三、赤ずきん少女と不思議の国
セレアは白タイツ男を追いかけ、森の中を全力疾走しました。
白タイツ男は何やらチラチラと、しきりに片手のマラカスを気にしていました。
白タイツ男は呟きました。
「大変だ、時間がない。このままではお茶会に遅刻してしまう」
「――って、物理的に変でしょ! 今の台詞!」
ツッコミを入れてからセレアはピンと閃きました。
「そういうことだったのね、やっとわかったわ。この流れは不思議の国のアリス展開ね。――と、いうことはもしかして」
セレアは前を走る白タイツ男を見つめました。そしてようやく悟って絶叫しました。
「嫌だから! あんな白ウサギ嫌だから!」
やがて白タイツ男は森の奥深くにあったトンネルの中へと入って行きました。
セレアもその中へと入りました。
「このトンネルを抜けた先は、きっと不思議の国ね」
セレアは先の展開を予想し、期待に胸を膨らませました。
「え? 違うの?」
何度も同じパターンでいくかよ展開でした。
「えッ! 何それ! どういうこと?」
トンネルの先に光が見えます。
「早ッ!」
もうすぐ出口です。
「ちょっと待って! このトンネルに何の意味があったの?」
トンネルを抜けると、
そこは雪国でした。
「寒ッ! ってか、何なのこの展開! 童話関係なくなってるじゃない!」
怒るセレアをよそに、白タイツ男はマラカスを足に装着すると、持ち手の部分からジェット・エンジンを噴射させ、雪の上を滑っていきました。
「あり得ないでしょ! 童話でジェット・エンジンなんて世界観を壊すようなものだわ!」
叫んだところで白タイツ男が戻ってくることはありませんでした。
セレアは憎々しげに奥歯を噛みしめました。
「何なの、この話の流れ。ぐだぐだもいいとこだわ。パロディだからって、どんだけ手を抜いてんのよ」
セレアは何かを閃きました。
「そういう風にやるんだったら私だって――」
そう言って、セレアは雪の上に座り込むと、持っていたカゴの中から何やら緻密な機材を取り出しました。
そしてアンテナを張って、誰かと通信を始めました。
しばらくすると、セレアの上空に軍事ヘリがやってきました。
セレアは降りてきた縄ばしごを登ると、ヘリに乗り込み、白タイツ男を追いかけました。