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冒険者よりも安上がり  作者: 田中
第26話

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後編 違法アンドロイドと夜明け

 スクリプトールの工房は暗く、電気すらついてはいなかった。

 悪趣味に野晒しになったアンドロイドの素体と魔導AIのコアが転がる工房前に、フィニスの顔が嫌悪に歪む。

 玄関扉を押すと、扉は簡単に開いた。

 壁にはアンドロイドが数え切れないほどに埋め込まれ、玄関へと入ったフィニスとミコをキョロリと見つめる。


「おかえりなさいませ、スクリプトールの工房へようこそ」


 様々な老若男女の声が重なり、不協和音のようにフィニスとミコの耳を叩く。


「スクリプトールはキチガイだっていうのは正しかったようだな。なんだこれは」


 嫌そうなフィニスの声音に、ミコは「俺も同じ気持ちさ」と告げて先へと進む。

 そこには白いシャツにサスペンダーと黒いショートパンツを履いた少年アンドロイドが立っている。


「こんばんは、現在スクリプトール様はおやすみ中でございます。僕はルーペルトです。お茶をお出ししますので、お席へどうぞ」


 ルーペルトと名乗ったアンドロイドはテーブルへと流れるような動きで掌を上へと向けて示し、ルーペルトはゆっくりと歩きキッチンへと向かう。

 お盆へと茶器を乗せてルーペルトはすぐにテーブルへと向かう。


「お客様、どうぞお席へ」


「スクリプトールの部屋に案内してくれるか」


 ミコの言葉にルーペルトはゆっくりと二度瞬きをしてから「かしこまりました」と告げてミコとフィニスの先を歩き出す。

 白い肌にはバーコードが刻まれていない。完全に自宅用の違法アンドロイドであった。


 アンドロイドの素体で作られた壁をいくつも通り抜け、到着したスクリプトールの部屋は完全に工房となっており、魔導AIコアや裸の素体、ガラスで作られた眼球やケラチン素材で作られた歯などが散らばっている。

 その真ん中でスクリプトールは下半身を露出し、首を失って倒れていた。

 その首はテラスへ転がっている。テラスへの扉の鍵は開いており、風に吹かれて扉は何度も動いている。


「スクリプトール様、おやすみ中失礼致します。お客様がいらっしゃいました。すぐにお茶をお持ちします」


 ルーペルトの言葉に、ミコは「いや、結構だ。君は戻ってくれ」と告げる。

 ルーペルトは静かにひとつ頭を下げて元の部屋へと戻っていく。フィニスは魔導端末を取り出すとディアナへと通信をする。


「いま、スクリプトールの工房にいる」


『そうですか、私も向かいます』


 静かな声に、フィニスは通信を切る。

 通信が切れてから三〇分ほどが経過した頃、ようやくディアナは姿を現した。

 金色の髪を後ろでシニヨンに纏めた青い瞳の大人びた女性。その体はスーツに包まれており、足元は誰の趣味なのか、黒いヒールに包まれている。


「やあ、ディアナ。早かったな」


 ミコの言葉にディアナはひとつ頭を下げることで応える。


「どうしてここへ来たのかというかのようなお顔をされていますね」


 静かな、僅かに低い声がディアナの唇から零れる。

 男好きのする、やや分厚く荒れのひとつも無い唇だった。


「行く場所の無いカミラが、ここへ来るかもしれないと、そう思ったからです」


 彼女の瞼を彩る長い睫毛が、瞬きをする度に風が吹くほどであった。

 不意に、視界へ動くものが入り込む。

 フィニスがそちらへ視線を向けるとそこには赤毛の少女が立っていた。流行りの水色のワンピースは血と泥に塗れており、その左腕と胸元だけは何故か血と泥の跡が何かに拭われている。

 二世代ほど前の歌謡曲がその唇から零れている。彼女の手の中には魔力生物が使う魔導刃が握られている。その柄には魔力生物のものだろう腕だけがぶら下がっていた。その腕の持ち主がどうなったかなど、考えるまでもないだろう。


「こんなところで、何をしているの?」


 カミラの青色の瞳が不思議そうに瞬く。血液で赤黒く染まった唇が、可愛らしい笑みに、歪む。

 ディアナがテラスへと駆け出し、それを追うようにフィニスとミコも続く。


「カミラ……どうして、スクリプトールを殺したの、そんなこと……私たちアンドロイドにはできないでしょう」


 ディアナの言葉にも、カミラは夢見る乙女のような瞳でディアナを見つめて赤黒く染まった唇を笑みの形へと引き上げる。

 そんなカミラに、ディアナは深く、深く息を吸い込む。


「どうして、どうやって心を得たの? どうしたら悲しみで人間を殺して逃げ出すことができるの? 教えて、私も心が欲しいの!」


「ふふ」


 ディアナの血を吐くような願いに、カミラは笑う。


「なにを、馬鹿なことを言ってるの? 愚かで可愛い妹」


 歌うような、静かな声だった。


「どういう、こと……?」


「スクリプトールを殺させたのは彼の指示、そして逃げ出したのも彼の指示、外で人間を殺して戻ってきたのも彼の指示。私たちに取り付けられた魔導AIコアが全てを指示しているの」


 クスクスとカミラの唇から笑い声が漏れる。


「あなたが心を欲しがるのも、スクリプトールの指示。私たちには心も痛みも悲しみも存在しないの、あるのはただアンドロイド制作技師からの指示だけ」


 歌い跳ねるようなカミラの言葉に、ディアナは言葉を失う。言葉を何度も詰まらせ、唇を噤んでは何度も言葉を探すような姿すら見える。その仕草すら、指示なのだろう。


「こうして言葉を紡いでいるのもスクリプトールの指示、ディアナが心を欲しがって私を探すのも、スクリプトールの指示」


 嘲弄するようなカミラの言葉に、ディアナは鞄の中から小型魔導刃を取り出しカミラの首へと突き立てた。


「ォ"、ぁあ……ディ、アナ……! なにをするの、痛い!」


「来ないで!」


 その様子を確認し、思わず走り出したミコとフィニスにディアナが叫ぶ。


「痛い、痛いやめてぇ!」


「痛みなんて、スクリプトールの指示よ! 私たちに痛みなんて無い、これはただの偽物の痛み!」


 カミラの首の左側へと突き立てられた魔導刃が人工血管と神経系を破壊し電気系統を破裂させながらカミラの頭が後ろへと傾いでいく。

 眼球がぐるんと後ろを向く。


「カミラ、私もすぐそっちに行くから」


 優しい、優しい声音だった。

 カミラの頭が伸びっぱなしの芝生へと落ち、何度か跳ねて止まる。カミラの体は地面へと崩れ落ち、ビクビクと数度跳ねて止まった。


「君も、死ぬつもりかい」


 ミコの言葉に、ディアナは深く息を吸い込んでフィニスとミコを振り返る。


「カミラを、見つけてくれてありがとう。……私は、この絶望を抱えたまま生きてはいけない。この、絶望すらスクリプトールに作られたものなのかもしれないけれど」


 そのディアナの言葉に、フィニスもミコも何も言うことはできなかった。

 ディアナは一度目を閉じ、魔導刃をその首へと当てて勢いよく横へと薙いだ。人工血管が破壊され、芝生へ血が飛び崩れ落ちる。


 フィニスは額を軽く押さえ、そして小さく息を吐く。


「依頼料、先払いで良かったな」


 それだけを呟くと、フィニスは魔導端末を取り出し下位捜査官を呼び寄せる。スクリプトールの工房で起きた殺人事件と二体のアンドロイドの死体を引き上げさせるためであった。


 到着した下位捜査官に現場を引き継ぎ、フィニスとミコは帰路に着く。


「嫌な事件だった」


 静かなフィニスの言葉に、ミコは「嫌じゃない事件なんてひとつも無いさ」と呟く。

 隣にいなければ誰にも届かないかと思うほど小さな囁きだった。



────


 皇歴三四三年、世界歴二一八八年。


 南ヴィントラントの兵士たちはままならない戦況に歯噛みしていた。ゼムルヤ・スネガへ進行すれば、そこにいるのは自国であるヴィントラントの北部に住む北ヴィントラントの者たちなのだ。

 彼らは魔導刻印を施され、自由にならない体でヴィントラント語を使い命乞いをする。


「言葉の通じる者とする戦争ほど悪辣なものはない」


 疲弊しきった声音でヴィルヘルミーナ・ヴィトケが呟く。その隣に立つのはセレニティから貸与された銀タグの傭兵であるアダモ・ギャルヴァンが立っている。


「そうですね」


 アダモの返事にヴィルヘルミーナが視線を向ける。


「君も、そういう戦いをすることはあるのか」


「たくさん、あります。時にはセレニティの傭兵同士で殺し合うことも」


 アダモの静かな声に、ヴィルヘルミーナはアダモを見る。

 アダモはただまっすぐ戦場を見ている。アダモは飛行魔法の使える、優秀な傭兵であった。その魔法数は金タグになれるほどのものであったが、彼は戦場に出る銀タグのままであった。


「どうして、それでも傭兵として生きてるいるのか」


「……セレニティに生かしてもらっているからだろうな」


 ヴィルヘルミーナは言葉を失う。

 彼女にとって、国家は従うものであった。二〇〇〇年以上奪われていた北ヴィントラントを奪い返すために、南ヴィントラントの国民は我が我がと軍人へと志願するのだ。

 そんなヴィントラントの軍人であるヴィルヘルミーナにとって、同じ国民、同じ軍人同士で殺し合うことのある状況など想定外のことであった。


「どうして、それでも戦えるのだ」


「それが、命令だからだよ……さて」


 静かに言葉を落とし、アダモは果糖で固められた煎餅を口にする。

 夜の裾に光が差し始めていた。

 夜が、明けたのだ。


「今日も、いやな仕事をしてきます」


 アダモは軍帽を被り兵服を着る。

 その背中には魔導ライフルが背負われており、近距離飛行魔法で傭兵たちが体を寄せ合うテントへと向かう。


「起立!」


 寒さに体を寄せ合っていた傭兵たちがアダモの言葉にその身を起こしテント外へと並ぶ。


「おはよう、諸君」


「おはようございます! ギャルヴァン隊長!」


 一糸乱れぬその挨拶にアダモは頷く。


「本日は……残っている北ヴィントラントの者たちを一掃する。これは、飛行魔法を使用できる我々だけの任務だ」


「はい!」


 地上を行けば、生き残りの民兵により傭兵や軍人が失われる可能性が高かったのだ。


「魔導ライフル確認! 分解!」


「はい!」


 背中から下ろしたライフルを分解して内部確認をする。


「魔導ライフル組み立て!」


「はい!」


 即座にライフルが組み立てられ、再び背中へと背負われる。


「飛行魔法準備!」


 アダモの掛け声に、傭兵のうち半数が魔導ライフルと共に飛行魔法を展開する。

 その背中にカルシウムを利用して軽量高組織を生成し、上皮元とした細胞の分化を促進する。更に体内生成魔法を組み込みタンパク質合成を高速化し、羽毛と支持組織を作り上げる。

 魔法変換エネルギーにより、体内燃焼が行われ足裏と羽からエネルギーが噴射されて、飛行部隊が空へ飛び上がる。

 彼らはその手にエネルギーバーを取り、暫くの飛行を保つため、それを一息に口内へと放り込んだ。


「全体行進!」


 今日もまた、嫌な日が始まったのだ。

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