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四季編 24


「ちっぱいが触りたかったんだ!」

 痴漢騒ぎだと呼ばれて行ってみれば、私の目の前で高らかにそう宣言した馬鹿がいて。



「……退場ッ!」

 私は即座にレッドカードを発行、痴漢男をゲームから蹴り出した。イエローカードの余地無しである。


 というかああいう馬鹿は、マジでアカウント剥奪したいんだけど、どうしようかな。最初に取り決めたレッドカード三枚うんぬんっていうルールを端から破るのもどうかと思うのだが、これは普通に放っとけない問題だ。……あとでみんなと相談しよう。



 開始から二時間ほど。

 相変わらず私の元には、色々なトラブルが舞い込んできていた。

 その中でも多いのが、痴漢などといった性的トラブル。現実ではないと思うとタガが外れるのか、それともゲーム中だから犯罪にはならないという意識から来る故意犯なのか、結構多いのだ。

 ……マジもげればいいのに。あ、なかったっけ。


 幸いなことに、今回の被害者は中の人が男だったらしく、大きな騒ぎにはならなかったけれど、何らかの対策を取らなくちゃと今更ながらに思う。というか、この辺りの対策が甘すぎたと自戒。今のところ、勘違いだったり、未遂だったりだが、この先人口が増えれば、もっと酷いことになるだろう。

 胸と腰の周りにでも、自分以外は触れないような防御壁でも作ろうかなあ……。



「エルフー!」

「うわっ!」

 うんうんと悩んでいれば、後ろから誰かにがばりと抱きつかれる。きょどりながら後ろを見れば、私の腰周りに抱きついていたのはダークエルフの女性だった。



「な、な、何ですか!?」

「エルフの居るところ、みーにゃは現れる!」

「意味がわからない! セクハラで訴えますよ!?」

「エルフになら訴えられても構いません!」

 何かこのノリに、物凄く覚えがあるんだけど……。ダークエルフだし。

 とりあえず私に巻きついている腕をぐいっと引き剥がし、そのまま格闘スキル『一本背負い』でべしっと投げ飛ばす。攻撃スキルだが、管理者権限で街の中でも使えるのだ。

 HPにダメージは幾らか受けているだろうが自業自得である。


 彼女は、しこたま打ち付けたであろう腰を摩りながら、よいしょと立ち上がった。



「えーっと……エルフだらけでテンションが上がりまくってました……すみません」

「次からは、気をつけてくださいね? セクハラは即レッドカードなんで。反省が無ければ、アカウント剥奪も考えてますし」

「き、気をつけます!」

 ぴしぃっと敬礼されて、思わず苦笑してしまう。この人の場合、前からエルフ好きを前面に出してたし、中の人は女の人だし、ちょっと羽目を外しすぎただけだろう。でも、今の内に釘を刺せて良かったと思う。



「あ、そうだ。この世界、楽しんでいますか?」

「ええ! それはもう! ここはパラダイスです、極楽浄土です! 毎日通い詰めて、エルフの皆さんとお話しようと思ってます!」

「そ、そうですか……それは良かったです!」

 もはやRPGの楽しみ方じゃないけど、それはそれでいいことだ。この世界の楽しみ方は、人それぞれなのだ。



「じゃあ、私はそろそろ行きますね。楽しんでいってください」

「はい! ありがとうございます!」

 そう言って彼女と別れ、私は再び巡回を再開する。

 痴漢対策について色々と考えながら、ふらふらと街中を回った。







「はぁ……疲れた」

 開始から、4時間。つまりは、現実時間で1時間。

 色々な厄介ごとやら何やらを片付け、ひと段落つけた私は、精霊の営む喫茶店で一息ついていた。

 4時間も経てば精霊たちも慣れてきたようで、段々と呼び出しも減ってきており、私もようやく休む時間が得られたところだ。


 先ほど、奈津たちにも連絡を取ったところ、彼女達もようやく休む時間が得られたらしい。お互い大変だねー、なんて言い合っておいた。


 クォーターの一日は30時間。そのため、毎日同じ時間にしかログイン出来なくとも、毎日ちょっとずつプレイできる時間帯が変わることになっている。ちなみにβテストの開始は、クォーター時間で正午からなので、今は午後の4時、ちょうどおやつ時、と言った所だ。



「ハル、お疲れさまですう!」

 ここの喫茶店の主である精霊――トリィが労いの言葉をかけてくれる。私は彼女がテーブルに置いたグラスの、果汁100%ジュースを一気に飲み干した。何の果汁かは知らない。何らかの果汁だ。ちなみにこういう街だけじゃなく、果物や野菜などの作物を作っている村なんかもこの世界にはある。サブクエストしかないから、プレイヤーはあんまり行かないだろうけど。



「ふっはあ、生き返る! 美味しい!」

「あはは、ありがとうございますう! ハルも、ぜひぜひっ、頑張ってくださいねえ〜!」

「ありがとー!」

 トリィが私から離れたのを見計らって、テーブルに突っ伏す。街の隠れた名店、のような位置づけであるこの場所にはユーザーの姿はなく、私は存分に休息を取ることができた。

 私が最初に身体を作り、名付けた5人の精霊たちは、みんな“隠れた○○”の主となってもらっている。喫茶店とか、図書館とか、薬屋さんとか。

 それは、サブクエストのためだったり、「ある目的」のためだったりだ。隠れたと言っても、少し街を見て回ればすぐに見つかる位置にはあるが。


 ごろごろ、とテーブルに身を預けながら、これから先のことを考える。今日だけでも色々と不具合、というかやるべきことは色々と見つかったので、その辺りを改善しなくては。

 やるべきことを脳内で指折り数えていく。片手を越えたあたりで、げんなりして、私はそれをやめた。


 と、そんなことをやっていたら、精霊から新しい通信が入った。



『ハル、もし暇だったらでいいんすけど、こっちに来てほしいっす』

「あ、判った、すぐ行くね」

 ペンタの声に、私は彼女の店へと急行することを決める。私が名付けた数少ない子なだけに、何というか、贔屓してしまうのだ。



「トリィ、私行くねー」

「はあい、頑張ってくださいねえ〜」

 トリィに代金を払い、ぱっぱとテレポートでペンタの店に向かう。

 相変わらず彼女の店は、様々なものでごった返していた。



「やっほう、ペンタ!」

「やっほうっす、ハル!」

 挨拶してみれば元気そうな返事が返ってきたので、どうやらトラブルがあったとかではなさそうだ。私は首を傾げながら、彼女に問いかけた。



「そんでどしたの?」

「ちょっとした報告っす。いい奴見つけたんすよ、一人っすけど」

「え、本当!?」

 思わぬ言葉に、私は驚きに声を上げる。まさか初日から有望株が見つかるとは思わなかった。



「どんな感じの人?」

「んー、お人よしっすかね?」

「お人良しかあ……まあ、それはいいかな。裁量でどうとでもなるし」

 私だってお人よしだしね! ……言ってて虚しい。



「ちなみに名前は「シュン」って言うっす」

「おっ、四季にぴったり! ありがと、ペンタ! あとでプレイヤー情報、調べてみるね」

 頭の中のメモ帳に、せこせことメモする。シュンシュンシュン……よし覚えた。



「……バイト候補、第一号かあ。なってくれるかなー?」

「どうっすかねー?」

 本稼動時には、きっとユーザーが増えるに違いない。その時には、きっと私や精霊だけじゃ色々と対処しきれなくなる。精霊たちも頑張ってはいるが、NPCという立場ではどうにもならない事態もあるだろう。

 精霊たちだと、犯罪とか、そういう概念もあんまり無いし、微妙な機微があんまりよく判らなかったりする。あと、ゲーム外のことも、当然範疇外だ。


 だから、正式稼動の前に、バイトを雇おうと思っている。現実時間で時給5千円(予定)。そしてそのバイトにGM権限を与え、トラブル解決をしてもらう。ゲーム内では四時間になるので、実質的にはちょっと高めの時給にしかならないが、でも現実時間で考えれば短時間で稼げるバイトではある。


 だが、多少のGM権限を渡す以上、人柄は見極めなくてはならない。横暴な人間だったりすると、余計な問題になってしまう。

 そのために私は、五人の精霊に見極めを頼んだ。ただのNPCにしか過ぎない彼らが信頼できるというのなら、大丈夫だと思うから。



「んー、どうなるかなー?」

「どうなるっすかねー?」

 二人で首を傾げながら、そんなことを語り合う。

 吉と出るか凶と出るか。そもそも引き受けてくれるのかどうかすらも、未知数だが。

 ま、なんとかなるでしょう、うん。


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