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47.新たな地位(二)

謁見の間を出た瞬間、ステラは深く息を吐いた。胸の奥がまだざわめいている。


――自分を皇太子の側近にすること。

――その場で爵位を与えること。


どれも衝撃的で、心の整理が追いつかない。


「……あの方が、この国を率いているのか」


頭の中は空っぽで、ただその場の思いつきで決めてしまうように見えた。帝国の行く末を案じてしまうほどに。


「驚いた?」


横を歩くレオナルドの声に、ステラはわずかにうなずく。


「ええ……」


その一言で、彼はすべてを悟ったようだった。


「だろうね。あれで帝国を動かしてるっていうんだから、笑えるよな」


レオナルドの呆れた表情に、ステラは胸の奥で確信する。――これまで陛下の功績だとされてきた数々は、おそらくこの人が成し遂げてきたものだ、と。自然とレオナルドを見上げていた。


足を止め、レオナルドがステラの正面に立つ。


「これからよろしく、ステラ嬢」


差し出された手に、ステラも微笑んで答えた。


「よろしくお願いします」


しっかりとした握手。その後、レオナルドはふっと笑いながら言った。


「今度、一緒に服を買いに行こう。メイド服のままじゃ側近は務まらないだろう?」


ステラはハッとした。男爵になった以上、立場にふさわしい装いが必要になる。だが、今の収入ではとても賄えない。それを思っての言葉だと悟り、胸が熱くなる。


「……ありがとうございます」


珍しく一度で素直にお礼を言うと、レオナルドは満足げに目を細めた。


「今日はもう仕事は休みにした。来月からは正式に俺の側近だ。それまでは準備をしておけ。来月からはまた、あの部屋を使うといい」


彼の楽しそうな声に、ステラの胸の高鳴りは止まらなかった。


そして最後に、レオナルドが軽やかに告げる。


「今から図書館の例の部屋に行ってごらん。……君のお祝いをしたいって言ってる人たちが待ってるから」


ステラは目を見開き、そっとうなずいた。ドレスを脱ぎ、メイド服に着替え直すと、図書館へと足を向ける。


ステラはそっと図書館の一室の扉を開けた。中に広がったのは、思いがけない光景だった。――そこには、自分を待っている仲間たちがいたのだ。


「おめでとう!」


カレンとリサ、それにロイクが声を揃えて迎えてくれる。テーブルには豪華な料理が並べられ、甘い香りと温かな雰囲気が部屋いっぱいに満ちていた。


「これって……」

「ステラが殿下の側近になるって、みんな予想してたから!」


カレンが笑顔で答える。リサもうなずき、ロイクも「準備した甲斐があったな」と軽く肩をすくめた。


ステラは胸が熱くなり、深く一礼した。


「ありがとうございます……」


そして、謁見の間での出来事を語る。男爵位を授かり、来月から正式に側近として働くことになったことを。


「……え?」


三人の表情が一斉に固まる。次の瞬間、信じられないというように目を見開いた。


「……男爵位!?」


混乱したカレンが慌てて「ステラ様!」と口走り、部屋の空気が一瞬で和やかに崩れた。あまりの慌てっぷりにステラは思わず吹き出してしまう。


「本当に……すごいことなんだね」


リサが感心したように呟く。ステラも苦笑しながら、「普通は、こんなにあっさり爵位なんていただけないものよね」と答えた。


その後は用意された料理を囲み、和やかな食卓となった。今日はレオナルドの計らいで、三人の勤務も休みにしてくれたという。だからこそ、こうしてゆっくりとお祝いができるのだ。ステラは心の中で殿下に感謝を重ねた。


しかし、カレンがふいに大声を上げる。


「これからステラとどう接すればいいの!?男爵様だし、殿下の側近だし……!」

「今まで通りでいいの」


ステラは笑って答える。だがカレンは目を潤ませて、「離れるのが寂しい」と小さく漏らした。その言葉にステラも胸が締めつけられる。部屋も仕事も共にしてきた日々が、宝物のように思えた。


そんな空気を和ませるように、リサが声をかけた。


「そういえば、来月からのお仕事の服はどうするの?」


そして続けて、「私の洋服を貸してあげてもいいし、いくつか譲ることもできるわ」と提案してくれる。


ステラは少し迷ったが、正直に打ち明けた。


「殿下が、一緒に買いに行こうって……」


一瞬で三人の瞳が輝きを増す。


「なにそれ!」

「二人で!?」

「殿下と!?」


ロイクが真顔でリサに言った。


「二人のデートの邪魔しちゃいけないよ」

「そうですね」


リサも即答で同意する。


「きゃーーっ!」


カレンは一人で飛び跳ねながらはしゃぎだした。


「それならデート用の服も必要だね」

「そうね。その服は私が貸すわ!」


リサの張り切りに、カレンとロイクまで乗っかる。


「ほら、決まり!」

「決まりだな」


三人の圧に、ステラは顔を赤くしながらも返す言葉を失っていた。


「ちょ、ちょっと待って……」


結局、たじたじのまま押し切られるステラだった。


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