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プロローグ

朝霧星蘭は新聞紙を見て溜息を吐いていた。

そこには星蘭と同じ朝霧の名前が踊っている。

記事の内容はこうだ…

世界言語ワールドワード朝霧義樹

 試合会場を完封!!

世界一の言霊使いはやっぱり圧倒的王者だった!!」


「はぁ……。」

ぱっと見は単なる褒め言葉。だが、星蘭は知っている。その言葉がどれ程の皮肉かと。

「あーあ。まーた、やっちゃったよ…、あの馬鹿兄貴…。」


普通は試合を完封と書かれる所が会場を、になっているのは、まぁ、その通りの結果だったのだろう。

おそらく、試合会場が丸々一つ消えた、という意味なのだろうと妹としては容易に想像がついた。

朝霧義樹。おおまかなプロフィールは新聞記事の通りだ。王者というのは間違ってはいない。十二歳という若さでトップの座を獲得し、六年経った今も世界で右に出る者は居ないという、まさに最強の兄。

「…いつか、地球破壊、とかしないよね?」

最大の弱点はどんな相手にも手を抜かない、という義樹の信条に依るもの、というのだからそれも又、皮肉だ。

「と、僕がこんなこと言ったら駄目か。全く持って似ちゃったな。」

言霊使いというのは所謂魔法使いの様なものと考えて貰えばいい。

古来から日本では言葉には神が宿るとされ、多くの人間が研究に研究を重ねた。

メタな事を言ってしまえば、星蘭の居る世界はそんな努力が実った世界としての地球なのであった。

つまり、言葉によって特定の事象を起こせる存在。

それが言霊使いなのであった。

又、どんな人でも使えるか、と言えばそうではなく。

詳しい事はこの後に解説しよう。

とにかく今重要なのは、星蘭も一人の言霊使い、……を目指している身だということ。ならば、言葉は考えてから口に出すべきだろう。

星蘭は口にパンの最後の一欠片を放り込むと入学式の準備を始めた。


「…うーん、うーーん。」

それから数分後。星蘭は鏡とにらめっこしていた。

良く晴れた空を連想させるような色素の薄い髪はショートカットで、右の前髪は瞳と同じ藍色の星形のピンで留めている。

着ているのは紺色のニットベストに白のブラウス。それに青いネクタイを締めている。下は青のタータンチェックのミニスカートに紺色のニーハイソックスといった出で立ちだった。

「うーーん、どうだろ?似合ってるかなぁ?」

そう呟いてみるもここには星蘭しか居ない。

評価してくれる者が他に居ないのだから、判断などできよう筈も無かった。

「ま、いっか。後はー、筆記用具と弁当とー……こんなもんかな…よし。行ってきまーす。」

最低限必要だろうと思う物をリュックに詰め込み、背負うと星蘭は家を出た。


春日井鈴は今日という日を楽しみに待っていた。

ようやく、修行の成果を皆に披露出来る。

そして、入学試験でその実力を発揮し、華々しく言霊使いの一人としてのデビューを飾るのだ。

ふふふ、と小さく笑うと周囲の者がびっくりしたように若干鈴から距離を取った。

しかし、そんな事は鈴にはどうでも良かった。

入学試験の具体的な内容は極秘となっている為分からないが、結果はその者の力量をはっきりと示す事になるだろう、とは案内に書いてあったから、その点は期待しても良い筈だ。

そんな事を考えていると。

「………………何かしら、あれは?」


「うーーん、良い天気!やっぱり僕ってついてるね。」

星蘭は空を見ると満足げに髪に触れる。それは星蘭がご機嫌な時の癖だ。彼女は自分の髪の色を気に入っていて、密かな自慢にすら思っているのだった。

星蘭が外に出たのは実に一週間ぶりだった。

それまでの間は入学課題に襲われていたのだ。

「それにしても、自分の属性の特徴を研究して、レポートに纏めろって、なんで入学前から授業みたいな事をやらなきゃならないんだか。大体入学だって、試験に受からないと出来ないのに…。」

ぶつくさ文句を言いながら歩く彼女は言葉の割には嫌そうには見えなかった。いや、課題はめんどかったのだ。でもそれ以上に期待の方が大きかった。

やっと。やっと兄と同じ地点に立てるかもしれない。

そう思うだけで、身体の底から喜びが込み上げてきた。

「よし」

これから頑張るぞ、と言おうとして。しかし、言葉は続かなかった。それどころじゃなかった。

「一般人が妖魔に襲われてる!?大変、助けに行かないと!」


そして二人は再会する


星蘭が現場に駆けつけると、そこでは既に見知った一人の言霊使いが戦っていた。

「飛鳥さん!大丈夫ですか!?」

くれない 飛鳥あすかだった。

彼女は何匹もの動物を呼び出して妖魔に立ち向かっているものの、圧倒的に劣勢だった。

「朝霧ちゃん!ここは飛鳥が抑えておくから早く逃げて!!」

「そんなこと言われても……!」

このまま放置していては彼女の方が妖魔に殺られてしまうだろう。どうしようか。

【炎よ 灼熱の檻となれ】

判断に迷っているとこれまた聞いたことのある声がした。

「ふん、いつまで惨めな姿を曝すつもりですの?星蘭。」

春日井鈴の声だった。


「鈴!?何でこんなとこに?」

「今はそんなこと言ってる場合かしら?残念ながら、あの妖魔、かなり手ごわそうです。仕方ないから共闘しましょう。」

言いながら、鈴は前方を見る。

彼女の視線を追うと怒って標的を変えたらしい妖魔が向かって来ているのが見えた。確かに今は一刻を争う。

【風よ 吹き荒れよ】

【炎よ かの者を焼き払う業火となれ】

星蘭が起こした風にさっきよりも勢いを増した炎が舞う。二つはやがて大きな渦となって妖魔を包んでいく。

「やった!」

「やりました!」

二人はハイタッチしかけた手を慌てて放す。

「……ふん、やはり私の方が強かったですわね。」

「何言ってんの?共闘しなきゃ勝てなかった癖に。」

「むむむむむ…!」

「…何?やろうって?」

「鈴ちゃん、朝霧ちゃん、ちょっと待って!

喜ぶのはまだ早いよ!」

飛鳥の声に二人とも我に帰り、改めて妖魔の方を見る。するとそこには。

「「うわぁ…。」」

猛々と燃え盛る炎の柱が立ち昇っていた。

「ヤバいよ、これ…」

「どど、どうしますの?」

二人とも妖魔を退治するのにいっぱいでその後のことまで気が回っていなかった。


かくて終決


「と、とにかく、炎を静めなきゃ…。」

「とはいっても、何か良い案が有って?」

二人が話している間にも炎の柱は周囲を焼いていく。

「大体、何であんな強い炎にしたのさ?」

「仕方ないでしょう!!それにアイツは強敵でしたから、きっと私の炎だけでは多分…。せ、星蘭一応お礼を言っておきますわ…。」

星蘭の非難するような言葉に鈴は痛い所をつかれたような表情をしつつ返す。その言葉は後半は殆ど聞き取れないようなか細い声で。

「ん?何?聞き取れなかった。」

やっぱり星蘭は聞こえなかった。

「…んもう!どうしてちゃんと聞かないんですの!?大体星蘭ってばいつも…」

鈴がお小言を始めようとすると、ぽつ、と顔に何かが当たった。

「ん、何ですの?」

それはぽつ、ぽつと勢いを増していき、やがてさぁーっと言う音へと変わった。…雨だった。

「げ。」

それを見て星蘭は嫌そうな声を漏らす。

「…あのバカ兄貴ってば、毎回美味しい所だけ持っていくもんなぁ。」

彼女は雨によって鎮まる炎を見上げながら、小さく呟いた。


…きっと義樹は何処かでそれを聞いているのだろう。































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