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四季編 18

「……でき、た……」

 ぎゅうっと手に握り締め、歓喜に震える私。

 魔法を作り始めて、苦節一月半。亜空間の中で作業をしているので、実質体感はその3倍以上!

 ようやく、ようやく新しい魔法が出来た!



「あー、あー、あー!」

 嬉しさのあまり、ぱたぱたとその辺りを跳ね回る。

 きっと、これくらい大した苦労なんじゃないと思う。世の中にはもっともっと苦労して、何かを作り上げる人がいるんだと思う。でも、私としては、結構頑張ったのだ。


 まず最初に、ルナさんから借りた文献を読んで、視界を別の場所に飛ばす魔法を再現した。異世界の魔法という、似ているけれど少し違うものを再現するのは時間がかかったけれど、レベルもそれなりに上がりつつあったから、出来ないことはなかった。ちょっとだけ、フェンリルに手伝ってもらったけど。


 そこからは、その再現した魔法を改変していく作業だ。視覚→視覚+聴覚→視覚+聴覚+嗅覚……というような順序で改変した。改変はいつもやっているので、そこまで苦じゃなかった。そしてようやく、身体の感覚を全て、よそに飛ばす魔法が出来上がったのだ。


 その後は発想を転換して、「物を操る」んじゃなくて「思考に反応して動く人形」を作れないかと奮闘した。人形作成の魔法を再び改造するその試みは、幸いなことに上手く行き、とうとう今、新しい魔法が完成したのだ。



 魔法の名前は「バーチャルリアリティ」。

 そのままだけど、もうこれ以外の名前が浮かばなかった。



「でもっ、まだ完成じゃないよねっ! まだまだ見直さなきゃいけない部分もあるしっ!」

 浮き足立った声のまま、何とか自分を制す。

 目標とする、世界を越えるほどの出力は、まだこの魔法にはない。今は現実世界や、亜空間で遊ぶのが限界だ。だから、まだ手を加えなきゃいけない部分は多い。

 だけど、今はこの新しい魔法を作った自分を褒めてあげたい。というか自画自賛でべた褒めしておこう。よーしよしよしよし。



「……うーん、とりあえず明日、VR魔法ベータ版が出来たことを教えて、家に集まってもらおうかな。あ、ビックリさせたいから、集まるまでは魔法のことは秘密にしようっと!」

 私は高鳴る胸を押さえながら、亜空間から現実へと戻る。

 にやにやしたまま、ベッドの上でDSと、ミの国とか言うゲームソフトに付属していた魔法の本?を横に並べ、睨めっこしていたフェンリルを抱き上げる。



「な、何じゃ!?」

「フェンリル~! あははは、聞いて聞いて~!」

「おいこら、チハル!? ワシを振り回すなっ! こらっ! やめっ……!」

「あっははははは~! あのね~?」

 両手で鷲掴んだまま、右足を軸にして、ぐるぐるとその場を回る。それは、フェンリルがあまりの気持ち悪さに、ぐったりとするまで続いた。







 次の日、放課後。学校で約束した私たちは、私の家に集まっていた。



「ごほん、今日は重大発表があります!」

「とうとう魔法が出来たんでしょー?」

 咳払いして胸を張り、口を開きかけた私に、奈津が笑いながら茶々を入れる。私はがっくりと肩を落とし、恨みがましく彼女をじっとりとした視線で見た。



「お見通しですか……」

「そりゃあ、昨日まで「うーん」とか「はぁ~」とかうじうじしていた人が、今日になっていきなり「お早う今日も良い天気だね! 輝いて見えるよ!」なんて言い出したら、誰でもわかるっての。ねえ、あーちゃん、ふーちゃん?」

 話を振られた亜紀は気まずげな笑いを浮かべて頷き、冬香は「そうね」なんてクールに一蹴してくれた。

 私はさっきがっくりと落とした肩を、更に落として、だらんとカーペットに倒れこむ。



「なら学校で言ってよお~……こっぱずかしいじゃん」

「あはは、つい」

 語尾に「かっこわらい」が付きそうな言い方だったんですけど。

 私は彼女の反応にむくれながら、むくっと起き上がり、奈津にほいっと指輪を渡す。



「ちい、何これ?」

「新しい魔法が込められた指輪」

「おお!」

 キラキラと目を輝かせる彼女に、私はおざなりに指示を飛ばす。



「じゃあ、奈津。それを付けて私のベッドに寝て?」

「ほいほい」

 奈津が私のベッドに腰掛け、足元の方で畳まれている掛け布団まで引っ張ってこようとしていたので、私はていっとチョップを頭に落として止める。



「そんな熟睡する姿勢にならなくていいから!」

 私の言葉に、奈津は「えー」なんてぶーたれながら、結局はベッドの上で横たわるに留めた。



「じゃあ、後は「コネクションスタート」って言った後、聞こえる声に従って進めていってね」

「……恥ずかしくないか、その始め方」

「う、うるさいなあ! 早くはじめてよ!」

 照れくささに、ぐいっと彼女の脇腹を揉む。奈津は「うひゃあ」と身体を捻らせた後、「コネクションスタート」と言って魔法を始動させた。そのまま眠りに落ち、ぴくりとも動かなくなった奈津。



 ……綺麗な顔してるだろ、それ、生きてるんだぜ?



「じゃあ、奈津が魔法を体験している間に、結局どんな魔法を作ったのか二人に教えておくね」

「そうね。奈津が起きるまで、これからの方針を決めましょうか」

 というわけで、三人で色々と話し合う。魔法についてとか、魔法の改良についてとか、今度のテストは楽そうね、とか。だけどやっぱりそこで問題になるのは、会場についてだ。



「どうしようかしらね?」

「また公民館、借りる?」

「でもそうしたら、また少人数だよ?」

「うーん……別にさ、少人数でもいいと思うんだよね」

「どういうこと?」

 私の言葉に、亜紀が不可思議そうな顔で問いかけてくる。



「ほら、今はもうアイテムだけでどうにかなるから、何度か小規模に試した後は、大々的に配ってベータテストしちゃおうかなって」

 私の意見を言えば、亜紀と冬香の顔が、不安げに曇る。



「それって大丈夫……なのかな? 魔法ってばれたりしない?」

「それは、大丈夫なようにするよ!」

 自信を持った様子を貼り付けて言えば、二人は不安と期待がない交ぜになったような表情を浮かべる。そんな二人に、私は畳み掛けるように言った。



「それに、最終的な目標はたくさん広めることなんだし。今から練習練習!」

「練習って、それで失敗したら大変なことになりかねないよ?」

「……でも、そうかもしれないわね。最終的な目標は多くの人と楽しむことなんだし、魔法バレを心配してても仕方がないのかもしれないわ」

 冬香が溜息混じりで言ったちょうどその時、寝ていたはずの奈津がガバリと起き上がる。あまりにいきなり過ぎて、私たち全員がびくりと身体を揺らしてしまった。

 奈津は少しの間ぼうっとしていたみたいだが、自分の置かれた状況に気付いたのか、ハッとしてこちらを見る。



「おはよ、奈津。どうだった?」

「うん、楽しかったよ! っていうか、ナレーションの声がちいで笑った。『では、貴方の分身を作成しましょう』とか、超ノリノリですねえ! 声優志望ですかなー?」

「う、うるさいっ!」

 からかうように自分の所業を次々と口に出されて、私は赤面する。

 だってしょうがないじゃないか! 声優なんて簡単には雇えないし、ネット声優って手もあるだろうけど、すぐに見つかるとも限らないし……っ!



「っていうか奈津だって昔、一緒に漫画の読み合いっことかしたじゃん! 録音までしてさあ!」

「なっ……そんなすっごい昔の黒歴史取り出してこないでよーっ!?」

「言い出したのはそっちでしょー!?」

「ちいなんか、自称『春の妖精』だったくせに!」

「そ、それはっ、千春って名前だったから、小さいころから言われてて、それでっ!」

「ま、まあまあ、千春ちゃん、なっちゃん、それくらいにして? ね?」

「……亜紀、ほっとけばいいのよ」

「で、でも……」

 亜紀がおろおろと、冬香が呆れたように息を吐く傍らで、私と奈津は睨みあう。



「そういえば、奈津ってば『‡黒姫のあ‡』ってハンネ使ってたよね! 絵板に投稿するときとか! 『ちょっと失敗しちゃいました(汗)』なんて書いて! あんなの顎尖りすぎだっての!」

「ああああっ、うう、うるさいっこの二重人格! 『あ、あのさ……私、昨日何か言ってなかった、大丈夫? その、昨日は……あっ、なんでもないの、なんでもない』とか見えっ見えのこと言ってたじゃん!」

「あっ、あれは、前日は風邪で熱が出てたから変なこと言ってないか気になっただけ! 別に二重人格とかじゃないからっ!」

「はーん、どうだかねー? 『傷ついた妖精が、私の中にいるの……』とか言ってた気がするけどなー」

「ぎゃあああああ、やめてっ、やめてえええ!」

 そのままお互いがお互いの黒歴史をあれやこれやと引っ張り出し(伊達に小学校からずっと一緒じゃない)、お互いのライフがゼロになるまで、戦いは終わらなかった。

 ……だがしかし、第一次黒歴史戦争ファーストブラックヒストリカルウォーがもたらしたダメージはあまりにも大きく、私たちはしばらくの間、その爪痕に悶え狂うしかなかったのでありました、ちゃんちゃん。そして一番得をしたのは、私たちの黒歴史(弱み)を握った亜紀と冬香だと思う。



 閑話休題。



「……でもさ、こっちの道具だとやっぱり、自分で身体を動かすのと違って、少し難しいわー。亜空間で走ったりしただけなのに、疲れたもん」

「うーん、それはしょうがないかも」

 お互い冷静になった私たちは、改めて魔法について語り合う。

 やっぱり身体そのものを動かすのとは、少し違う感覚になってしまう。「右手を動かす」というような、明確な意思を持たないと、ちゃんと思ったように動かないのだ。少し慣れてしまえば、まるで自分の身体を動かしているように、動かせるようになるけれど。

 だが、それはしょうがないだろう。むしろリアルすぎるよりは、こっちの方がVRっぽくていいんじゃなかろうか、なんて。言い訳なんだけど。



「いいなあ、なっちゃん。千春ちゃん、私にもあとで試させてね」

「勿論だよ! というより、皆に配るから、動かす練習しといたほうがいいよ」

「うん、そうする! ……あっ、そうだ! 千春ちゃんの魔法も完成したし、ここでお披露目しようかなっ!」

「お披露目?」

 私は彼女の言葉に首を傾げる。亜紀はにっこりと笑って、カバンから一冊のノートを取り出した。







「クォーターという世界には、四つの国があります。エルフなどの亜人が治め、春を司る国リーンディア。アマゾネスなどの人が治め、夏を司る国アグナ。妖精などの精霊が治め、秋を司る国ロムネスカ。そしてアンドロイド、つまりは超古代文明の遺産たちが治め、冬を司る国クランク。ユーザーの人たちには、このどれかの種族に属するキャラになってもらって、それぞれの国に所属してもらうんだ」

 亜紀がとうとうと語るそれに、私たちは耳を傾ける。

 彼女が語るのは、VRの舞台になる世界だった。



「その世界のどこかには、『四季の楔』という秘宝が眠っているとされていて、各国の王はこの遺産を探しているの。ユーザーの人たちは、国が運営するギルドとかでクエストと呼ばれる依頼をこなしていく。そうしていく中で『四季の楔』の秘密を知っていく、って感じなんだけど、どう?」

 亜紀の話は、聞いているだけでワクワクした。有りがちなのかもしれない。だけど、それは私たち『四季』がこれから作り上げる世界なのだ。ワクワクしないわけが無かった。



「うん、すごく素敵だと思う!」

「私もそう思うよー!」

 私の隣で、奈津も言う。

 冬香も楽しげな表情で笑っていたので、きっと彼女も同じ考えなのだろう。



「わ、本当? よかったぁ~! 一応、これに合わせて、魔法案とかスキル案とか、冬香ちゃんと一緒に考えてきたんだ!」

 冬香が何も言わなかったのは、既に設定を知っていたからか。



「これよ」

 冬香が差し出したルーズリーフには、ぎっしりと魔法やスキルの案が書かれていて。

 ここまで考えるのはかなり大変だったろうに、楽しかったわよ、なんて言って静かに笑う彼女たちに、頭が上がらない。



 このゲームの名前は、「クォーターズ・オンライン」。直訳すると四半期とか、四分の一とかになっちゃうけど、そうじゃない。

 これは私たち四人がそれぞれの手で作り上げる、私たちの世界なんだ。

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