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四、赤ずきん少女with桃太郎



 セレアは逃げ足の早い白タイツ男を見失ってしまいました。

「相手はジェットエンジンですもの。仕方ないわよね」

 セレアは白タイツ男を追うことを諦めました。



 しばらく飛んでいると、雪国を抜け、森の風景に戻りました。


 馴染みある童話的雰囲気に戻りつつあったので、セレアは軍事ヘリを降り、再び森の中を歩くことにしました。



「良かった。やっと自分の居場所に帰れたって感じね」

 セレアは大きくノビをすると深呼吸をしました。

「やっぱり森の中が一番ね」

 セレアはお祖母さんのお見舞いのことをすっかり忘れて森林浴を楽しみ――

「あ。そうよ、忘れていたわ。私の物語の大部分は、お見舞いに行くことで占められているんだったわ」

 ようやくセレアは本来の目的を思い出し、病院へ向かう道のりを探しました。

「童話でナビゲーション出すのはさすがにまずいわよね」

 セレアは童話で言ってはならないキーワードを口にしました。

「適当に歩こうっと」

 セレアは気楽に歩き出しました。






 しばらく歩いていると、セレアは小川にたどり着きました。

「ちょっと一休みしましょっ、と」

 喉が渇いていたセレアは川辺に近づき、水を飲もうとしました。



 その時です。








 川上の方から、どんぶらこーどんぶらこーとバナナボートにまたがった桃太郎が流れて――

「って、もうこの時点で明らかに世界観おかしいでしょ!」

 セレアは激しくツッコミました。そして同時にハッと気付きました。

「まさか、ここから一気に話の流れを『桃太郎』に持っていく気じゃ……」

 セレアはくるりと背中を向けて、川を流れ行く桃太郎から顔を逸らしました。

「関わっちゃダメ。絶対に目を合わせちゃダメよ、私」

 セレアは独り言を呟きました。




 しかし。





 背後では桃太郎が腰に携えていたオールを抜き放つと、

「――って、なんで鬼退治しに行くのに武器がオールなのよ! それでどうやって戦いを挑む気だったわけ!?」

 バナナボートにまたがった桃太郎は一生懸命オールを漕いで、セレアのいる岸辺にたどり着きました。


 桃太郎はバナナボートから降りるとセレアに尋ねました。

「ここに来る途中、滝に落ちて仲間を見失ってしまったんだが――」

「なんでバナナボートで滝に挑んだの!? なんであんただけ平然とした顔で生き残ってんのよ!」

「仲間を見なかったか?」

「見てないわよ!」

 桃太郎は残念そうに項垂れました。

「やはり止める仲間を振り切って一人でバナナボートに乗るべきじゃなかった」

「あんたの仲間は川上にいるわよ! 心配されているのはあんたの方よ!」

「鬼ヶ島に行きたかったなぁ……」

「――って、なにそれ! 主役なのに願望!?」

 桃太郎はその場にうずくまると、膝を抱えて小川を見つめました。

「鮭の稚魚になりたい……」

「海ね! 海目指したいのね!」

「やっぱさー。これからの時代、鬼退治をする正義の味方ってだけじゃぁ売り込みが弱いんだよ」

「売り込みって何!?」

「鬼ヶ島にバナナボートでカッコ良く乗り付けてギネスに登録されないと――」

「そんな正義感で鬼退治に旅立ったわけ!?」

「俺が仲間にした三匹の家来なんてスゲーんだぞ。キジの奴は『キジも鳴かずば撃たれまい』って教科書デビューしているし、猿の奴は色んな童話からオファーきているし、犬の奴なんか『ホワイト学割』でCMデビューしたんだぞ? それなのに主役の俺ときたらどうだ? 出演したのは桃太郎一本だけじゃないか」

「そりゃ他の童話にあんたが出たら、読み手はどっちが主役か分からなくなるわよね」

「俺はこれからどうすればいい?」

「鬼ヶ島に行けばいいじゃない? 本筋通りに」

 桃太郎はセレアに目を向けて尋ねました。

「一緒に鬼退治に出掛けないか?」

「何その『コンビニ寄ってく?』的なノリ。行かないわよ」

 セレアはつんとそっぽを向きました。

「鬼ヶ島には金銀財宝があるのになぁ……」

「行くわ」

 欲に目がくらんだセレアは喜んで桃太郎と鬼退治に出掛けました。

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