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四季編 17

「お久しぶりです、ルナさん」

「久しぶりだな」

 いつもの酒場で落ち合った私たちは、奥のテーブルを選び、向かい合って座る。

 彼女の顔色は、前とは比べようもなく良く、私はほっと安心した。

 定型句に近い簡単な挨拶を交わして、早速本題に入る。



「それで、いきなり魔法について聞きたいなど……一体どうしたんだ?」

 ルナさんがテーブルに肘をつき、組んだ手に顎を置き、こちらをじっと見つめる。私は「そんなに大したことじゃないんですけど」と前置きしてから、口を開いた。



「新しい魔法について研究してるんです。でも、全然上手くいかなくって。なので、参考になる魔法がこっちに無いかな、と思ったんです」

「なるほどな」

 一度頷いて、彼女は前のめりだった姿勢を戻す。今度は椅子にどっかりと深く座り直してから、問いかけてきた。



「それで、どんな魔法なんだ?」

「えっと……人形を操って、その人形と視界を共有する、みたいな魔法が作りたくて。そういう魔法があれば、危険な場所でも救助活動とかしやすいかな、なんて……」

 後半は取ってつけたような言い訳だった。

 だが、まさか遊びに使いたいんです! なんて言えたものじゃないし。言ってもルナさんはチハルらしいなんて言って笑うだけだろうが、私だって体面は保ちたい。保つ体面なんか最早無いかもしれないが。



「ふむ……少し違うかもしれないが、確か、遠見の魔法なら光属性にあったはずだな」

「本当ですか!?」

 遠見の魔法ということは、つまり視界を別の場所に飛ばすということだろう。作りたい魔法は、感覚を人形に飛ばし、それを操ることだ。その魔法が応用出来れば、やりたいことの半分は解決できそうだ。



「城仕えの光属性の魔法使いなら使えるはずだ。だが、戦術魔法だからな……教えてもらえるかは判らんぞ」

「うーん……適当な魔道具渡して懐柔とか……いや、でもあんまりそういうのは広めたくないし……」

 アルバートさんやルナさんには渡しているけど、悪用しないと信頼できるからこそだ。渡すものによるだろうが、下手な人間に渡せばどうなるか判ったものじゃない。



「確かに、下手に広めると大変なことになりかねんな……というより、ちゃんとそう言った自覚があったんだな」

「いや、私は元々、あんまり力を見せたくなかったですよ? 誰かに巻き込まれたので、色々やるハメになりましたが」

「誰のことだ?」

「わかってて言ってますね? ……もういいです」

 彼女があまりにも真顔だったので、私は訴えを取り下げた。

 何だか、ルナさんが妙にしたたかになっている気がする。色々あったからだろうか?



「……本か何かに、その魔法について書かれてないですか?」

「あるかもしれないが、魔法自体が門外不出なんだから、書かれている本だって持ち出し禁止だぞ」

「うーん。そうですよね。困ったな」

 手掛かりが近くにあるかもしれないのに、手が出せないのが酷くもどかしい。



「ルナさんの権限でどうにかは……無理ですよね?」

「どうにかしても良いが、対価は貰うぞ?」

「それはいいですけど……というか、やっぱりルナさん、ちょっと変わりましたね」

 前の彼女なら、見返りなく二つ返事で了承していたような気がする。私が率直に思ったままを言えば、ルナさんは少し口元を歪めて笑った。



「そうか? ……だが、少し前まで、父上の代わりに、腹の見えない奴らとやりあってたからな。チハルの言うとおり、少しは変わっているかもしれない」

 具体的なことは何も判らないが、彼女が大変な思いをしたことだけはわかる。何か言おうと思ったが、私が何を言っても安っぽくなる気がして、何も口に出来なかった。



「私のことはいいさ。ところで、どうするんだ?」

 口を噤んだ私に、ルナさんが殊更明るい口調で言った。



「ちなみに、対価は何がいいですか?」

 聞けば、ルナさんが腕を組み合わせて考える。「あれにするか、いやしかしあれの方が急務か」なんてぶつぶつと呟いていたので、何を作ってもらうか考える、というよりは、どれを作ってもらうか考えているのだろう。

 ……私に色々と頼む気まんまんだったな?

 別に嫌ではない。ただ、少し前までのルナさんと違うなと感じるだけだ。

 そういやルナさんの母親は腹黒だっけ。ルナさんにもその因子が僅かでも受け継がれているのだろう。今まで発芽はしていなかっただけで。



「そうだな……これみたいに、すぐに連絡が取れるようなものがいい。それぞれの街に置きたい」

 ルナさんが、手につけているブレスレットを指差しながら言う。つまりは、電話のような通信網を構築したいということか。

 それくらいなら、さほど苦労せずに出来るだろう。ついでに、空気中の魔力を集めて、半永久的に使用できるようにしてみようかな、なんて余裕のあることまで考えられるくらいには。

 悪用の危険はないのだろうか、と一瞬考えたが、ルナさんが言い出したんだし、彼女の方できっちり管理してくれるはずだろうと思い直す。



「わかりました。次に会うときまでに作っておきます。いくつ必要ですか?」

「とりあえずは、五つほど頼もうか。試験的な導入に使いたい。ああ、チハルの名前は出さないから安心してくれ。遺跡から発掘された、とでも言っておく」

「ええ、それでお願いします。あ、ルナさんの方は、どのくらいの期間が必要ですか?」

「一日あれば十分だ。城の魔法使いに話を通すだけだしな」

「じゃあ、また明日会いましょうか」

「ああ、私はそれでいいぞ」

 というわけで、話は纏まった。


 その後、お腹を減らしていた私が、このままここで食事を取ることにすれば、ルナさんもお酒を飲みつつ、それに付き合ってくれることになった。

 料理が来るまでの間、私たちは談笑に興じる。



「そういえば、ルナさんって、何カップあるんですか?」

「……カップ?」

「えっと、胸のサイズの話です」

「ばっ……なっ、チハッ……」

 かぁあ、と頬を瞬間沸騰させるルナさん。したたかになったと思ったが、こういう話題には弱いらしい。私は意地の悪い笑みを浮かべて、更に続ける。



「ルナさんってスタイルいいじゃないですか。どれくらいあるのかなあって、前から気になってたんです」

「……知らん!」

「ってことはこっちでは体系化されてないのかな? こっちの世界では、胸のサイズは体系化されてて、AとかBとかで分別されるんですよ。ちなみに私は……」

「まだその話を続けるのか!? ほ、ほら、チハル、料理も来たぞ! さっさと食え!」

 ルナさんの言うとおり、軽く振り向けば料理が運ばれてきていた。頼んだのは、ルミーナのサラダと、グレナデという魚のムニエル、それに焼きたてパンだ。うんうん、どれも美味しそう。

 ルナさんはサラダを頬張る私を、胸元を押さえながら恨みがましそうな目で見る。



「何ですか?」

 フォークを手に持ちながら、首を傾げる私。



「……お前への認識を、私は改めねばならんのかもしれない」

「いや、そんな大袈裟な」

 しかしルナさんは、どこか不機嫌そうなまま。

 ちょっとからかい過ぎました。ごめんなさい。







「ご馳走様でしたーっと」

 ルナさんに胡乱な目を向けられながらも、食事を終えた私。

 そんな時、私はふっと思い出して、ルナさんに問いかける。



「そういえば、グレイさんが怪我してましたけど、どうされたんですか?」

「……何故チハルが知っている?」

 怪訝な目で見られて、私はギルドで受けた依頼と、彼の様子について話した。

 するとルナさんは、説明を続けていく内に、どんどんと鬼気迫る表情に変化していって、私は思わず引いてしまう。



「グレイめ……」

「あ、あの……どうしたんですか?」

「……ふふふ、私の言いつけを破るとは。いい度胸じゃないか」

 がたんと音をさせて、椅子から立ち上がるルナさん。私はたじろいで口を開こうとするが、彼女に先を越されてしまう。



「チハル、すまない。急用が出来た。また明日、今日と同じくらいの時間にここで会おう。それでは」

 そしてテーブルに銀貨を一枚置いた彼女は、早歩き……いや、小走りに近い速度で酒場から出て行ってしまう。

 残された私は、ぽかーんと背を見送ったのだった。



 翌日、再び酒場で落ち合ったルナさんに聞いたところ、数日前、小競り合い程度の戦闘があったらしい。その際にグレイさんがルナさんを庇って利き腕を骨折してしまったとか。

 最近、色々あったこともあり、あまり休みを取っていなかった彼に、それにかこつけて休みを取らせたわけだが、わざわざギルドに頼んでまで怪我を治してしまった挙句、書類整理までやっていたことがばれてしまった、というわけだ。


 雷を落としてやった、と笑うルナさんに、私は背筋に冷や汗を掻いてしまう。

 次に雷を落とされるのは、私だ、と……。

 嫌だぁあああ~~!

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