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異世界編 4

『魔物討伐

 対象:ウルフ

 リスナ街道の近くにいるウルフを12体以上倒すこと。

 討伐の証拠部位は尻尾。一体につき一本ずつ回収すること。

 期限:無期限

 報酬:銀貨4枚~(討伐数により変化、3体で銀貨1枚)


 魔物討伐

 対象:ゴブリン

 リスナ街道の近くにいるゴブリンを20体以上倒すこと。

 討伐の証拠部位は左右の長い牙。一体につき二本ずつを回収すること。

 期限:無制限

 報酬:銀貨4枚~(討伐数により変化、5体で銀貨1枚)


 素材回収

 対象:エスカルーナ

 メルカの森にいるエスカルーナの殻を5個以上回収すること。

 殻は原型を残したもの以外は受理しない。傷は可。勿論、ないほうが好ましい。

 期限:無期限

 報酬:銀貨10枚~(回収数により変化、1個で銀貨2枚)』





 今回受けた、魔物の討伐依頼はこの三つだ。魔物は繁殖力が強く、放っておくとすぐに増えてしまうため、ギルドから定期的に討伐依頼を出しているらしい。

 また、素材回収依頼は厳密に言うと討伐ではないが、殻を回収するためには魔物を倒さなくてはいけないため、結局は同じことだろう。


 ありがちな名前のウルフやゴブリンは、それぞれ50センチほどの狼型の魔物と、40センチほどの二足歩行の小獣人型の魔物だ。


 また、エスカルーナとは30センチほどのカタツムリ型の魔物。色は青らしく、実際に見たわけではないが、描かれてある絵の時点でちょっと気持ち悪い。


 リスナ街道はシルヴァニアと王都ディルティアを結ぶ街道のことで、メルカの森は私が繋がりの鏡でやってきた森のことだ。


 一度宿の部屋に戻ってきた私は、ベッドに腰掛けながら依頼書を見て思案する。


「うーん、どっちに行こうかなー」

 魔法で魔物を倒す練習もしたいので、最初は街道より森に行った方が、目立たなくていい気がする。が、初めての魔物が巨大カタツムリなのは、正直気持ち悪そうで抵抗を覚える。まだウルフとゴブリンの方がましだ。


 しばらく考えて、結局先に森に行くことにした。森に行くには、昨日アルバートさんがいた門を通るからだ。


 そう決めた私は、依頼書を折って、一度備え付けのテーブルの上に置く。


「よし。あとは、行く前に四次元バッグを作ってっと」

 魔法ノ書を元の姿に戻し、次元魔法の項目をめくる。

 私が使おうと思っているのは、空なる世界、という魔法。カバンの中身を外に出してから、私はそれを唱えた。


「『世界より隔絶された歪みよ、我が力を持って顕現せよ』!」

 これは、どこにでもあるようなちょっとした力場の歪みを魔力で故意に広め、亜空間を作るための魔法だ。亜空間はどこの世界にも属さず、ただ何もない場所が広がっている小さな世界のこと。今回は肩掛けカバンの中に亜空間を構築した形になる。


 また、亜空間には、物を入れるのはもちろん、人が入ることも出来るため、今度からレベル上げも兼ねた魔法の練習はこの中でやろうと思う。火事はもうごめんだ。


「よし、これで大丈夫。荷物を放り込んで……っと」

 と言っても服が二着と携帯、それにギルドで手渡された物くらいだ。市場で買ったパニシュは、存在を忘れて中で腐敗させそうなので、部屋に置いておくことにした。





 ここ、シルヴァニアの街には北西と南東にそれぞれ門がある。ただし方角は、太陽が昇ってくる方向を東として、勝手に私がそう呼んでいるだけである。もしかしたら太陽は西から昇っているかもしれないし、そもそも方角という概念がないかもしれない。あったとしても、それが東西南北とは限らない。


 この世界の常識なんて、私にはちっともわからないのだ。今でさえ仮定に仮定を重ねて綱渡りをしているのだから。


 まあ、それはいいとして。


「アルバートさーん!」

 南東門の付近にアルバートさんの姿を見つけた私は、手を振って彼に近寄る。


「ん? お、昨日のか。ギルド登録はしてきたのか?」

「はい!」

 肩掛けカバンに手を突っ込み、ギルドカードを取り出す。ちなみに、亜空間から物を取り出すには、取り出したいものを考えるだけでいい。どこぞの四次元ポケットより遥かに高性能だ。


「えっと……オープンッ! ほら、見てください、ちゃんと登録してきました!」

「ふむ、チハルというのか。いい名前だな」

「……あ! そういえば、名前教えてませんでしたよね、すみません」

 ぺこ、と頭を下げれば、彼はいや、と手でそれを制した。


「……良かったな、チハル」

 ぽん、と彼が頭に手を乗せてくる。私は破顔して、はい、と頷いた。


「……隊長、ナンパですか……?」

 そんな声に振り向くと、そこには短い赤髪の人がいた。中世的な顔つきと声をしているので男にも女にも見えるが、たぶん女だろう。彼もアルバートさんと同じように鎧を着ている。


「ナンパとは何だ、ナンパとは。……チハル、すまないが、まだ仕事中なのでこれで失礼する」

「あ、いえ。お仕事を邪魔してしまってすみません。私も今から魔物退治に行ってきます!」

「そうか、気をつけるんだぞ」

「はい!」

 彼にぶんぶんと手を振って、私は門から外に出る。よし、まずはエスカルーナの殻集めだ。





「『水よ、その清廉なる身で敵を貫け』!」

 その呪文と共に、長い針のような形状の水がいくつも現れ、離れた位置にいる大きな青いカタツムリ……いや、エスカルーナの、殻に守られていない部分が串刺しにされる。エスカルーナは青い血を垂れ流し、痛みから逃れようとうごうご身体を動かすが、やがて息絶えたのか動かなくなった。


「よし、これで5個目っと」

 エスカルーナの死骸に近付き、15センチほどの大きさの殻を引っ張る。めり、という音と共にそれは外れた。その殻を、水で洗ってからカバンに放り込み、ふうと一息つく。ちなみに水は、魔法で出したものだ。


 頭の中で「少なめにー!」と念じながら水を出してみたら少量の水が出たので、魔法の制御ってこうするのか、と勝手に思っている。


「はあ……倒すのより、探す方が大変だよ……」

 小さくぼやく。


 ウルフやゴブリンと違い、エスカルーナは群れで生活しないため、一体探すのにも時間がかかるのだ。


 最初に見つけたエスカルーナには、暗記していた数少ない呪文――コールウォーターで水を出してみたのだが、大量の水で押しつぶしたせいで、殻をぐちゃぐちゃにしてしまった。だが、その失敗のおかげで、魔物を初めて倒したことに嫌悪感は感じなかった。

 というより、水でぐちゃぐちゃに潰れたエスカルーナだった青い物体にドン引きし、それどころじゃなかった、と言うべきか。魔物の気持ち悪さが、逆に良い作用をもたらしたらしい。


 二匹目は、水属性の攻撃魔法を、と思い、魔法ノ書を見ながらウォーターカッターという魔法を使ってみた。手元から高圧の水を噴出し、敵を両断する魔法だ。そうしたら威力が強すぎたのか、すっぱりと殻ごと切ってしまった。

 三匹目は、威力を弱めて、と同じ魔法を使ってみたのだが、そうすると、殻は両断はされなかったものの、砕けてしまった。


 四匹目から少し考え、今のように水の針――ウォーターニードルで倒すことを思いついたので事なきを得たが、三匹も無駄にしてしまった。


 そのせいで、五個集め終えた今、既に辺りは薄暗くなっている。


「……うーん、明日からどうしようかな」

 1体探すのに時間はかかるが、殻1個で銀貨2枚は旨い。群れで暮らすウルフやゴブリンを探すのは楽だし、簡単に倒せるだろうが、多数を相手取るのは今の私では少しきつい。


 魔物に対する自動防御の魔法はある――というか今現在も一応かけている――が、連続した攻撃をずっと防御できるほど強力ではない。そのため、囲まれたら正直面倒なことになる。魔法ノ書に頼りきりという現状では、暗記している魔法で対処し切れなくなった場合、死に直結しかねないのだから。まあ囲まれる前に叩くが。


 時間がかかるが安全な今の方法で稼ぐか、時間はかからないが少しの危険を伴うウルフやゴブリン退治に行くか。


 どうしようかと、その場でしばし考える。



 ……うーん。



 やっぱり、安全な方がいいだろう。まだ異世界生活2日目なのだし。


「ま、どっちにしろ、今日はもうそろそろ終わりにしなきゃいけないけどね」

 これ以上のエスカルーナ探しは明日にして、日が完全に暮れる前に帰ろう。

 そう決めて、街への一歩を踏み出した瞬間。



「……か、……けてっ……!」

「……え?」



 子供の声が聞こえた。


 私は瞠目して、声の聞こえた方を見る。そこで私が見たのは、10匹以上のエスカルーナに追いかけられ、息も絶え絶えに必死な形相で逃げている7、8歳くらいの淡い色の金髪をした少年だった。


 エスカルーナは群れで過ごさないし、積極的に人を襲わない。移動速度も、遅めだ。だから、本来ならばあまり脅威ではない。だが実は、凄く力の強い魔物らしい、と本には書いてあった。


 だから、あれだけの数に追いかけられたら、私でも逃げる。というかどこからあんなに引き連れてきたんだろう、あの子。逆に感心する。


 いや、そんなこと考えている場合ではなかった。エスカルーナの足は遅いが、それは大人と比べた場合。既に息の切れている子供の足では逃げ切れないだろう。


 私はすぐに駆け出し、呪文を紡いだ。



「『貫け』!」



 私が使ったのは、短縮詠唱したウォーターニードル。短縮詠唱魔法は、一言で魔法が発動させることが出来るが、魔力を通常より多く使う上、難易度が上がる。それに加え、威力も下がってしまうという、緊急時の魔法だ。


 だが、この魔法の目的は、あの少年がこちらに来るまでの時間稼ぎだ。短縮詠唱魔法では、先程のように串刺しにして敵を倒すことは出来ないが、牽制には十分。


「早くこっちに!」

「えっ!? は、はいっ!」

 少年は必死な形相を僅かに安堵に染め、こちらへやってくる。その間も、私は魔法でエスカルーナたちを牽制した。


「手を貸して!」

「え、ええ!?」

「いいから!」

 差し出された手を握って、私はまた、魔法を短縮詠唱する。


「『運べ』!」

 それは、以前使用した空を飛ぶための魔法。この魔法の及ぶ範囲は、私自身と私が手で触れているものまでだ。なので、重いものの運搬にも応用が出来たりする。亜空間に放り込んでしまえば重さなんて関係ないが。


 私と少年は、エスカルーナの届かないところまで浮き上がる。


「わっ!」

「暴れないで!」

 少年はいきなり浮き上がったことに驚き、身じろぐ。私は即座に彼の腰辺りに腕を回し、その動きを抑え込んだ。


「あいつら倒したら下ろすから、じっとしててね」

「は、はい」

 彼が落ち着いたことを確認し、私はウォーターニードルを詠唱する。こんな状況だというのに強い魔法を使わないのは、ちゃっかり後で殻を回収しようと思っているからだ。


「『水よ、その清廉なる身で敵を貫け』!」

 私が出せる最大数をイメージし具現化、それをエスカルーナへと飛ばす。魔物たちはことごとく串刺しになり、先程のように次々と息絶えていった。


 ……よし、これで金貨2枚はゲット。


 周りに他の魔物がいないことを確認してから、私は少年と共に地に下りた。


「大丈夫?」

「あっ、ありがとうございました!」

 彼は慌てて私から離れ、ぺこりと頭を下げてくる。私はどういたしまして、と彼の感謝の言葉を受け取った。


「ところで、何であんなことになってたの? こんなところで武器も持たずにいるのも変だし、そもそもエスカルーナって群れを作らないはずなのに」

「あ、えっ……その、あの……」

 街の子供が冒険しに来て魔物に遭遇、それから逃げ惑っていたらいつの間にか、みたいな答えを期待していたのだが、それにしては彼の反応がおかしい。私は眉を潜め、彼に問いかけた。


「……もしかして、言いたくないことだったり?」

「えっと……いえ、大丈夫です。命の恩人の貴方には、聞いてほしいです」

「そう? なら聞くよ」

「はい。少し長くなりますが、いいですか?」

「うん」

 あ、そういえば、さっきは緊急事態だったから、普通に二つの属性を使ってしまった。少年に事情を聞くついでに、口止めもしておこうっと。

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