精神操作
男に付いてきたが、そこには異様な光景が広がっていた。
一人の女を囲むように、十数人の男たちが無言で立っている。誰一人、瞬きすら揃っていた。
「あぁ……異常だな。この光景。全員、操られてるな」
「ええ。ここまでとは思いませんでした」
男たちは女を守る壁のように並んでいる。視線は虚ろだが、立ち位置に一切の迷いがない。
「女は捕らえていい。だが周りが邪魔だ。危害は加えられない」
「どうします? “メンタル・スタビリティ”は全員には無理です。精神が歪んでいる分、効きも悪いでしょう。血の斬撃は撃たないでくださいね。庇われたら厄介です」
「綾瀬詩織が居れば楽なんだがな……」
その瞬間。
女の視線が、ゆっくりとこちらへ向いた。
「バレたな。退くぞ」
足を踏み出そうとした瞬間――動かない。
膝から下が、地面に縫い留められたように重い。
脳の奥に、冷たい指が差し込まれる感覚。
「……逃げられない?」
呼吸が浅くなる。
命令される前に、身体が従おうとしている。
「メンタル・スタビリティ」
凪の声が響いた。
胸の奥に張り付いていた膜が、破れる。
凍った思考が一気に流れ出した。
「……助かった」
「精神操作特化ですね。心そのものは壊していないのでこの程度で済みましたね。」
操られた男たちが一斉にこちらを向く前に、俺たちは路地へ滑り込んだ。
背後から視線だけが追ってくる。
振り返らず、走る。




