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冒険者よりも安上がり  作者: 田中
第14話

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前編 病死した冒険者の対応の方法

 転送装置へと到着すると、そこには一人の職員が立っている。捜査官手帳をかざして改札を通り抜けると、転送員が笑顔で四五度の会釈をしてくれる。


「おはようございます、冒険者様」


「おはよう、冒険者コードF五四四九一ー五〇七七四に頼む。二人だ」


「かしこまりました。……オヴィス・アリエス本丸ですね、ご苦労様です」


 フィニスが伝えた本丸コードを聞いた転送員がパネルをタップすると、そこにパーティ情報が表れる。

 コードを確認した転送員が、綺麗に四五度のお辞儀をする。


「では、転送装置の真ん中へお願いします」


「よろしく頼む」


 フィニスの言葉に、転送員が一瞬瞠目し、それから微笑む。


「それでは、行ってらっしゃいませ」


 転送員が、二人が転送装置の中央に立ったのを確認し、転送員がパネルを叩く。

 すぐに二人の姿が光に包まれ、転送装置の上から消えた。


 到着した屋敷内には妙なニオイが漂っている。自然死では感じない血臭。それにミコが眉を寄せる。


「ミコ、今日は危険手当のつかない仕事だって言ったよな」


「事前情報にはそう書いていたんだがな」


「どこが危険手当が付かないだよ、人間の俺にも感じるくらい血の匂いがぷんぷんしてるじゃねぇか」


 ミコは深く息を吸い込んでから口を開く。


「すまない! ギルド所属捜査官の、フィニス・ネブラとミコ・アルカナイズだ! 誰か、内情を知ってる奴はいないかい!」


 ミコの大きな声に、屋敷内の空気が僅かに動く。誰かはいるようだとミコとフィニスが頷き合う。


「何かあったらまずいから一緒に来てくれ」


 ミコが言うと、フィニスは「ああ、分かった」と頷いて共に歩き出す。扉を開け放つと、そこには人影一つ見えなかった。

 しかし、異変があった屋敷にありがちな夥しい血痕すら見当たらず、異様な静けさが場を支配していた。

 あまりにも、いままでの案件とは違い、不可思議だった。


 通常、他の冒険者の屋敷に他の冒険者が入ると、警備アラートとして現れるはずの魔導動物型アンドロイドすら姿を見せず、それが却って不安を煽った。

 魔導動物型アンドロイドが何らかの事情で起動していないことが分かる。


「おーい! 誰かいないかい!」


 ミコの声にも誰も答えることはない。ミコは「どういうことだ」と肩を竦める。

 この屋敷はコの字型になっており、中央部分に冒険者の部屋があるタイプであった。


「この屋敷はしっかり考えられてるな、万が一が起きた時に冒険者が逃げやすいようになってる」


「そんなことより、魔力生物が誰も出てこないのは異常だろ」


 冒険者の執務室へ入ると、そこには傍付きだったのだろう、天狗が薄い座布団の上へと座っている。その傍らにはシャットダウンした魔導動物型アンドロイド:ヒツジもいる。


「よっ、天狗かい、君は」


 ミコの掛けた言葉に、天狗が泣き腫らして赤くなった目で立ったままのミコを見上げた。


「ハイエルフ……」


「俺はギルド所属捜査官、フィニスの魔力生物、ハイエルフのミコだ。冒険者コードはE五七〇〇ー八七五〇だ。君の名前と、何があったのか聞いてもいいかい?」


 ミコが再び優しく天狗に問いかけると、天狗は眦に涙を溜めて口を開いた。


「俺は……天狗のマカカ・フスカタ。……主が、病気になったんだ。気付いた時にはすごく進行してて、治らないって言われて……主、安くない保険料支払ってたんだって。でも、治らないし治療もできないんだったら支払う意味無かったなって笑ってて」


「その冒険者は、どうしたんだい」


「……主ね、肺がんだったんだ。煙草も吸わないのになって笑ってた。それで、……すごくね、しんどそうだったんだ」


 マカカの言葉に、ミコはマカカの前へと座って話を聞く体勢に入る。


「主……咳が激しくなって、時々血痰を吐くようになって……その様子を、仲間のムステラは見ていられなかったんだ」


「ああ」


「それで、ムステラは主の首をね、落としてあげたって……俺は、主が生きてたらそれで良かったのに」


 マカカは膝を抱えてそこに顔を押し付けてまた泣いた。


「そのムステラは、どこに行ったんだい」


「死んだよ。主殺しの魔力生物は、死んでしまう、そうでしょ」


 マカカの言葉に、ようやく屋敷内に漂っていた血臭の理由が腑に落ちる。

 ミコは気まずそうに頭を掻き、そして未だ立ったままのフィニスへと視線を向ける。

 まるで助けを求めるかのようなその視線は、ミコの意外な一面を感じさせ、フィニスは少しだけそれに驚くのだ。


「他の魔力生物はどうしたんだい」


「ギルドの捜査官が来て、パーティの進退が決まるまでは部屋で待機するように伝えてるよ」


「さすがだな。今回、冒険者の死亡をギルドへ通報したのはキミかい?」


 ミコからの問いかけに、マカカは頷く。


「素晴らしいな。なら、冒険者の死亡報告書を書いている間に、他の冒険者への譲渡希望者と解放希望者を分けてもらってもいいかい? 三〇分後に大広間へ行くから」


「分かった。ありがとう、ミコさん、フィニスさん」


 マカカからの感謝に、フィニスは頷くことで答える。

 ミコが部屋の隅に置かれていたデスクに座り書類を取り出すと、フィニスは冒険者の執務室に置かれていた魔導タブレットを取り上げる。


「特定魔力生物管理者コードE五七〇〇ー八七五〇、特定魔力生物管理者名【フィニス】」


 フィニスがタブレットへと告げると、タブレットの暗い画面に光が灯る。


「特定魔力生物管理者コード、E五七〇〇ー八七五〇、特定魔力生物管理者名【フィニス】。魔力認証完了しました」


 タブレットの言葉と同時に中身が展開され、冒険者にしか見ることのできないタブレットの中身をフィニスが確認していく。

 特定魔力生物行動履歴の中に“魔力生物人狼・ムステラが冒険者・オヴィス・アリエスを殺害”という項目が見つかる。

 しかし、警報記録は無い。

 そのことから、それが冒険者の同意の元での行為だということが分かる。

 更に、通信ログの最終記録はマカカが冒険者の死亡をギルドへと通達したものだった。


「魔力生物の謀反でも無さそうだな」


「魔導動物型アンドロイドも確認しとくかい」


 フィニスの言葉に返したミコに、フィニスは随分と嫌そうな顔をして魔導動物型アンドロイドの頭を叩く。


「フィニス、昔の魔導機械じゃないんだぜ。魔導動物型アンドロイドは精密機械だと何度言ったら分かるんだい」


「昔の魔導機械みたいなもんだろ、俺たちにとっては過去の過去だけどな」


 フィニスとミコが言い合っていると、魔導動物型アンドロイド:ヒツジが目を開いてキュウウウウという高い起動音が聞こえる。


「特定魔力生物管理者管轄本部コードF五四四九一ー五〇七七四。特定魔力生物管理者名【オヴィス・アリエス】、屋敷付け専用魔導動物型アンドロイド:ヒツジです」


 定型文を語る魔導動物型アンドロイドに、フィニスは再びギルド役人コードを伝える。


「特定魔力生物管理者コードE五七〇〇ー八七五〇、特定魔力生物管理者名【フィニス】だ」


「特定魔力生物管理者コードE五七〇〇ー八七五〇、特定魔力生物管理者名【フィニス】、魔力認証完了しました。中央ギルド庁舎付け捜査官様ですね、ご苦労様です」


 魔導動物型アンドロイドの心のこもっていない労りに、フィニスは少し嫌そうな顔をする。


「ムステラがオヴィスを殺したと聞いたが、何があったか分かるか?」


「……はい、確認しました。オヴィス・アリエス特定魔力生物管理者様は病気になりましたので、処理されたとのことです」


「コイツら、マジで情緒もクソも無いな」


 これだから嫌いなんだと唇を曲げたフィニスに、ミコは「まあまあ」と言う。


「魔力生物が事実を言っていて良かったじゃないか、これで全員解放なんてことにならなくてよかったな」


「良くないだろ。譲渡とギルド所属とは書類の量がすごいんだぞ」


「いいじゃないか、それさえ終わらせたらあとはもう何もしなくていいだろ」


 冒険者の死亡報告書を書き終えたミコが立ち上がり、ポケットに書類を片付ける。


「さて、大広間へ向かうぜ、フィニス」


「ああ、行くか」


 フィニスはミコに答え、もう一度魔導動物型アンドロイドの頭を叩く。

 魔導動物型アンドロイドは頭に触れることでオンオフが可能だが、ここまで力強く叩くのはフィニスくらいじゃないだろうかとミコは思うのだ。

 どのパーティにもある魔導タブレットと魔導動物型アンドロイドは、パーティ内の全てを記録しているため、悪いことはできないのだ。

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