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四季編 23


 とうとう始まったβテスト。

 調子乗ってみんなの前で演説?っぽいことなんかやってしまった私は、その後赤面しつつ出発地点の街や、その周辺のフィールドを巡る。他のみんなも(演説はやってないと思うが)、私と同じように巡回中だろう。

 そうやって、何かトラブルがないかと真剣に目を光らせていたのだが、特に問題は起こらなかった。



 ……最初の30分間は。



 開始30分を越えたあたりから、この世界に慣れたのだろう。

 「痴漢された!」という訴えだとか(結局、勘違いだった)、「俺のイチモツが消えました」というセクハラまがいの質問だとか(性犯罪防止のために、人形に生殖器はありません、あしからず。ついでに排泄も必要ありません)、森に魔法を放って火事にする馬鹿とか(すごく身に覚えがあって凹んだ。そうだよね、そういうの試す馬鹿が出てくるよね。仕方がないので世界全体の森林に魔法耐性の魔法をかけて対処。死ぬほど疲れた。あとで何とかしなきゃ)、「死んだらアイテムと所持金がなくなったんだけどバグ?」という質問だとか(デスペナの仕様です。というか死んだ後、街で復活したときに説明が出るようになってるんだけど! 読んで! というか死ぬの早いな!)、面白がって精霊(NPC)に猥語を連呼する馬鹿どもとか(全員に対し、イエローカードを発行しました)、小さいものから大きいものから中くらいのものまで、多岐に渡る質問やらトラブルだとか揉め事だとかが、これでもかと舞い込んで来たのだった。



 ……いやあ、疲れた。本ッ当に疲れた。



『ハル、こっち来てくれ! ごっつい奴らが喧嘩してる! 俺たちじゃ無理だ、止められねえっ!』

「……喧嘩くらいさせとけば?」

 通信アイテム越しに聞こえる精霊の声。疲れていた私は、おざなりにそう返す。しかし精霊は焦ったように続けた。



『食堂の中でやってんだよ! テーブルも壊れそ……あ、折れた』

「はーい! 今行きまーす!」

 自棄に近い声を上げながら、教えてもらった場所にテレポートで急行する。



「……おおぅ」

 そこに居たのは、人よりも獣に近い容姿をした獣人の男性と、背に茶の羽を生やした鳥人族の男性だった。両者、ごっつい顔をしている。視線だけで人を殺せるような、恐い顔をしている。あと、妙に筋肉質で、背が高い。あらくれ! という言葉のイメージにぴったりである。何でわざわざキャラメイクであの姿にしたのか、はなはだ疑問であった。



(何でゲームの中でまで、取っ組み合いの喧嘩するかねー……ゲームの中だからか?)

 二人は相手の胸倉を掴み、もみくちゃになっている。壊れたテーブルや椅子の足が、その辺に散乱しているのを見て、私は溜息と共に眉を寄せた。

 食堂にいた周りの人たちは精霊含め、そんな二人を遠巻きにしている。

 街中で攻撃魔法をぶっ放したり、武器を抜いたりは出来ないようになっているが、殴りかかるのは普通に出来てしまう。スキルや道具の制限は出来ても、行動自体の制限はちょっと難しいのだ。



「ジャッジメントですの! ……って違う違う。そこ、やめなさい!」

「うるせぇッ……って、あ」

「クソアマは引っ込んで……う」

 二人は私の顔を見るなり、ぴたりと停止した。私は風の魔法で二人を離し、ついでにべしゃっと地面に叩きつけておく。

 私は仁王立ちで、二人を見下ろした。



「喧嘩するなら誰にも迷惑のかからない、広場かどっかでやってください! 中でやらない! 埃が立つし、何より物が壊れます! やめないつもりならイエローカード発行しますよ?」

 イエローカードは、まあ文字通りのものだ。何かしらの問題を起こすと1枚発行され、3枚溜まるとレッドカード扱いとなり、一週間ログインが出来なくなる、という恐ろしい?ペナルティが待っている。そしてレッドカードが3枚溜まると、アカウント剥奪という恐ろしいペナルティが以下略。

 しかし、イエローカードが発行されてから3日間、問題を起こさなければ1枚消えるので、レッドカードになるような人はそうそう出てこないだろう。たぶん。


 ちなみにイエローカードが発行されると、腕輪の色が変わるので、見た目で判ったりする。そうなると精霊たちの店でどうなることやら私は知らない。ということで皆さん気をつけましょう。



「……あ、すんません」

「……チッ……これくらいで許してやるよッ!」

 イエローカード発言が効いたのか、鳥人族の男性は素直に謝ってくれる。が、獣人の男性は粗野に言い捨てて、食堂からさっさと出て行こうとした。しかし私はそれを許さない。服の襟を掴んで彼を止めれば、ぐえ、と苦しそうな声を上げ、男性は立ち止まった。



「な、なんだよ……」

「テーブルと椅子を壊したんだから、弁償していってくださいね」

 笑顔ですごむ。男性は一瞬目を見開き、舌打ちしながらお金を置いて出ていった。うむうむ、素直で宜しい。

 鳥人族の男性からもお金を徴収して、とりあえずこの場を収めることに成功した私は、ふう、と溜息を吐く。まあ、思い切りネームバリューと脅しのお陰なんだけど。

 精霊達でちゃんと警察組織みたいなの立ち上げた方がいいな、と今更ながらに思う。明後日あたりにメンテナンスってことでゲームを締め切って、立ち上げてみようっと。



「ハルさん! お疲れー!」

「ありがとー! ちょっとその辺のテーブルを片付けるの、手伝ってくれるかな?」

「いいですよー!」

「ありがとう!」

 プレイヤーの女の人が声を掛けてきたので、逆に仕事を頼み返してみる。笑顔で了承してくれたので、私は一旦それを任せてから、通信をくれた精霊に近付いた。



「……大丈夫?」

「ごめんなあ、ハルぅ〜」

 少年ダークエルフ姿の精霊が、申し訳なさそうに言う。基本的に揉め事は精霊達で解決するように言ってあるんだけど、流石に慣れていないうちから、身の丈が二倍以上ある相手には難しいだろう。というか、普段の私だったらあの二人を止めたくないし、関わりたくもない。



「あれじゃ、しょうがないよ。でも、なるべくは頑張って!」

「おう、次からは俺が叩き出す! ……ハァ、とりあえず代わりのテーブルと椅子出すか」

 手伝ってくれるユーザーさんと一緒に壊れたものを片付け、精霊が創造魔法でテーブルと椅子を作る。その様子に女性は感心したように声を上げ、精霊は自慢げに胸を張った。おいおい、普通の魔法はともかく、創造魔法は私の魔道具で発動しているだろうに。ま、いいけど。



「ありがとうな、手伝ってくれて。お礼に、食事をご馳走してやるよ!」

「わ、本当〜? 嬉しい!」

 少年の言葉に、女性は嬉しそうに微笑む。

 うんうん、プレイヤーと“NPC”の交流もいい感じだ、なんて思っていれば、精霊は私の方に向き直って口を開いた。



「ハルも食べてくか?」

「ん、どうしよっかなあ……って、あ、通信」

 返事をしようとした瞬間、またしても精霊からの通信が入ってくる。あまりにもタイミングが悪すぎて(良すぎて?)、思わず私と精霊はお互いに顔を見合わせて苦笑してしまう。



「無理そうだな。頑張れ、ハル!」

「うん、頑張るー。また今度ご馳走してね」

「おう、任せろ!」

 そんな会話を交わしてから、私は次の現場に急行するのだった。


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