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第三回「土曜日」

翌朝、里咲はぐっすり眠れたのか航太から合鍵を貰うと「ああ、今日一日だ! すすきのを満喫しよう」と言って出て行った。

航太は眠そうな顔をして自転車に乗って「ドドド」に向かった。

「おはようございます」航太は店に入った。

「おはよう」

店には丈一と岳とカヨがいた。

「航太君、なんか眠そうね」カヨが言ってきた。

「眠いし、だるいっす」

「航太、働く前から疲れてるのか」丈一が言った。

「大丈夫です」

「頼むぞ。今日は土曜日だからな」

航太に岳が話しかけてきた。

「仮免いったよ」

「そう」

「なんだ、そっけないな」

「そうかぁ」

航太はカヨが準備した氷入り飲み水をカウンター、テーブル席に置いた。

「ドドド」は濃厚味噌ラーメンの人気店。土日祝日は行列が出来る。

航太は、眠気とだるさからか、変なハイな気分になって働いた。

忙しさに忙殺され、三時半過ぎに昼の部が終わった。


航太は丈一と岳とカヨと賄いのそうめんを食べていた。

「随分、疲れてるなぁ」丈一が航太に言った。

「ええ、ちょっと色々あったもんで」

「色々って」岳が聞いた。

「昨日話した女性がアパートに来て」

「え、来たのか!」

「はい」

「どうした!」

「泊りたいっていうから、泊めました」

「お、泊めたのか! それで抱いたのか!」

航太は苦笑いを浮かべながら「いえ、抱いてないです。それどころか、彼女の元カレの凄さに圧倒されて」

「元カレ?」

「凄い元カレなんです」

「凄いってどんな? あっちの方が凄いってことか」

「違いますよ。彼女に夢やロマンを見させてくれる。そんな男なんです」

「なんだ、その彼女って」何も知らない岳が口を挟んできた。

「岳はいいよ、知らなくて。航太は今、家に泊まりにくるマブイ女が気になってしょうがないんだから」

「抜け駆けすんのか!」岳が航太に詰め寄った。

「いいからいいから」丈一が岳を制した。

「夢やロマンを見せる男って一体どんな男なんですかね。そんな男のこと考えてたらなんか眠れなくて……」

「夢やロマンね。そういう人は中々いないんじゃない。うちの旦那も生活していくことに現実的というか、現実的なことしか考えないわ。物価も高いし」

「そうですよね。そんな生活に夢やロマンなんて、普通ないですよね」

「野球選手だな、それは」丈一が言った。

「野球選手?」

「そうだなぁ。ここなら日ハムの選手とか」

「野球選手。それ、夢あるわね」

「ロマンもある。パリーグで優勝したり、侍ジャパン入りしてWBCで優勝したり」

「いいわね。それなら夢もロマンもあるわ」

「なら、コンサドーレもあるよ」岳が言った。

「サッカー選手か」

「Jリーグ優勝とか、日本代表入りして、ワールドカップ優勝とか」

「夢だね。ロマンだね」

航太はそれを聞いて途方に暮れる。

「野球選手にサッカー選手。航太君は?」カヨが聞いてきた。

「彼女作ること。そしてエッチすること」岳が言った。

「夢だね」丈一が言った。

「夢なんですか?」

「夢なんだろう。その泊まりにくるマブイ姉ちゃんとエッチしたいって」

「エッチって、もっとオブラートにくるんでくださいよ」

「くるむも何も、要は彼女にしたいんだろ。彼女になったら嬉しいんだろ」

「そりゃ、嬉しいけど、」

「けど、なんだ?」

「元カレの存在があまりに大きすぎて」

「確かに。夢やロマンを見せてくれる男ってそうはいない」カヨが言った。

「でも、俺は夢を叶えたぞ!」

「そうね。丈さんは脱サラしてラーメン屋を開くのが夢だったもんね」

「それだけじゃない。いつか二号店、三号店と増やして、行く行くは世界進出したいと思ってる」

「大きいですね」岳がにやけながら言った。

「お、なんだ岳。何、笑ってるんだ」

「いえ、笑ってませんよ」

「しっかり作り方学んで作れるようになったら二号店を任せてもいいぞ」

「いえ、結構です」

「二号店やりたくないのか」

「丈さん。俺、まだ大学一年です」

「そうか。そうだな、色々やりたいこともあるか」

航太は丈一と岳のやりとりを横目に思った。

〈もし、プロ野球選手やサッカー選手だったら、俺なんかとても太刀打ちできない。なんせ札幌に来た動機は親から離れたいから。彼女作ってエッチしたかったからだもんな。夢やロマンのかけらもない……〉

航太は見たことも会ったこともない里咲の元カレと自分を比べていた。

「さて、少し休んで夜に備えるか」丈一が言った。

みんなで賄いで使った食器を片付け始めた。


「ドドド」は夜も忙しかった。航太は忙しい方が何も考えなくていいとかえって気持ちは楽だった。

 店が終わって賄いを食べて、それぞれ帰路についた。

 航太もまたアパートに変えると駐輪場から部屋の明かりが見える。

航太はドアを開けて、部屋に入ると里咲がテレビを見ながら航太の方を振り向いて、「おかえりなさい」と言った。

一人暮らしをして初めて言われる言葉だ。〈これが彼女だったら〉と航太はしみじみと感じた。

里咲の着ている服が変わっていた。

「あれ、服違うね」

「Tシャツだけ買ったの。あれ、こっちにきてずーと着てたし、汗臭くなってたから。それより、ケーキ買ってきたよ。行列に並んだ並んだ。食べる?」

航太は賄いを食ってきてお腹いっぱいだったが折角、里咲が買ってきたので「食べる」と言った。

里咲が冷蔵庫に行きケーキを持ってきて広げた。航太はフォークと箸を持ってきて、フォークを里咲に渡した。

「箸で食べるの?」

「フォークが一本しかないから」

「そうか」

航太と里咲がケーキを食べた。

「ん、美味しい。スポンジがしっかり黄身の味がして濃厚」

里咲は美味しそうにケーキを食べる。

航太もケーキの端を箸でつまんで食べた。

〈彼女は僕にとってハードルが高すぎる。そんな夢やロマンなんて僕にはない〉

航太は里咲から聞いた元カレと自分を勝手に比較し、勝手に打ちのめされていた。

ゆっくりケーキを箸でつまみながら思い続けた。

〈こうやってこの部屋に来るのも、結局、元カレを感じていたい。ホテルに泊まるより安いというのは単なる口実……〉

里咲はケーキに関心なくぼそぼそ食べている航太を見た。

「どうしたの? ケーキとか好きじゃなかった?」

「いや、そんなことないよ」

「じゃぁ、バイトで疲れた?」

「それもあるかな。でも、はっきりいうと服部さんの元カレの存在の大きさに打ちのめされてんだ」

「元カレの大きさ?」

「スケールがさ。あまりに大きくて……」

「大きいわよ」

航太は里咲を目を合わせる。そして目を閉じて俯く。

「なんか自分が小さく見えちゃってさ。しょうもなく思えて」

「そんなことないわよ」

「いや、夢やロマンなんて、俺、そんなこと考えたこともないし、そんなのないから」

航太はしょんぼりする。

里咲はそんな航太を見て、

「実は明日。元カレの子供を見に行こうと思ってるんだ」

航太は顔を上げて里咲を見た。

「元カレの子?」

「そう。この家出もそれが目的だったから。どうお、一緒に見に行く?」

「へ」

「へ、じゃないわよ。どうする?」

「じゃぁ、行く!」航太は食い気味に言った。

「なら、明日、一緒に行こう」

〈元カレの子? すると服部さんは不倫してたのか⁉〉

「ケーキ食べないの?」

「へ」

〈不倫相手の子に会ってどうする⁉〉

「じゃぁ、私、食べてもいい」

「いいよ」

「これ、本当に旨いわ」里咲は旨そうに食べる。

〈それでも今は服部さんの全てが知りたい〉そう航太は思っていた。

その夜、航太はベッドで里咲が寝ているのによく眠れた。

頭は里咲の元カレのことを考えて疲れすぎ。体はバイトで疲れすぎで眠れた。開き直っていたからかもしれない。

明日になれば里咲の元カレの子供に会える。明日になれば全てわかると。

里咲は何度も寝がえりをうってから起きた。

「うるさいなぁ。何このイビキ」

疲れ果てて開き直っている航太のイビキである。

常夜灯の薄明りの中、里咲はベッド下で眠る航太を見た。ベッドの上にあるタオルケットを航太の顔に落とした。

「もう」

里咲はベッドの壁側に体をうつして寝た。


そうそう、これ書いてるとき、タレントで日ハムファン?の花咲楓香さんがヒロインのモデルと思ってました。スタイルも良く愛らしい方です。たぶん…

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