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「南ちゃんはすごいよ~」
鳩羽はそういって一リットルの水を一気に口に流す。
大量の栄養剤と少量の薬を一緒に。
赤い毒、私達はその病気を赤い毒と呼ぶ。
これは新型ウイルスで、感染してから発症するまでに長き時を要する時限爆弾のようなものだ。
発症すると人の免疫力が著しく低下し、通常問題のない細菌やウイルスでも身体に病をもたらす。
その病は死に繋がる。
私は暗殺を決意した。
世界平和のために、不特定多数の人間を殺す。
赤い毒は精液を通じて感染する。
人々に赤い毒を塗り込むために、私達は執拗にセックスを行っていた。
「一日5人、女の子は羨ましいね~」
鳩羽は私の頭を撫でる。私の初めての相手は鳩羽だった。
「男にはない苦労をしているの、羨ましがらないで」
私は口をすぼめる。
鳩羽とはもう2年の付き合いになる。
赤い毒を塗り込む私達は「チカラ」という集団で動いている。
この毒は血液(血から)でも塗り込むことができること、そしてその力は偉大だということがこの語源だっだ。後者は取って付けたようにも見える。ただの親父ギャグ集団だ。
チカラは宗教に似ているが、ここに神はいない。
私達は長きに渡る暗殺をしている。世界平和という名の下に。
その腐れ切った思想に神など存在しない。私達はそれを知っている。
神様がいるのならば、きっと私達に罰を与えてくれるだろう。
それこそ私の、恐らく私達の望む神なのだから。
私は鳩羽とキスをした。
鳩羽は10歳年上で、私の他に彼女と呼ばれる存在があることも知っている。
しかし、私が心を許してもいいのは鳩羽だけで、2年間も支えてくれた鳩羽を愛せずにはいられなかった。鳩羽もそれを知ってくれている。
性行為より、キスの方が心に響いた。
優しい遊びのようなかわいいキス。
それが私の感性を何より刺激してくれる。
「明日は仕事でしょ?私もう帰るよ」
鳩羽は私の心の医者。キスも優しい言葉も、冗談も、今日みたいにからかったりもしてくれる。
鳩羽がいる限り、例えどんなセックスをさせれても、私は耐えられる。
辛い時は鳩羽が後で撫でてくれるから。
毒を塗り付けた後いつも会えるというわけではないが、人数が多い時や要注意人物の時は行為の後、鳩羽が会ってくれた。
「いつもありがとう」
優しい鳩羽は私の身体を見て、傷の有無を確認して、私の表情を確認するために会ってくれる。私のわがままも聞いてくれる。鳩羽は優しい、チカラの幹部だ。
「南ちゃんには僕の方が感謝だよ。いつもありがとう」
軽いキスをして、今日は別れた。