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異世界編 5


 ちゃっかりとエスカルーナの殻を集めてから、少年と二人で地面に座る。殻はそのまま、まとめて地面に置いてあった。カバンにしまうのは、彼から情報を収集してからにする。

 カバンのことをマジックアイテムだと誤魔化せるようであればそのまま持って帰るし、場合によっては明日取りに来ることも考えよう。



「えっと……どこから説明したらいいんでしょう?」

「ねえ、その前にお名前教えてよ? 私はチハルって言うんだ」

「あ、はい。僕はクオと言います」

 クオくんは礼儀正しく、ぺこりと頭を下げてくる。そんな彼に私も何だか畏まってしまって、同じように頭を下げた。



「……じゃあまずは、何で僕がこの森にいたか、からですね」

 クオくんが見た目の年齢よりも大人びた口調で、事情を説明しはじめる。

 しかしそれは、私にとって驚愕の事実だった。



「僕は、この森の奥で、おじいちゃんと一緒に暮らしていたんです。でも、先日おじいちゃんは亡くなりました」

「……そ、そっか。お悔やみ申し上げます……」



 ……何かどこかで聞いたような話キター。



 私はそんな運命の悪戯に、思わず心中で苦笑してしまう。

 しかし彼は、そんな私に気付いた様子もなく、神妙な雰囲気で続ける。私も、頭の中を燻る雑念を追い払って、真剣に耳を傾けた。



「……おじいちゃんは、魔法使いでした。しかも、光属性の魔法を使うことが出来る、数少ない魔法使いの内の一人です」

 少ないのか、光属性。派生属性は私もまだ使えない、というか試したことすらないが。

 基本属性の魔法を、一度全部試してから、と思っていたから。



「そんなおじいちゃんが、何故僕と一緒に森の奥に住んでいたかというと……その、僕の体質のせいなんです」

「クオくんの、体質?」

「はい。……その、僕は……魔物を引き寄せてしまう体質、みたいで」

「魔物を? ……ああ、なるほど」

 だから先程、あの数のエスカルーナを引き連れていたのか。納得した。



「だから僕は、光属性である結界魔法を使えるおじいちゃんと一緒に、森の奥で過ごしていたんです。街に居たら、魔法が切れた時に危ないですから」

 あれ? 魔物を寄せないための結界魔法って光属性なのか。

 魔法ノ書では、次元属性の項にあったはずだけど。



「へー、そうだったんだ……」

「あの……、えっと、それだけですか……?」

「え? じゃ、じゃあ……大変だったね……ってこんな軽く言っていいかどうか、わからないけど……」

「そ、そうじゃなくって……!」

「え!? えっ!? ほ、他に何を言ったらいいの!?」

 それ以上にどんな感想を持つべきなんだろうか。私が首を傾げていると、彼がいきなりその青い瞳からぼろぼろと涙を零し始めた。私はその涙に、物凄く狼狽する。



「えええ!? ちょっとクオくん、いきなりどうしたの!?」

「……村のみんなはこんな体質の僕を、悪魔と呼びました。みんなの恐い顔と、石を投げられたことしか覚えていません。……そんなある日、両親は僕を村から連れ出して、おじいちゃんに預けました。僕は、捨てられたも同然で……いえ、間違いなく捨てられたんでしょうね」

 彼は涙ながらに、吐き出すように言った。


 ……そうか。私は、魔物のいない世界から来たから、魔物の脅威がいまいちピンとこない。なんといっても出会った魔物は、まだカタツムリだけだし、しかも簡単に倒せる。

 でも本当なら、魔物は恐れられるべきで、そんな魔物を引き寄せる子供なんて捨てられてもおかしくないのだろう。それこそ、本人が「捨てられた」と思うくらいには。


 でも私は、違うと思う。捨てられてなんか、いないと思う。

 本当に邪魔で、両親が彼を捨てたというのなら、彼が言うようにおじいさんなんかには預けられず、野に捨てられただろう。魔物を引き寄せる体質なら、身を守る手段のない彼は、すぐに死んでしまうだろうから。

 そうしなかったのは、クオくんに生きてほしかったから。その場所――おじいさんのいる場所でなら、生きられると両親が思ったからだ。

 私は、そう思う。


 ……それは私の勝手な妄想で、もしかしたら本当に厄介払いのつもりだったかもしれないけど、私はそう思いたい。



 彼は、哀しそうに眉を歪めて、続ける。



「おじいちゃんと過ごした日々は本当に楽しかったけど……おじいちゃんでも、結界魔法は1日しかもたないから、毎日毎日おじいちゃんは僕に魔法をかけてくれて……大変だったろうって思います。僕のせいで、おじいちゃんは、こんな森で過ごすしかなくて……僕は、不幸しか呼ばないんです」

 クオくんは、そう言って俯く。その姿は弱々しくて、見ていてこっちが苦しくなるほど。



 ……それにしても、私から事情を聞いておいてなんだが、ヘビーだ。

 というか、魔物に追いかけられていたっていう話から、ここまでヘビーな話になるとは思わなかった。


 ……でも、聞いちゃったもんなあ。ここまで聞いて、彼を放っておけるわけがない。



 私はいつか、この世界を去る。それでも、今の彼を一人にしてはおけない。一人にしておいては、いけないと思う。いや、違うな。彼を一人にするのは……私が嫌なんだ。

 私はいつか、この世界から居なくなってしまうけど。その時は、魔物の居ない別世界に連れて行けばいい。地球は、戸籍の問題があるから、ちょっと難しいだろうけれど。



「ねえ、クオくん」

「……はい」

「クオくんが良ければ、一緒に来る?」

「えっ?」

 彼は、ばっと顔を上げる。ぽかんとした表情に、私は微笑んで彼の頭を撫でる。もう一方の手で、頬に残る涙の跡を拭った。



「い、いいんですか? でも僕は、魔物を……」

「……えっと、私の事情も話せば長いんだけどね、まあ魔法使いなんだ。で、たぶん結界魔法も使えるからさ」

「ええ、でも、さっきは水と風の魔法を使ってましたよね……? それで光もってことは……え、チハルさん、3色魔法使いなんですか!?」

「いや、結界であって、光っていうわけじゃ……って、何それ?」



 さ、3色魔法使い?

 なんか新しい用語が出てきたぞ。



「あー……私この国に来たばかりだから、そういう固有名詞がわからないんだよね。もしかして、使える属性の数が3つってこと?」

「あ、はい、そういうことです」

「……えっと、光は使えないから私は2色なんだけど、3色って珍しいの?」

「珍しい、ですね。2色でもあまりいませんから」

 ふむ、なるほど。でも、3色で驚かれるってことは、今の時点で6色魔法使いで、でも本当は12色だ、とか言ったら頭おかしいと思われるか、距離を置かれるな、確実に。よかった、ギルドでは水属性ってことにしておいて。


 ……あれ? でも確か光って、火と土をマスターした上じゃないと使えないんじゃなかったっけ? クオくんの口振りだと、火と土は関係ないようだけど。

 さっきも、結界魔法が光って聞いて、おかしいなとは思ったが……どういうことだろう?


 もしかしたら魔法ノ書って、この本独自の法則を持っているのだろうか。それだったら、この世界の常識と色々違うのも頷ける。結界魔法の属性が変わってくるのもわかる。


 よし、こうなったら、この世界の魔法について良く知ってそうなクオくんに色々と聞いてみようっと。



「ねえねえ、私、魔法について全然知らないんだ。だからクオくん、色々聞かせてよ」

「に、2色なのに……あ、いえ、えっと、わかりました。でも、僕も基本的なことしかわかりませんよ? ……光属性じゃない結界魔法のことも、初めて知りましたし」

「あ、いや、私の魔法は、色々変わってるから気にしなくていいよ」

「か、変わってる? ……あ、いや、えっと……わかりました。じゃあまずは、何から知りたいですか?」

「うーん、そうだなー……」

 こうして、クオくんによる魔法基礎講座が始まったのだった。







 まず、この世界における魔法の属性は「火・水・風・土・光・闇」の六つ。

 しかし、光と闇は殆ど使い手がおらず、大抵の魔法使いは火・水・風・土の内のどれか一つの属性しか使えない。光や闇が使える魔法使いは、大抵国に抱えられ、クオ君のおじいさんも、若い頃は王直属の魔法使いだったらしい。


 1色は基準、2色は貴重、3色は稀少、4色は規格外と言われている。それ以上は、御伽噺の中の存在だそうだ。

 ちなみに、1色は基準とか普通とか言われているが、それは魔法使いの中での普通である。魔法を使えるようになるのは、全人口の1割もいないらしいので、1色でも使えた時点でエリート様なのだ。


 また、私の使っていた空を飛ぶ魔法は、人一倍魔法に詳しいおじいさんからも、聞いたことがないとのこと。一応、呪文と効果から風属性だということはわかったが、それだけ。むしろ、あの魔法はどこで、なんて聞かれて私が焦ったくらいだ。私の故郷の秘匿魔法だから、とかなんとか言って適当に誤魔化したが。

 いずれ全部終わったときには、異世界から来たということや、魔法ノ書のことも含めて、ちゃんと説明しようと思う。


 それと、ウォーターニードルは同じような魔法があるらしい。この世界では、呪文は人によって違うらしいので、こちらは特には聞かれなかった。


 あと、マジックアイテムというのは、文字通り魔法の力が込められているアイテムのこと。

 ギルドに登録した時に使用したあの水晶もマジックアイテムの一種で、王城にあるという水晶の本体に情報が送信されるのだという。送信された情報は、リアルタイムで同期され、他の街の水晶でも情報が引き出せるようになる。

 これは古代遺産の一つで、どうやって数十万人もの情報を保持し、数多の水晶との同期をしているかは全くわかっていないが、数代前の王様の時代の冒険者がとある遺跡で発見し、使用するようになったらしい。


 なので私のカバンのことを、何でも入るマジックアイテムなのだと言ったら、クオくんはかなり驚きながらも信じていた。マジックアイテムの効果は、“何でもアリ”という意識があるらしい。



 ……と、ここまで説明してもらっておいてなんなのだが、同じ境遇だということに対外的にはなっているのに、この知識量の差には泣けてくるものがある。

 実際は全然違う……というかむしろそんな言い訳してごめんと、クオくんに心から謝りたい気持ちで一杯だけど。



「そういえば、クオくんは魔法使えないの?」

「僕は使えないです。おじいちゃんいわく、魔力はあるらしいのですが、ファーストスペルが発動しませんでしたので」

「ファーストスペル?」

「はい。どの属性にも属さない基礎中の基礎の魔法で、それが発動するかどうかで魔法を使う素質があるかどうかがわかるんです」

「へー。ちなみに呪文は?」

「『我は示す、力の形を』だったはずです」

「ふうん。わかった、ありがとう」

 あとでこっそりやってみよう。この場でやって、出来ても出来なくても、またマズイことになりそうだ。



「……あ、そうそう。私さ、水属性の魔法使いってことになってるんだよね。だから、風属性が使えるってのは内緒ね?」

「……えっと、わかりました」

 彼は些か不満そうな表情でこくと頷く。その表情は、どうしてそうしているのかわからない、という顔だった。確かに、普通より貴重な2色を隠すなんて、彼からすれば不思議に違いないだろう。

 だが、時として力は、厄介ごとと面倒ごとと人災を一気に引き連れてやってくるものなのだ。



「……さて、これからどうしようかな?」

 小さく呟く。完全に日が暮れていて、辺りはもう暗い。明かりと言えば空に上る青い満月の光だけ。

 早く街に戻るべきだが、彼が魔物を引き寄せる体質だという以上、このままシルヴァニアに戻ってはいけない。そんなことをすれば、街に被害がいく可能性があるし、それでまた彼には辛い思いをさせてしまう。


 なら、結界魔法をかければいいのだが、この魔法は一度も試したことがなく、呪文も覚えていないため、クオくんに使う前に、どこかで試さなくちゃいけない。

 しかし、あまり人の前で、魔法ノ書は出したくなかった。



『所有権が誰にもおかれていない状態で、書を用いて魔法を使用したもの所有者となり、その者が死ぬか権利を譲渡するまで所有者は変わらない。また、所有権を捨てることは出来ない。』


『所有者が死ぬと、魔法ノ書は異世界に転移する。』



 ……だって、この二文からして、捕らえられて所有権を譲渡するまで拷問されるフラグがびんびんなんだもの。魔法ノ書さえあれば反撃は可能だが、取り上げられたらただの人だ。

 白紙に見えるとは書いてあったけれど、魔法ノ書の言い伝えや伝説が全くないとは限らない。


 だから、魔法ノ書が上下巻共に揃って、いつでもこの世界から脱出できるようにしてからでなければ、誰にも教えたくないし、教えられない。慎重すぎるかもしれないが、用心するに越したことはないのだ。



「……ねえクオくん、ちょっとこの辺りで待っててほしいんだけど、大丈夫?」

「え、どうしてですか?」

「さっきもちょっと言ったけど、私、まだ結界魔法って使ったことがないんだ。使えるとは思うんだけど不安だから、ちょっと街で調べてこようと思って」

「あ、そういうことでしたか。わかりました、大丈夫です」

 クオくんは不安そうな目をしながら頷く。


 その視線に、身を切られるような思いがした。

 本当に申し訳ないが、こればかりは妥協したくない。



「大丈夫、絶対30分以内には戻ってくるから」

「はい、わかりました……!」

「……えっと、木の上なら、魔物も襲ってこないよね。不安だから自動防御の魔法もかけておこうっと」

 私はそう言ってクオくんを飛行魔法で高い木の上まで連れて行き、枝の上に座らせる。ついでに自動防御の魔法もかけておいた。クオくんが不安そうに顔を歪めていたので、お姉さんを信頼しなさい、ともう一度頭を撫でておいた。


 本当にごめんね、クオくん。そりゃあこんなに暗いんだし、不安に決まってるよね。なるべく早く戻ってきます。


 私はクオくんに手を振って別れを告げてから、少し離れた場所まで飛んで移動し、そのままうんうんと唸って考えた。



「んー……」

 さて。結界魔法を使えると言っておきながら、レベルが足りなかったらどうしよう。ちゃんと発動したらいいが、出来なかった場合が問題だ。

 結界を使えるようになるまで亜空間で待っててもらう、というのも考えはしたが、あれは明らかにこの世界の常識からは逸脱している魔法だ。何でも入るマジックアイテムは納得できても、全く別の世界である亜空間を作る魔法というのは納得できないに違いない。


 彼に魔法ノ書について全部説明してしまえば問題ないが、それは前述したとおり、出来ればしたくない。クオくんを信頼していないわけではないし、すごくいい子だとは思うが、噂というものはどこから漏れるかわからないから。



「……ま、出来なかった時のことは、その時考えよう」

 私はそう決めて、カバンを高い木の枝に引っ掛ける。

 そしてその入り口に、足から体を突っ込んだ。

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