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魔法ノ書編 1

あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。


久方ぶりの更新、本当に申し訳ありません。

また、諸事情により、感想の返信を休止することにいたしました。申し訳ないです。感想はすべてモチベに繋がっております。

感想を下さった方々、本当にありがとうございます!


 奇声を上げ、狼狽する私。クオくんが危ないって、どういうこと!?

 ペンタとシュンくんからの怪訝な視線が刺さるのも構わず、フェンリルから更に情報を得ようと、質問を重ねる。



(街が魔物に襲われてるって……シルヴァニア!?)

(いや、王都じゃ)

(はあ!? また!?)

 まさかの言葉に、驚きと呆れが浮かんでくる。だって、そんなの以前とほぼ同じ状況じゃないか。結界どうしたよ、結界。



(こっちもざっくりとしか聞いておらんから、詳細はわからん。が、魔物は前の比でなく王都に入り込んでおるらしくての、救援を求められた)

(ああもうっ、わかった、今から行くっ!)

(こら待て、チハル! 言ったじゃろ。“魔物は前の比でなく王都に入り込んでおる”と。お主一人じゃ、到底どうにもならん)

 その言葉に、ぎり、と唇を噛む。確かに、大規模制圧は得意だが、入り込んでいる魔物を一体ずつ倒さなくてはならない状況において、私だけの力では足りなすぎる。そんな状況で大規模魔法を使えば、確実に一般市民を巻き込んでしまうだろう。



(とりあえずもう少し詳しい話をしにそっちに行くから、チハルは城で待機しとれ!)

 フェンリルが焦れたようにそう言って、唐突に心話を断ち切った。私の口から了承の言葉が出る前に、フェンリルはうんともすんとも言わなくなってしまう。


 消化不良気味に会話を終えた私は、二人に向き直る。



「ごっ、ごめん、ペンタ、シュンくん。私、用事が出来たから行くね!」

「え、あ、お気をつけて?」

「……ハル、大丈夫っすか?」

「たぶん大丈夫っ! ……にするっ!」

 ペンタの問いに希望的観測で応え、私はテレポートでその場を後にし、城に戻る。いつもの一室でそわそわと足を忙しなく動かしたまま、私は三人に通信で呼びかけた。一人じゃ手に負えない以上、友人たちに助けを求めるしかない。



「奈津、亜紀、冬香。休暇中のとこ、ほんっとうにごめん! 緊急事態発生につき、いつもの部屋に集まって!」

『うえっ、ちいどうしたの!?』

『……うん、判ったよ! 奈っちゃん、いこっ!』

『わっ!? あーちゃん、引っ張らないで……うわはぁッ!?』

 ずささささ、という何かを引き摺るような音は、聞かなかったことにしておいた。



『いつもの部屋って、城のでいいのよね? 今行くわ』

「うん、ありがと。私はもう部屋に居るから、待ってるね!」

 冬香にそれだけ言って通信を切った私は、部屋に用意されたソファにどっかりと座る。そわそわと貧乏ゆすりを繰り返し、がしがしと頭を掻く。髪の毛がぼさぼさになるのが判ったけれど、とにかく落ち着かなかった。


 ああ、クオくん大丈夫だろうか……。

 それにしても、一体何がどうなってるんだ……?


 心臓がばくばくと嫌な感じに高鳴って、うーん、と唸りながら胸元を手で押さえたとき、部屋の扉が勢い良く開かれる。顔を覗かせたのは、勉強道具を小脇に抱えた冬香だった。



「千春、一体どうしたって言うの?」

 どこか厳しい面持ちで、冬香が問う。



「クオくんが危ないって……また、魔物が王都を襲ってるって」

「……何だか、いつか千春に聞いたようなシチュエーションね?」

「私も、同感。とりあえず、フェンリルがここに来たら、説明してもらうつもり」

「そう……」

 テーブルに勉強道具を置いた冬香は、私の隣に座る。



「……髪、ぼさぼさよ」

「うんー……」

 彼女は言って、手櫛で私の髪を整えてくれた。


 フェンリルたちを待つ時間が、とても、長く感じる。

 本当は今すぐにでも、飛び出して行きたい。でも、私一人じゃ、どうにもならない。気を急いて飛び出して、もしクオくんを死なせたりしたら、後悔してもしきれない。というか間違いなく引きこもる、私。


 ルナさんやクオくんと通信越しに話を聞きたくとも、音声通信は時間の流れが違う場所同士だと上手く発動しない。心話だと、時間の流れが違う場所でも発動できるんだけど。うーん、通信機、心話仕様にしとけば良かったかなあ。



「ああ、早く早く……」

 外とは時間の流れが違うから、多少の時間のロスは殆ど問題にならないとは判っていても、気持ちが焦ってしまって仕方がなかった。






 それからこの部屋に全員が揃ったのは、冬香が到着して約五分後のことだった。

 フィールドから全力疾走してきたらしく、奈津と亜紀は息を切らしながら、ソファに沈みこんでぐったりとしている。ちなみに二人の姿は、今日のために作った一般プレイヤー仕様ではなく、いつものゲーム中のものに戻っていた。あと、奈津は妙に煤けていた。


 私たちはフェンリルの言葉に耳を傾ける。



「今の状況を簡単に説明するぞ。王都に、千は下らない数の魔物が入り込んだらしい。クオ坊はそれに巻き込まれて、たった今交戦中だそうじゃ。市民は各々立てこもっておるから殆どが無事じゃそうだが、その立てこもりがいつまでもつかはわからん」

 それらの情報は、どうやらクオくんと一緒にいるらしいルナさんが纏めたものらしい。つまり、ルナさんも同じく王都に居るということだ。王女だし当然なのだろうが、残念ながら彼女の場合、飛び回っているイメージしかない。



「で、原因じゃが。想定しておるとは思うが、フェイル、とかいう王子の仕業らしい」

 久しぶりに聞いた王子――第三だっけ? まあ忘れたけど王子のどれか――の名前に、思わず深い溜息を吐いてしまう。前回に引き続き、物凄いことを引き起こす人だ。前回は色々あって決着付けられなかったけど、今回はちゃんとお縄についてもらわねば。……いや、前回は前回できっちりお縄につけたはずなんだけどね。何故か私の寝てる間に脱獄してたね。


 それにしても、考えれば考えるほど、国家運営に問題のある国だと思う。内憂もいいところじゃないか。出奔したのであれば外患の方かもしれないが。



「見渡す限り魔物、とかいう状況らしいの。出せる戦力全てを集って迎え撃っているそうじゃが、正直もって二十分、と言っておった」

「もって二十分……ってことは、こっちの世界だとあと一時間ちょっとの猶予があるってこと、でいいんだよね?」

「そういうことじゃの」

 ただそうは言っても、出来るだけ早く助けに行きたいから、どうにかしてあと三十分くらいで対処法を考えなきゃいけないだろう。

 私は、うーん、と考え込んでしまう。同じように、奈津たちも唸っていた。



「とりあえず先にこれだけ聞いておくね。……三人とも、手伝ってくれる?」

「ちい、それは愚問だよ」

「そうだよ、千春ちゃん」

 奈津と亜紀の二人が言い、冬香が頷く。

 即答は本当に嬉しかったのだけれど、私は重ねて聞いた。



「判ってると思うけど、この世界と違って、魔物は本物の魔物だよ。生きてるし血も出るし魔法選択ミスると本当にグロい。……いや最後の、冗談じゃなくね?」

 水で押し潰しちゃえ! とかやると、ぐちゃぐちゃのどろどろになった魔物の死骸とかを見る羽目になる。ええ、一度やらかしましたとも。



「……それでも、手伝ってくれる?」

 私の真剣な問いかけに、三人とも押し黙る。

 その問いに一番最初に答えたのは、意外なことに亜紀だった。



「うん、大丈夫、私は手伝うよ。それにね、魚も鶏も捌いたことあるから、それくらい今更だよ」

「鶏ィ!?」

 ……彼女の発言は、本当に意外だった。いやいや、魚はともかく鶏って何だ。家庭的とかいうレベル超えてるんだけど。

 根掘り葉掘り聞きたい衝動を今はグッと堪え、うん、と頷く。



「ありがとう、亜紀」

 亜紀はにっこりと微笑んだ。



「ちい、私もやるよ。グロは正直、苦手なんだけどさ……ここで何もしない方が後々キツくなると思うんだ」

「そうね。私も奈津と同意見だわ。まあ、私の場合、多少の耐性はあるとは思うけど。亜紀ほどではないにしろね」

 亜紀以上に耐性があっても何事かと思う。

 まあ、それはともかく。



「うん、ありがとう。改めて、よろしく三人とも」

 私の言葉に、三人がほぼ同時に頷いた。

 各々の心が決まったところで、早速作戦会議を始める私達。



「千春、王都って以前、行ったところよね?」

「うん、そう。全体の広さは、たぶん……この市が全てすっぽり入るくらいじゃないかな?」

 以前の記憶を掘り起こす。結界魔法を使ったときの手応えを思い出し、想定の広さを口にした。冬香がいつの間にか出していたノートに、シャープペンシルでそれを書き留める。



「王都の地図はあるかしら?」

「あ、今作る」

 魔法を用いて、王都の地図を作り上げ、それを手渡す。悩んだ様子の冬香がそれを見ながら、シャーペンのノック側で自身の頬をぷに、と突いた。



「……流石に、その広さを四人でカバーするのは無理ね」

「そうだね。ちいみたいに、魔法使い放題ってわけでもないし、限度が有るよ」

「千春一人で、どれくらいまでいけるかしら?」

 冬香の問いに、少し考えてから答える。



「魔法が使い放題とは言っても、街の中っていう制約がある以上、大規模な魔法は行使出来ないから、正直なところそこまで広範囲は難しいと思う」

「……そうよね」

 難しい顔をしながら、かち、かち、と頬でシャーペンをノックし続ける冬香。伸びていく芯に何となく目が行く。

 そんな時、不意に、彼女の動きが止まった。咄嗟になのか、シャーペンが手から投げ出され、伸びきっていた芯がぽきりと折れる。



「そうよ、いるじゃない! 使える人材が!」

「え?」

「精霊達よ!」

「ああ!」

 思わず、ぽん、と両手を打つ。が、すぐに動きが止まった。



「いや、でも、大丈夫かな? さっきも言ったけど、本物の魔物なわけだし、精霊たち、怯えないかな?」

「ふふ、自警団の子たちなら、きっと大丈夫よ。ね、亜紀?」

「うん、そうだね、冬香ちゃん」

 何を考えているのか、にこにこと笑う二人。

 深くは問うまいと決めた。



「えっと、自警団って全部で何人くらいいたっけ?」

「戦闘が出来る子たちは殆ど集めたから、三百人くらいだった、よね?」

「確かそうよ。あっ、でも、プレイヤーがいるから、全員連れて行くのはマズイかしら……」

「いや、大丈夫じゃないかな? 戦闘能力持ってない精霊たちは残るんだし」

 ペンタに話を通しておけば、数時間くらい何とかしてくれる気がする。



「じゃあ、自警団の子たちは全員使いましょう。そうなれば……」

 落としていたシャーペンを拾い上げ、冬香がノートに何か数式のようなものを記述していく。少しの後に、それらを囲うように大きく丸を書いた。



「たぶん、行けるはずよ。全員を効率的に配置して使うことが前提だけどね」

 彼女の頼もしい明言に、私達は安堵の息を吐いた。



「私はこれからどの子をどの地区に送るかを考えるわ。亜紀は自警団の子達に通信で呼び掛けて、みんなを城の中庭に集めて。奈津も同じように、ここに残る精霊たちに簡単でいいから話を通して。千春は中庭にあっちへの道を作っておいてね。10分以内よ、出来る?」

 冬香の言葉に、私達は顔を見合わせて頷く。そして、各々の役目を果たすために、動き出した。


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