女を隣に置いている婚約者から婚約破棄を告げられてしまいましたが……不幸にはなりませんでした! むしろ、幸せになれました!
「君との婚約だけど、破棄とすることにしたよ」
婚約者アズールはある日突然そんなことを言ってきた。
隣には可憐系金髪女性。
幼げな印象の目鼻立ちの人。
「あのぉ……婚約者さん、ごめんなさぁい……こんなことに、なってしまってぇ……」
「リリアは本当に優しいね。けど、君が謝ることはない。真実の愛に出会ったらもう心に嘘はつけない、それだけのことなのだから」
「でもぉ……」
「気にしなくていいよ。どのみち彼女との婚約は形だけのものだったのだし」
アズールは隣にいる女性リリアと見つめ合い、甘く濃厚な視線を絡める。
「アズールさまぁ……」
「リリア、今日も可愛いね」
何ですかこれ!? ……と言いたいところだが、今ここで私が何を言ったとしても無意味なのだろう。彼らが愛し合っていることは変わらないのだから。そんな状況では、何を言おうとも、こちらがより一層虚しくなるだけだ。
「と、とにかく!」
「はい」
「君との婚約は破棄だから。いいね?」
「勝手なことだとは思いませんか」
「ふん、そんなことどうでもいいよ。決めたことは決めたことだからね。まぁ元々君のことはそんなに好きじゃなかったし、ちょうどいい機会だと思うよ」
リリアはアズールの腕に片頬をぴとりとくっつけている。
「君は君で幸せを見つければいい。……じゃ、さよなら」
こうして私たちの婚約は破棄となった。
リリアとアズールの愛に壊されたのだ。
そこに確かにあったもの、それは、もう決して取り戻すことはできない。
◆
婚約破棄されたものは仕方がない。
次の道を見つけよう。
そうやって歩き出した私は、やがて資産家の青年ラヴィーと知り合い、結婚した。
正直、婚約することは怖かった。またあの時のようになるのではないかと。そんな風に思ってしまって。アズールが残した傷は、ラヴィーと共に歩む道をも遮るほどだった。
けれどもラヴィーは真っ直ぐに想いを伝え続けてくれて、それで何とか、前を向いて彼との関係を作る道を選ぶことができた。
私の過去を知り、事情を理解して、ただひたすらに真っ直ぐ関わってくれたラヴィーには、どれだけ感謝してもし足りないくらいだ。
「ラヴィー、この前ご両親からいただいた果物だけど、切ってみたわよ」
「わ! すごい! 綺麗だね」
「本当? そう言ってもらえると嬉しいわ。果物を切ったことってあまりなかったから慣れていなくて……ちょっと恥ずかしいけれど」
アズールに婚約破棄されてから数年、今は幸せに暮らしている。
「切ってくれてありがとう!」
「いえいえ」
「一緒に食べよう!」
「先にどうぞ」
「ええー、同時に食べようよ」
「まぁ……そうね、貴方がそう言ってくれるなら」
「うん! 一緒に食べるともっと美味しいよ! きっと、ね!」
ラヴィーと過ごす時間は楽しさに満ちている。
彼となら明るい未来を信じられるし虹色の幸福を愛おしく抱き締めることができる。
だからこそ、彼との道を選んで良かったと心の底から思うことができるのだ。
……ちなみにアズールはというと、今はもうこの世にいない。
あの婚約破棄の後、アズールはリリアと婚約した。しかし結婚式前日にリリアは馬車の事故に遭い命を落としてしまう。それによって正気を失ったアズールは、街中で叫びながら暴れるといったような奇行を繰り返すようになってしまって。そんな中で、たまたま道を通っていた権力者に絡んでしまい。それによって拘束され、処刑されることとなってしまったそうだ。
◆終わり◆




