八、赤ずきん少女 vs シンデレラ
セレアとお供のマーメイドは海面から何事なく浮上しました。
浜辺にいた人々は恐怖に悲鳴を上げて、どこかへ逃げていきました。
するとセレアが突然周囲を……以下略。
「何が『以下略』よ! 何なの、この扱い! 童話でもファンタジーでも第三者の反応なんて、いつも完全スルーされていたじゃない!」
「お嬢様、わたくしめとはここでお別れとなります」
「え! 何そのいきなり展開」
「わたくしめは陸地では生きられません」
「それ正論だけど、確かに何度も突っ込もうと思ったけど、まだ何もしてないよね? 何の意味があって今までお供――」
「姫様をお願いします」
「ねぇ聞いてる? 人の話」
マーメイドが涙ながらに呪文を唱えると……
あら不思議。そこは魔王城の中でした。
「――って、なんでRPG的なノリでページ数ぶっ飛ばさなきゃなんないのよ! 物語に大切なのは過程でしょ! 読む人が感情移入する重要なポイントでしょ!」
飽きと移入は紙一重。――ってなわけで、
「ちょっと! 何勝手に話進め」
ちょうど今お城では武道会が開かれていました。
「――って、それ変換ミスだよね!? 絶対変換ミスだよね!?」
お城の中にはたくさんの人が――
「無視しないで! お願いだから変換ミスだって認めて! ドレスを着てるってことにして!」
その人たちの中に一際目立つドレスに身を包んだ女戦士がいました。
「ドレスは設定だけ!? やっぱり武道会なの、これ!」
女戦士であるシンデレラは城の柱時計に目をやり呟きました。
「夜の十二時までに王子様を倒さなければ……」
「何!? 何なの!? 怖いから! 童話でそんなことしたら子供はトラウマになっちゃうから!」
シンデレラは目を閉じると、静かに精神統一をしました。
目を閉じたままシンデレラは呟きました。
「もう一度、ガラスの靴を落とすイメージトレーニングを――」
「もはや何の為の用意周到!? 恋心だよね? それって恋心と思っていいんだよね!?」
シンデレラはカッと目を見開くと、眼中に王子様の姿をとらえました。
「――いざ、参ります!」
「ちょっとストップ!」
セレアは物語の流れを全力で止めました。
しかし、話の流れは止まりません。
「だから何なの、そのRPG的な勢い! ダメだからね! これR15指定されてないから!」
シンデレラは雄叫びを上げると、剣を振りかざし、王子様に向かって駆け出しました。
セレアは舌打ちしました。
「こうなったら私が体を張って止めるしかないようね」
セレアは童話赤ずきん用の衣装を変化させ、戦闘服へと切り替えました。
そして腰に携えてた剣を抜き放つと雄叫びを上げ、シンデレラに向かって駆け出しました。
セレアは王子様を庇うようにしてシンデレラの前に立ちふさがりました。
シンデレラの剣とセレアの剣が共にぶつかって交わり、火花が散りました。
シンデレラは舌打ちしました。
「邪魔しないで」
セレアは不敵に笑いました。
「新参者のあんたに、この物語を潰されてたまるもんですか」
「この八話目の主要人物はシンデレラであるこの私よ」
「残念だったわね。この話数、正式に数えれば十話目よ。今更だけど『はじめに。』は正直いらないんじゃないかって、すごく後悔しているんだから」
セレアはシンデレラの剣を弾き飛ばしました。
シンデレラは口元を薄く引いて笑いました。
「なかなかやるわね、あなた」
「ご都合主義を逆手にとらせてもらったわ。こんな実力があったなんて自分でも驚きよ」
「どうやら本気にならなきゃいけないようね」
「えぇ、ぜひそうして。これは童話だから簡単に話をまとめないといけないみたいなの」
シンデレラの目が鋭くなりました。
そして剣を振りかざし、セレアに向かって突進しました。
――次話へ続く。
「って、何この週刊漫画みたいな終わり方!」