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魔法ノ書編 6+


「ちょっと、左側弾幕薄いよ、何やってんの!」

「うっせえミコ厨、黙って魔法撃ってろ!」

「ここにいる八割くらいはミコ厨だろ、募集的に考え……って、うぎゃあああああ!?」

「うわああああ衛生兵っ、衛生へえええええいっ!」

「ああもう崩れたじゃねえか、誰かそっち支えてやれ!」


 あちこちから聞こえてくるそんな混乱した騒ぎに、青年は大笑いしながら剣を振るう。イベント開始から30分、中立都市は色んな意味で大賑わいだった。悲鳴に罵倒に咆哮に。時たま助けを求める声がぷちっと魔物に潰されつつも、イベントは進んでいく。


 ちなみに今回のイベントでは、デスペナルティがかなり緩和されている。いつもは「ファンタジーなもう1つの世界で楽しもう」がコンセプトなために、あえて厳しく設定されているのだが、本日のイベントはどう考えても死に戻り前提だからだ。


「たあああああッ!」

 青年や、近接系のプレイヤーたちは守りの隙間をぬって、敵に突っ込んでいく。武器を振り回し、何体かの魔物をワンキルしたものの、焼け石に水といった表現がピッタリな様相だった。

 それでも、諦めるとか、絶望とか、そんなものの前に、楽しさがある。今まで、住民とのやり取りが殆どだった青年だが、プレイヤー同士でこういうのもいいなあ、なんて頭の端で思うのだった。


「おおい、今から大型魔法ぶっ放すぞー! 巻き込まれないようになー!」

 遠くからそんな声が聞こえてきて、青年はぎょっと肩を揺らす。慌てて近くの店に避難した。とは言え、店も破壊可能なので、ここにいても巻き込まれる可能性はゼロではないが、流石に建物を巻き込むほどの魔法は使用しないはずだ。守る対象をぶっ壊してどうする、という話になってしまう。

 次の瞬間、店の外から聞こえてきた爆発音に、派手だなあと苦笑する青年。外をうかがうと、魔物だらけだった一画が空白になっていて、思わず「おおお」と感嘆の声を上げた。


「もう大型魔法は無理! 回復アイテム切れた。つか、やっぱ詠唱時間なげーし、めんどい」

「そうか、ならお前はもう用済みだ」

「おお、すまん、俺が守れるのは二人までなんだ」

「安らかに逝ってくれ。恨むならこいつら恨めよ。な?」

「ひでえ! ほんッとひでえお前ら!」

 種族混成でじゃれ合うプレイヤーたちのやり取りに、青年は堪えきれない笑いで頬を緩めつつ剣を振るう。三体目を屠ったところで、右方から声が聞こえてきた。


「シュンおにーさん、後ろっす!」

 青年はぎょっとして振り返り、そのまま横薙ぎに剣を振るう。タイミングが良かったのか、後ろから襲ってきていた魔物にクリティカルヒットし、事なきを得る青年だった。

 青年はほっと息を吐いてから、声の方へと向き直る。そこにはペンタがいた。


「おにーさん、危なかったすねー」

「あれ、ペンタも来たんだ?」

「『旅人さんだけにあの街を守らせるなんて駄目だ、俺たちも頑張って対抗するぞ!』 ……っていうのが表向きっすね。実際を言うと、魔物数を考えると、旅人さんだけじゃ到底無理っすから、ウチらも順次投入されてるってだけっす」

 実も蓋も無い言葉に、青年は思わず笑った。


「でもペンタって戦えないんじゃなかったか?」

「戦えないっすよー。でも……」

 ひょい、と手の上にアイテムが現れる。回復薬だった。渡されたので、素直に受け取る青年。


「ウチは薬屋っすからね、協力くらいは出来るっす。あと……」

 再び、手の上にアイテムが現れる。初めて見る物体に、青年は首を傾げる。

 ペンタは青年の見ている前で、それを思い切り放り投げた。少しして辺りに響く、ぱーん、という破裂音。


「こういうのでサポート出来るっす」

「おおう……」

 爆弾か。そういえばそんなアイテムもあったような、なんて青年は思い出す。アイテムを使うより自分で殴ったほうが早いし強いので、使う機会もなく忘れていた。


「ということで、とりあえずMP切れの旅人さんのとこ、回ってくるっす。シュンおにーさんも頑張るっすよー!」

「おーう。ペンタもなー」

 手を振って別れる。

 この辺りも魔物が少なくなってきたようだし、別の区画に行ってみるか。青年は内心でひとりごちて、移動を始めた。





「俺、シーフなんだって! 盗賊なんだって! ちょ、むりむりむりむり」

「うっせー、名前を『どろぼう』にされたくなきゃ、キリキリ働け! つーかオメー、こんな時に火事場泥棒とか恥ずかしくねえのかっ!」

「いや、別に、ってうぉっ、やべ、掠っただけなのにHP減りまくりいうおおおおおああああ!?」

「っだー、役にたたねえ奴! 盾にもなんねーの!」


 住人とプレイヤーのそんなやり取りを背に、青年は魔物の近くへと向かう。この辺りの区画は手が足りないのか、まだまだ魔物に溢れていた。

 青年は、魔物に突撃するか、補助に回るか一瞬迷った後、崩れそうになっていたプレイヤーの補助に回ることにした。ちくちくと守りの隙間から魔物を倒していれば、敵の頭上に魔法が降り注ぐ。どうやら魔法使いの集団が到着したらしい。これでこの辺りもじきに制圧が完了するだろう。ほっと息を吐く青年だった。


「ありがとうございました」

 補助に回った男性プレイヤーに礼を言われ、青年は照れながらも頷く。そのままそこから去ろうと踵を返した瞬間、声をかけられた。


「あの、お願いがあるんですけど」

「ん、何ですか?」

「僕と一緒に回って貰えませんか? 実は、色々あって今日初めてこっちに来たので、この都市の地理が良く判ってないんですよね」

 意外な言葉に、青年は目を丸くする。テスター後期組のログインから二週間ほどが経っている今、イベントがあるということもあって、大抵のプレイヤーがこの都市に足を運んでいるはずなのだが。

 そんな疑問を感じたものの、初心者には優しくしなければ、と青年は笑う。


「いいですよ。俺はシュンって言います」

 男に、手を差し出す。


「僕はタローです。よろしくお願いしますね、シュン」

 タローと名乗った黒髪の男は、そう言って嬉しそうに青年の手を取った。





 都市内を回る、二人のプレイヤー。二人は、補助に回ったり、敵を倒したり、精霊が回復アイテムを配る手伝いをしたり、その場その場での最善を尽くしていく。


「ふふふ……! やるわねアナタたち!」

 そんな中、不意に女の声が響いた。何事かと思い、声の方へと視線を向けると、そこには白い狼のような大きい魔物と、その上に仁王立ちする少女がいた。


「我が名はスプリンガー!」

 仮面舞踏会のような、ド派手な蝶々の仮面をつけた少女――スプリンガーは高らかな声で言う。

 しかしどう見てもハルだった。青年は思わず、ぶほっと吹き出す。隣にいたタローも、一目見た瞬間に吹き出し、ひくひくと肩を揺らした。

 周囲にいたプレイヤーたちも、一目で誰だか判ったのか、にやにやと締まりのない表情をしている。一瞬の間に、空気が緩みきったものの、彼女はそれを引き締めるように宣言した。


「ふふふ、ちびちびと魔物を差し向けるのはもう飽きたわ! 今からこの子がアナタたちのお相手よ!」

 イベント最後のラスボス戦ということか。その場にいた全員がそう悟る。スプリンガー(※どう見てもハル)は白い獣からひょいっと飛び降りると、高笑いしながら空を飛んで去っていった。


「あー、面白い……」

 いまだ肩を揺らし続けるタローに、青年は同意して頷く。相変わらずハルはハルだなあ、なんて妙にほのぼのした青年だった。


「シュン、行きますか?」

 暴れ出した白い獣を指差して、タローが言う。これで最後というならば、目一杯暴れるしかないだろう。


「行こう!」

 二人は、無邪気な、満面の笑顔で駆け出すのだった。

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