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冒険者よりも安上がり  作者: 田中
第13話

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後編 朝定食での神聖皇国メニューについて

 ベッドの上で眠そうに濡れタオルで顔を拭っているフィニスへ「フィニス! もう九時半だぜ、仕事だ!」と声を上げる。

 フィニスは随分と嫌そうな顔をしてタオルをミコへと投げて大きな欠伸と共に伸びをした。


「そういやフィニス、ギルド内定住申請がようやく通ったぜ。住民票はセレニティ国首都ルーメン中央ギルド庁舎に移った」


「やっとかよ、申請してからもう二年半だぞ。納税漏れはすぐに連絡が来んのに、そういう申請は遅いんだから嫌になるな」


 フィニスが二年以上前に申請していたギルド内定住申請とは、現在のギルド内居住区域に住民票を移すことで、屋敷持ちパーティ移転意思確認を行われないようにするためのものだった。


 ギルドで働く役人にとって、冒険者とは屋敷を持ちパーティで仕事をするものだという考え方が基本的なもののため、この定住申請を行わなければ月に一度屋敷持ちパーティ移転意思確認が行われるのだ。

 そして、強制的に屋敷持ちパーティ移転を行われないように、ギルド内定住申請を行った後には住民票移転拒否を行うのがセットなのだった。


「まあまあ、そう言うなよ。住民票の移転拒否は後で出しに行っとくぜ」


 ミコの言葉に、フィニスは「頼んだ」と答え、いつもように喪服のような黒いスーツへと着替えて玄関へ向かう。


「今日は食堂か?」


「ああ、食堂の日替わり朝定が食いたい。あれたまに食いたくなるんだよなぁ、絶対薬物入ってるだろ」


「そんなものが入ってたらフィニスは毎日食ってるだろうさ」


 ミコもオレンジ色のアロハシャツを羽織り、いつもの白色のスラックスを履いてフィニスの後に続き歩き始める。

 途中で新聞ラックに突っ込まれていた朝刊を取ると、南ヴィントラントが国土返還を求めてゼムルヤ・スネガへ宣戦布告という見出しが大きく踊っている。


「フィニス、とうとうヴィントラントがゼムルヤに進軍を始めるらしいぜ」


「宣戦布告から意外に遅かったな」


 先程までSECCに所属している者が暴れていたとは思えないほどにギルド内は静かだった。


「しかし、屋敷持ち所属のアピスのとこのプルヘルが駆り出されるなんて珍しいな」


「ああ、ギルド所属なら俺やマーテルのミニウエレ、カルミナのドゥルチス、ロイもいたのにな」


 歩きながら話していると、会話に出てきたマーテルのミニウエレが目前へと現れる。少年の姿をした、ハーフリンクだった。

 短い金髪に、緑の三角帽子は中央から折れて背後に垂れている。大きな耳に大きな青い瞳をした、少年のようにも見えるが、既に七八歳とのことだった。


「よお、ミニウエレ」


「おはよう、ミコさん。今朝はすごい騒ぎだったな」


「ああ、セクの奴らが強引に押し入って来たらしいぜ」


「フィニス、俺先行ってるからな」


 ミニウエレと会話をしていると、フィニスはそう言い、一足先に食堂のある方向へと足を向ける。

 転送装置とカフェスペース、そしてフィニスたちが生活する居住区域がある三階とは違い、四階にあるのは居住区域とギルド職員や役人が食事をする食堂くらいだった。


「ああ、俺の分も注文しといてくれ!」


 ミコはフィニスへとそう告げ、ミニウエレとの会話を続けることにした。


「そういえばマーテルの、君はこの間夜間帰宅申請を出してなかっただろう。イグニスが今度でいいから出すようにって言ってたぜ」


「あ! 忘れてた! ありがとな、ミコさん」


「ああ、夜間帰宅申請が無いと稀に二〇時以降、転送装置が動かないことがあるからな。次からは忘れるなよ」


 ミコの言葉に、ミニウエレは「サンキュー!」と声を上げる。

 そのミニウエレと別れて、ミコは食堂へと向かう。


 このセレニティ国首都ルーメン中央ギルド庁舎にある食堂は、基本的にギルドに所属している人間や魔力生物、屋敷持ちパーティ所属の冒険者やその使役魔力生物のみが使える、安価に食事がとれる場所だった。


 メニューはカレーにカレーうどん、かけうどんとそば、日替わり定食Aと日替わり定食B、それから朝定食が一種類のみ。

 極限まで絞ったメニューでロスを最小限にまで抑えているのだろう。


 食堂内へ入ると、一際真っ黒な喪服もかくやというスーツで、まるで深海に棲む蟹が死肉でも喰らっているかのような動きで食事をするフィニスの姿がすぐに見つかる。


「フィニス、相変わらず不味そうに食うな」


「美味いぞ」


「この食堂の食事で不味いものはそう無いだろう、大体可もなく不可もなくだ」


「この間のA定のハムカツは不味かった」


「そういう意味じゃないんだがな、まあいいか」


 ミコはフィニスの対面へ座り、薄いオレンジ色のトレーの上へ乗せられた、ネギ入りの卵焼きと豆腐の味噌汁、玄米が混ざった白米と水茄子の漬物へと箸を伸ばす。

 今日の朝定食は東の国、神聖皇国の食事らしい。


「神聖皇国の食事前の祈りは皇帝への感謝だったな。今日の飯、美味いな。玄米は噛みごたえがあって好きだ。だが、この味噌汁と漬物がなぁ、クサくて良くない」


「そうか? 俺は白米のほうが好きだな。玄米はぬかクサイ、この漬物もぬか臭くて嫌いだ」


 そんな会話をしながら食事を終えたミコはすっかり皿を空にしたフィニスを捕まえて引きずるように歩き出す。

 トレーは食堂出入口に返却口があるのだ。そこへトレーを戻してから二人は食堂を立ち去る。

 ミコはフィニスを部屋へと引き戻して歯ブラシを押し付ける。


「ほら、さっさと磨いてくれよ。この後の仕事にも差し支えるだろう」


 ミコはフィニスを洗面台に置き去りにして戦装束へと着替える。

 生成のシャツに紅色のベスト、白のスラックスに黒い革靴。そして腰には長剣を差し、その左肩には弓が担がれる。

 彼の弓につがえられる矢は魔法で作られるため、矢筒は持っていなかった。


「今日の仕事ってなんだ?」


「今日は冒険者が死んだパーティに行って、冒険者の死亡報告書作成と魔力生物の譲渡、解放を行うだけだ」


「なら危険手当は付かないな」


「ああ、今月は危険手当が付くような仕事してないから、給料は低くなりそうだな」


 ミコの言葉に、フィニスは嫌そうな顔をする。


「屋敷持ちパーティ所属よりは給料高いとは言え、危険手当が無いと生活しんどいな」


「それはギルドに言ってくれ」


「人のためになる仕事ってなんでこんなに薄給なんだろうな、俺らがストライキしたらどうすんだ」


 ぶつくさと文句を言いながらフィニスは口の中の泡を吐き出してうがいをする。口端についた泡を流すために顔をバシャバシャと洗ってシャツにまで水を付けている。

 それにミコはフィニスへシャツを投げ渡して着替えるように指示する。


「人のためになる仕事はやりがいがあるからだろう、それは四〇〇〇年前から変わらないことだろ」


「労働階級の人間はいつまでもやりがい搾取をされるんだな」


 嫌そうな顔をしたフィニスは濡れたシャツを着替えて洗濯カゴへとシャツをぶち込む。

 歩き始めたフィニスの後ろを、ミコはただ黙ってついて歩く。フィニスたちの部屋には魔導洗濯槽が無く、五階のコインランドリーへ行くしか無かった。


 歩き始めてからしばらくしたところに冒険者ヒエムスとその魔力生物であるフェアリーのティト・アルバが通りがかる。

 彼らもギルド所属の冒険者と魔力生物であり、ギルド内居住区域に住んでいる者だった。


「おや、おはようございます」


「ああ、久しぶりだなティト。おはよう」


 軽く一言を交わして別れる。ギルド所属かつ居住区域に住んでいる冒険者には珍しく、ヒエムスは女性冒険者だった。

 彼女らとすれ違ってから、不意にミコがフィニスを見つめる。


「そういえば、フィニスは女性と付き合いたいなんていうのは無いのかい?」


「無いな、人と交際すると金がかかる。俺の恋人は金だ」


「キミは変わらないな」


 会話を交わしながら転送装置へと歩いていく。

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