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四季編 19


 最近の『四季』に対するお問い合わせ第一位は、「テストにお金取るんですか!?」だ。

 これだけだと何を言っているかわからないと思うので、最初から説明しようと思う。



 新しい魔法を完成させた私たちは、とうとうVRだけでなく、RPG作りにも手を出した。

 そのためサイト上で、早めにテスターを募集することにしたのだが。



「……今の勢いだとさ、普通に募集すると、絶対私たちのキャパ越えるよね」



 すでにその時、VRのテストを計三回行っていた私たちの感想は、それだった。

 一回目の募集にきたメールが、六十ほどだった。

 二回目の募集は、百をゆうに越え、百五十ほどだった。

 三回目にいたっては三百を越え、ここから十人ほどを選ぶのは、何というか、胸が痛くなったものだ。


 そして今回。「アイテムを送ってβテストを行う」ということで、今まで場所の都合や、不安があってVRテストに来れなかった人も応募してくる可能性があった。

 そのため、本当にファンタジーな世界を体験したい人を選別する、という意味を込めて、「いくらかかかりますよ」ということにした。

 もちろんその“いくらか”の中には、配送代も含まれている。さすがに魔法で送るのは、怪しまれそうだし。配達記録とかが残るご時勢なのだ。どこからともなく現れた荷物! なんて、疑ってくださいと言っているようなものだ。



 だから、中学生でも払いやすく、同人ゲームに相応しいかな、と思った金額――千円という値段設定にしてみたわけだが。



「……ここまで言われることか?」

 奈津に転送してもらったメールを前に、私は溜息を吐く。メールには、「見損ないました」だとか「四季は金の亡者だったんですね」だとか「詐欺じゃん」だとか「テストに協力してやったんだからタダでやらせろ」だとか「今まで無料だったのに意味がわからない」だとかいう内容が、目の滑る文章で書かれていた。

 ちゃんと理解して応募してくれる人だっている。むしろ、そちらの方が人数が多い。だけど、こういう内容のメールを貰うと、正直へこんでしまう。


 まあ、こういう人たちは、いざゲームをやった時も問題を起こしそうだし、今の内に選別出来てよかったかな、と思うことにする。というより、そうやって思わないと、やってられない。



「はあー……」

 パソコンの前でぐったりする私に、母が追い討ちのように話しかけてくる。



「そんなのでぐったりしてたら、これから大変よ、アンタ。客商売するつもりなんでしょう?」

 母は、今私たちが『四季』として活動していることを知っている。というか、色々とゴソゴソやっていたら、いつの間にかその一端がバレていた。

 そのため、母には全てを洗いざらい伝えてある。あらそう頑張りなさい、で終わったが。



「……んー、だよねえ」

 これから先、もしも正式にサービスを立ち上げたら、お金はちゃんと取るつもりだった。月額になるか、年額になるかはわからないけれど、対価はほしい。というより、対価が無ければ、ゲーム市場が壊滅する恐れすらある。そこまで出来のいいものが出来るかはわからないが、VRというだけで一極集中する可能性は高いのだから。


 また、もしもそこまで規模が大きくなった時は、VRのための会社を立ち上げるつもりだ。他のゲーム会社に委託するということも考えたけれど、偽VRが魔法である以上、どう考えても無理だ。そもそも、そんな人脈ないしね。


 今時、一円からでも会社は出来るらしいし、経理担当の冬香が何とかしてくれると思う。……いや、最終的にはどっかの経理事務所?に頼むと思うが。そしたら、所得税やら、法人税うんぬんも事務所にやってもらえるし。

 法律関係も怪しいから、そっちのチェックもどこかに頼みたい。特定商取引うんぬんは、同人規模だし、今はまだ記載無くても大丈夫だと思う。PL法はパソコン周辺機器には適応されないし……VRの道具はどうか知らない。あと抵触するものってあるんだろうか……私の調べた限りではこれくらいだったけど。



 と、そんなことをグダグダ考えながら、私はパソコンの電源を落とす。



「ねー、お母さん」

「なによ?」

「お母さんも、ゲームやってみない?」

「私はいいわよ~。あっ、でも、海外旅行はしたいわあ!」

 私は思わずずっこけた。

 パソコンを置いてあったデスクに、ごとん、と顎を打ち付ける。



「……ゲームから、どーして海外旅行に話が飛ぶの」

「だって、アンタの魔法でどこにでも行けるんでしょう? ハワイ連れて行きなさいよ、ハワイ」

 我が母ながら、野望が小さいと思った。いや、ハワイって大きいのか? 最近、自分の感覚がずれているようで、良く判らない。



「その内考えておくよ」

「はいはい、宜しくね~」

 母ののんきな言葉を背に、私はリビングを後にするのだった。

 それにしても、ハワイか。……南国っぽい異世界にバカンスもいいなあ。軌道に乗ったら、またみんなで行こうかな、界外旅行。







 一つの世界を作る。

 それだけ聞くと、まるで神様みたいだと思う。

 実情は、物凄く泥臭い作業なんだけどね。



「モノ、ジーナ、トリィはそっちお願い! テトラとペンタは私の方を手伝って!」

 エルフの姿をした五人(内訳・女三人、男二人)が、私の指示に従ってテキパキと動く。私は、魔法でログハウス風の家を作った後、最後に呼んだ二人に内装を任せた。



「さて、次はっと……」

 小さく声に出してこれからの予定を確認しながら、今頃同じ世界にいるであろう、他のみんなのことを考える。

 ……みんな、頑張ってるのかなあ?



 ゲームを作るにあたり、まず私たちは「RPGに必要なものは何か」と考えた。

 きっと答えはたくさんあるだろう。

 世界。街。NPC。モンスター。スキル。魔法。ストーリー、イベント。

 はっきり言って、どれも作り上げるのは大変だ。



 まず、世界。これについては、人や魔物の生息しておらず、しかし自然に満ちた世界を探した。そして、ちょうど都合の良い世界を見つけた私は、その世界に他の生命体が居ないかを調べた。


 すると精霊らしきもの(どちらかと言うと霊魂っぽい?)が居たので、ゲーム作りに協力してもらうことになった。

 ぼんやりとした意識しか持っていない彼らは、私が人形の身体を提供するといったところ、一も二も無く手伝うと言ってくれた。元来遊び好きの彼らは、人形と言えど肉体を持てることがとにかく嬉しいらしい。



 そうして生まれたのが二十人。

 エルフ型、ヒト型、妖精型、アンドロ型が五人ずつ。

 エルフ型にはそれぞれ、モノ、ジーナ、トリィ、テトラ、ペンタという名前を付けた。奈津たちもそれぞれ名前をつけて、こき使っていることだろう。……いや、同意の上でだよ?

 これからも、どんどんと人数は増やしていくつもりだ。それがこの世界における住民代わり、というわけ。



 次にモンスター。これについては、世界の「設定」を書き換えて、魔物を作った。作ったといっても、情報体みたいな感じだ。思考も何もない、ただ存在するためだけに存在するもの。

 多少の罪悪感はあるものの、今まで創造魔法で作っていたものと、何ら変わりはない。ただ、動くという一点のみが違う。そして倒されると、粒子となって消えるようになっている。



 街は、精霊の協力の下、それぞれに割り当てられた国を作っている真っ最中だ。三人には創造魔法をめいっぱい込めた道具を渡し、自由に、自分の好きなように作っている。まるで気分はリアルシムシティ。みんながどんな国を作るのか、今から楽しみだ。



 そしてストーリー、イベント。

 これについてはまだ保留だ。まだ完全に設定が出来上がっていないし、まずは世界を作り上げることを優先しているからだ。それに、イベントといっても「○○を持ってきたら××に案内してね」なんて話を精霊たちに通すだけだろうし。



 そして最後に、スキルと魔法。これは私の仕事。1から10から100まで全部人形や魔法に組み込むのだ。……正直これが一番しんどい。一個や二個組み込むならいいけれど、その数は膨大で、正直投げ出したい。そして今投げ出してこっち来ている最中だったり。

 というか、半分くらい出来たら投げ出そうと思うんだ。残りの半分は、後々実装ってことで。



「ハルさんハルさん、こっち出来ましたよ~」

 精霊の一人が、ぼうっとしていた私を呼ぶ。それに呼応するように、他の精霊達からも、終了の声が聞こえてきた。



「はいはーい。じゃあ今日はみんなは終わりにしよっか?」

「おっ、終わりか!? ……なあ、ハル、持ってきたか!? 持ってきたのか!?」

「勿論持ってきたよ~。今日はケーキにしてみました~」

 バッグからひょい、と白くて四角い箱を取り出す。それを見た五人の目が、キラキラと輝き出したのを見て、私は思わず笑ってしまった。



 彼らは、甘味が大好きだった。いや、大好きになった、というべきか。

 食事を取る必要性はなく、また、身体のない彼らでは食べることが出来なかったため、今までも何も食べたことが無かった。たまたま私が「疲れが取れるよ」と飴を渡したことから、彼らの甘味中毒は始まった。

 チョコやらお団子やらクッキーやらと、色々持って来続けて、今日はケーキを持ってきたのだった。



「はうっ、これすっごい美味しい~! ふわふわの土台としっとりな白いの~! それにこの赤いのも甘いよう~!」

 精霊の内の一人が、浮かれた声で言う。

 なんというか、彼女たちを見ているだけで、こちらの頬が緩む。


 五感を飛ばすという魔法もちゃんと上手く行ってるみたいだし(元々精霊に五感があったのかは知らないけど)、人形も上手く動いてる。精霊たちの存在は、働き手としても、テスターとしてもありがたかった。



 でも、それ以上に。



「ハル、今度は何持ってきてくれるんだ!?」

「私はこないだの、オダンゴ?がいいっすな~」

 口の横にクリームをつけながら、期待に満ちた瞳で見つめてくる彼らと、こうやって話したり、友達になれたのが、凄く嬉しかった。



「じゃあその分働いてもらうよー!」

 あ、友達になったのと、こき使うのは、また別問題だから。

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