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44.事件のその後(一)


ステラは元の部屋に戻り、再び日常のメイドとしての日々を送っていた。


数日後、ようやくカレンと再会できる。部屋に入ってきたカレンは、ステラの姿を見つけるなり駆け寄り、勢いよく抱きしめた。


「ありがとう、ステラ!」


突然の抱擁に戸惑いながらも、ステラはそっと背中をなでる。どうやらミラから直接話を聞き、さらにロイクからもおとり役の件を聞かされていたらしい。


「わたしは、自分にできることをやっただけだよ」


ステラがそう答えると、カレンは安心したように笑った。その笑顔を見たステラも、胸の奥から温かさがこみ上げてきた。


カレンは嬉しそうに続ける。


「ねぇ、今度のお休みにうちに来て!ミラが“絶対ステラに会いたい!”って言ってるの」

「……そうなの!?そういうことなら、行かせてもらおうかな」


こうして次の休みに、ふたりでカレンの実家へ行くことが決まった。


するとカレンが、目を輝かせて言った。


「そういえば、ステラって殿下の部屋の隣に部屋をもらってたんでしょ?何それ!?」


途端にステラの顔が赤くなる。先日の出来事が脳裏に浮かび、心臓が早鐘を打つ。


「な、なにもなかったから!」


慌てて否定するが、真っ赤な顔は説得力に欠ける。


「えぇ~、あやしい!絶対なにかあったでしょ!」


カレンはきゃあきゃあと騒ぎ、興味津々に詰め寄ってくる。ステラは必死にごまかしたが、カレンの疑念はますます深まるばかりだった。


その日の午後、洗濯係として仕事をしていると、久しぶりにメイド長グレタが姿を現した。無表情のまま真っすぐ歩いてくる姿に、ステラの背筋は自然と伸びる。


「帰ってきたのなら、まず私に報告すべきでしょう」


低い声で叱られ、ステラは肩を落として「申し訳ありませんでした」と頭を下げた。


少し離れた場所から見ていたカレンは、グレタが去ったあとすぐ駆け寄り、ステラの肩をポンと叩いた。


「すっごく怒ってたね。でも大丈夫、大丈夫!」


笑いながら励ますその調子に、ステラも苦笑いを返すしかなかった。


夜、仕事が終わると侍女のリサから招待があり、ステラとカレンは久しぶりに彼女の部屋を訪れた。リサは手作りのお菓子を並べてふたりを迎える。


「本当に心配してたのよ。カレンの妹さんのことも、ステラが囮になるって聞いたときも……。無事でよかった」


その言葉に、ふたりは静かにうなずく。そしてリサが続けた。


「そういえば……メイド長が殿下に物申してるのを見たの。ステラがおとりになるって聞きつけて、殿下に“そんな危ないことをさせるな”って。メイド長の座を下ろされるかもしれないのに、堂々と」

「……」


ステラの胸に温かいものが広がる。あの無表情の裏に、そんな思いが隠されていたとは。


カレンは「さっきもそうだったよね。ステラのこと、すごく心配してたんだ」と笑い、ステラと顔を見合わせる。


「わかりづらいね」


ふたりは同時にそう言い、くすくすと笑い合った。



外出届を出した休みの日。ステラとカレンは、ロイクを護衛につけてカレンの家へと向かっていた。


道すがら、ステラはふと口にする。


「事件も解決しましたし、皇宮でも嫌がらせをする人はいません。もう護衛は必要ないのでは?」


ロイクはきっぱりと首を振った。


「殿下の命ですから。やめるわけにはいきません」


そして、真顔のまま言葉を足す。


「殿下はステラ嬢をとても大切にしておられる。だから俺も守らねば」


ステラは思わず言葉を失い、頬が熱くなる。横で聞いていたカレンは、微笑ましそうに二人を眺めていた。


やがてカレンの家に到着すると、明るい雰囲気の両親とミラが出迎えてくれた。カレンがこの家の娘だとよくわかる、陽気で優しい空気を纏った家族だった。


「カレンと仲良くしてくれてありがとうね」


両親はそう言ってステラに感謝を伝え、ロイクには「今日も来てくれてありがとう」と頭を下げる。


「今日も?」と首をかしげるステラ。母親が微笑んで説明した。


「ええ、あれから心配してミラの様子を見に来てくださっているんです」


ロイクのそんな一面にステラは驚いたが、皇都で子どもに慕われていた姿を思い出し、意外ではないかもしれないと考え直した。


ミラはステラを見つけるなり、ぱっと駆け寄ってきた。


「ステラお姉ちゃん!」


以前よりも子どもらしい元気さが戻ったその顔に、ステラは胸を撫でおろす。


「一緒に遊ぼう!」


ミラの提案は――お菓子作りだった。


「お母さんもお姉ちゃんもできないの。だからステラお姉ちゃんに教えてもらいたい!」


そう言って笑顔を見せるミラ。


ステラはかつて、リサに教わって簡単なお菓子を作れるようになっていた。


「じゃあ、一緒に作りましょう」


カレンも加わり、三人で台所に立つ。だが結果は――ステラとミラはきれいに焼けたのに、カレンだけは真っ黒なクッキーを量産してしまった。


「やっぱりダメだったぁ……」


カレンは肩を落とすが、ミラはステラの焼いたクッキーを嬉しそうに抱えて笑っていた。


楽しい時間はあっという間に過ぎ、夕暮れ。帰り道、ロイクは手にカレンが作った黒焦げクッキーの袋を提げ、腹を抱えて笑っていた。


「こんな真っ黒に焼けるなんて、逆に才能だな!」

「笑わないでくださいってば!」


怒るカレンと笑い続けるロイク。ふたりの賑やかなやり取りを、ステラは穏やかに見守りながら歩いていった。


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