兄妹で心霊スポットのダム湖に夜のドライブで行ったはなし
夏になると廃墟や心霊スポットに肝試しをしに行くグループが多くいます。この兄妹も楽しくドライブをしながら心霊スポットを目指しています。本当に"出る"なんて思っていないから行けるんでしょうね。
「お菓子もジュースも買ったし、準備はオッケー。しゅっぱーつ」
「お前ね……。どんだけ食べるつもりなんだよ……。往復で2時間位だぞ。そんなに大量に買い込んで。俺の財布がかわいそうだろ」
「ケチケチしないの。免許取り立ての運転に命懸けで付き合ってあげようっていうんだから、このくらいはしてもらわなくちゃね」
「だからってお前、そんなに食べたら太るぞ」
「大丈夫。ソフトボール部で毎日毎日、散々絞られてるんだから、お盆休みの時くらいは好きにさせてよ」
「お菓子こぼすなよ。父さんの車、借りてきてるんだから、綺麗に返さないと俺が怒られるんだからな」
「分かってるって。もう、うるさい男はモテないよ。だから免許取っても一緒にドライブに付き合ってくれる彼女もできないんだよ」
「うるせぇ。ほっとけ」
「まあこうしてかわいい妹が付き合ってあげてるんだから、満足してよね」
「えっ、どこにかわいい妹がいるの?目の前にはエサをパクつくサルしかいないけど?だけど、なんでよりによって心霊スポットなんだよ。初めてのナイトドライブなのに」
「そっちこそうるさいってのよ。夏の夜のドライブって言ったら心霊スポットに決まってるでしょ。それよりちゃんと前見て、気を付けて運転してよね。心霊スポット探検に行って二人でお化けになっちゃった、なんてシャレにもならないからね。16歳で死んじゃったなんて言ったらこの世に未練が残りすぎちゃって絶対に化けて出るから」
「なんだよ、それ。このミスター安全運転な兄を捕まえて」
「それより、今日行くダム湖ってどういう心霊スポットなの?」
「何でも、湖に飛び込んで自殺しちゃったおねーさんの幽霊が出るらしい。失恋を悲観して飛び込んじゃったらしいんだけど、すごい綺麗なんだって噂になっていて……」
「タカシ……。とうとう人間の女の子は諦めて幽霊にいこうって魂胆なの?」
「んなわけあるかい!それよりいい加減お兄ちゃんを呼び捨てにするのをやめろ」
「だって三歳しか違わないんだしずっとそう呼んできたんだから今更変えられないよ。呼んで欲しいの?おにいちゃん♡」
「……今ちょっと寒気がした。やっぱそのままでいいわ。でも、お前、覚えてる?小さいころ家族で遊びに来たこと」
「あっ、あの湖なんだ。忘れるわけないでしょ。あれは私の人生の中でも1、2を争う位、悲しかったんだから。私が大好きでどこへ行くのにも一緒だったクマのぬいぐるみの”くまちゅん”をタカシが落っことしちゃったんだものね。アンタあの頃からいじわるだった……」
「悪かったよ。小さかったけど、あれは死ぬほど反省したからな。お前はすげービャー泣きしてたし。ちょっとからかってやるつもりでダムの上から”落っこっちゃうぞー”とかって”くまちゅん”を振ってたら手が滑って本当にポーンて飛んで遥か下にあるダム湖に落っこっちゃんたんだもんな。お前、”タカシのバカー、くまちゅんを助けに行ってあげてー”とかギャンギャン泣いてたけど、高さが数十メートル位あったから行けるわけなかったし。結局、帰り道で新しいぬいぐるみ、買ってもらうまでずっとめそめそ泣いてたよな」
「幼稚園の年長さんの時だったけど、未だにあの時のことは忘れないよ。あー、思い出したら腹立ってきた。お菓子食べる!」
「そうじゃなくてもずっと食べてるくせに。それよりもう着くからな」
「幽霊、出るかな?」
「さあな、こんなうるさい女がいるんじゃ幽霊のほうがビビっちゃうかもな」
「でも、出たらどうする?」
「動画撮って心霊特集テレビに投稿する」
「アンタ、呪われな」
「さあ、着いたぞ。お菓子しまって外に行くぞ」
「なんか想像してたより大分暗いね」
「まあ、山の中だからな。足下気を付けろよ」
「ところでさ、その美人の幽霊ってどう出てくんの?」
「なんでもダムの上を歩いて行くと真ん中辺りのところですうーっと急に出てくるらしい。で、こっちを見てから湖に飛び込んじゃうんだって」
「そのおねーさん、なにがしたいんだろうね。意味わかんないじゃん。だって自分で飛び込みたくて飛び込んだんでしょ。望みが叶ったんだからなんでそんなふうに出てくるんだろう」
「知らね。死んでみたら自分一人だけで寂しかったとかじゃねーの。ほら、行こうぜ」
「なんかさ、ちょっと怖くなってきちゃったかも」
「お前が来たいって言ったんだから、心霊スポットを楽しめよ」
「だってさ、ホントに出そうっていうか。変な雰囲気なんだもん」
「そういえばお前、小さいころから怖いもの見たがるくせに、その後一人でトイレに行けなくなったりしてたよな。ほら、行くぞ」
「おいてかないでよー。暗いんだから」
「うわっ!」
「なに、なに、なに」
「……コウモリ飛んできた」
「もう、ビックリするじゃん」
「そろそろ真ん中辺りだぞ。出てくるかな?」
「ヤダー、こわいよぅ」
「……出てこないな。向こう側まで行ってみるか。せっかく来たんだし」
「人もいないし、真っ暗なだけだね。虫は飛んでくるし」
「しょうがない。戻るか」
「もどろ、もどろ。もういいよ」
……………
「結局、何もなかったな。まあ、本当に出てくるんだったら怖いから誰も来ないか。さあ、帰ろうぜ」
とタカシは運転席から後部座席を見た途端、引き攣った顔をして固まってしまった。
つられて後ろを見た私は、ヒトは本当に驚くと声を上げることも出来ないんだと初めて知った。
後部座席には長い黒髪から水を滴らせて、膝の上に藻で真っ黒くなってしまった”くまちゅん”を抱えた、真っ白い服を着た女の人が、薄笑いを浮かべて座っていた。
くまちゅんは取れて片方だけになってしまった目で私達をじっと見つめていた。
ような気がする。
どうしても書くものが説明的になってしまいがちなので、自分に枷をかけるつもりで会話劇小説にしてみましたが、いかがでしたでしょうか?
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました。ご感想をいただけましたら反省と今後の励みになりますので、よろしくお願いいたします。