りに協力しろや?』
『生憎オレっちの能力、派手なんでザギさんにばれる確率高いから無理っす。バレたらザギさんの標的完全オレっち達に替ってもおかしくないっすよ?』
『ザギとやり合うのもそれはそれで面白いな』
『ご主人さん、「慎む」、「我慢」、「堪える」、「抑制」、この中に知ってる言葉あります?』
『冗談だ。生憎今日は奴とやり合う気分じゃねぇ、言ったろ?俺達は観戦に来たと』
『「俺達」は訂正してください。オレっちは現在進行形で巻き込まれてるだけなんで』
『まぁグダグダ言うな、とっとと行くぞ?』
『面倒事にしないでくださいよ?』
彼ら二人もまた呼び合うかのように戦いの場へと向かって行った。内に秘めた企みを叶える為に────。
いかがでしたでしょうか?今回のお話は?
皆様にとって大切な時間を使ってまで小説を読んでくれた方には本当に心よりのお礼申し上げます。そして読んでくれた方に対する小説がこの出来で申し訳ないですm(__)m
今回の話はガイとグレイvsセナとリュウの協同線がメインの回でした。彼等のバトルはいかがでしたでしょうか?そして戦闘終えてようやくセナもリュウの力を認めると。そして本人曰くセナは男の娘ですが、どうか応援していただけたら……。
これからも更新していくので次回も見ていただけたら幸いです。
そして次回ついにザギが鎧羅の姿に!?これからも宜しくお願いします。