五、赤ずきん少女と夢の浦島太郎
セレアとバナナボートを抱えた桃太郎は、海を目指して森の中をずんずん歩きました。
ずんずんずんずん歩きました。
すると、森が開けて大海原が見渡せる浜辺にたどり着きました。
鼻をくすぐる潮の香りに、セレアは大海原に向け、清々しい笑顔で叫びました。
「なんてご都合主義な展開なのー」
ざぱーん、と浜辺に波打つ音がセレアの言葉をかき消しました。
「桃太郎もこんなんだしー、そろそろネタに限界来てるんじゃないー?」
ふと、桃太郎がセレアの肩を軽くとんとんと叩きました。
「あっちに何かいる」
「え?」
セレアは桃太郎の案内で、その場所へと向かいました。
すると、少し離れた浜辺で何やらダンスの練習をする浦島太郎を見つけました。
浦島太郎はセレア達の存在に気付くと歌を口ずさみ、踊りながらやってきました。
「♪じゃ~ぱ・ふんふん・じゃぱ・ふんふん・夢のじゃぱ・ふんふん・太郎~」
「それ全部規制音つけて!」
セレアは耳をふさいで叫びました。
「今のは絶対削除要請殺到よ! 今度こそこの物語はおしまいよ!」
桃太郎はセレアをなだめました。
「大丈夫。浦島太郎には夢がある」
「――って、言ってる意味が噛み合ってないんですけど!」
そんな二人をよそに浦島太郎はテレビショッピングを始めました。
「さて今回ご紹介しますのは、あちらの浜辺にいらっしゃる亀さん」
浦島太郎が手で示す先には、遠く浜辺で子供たちにいじめられている亀の姿がありました。
セレアは思わず叫びました。
「紹介なんていらないからすぐにその亀を助けてあげてー!」
「実は今、子供たちの間で大人気なんです」
「人気の使い方間違ってるから!」
浦島太郎は今度は桃太郎に向けて営業を始めました。
「なんと、あの亀さん。最新の小型潜水艦なんです」
「おぉ!」
「『おぉ!』じゃないでしょ! 童話の雰囲気を一気に崩落させてどーすんの!」
「あれに乗って冒険の一ページに出掛けられてみてはいかがですか?」
セレアは二人の間に割り込んで止めました。
「行かないから! 私たちはこれからバナナボートで鬼ヶ島に――」
「今ならこの小亀五匹がセットになって」
「おぉ!」
「あんた達、愛護団体に訴えるわよ!」
浦島太郎は人差し指を振って、
「まだまだこれだけではありませんよ。さらに竜宮城からもらった未開封の玉手箱もセットにして――」
「もらった物くらい開けなさいよ!」
「なんと、お値段税込三百九十円!」
「おぉ!」
「破格し過ぎでしょ!」
「限定たったの一組。お急ぎください。フリーダイヤル――」
「この距離なんだから電話注文は必要ないでしょ!」
桃太郎は早速手持ちのバナナボートで電話注文しました。
「もしもし、こちら桃太郎」
すると浦島太郎が手持ちの小亀を耳に当て、
「ご注文ありがとうございます、こちら太郎ショッピング」
「――って、ちょっとあんた達! 何そのツッコミ所満載は! 少しはこっちの身も考えてよね!」
「その商品買います」
「お買い上げありがとうございます」
桃太郎は小型潜水艦をゲットしました。
「ちょっと! 何勝手に――私嫌だからね!」
セレアは反対しましたが、桃太郎と浦島太郎は一緒に竜宮城に行くことになりました。だからセレアも一緒に――
「わかったわよ! 行けばいいんでしょ、行けば!」
そういうことで、三人仲良く冒険に出掛けることになりました。