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冒険者よりも安上がり  作者: 田中
第14話

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後編 特定魔力生物の保護と譲渡について

「監視社会すぎるよな」


「何がだい、フィニス」


 突然のフィニスが呟いた言葉に、ミコがフィニスを振り返る。そこには常通り何を考えているのかも分からない、仏頂面のフィニスがいるだけだった。


「風呂入ってても鼻歌歌ってても、全部タブレットと魔導動物型アンドロイドに記録されてるだろ。そんなとこで生活したいか? 俺はごめんだな」


「屋敷持ちパーティなら、給与や居住地の安定があるからじゃないか」


 ミコの返事にフィニスは納得したような、していないような微妙な表情を浮かべて歩き出す。

 大広間へ到着すると、そこには三五人を超えるだろう魔力生物が揃っていた。


「多すぎるだろ、解放希望者は何人だ?」


 げんなりとした様子のフィニスに、マカカが「解放希望者は七人」と答える。


「ってことは、二五人以上は譲渡希望者か」


 その言葉にマカカが首を横に振る。


「俺含めて一五人はギルド所属希望で、残り一三人が譲渡希望だよ」


 マカカの言葉にフィニスは深々と息を吐き出す。呼吸だけで肺がひっくり返るのではないかと思うほどの深い溜息だった。


「とりあえず、先に解放を終わらせるか」


 一時的に屋敷の権限をオヴィスからフィニスへと切り替え、解放希望者とオヴィスとの縁を切って眠らせていく。

 七人の解放を終えると、フィニスは実に嫌そうに頭を掻く。


「ギルド所属になるとか、譲渡とか、書類の量凄いんだよな。……まあ、それ以前に確認しなきゃいけないことがある。お前らの中で冒険者殺しに手を貸した奴はいないか?」


 フィニスの言葉に二八人いるらしい魔力生物たちが首を横に振る。

 それに、フィニスは諦めたように唇をへの字に曲げて立ち上がった。


「なら戻るぞ。転送装置を繋げるから、全員途切れずに、立ち止まらずに転送装置に入れよ」


 フィニスの言葉に、魔力生物たちは一斉に声を上げた。まるで遠足が決まった幼児のような、純粋な歓声だった。

 明らかに嫌そうな顔をしてゲート前へ立ったフィニスがパネルを操作し、政府へと繋げる。フィニスとミコがゲートをくぐると、そこは既に政府の転送装置前だった。


「お仕事ご苦労様です」


「ああ、いまから二八人の譲渡希望、ギルド所属希望者が来るから取り次ぎを頼む」


 その言葉に、転送員が「分かりました」と告げてインカムで連絡をする。それにフィニスは「仕事が増えて最悪だ」と独りごちる。

 転送装置からは魔力生物がぞろぞろと姿を現し、たちまち周囲は彼らでごった返した。


 転送装置から現れる魔力生物が落ち着くと、転送員が「こんなに譲渡・ギルド所属希望の魔力生物が集まっているのを見るのは初めてです」と笑う。それにミコが「俺もだ」と返す。

 フィニスもミコも、そうなることを予期していたかのように表情ひとつ変えなかった。


 二〇分が経過した頃ようやく、特定魔力生物保護課の冒険者であるカルスとカルスの魔力生物であるコルと共に、特定魔力生物譲渡課の冒険者であるコルンバ・リビアとコルンバの魔力生物である羽を持つ蛇である魔族、アンピプテラのアングイスがやって来る。


「お待たせしました。ギルド所属希望の魔力生物様はこちらへお願いします」


「お待たせしました、譲渡希望者はこちらにお願いします」


 華やかな笑顔を崩さないカルスと、事務的で無表情なコルンバ。その対比はあまりにも鮮やかで、かえって清々しいほどだった。


 カルスが座る前へミコが座り、書類へとペンを走らせていく。

 人数が比較的少ない譲渡希望者の書類はフィニスが書くことに決めたのか、フィニスがコルンバの前へと座り、書類を埋めていく。

 一枚を書き上げる度に確認され、コピーされ、事務へと送られていく。


 約二時間半をかけて書き上げた書類に、ミコはぐったりと背もたれに身を預ける。


「よく書き上げたな、ミコ」


「フィニスがそっちに逃げたからな」


 ミコの返事にフィニスは「ハハハ」とから笑いする。


「書類全て確認しました、それではギルド所属希望の魔力生物様はこちらへ」


「譲渡希望者はこっちに。写真を撮ってから、希望する冒険者の条件を教えてくれ。魔力が合う冒険者の中から条件が合う冒険者を探す」


 あとはコルンバとカルスの仕事だと、フィニスは思い切り伸びをして、関節を鳴らした。パキポキと乾いた音が響く。


 パーティへ譲渡となると、魔力生物のプロフィールが作成され、冒険者とのマッチングが行われる。

 そして冒険者やそのパーティと相性が合うかを確認するトライアル期間を経て、そのパーティの魔力生物となるのだ。


 ギルド所属魔力生物になるには、ロイのように冒険者を持たない魔力生物も中にはいるが、基本的にはギルド所属冒険者の魔力生物となり、ギルドへ所属する形となることが多い。

 もちろん、中にはギルドに所属することが難しい魔力生物もいるため、全員が所属できるわけではない。


 フィニスはギルド内居住区域へと戻ると、スーツを脱ぐこともなくベッドへと飛び込む。ひどい眠気がフィニスを襲っていた。


「フィニス、せめてスーツを脱いで寝てくれ」


 ミコの声は、フィニスの意識の淵に届くこともなく、すぐに掻き消えた。


「まあ、今日は朝から色々あったからな。セクも来ていたし、疲れてるだろう。食事は持ってきてやるから、仮眠をとっておくといい」


 ミコの言葉に返事をすることすら億劫で、フィニスはすぐに夢の中へと飛び込み、泥のように眠ったのだった。



────


 皇歴三三五年八月一日、世界歴二一八〇年。


 ヴィントラントはゼムルヤ・スネガがエヴィスィング国と開戦し、僅かに疲弊が見えた三年目にとうとう宣戦布告をしたのだ。

 北ヴィントラントを奪われて二一八〇年目、国民の恨みも既に高まりきっていた。


 南ヴィントラントは大石板の中でも最も魔導ライフルの生産量の多い国であった。

 魔力持ちでなくても弾があれば利用ができる武器がそれであった。そのため、ヴィントラントは南ヴィントラントの国民であれば、志願した者全てがヴィントラントの軍人となれるのだった。


 南ヴィントラントには、徴兵制度が無い。無くとも困らないほどに軍人がいるのだ。

 彼ら南ヴィントラントの人間にとって、軍人となることは自らの牙を研ぐことと同じなのだ。北ヴィントラントを奪った憎きゼムルヤ・スネガを地図から消し去ること、それこそがヴィントラントの悲願であったのだ。


 深緑の軍服を着用した男性が魔導ライフルを掲げた軍人たちの前でその口を開く。乾いてひび割れた唇は、大きく開くと切れて僅かに血が滲んでいる。


「誇り高き南ヴィントラントの国民たち! 二一八〇年もの長きに渡って奪われ続けていた、我らの国土を奪い返す日がやって来た」


 くすんだ金の髪を後ろへ撫で付け、碧の瞳をした男性、カイザー・オーバーマイヤー大将が低い声で告げる。


「北ヴィントラントの戦友たちは、今日も憎きゼムルヤ・スネガの者たちに苦しめられ、飢えと寒さにその命までもを失い、その肉体も魂もヴィントラントの国土へと還ることは許されていない」


 同じ軍服を着た青年たちが「そうです、ゲネラール・カイザー!」と声を上げる。


「我々と同じ誇り高きヴィントラントの民として、これまでに失われてきた北ヴィントラントの者たちの魂を、我らは取り戻さねばならない。

 この戦争は、決して他国を破壊し略奪するものでは無い。我々は略奪者ではない、我らは我らの国土を愛し取り返し者だ」


「そうです! ゲネラール!」


「誇りある我らヴィントラントの戦士として!」


 あちこちから声が上がり、カイザーは満足気に頷く。


「我らの愛する国土に!」


「我らの愛する国土に!」


 大地を揺らすほどの声が上がり、深緑の軍服を身にまとった空を飛ぶ魔力生物が、飛行魔法を使用できる魔力持ちがゼムルヤ・スネガの方角へと先行して飛び、そしてその目を見開く。

 無線魔法でカイザーへと告げられたのは、地獄のような言葉であった。


 ──国境に配置された兵士は、魔導刻印を刻み込まれた北ヴィントラントの民間人である。

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