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四季編 10

「んー」

 夜でも明るい亜空間の白い空の下、自室から持ち込んだクッションを下敷きに、私はうつ伏せになって魔法ノ書を読み耽っていた。



「そろそろ改造する魔法も少なくなってきたなー」

 ごろごろと寝転がりながら、そうぼやく。

 最近の夜の日課は、魔法の改造だ。性質を変える魔法や空を飛ぶ魔法、自動防御のための魔法など、様々な魔法を改良している。


 ちなみに何故、亜空間内で行っているかというと、この魔法もすでに改造済みで、中の時間が外界の20分の1になっているからだ。これがあれば夜更かししても、次の日の学校に影響が出ず、とても重宝している。

 ちゃんと自分の性質も弄って老化速度を20分の1にしているため、浦島現象も心配はない。これって女の敵だよなあ、とちょっとは思ったものの、それはちょっとした役得ということで。それに外に戻ったら、ちゃんと老化速度も戻してるし。



「攻撃魔法はなあ……」

 様々な魔法を改良しているものの、攻撃魔法に関してはノータッチだった。別に今以上の改造の必要性を感じなかったからだ。むしろこの世界では不要な魔法であるわけだし。


 しばらく、んー、と考えていた私は、あ! と思いつく。



「そうだ、繋がりの鏡を改造しようっと!」

 今後、VRテストのために使うことになるので、目立たなくなるように改造してみよう。そう思い立った私は、えいしょ、と立ち上がった。



「さてさて、どうやって改造しようかなあ」

 うきうきと鼻歌交じりに魔法ノ書をめくる。今日もまた私の体感での一日は、28時間くらいになりそうなのだった。







 ということで次の日。

 学校が終わった後、三人を家に招待して、昨日の改造の成果を見せることにした。

 ちなみにクオくんは戸籍関係で引っ張り出されているので今日は欠席。フェンリルはうちの近くのTSURUYAで借りてきた、ポキモンの映画を一作目から順に見ているところだ。どうやら家にあった一作目をやって、ハマったらしい。うん、面白いよねポキモン。4Vハピネスさんで、どくどく+たまご産み+身代わり+小さくなる、という嫌がらせ耐久で奈津に渋い顔されたのはいい思い出。鋼出されて詰んだけど。あ、あとハピとタブンノさんは私の嫁、異論は認める。



「ちい、今回は何やったの?」

「ふっふっふー。これを見よ!」

 妙な笑い声とともに、ずいっと右手を前に伸ばす。すると、腕はその途中から消えてなくなった。消えたというよりは、見えなくなったという方が正しいけど。



「うえっ!?」

 奈津が驚く声を上げる。私はその期待通りの反応に、にやにやと笑った。



「どう、面白いでしょう?」

「いや、面白い以前に気持ち悪い」

 奈津の声を震わせた突っ込みに、ちょっとへこむ。

 まあ、言うとおりだけどさー、もうちょっとさー。内心でそんな風にぶつぶつと愚痴った。



「で、千春? それは結局、どういう魔法なのよ?」

 冬香の問いに、腕を引き戻してから答える。



「んっとね、異世界に行くための魔法を改造してみたの」

 以前は異世界との境界を“鏡”という形でしか出現させることが出来なかったのだが、異世界に繋がる境界だけを出現させられるようにしてみたのだ。

 つまり今ならば、「ドアを開けて外に出たらいつの間にか異世界に! 後ろを見たらドアも無くなってて何故!?」という、小説などでよくあるトリップに必須な状況が簡単に作れたりする。

 今度、奈津にやってみたい。でも行方不明系は、私のこともあって勝手に試したら怒られそうだから、ちゃんとOK貰ってからにしよう。



「なるほど。それで、その魔法が千春の腕が切れた辺りにあるっていうことね。見えないけど」

「そういうこと!」

 私は冬香の問いに頷きながら、その境界に手を突っ込んだり抜き出したりしてみる。ちなみに境界に飲み込まれた部分の切断面は、真っ黒に見えるらしい。骨とか筋肉とかが見えなくて良かったと、ちょっと思った。



「ねえ、千春ちゃん? ちなみにそれ、どこに繋がってるの?」

「あ、良くぞ聞いてくれました! この先には、魔法で作ってみた偽VR施設があるのです!」

 えっへん。そんな風に胸を張ってみれば、奈津がすごーいと返してくれる。棒読みで。他の二人は特に反応してくれなかった。泣きたくなった。



「……ってことで、皆にもチェックして欲しいんだ」

「わかったわ」

「OK!」

「うん、行こう!」

 三人が各々そうやって同意してくれる。というわけで、偽VR施設へ出発しんこー! なすのおしんこー!






 偽造VR施設を作ったのは、クオくんが居た世界とは、また違う世界だ。VRテストの途中で誰かに見つけられて侵入されても困るので、生き物が居ない世界を見つけ、そこに建造してみた。建造と言っても魔法だけど。



「ってことで、こんな感じ。どう?」

 彼女たちを案内した場所は、ベッドが三つと、机が入るくらいの規模の部屋だ。

 まだ、これ以外の個室はまだ作っていないが、三人からOKが出てからあと四つ作ろうと思っている。

 この部屋を、実際の公民館の部屋にロッカーか何かで道を作って、その途中から改造した『繋がりの鏡』で転移させればいいはず。ちょうど角とかに設置すれば急に消えてもわからないだろうし。


 小部屋の中には、色とりどりの配線がごちゃごちゃと伸ばされており、パソコンらしきものも二台設置してある。そしてベッドの上には配線が繋がれたヘッドセットが一組ずつ。ちなみに手抜きしたがために窓がないので、今は魔法で作った光で部屋を照らしている。

 亜紀が撮って来た写真を元に、壁や床を合わせて作ってみたわけだが、中々の出来だと思う。自画自賛。



「いいと思う! っていうか凄いそれっぽい!」

「私もっ、私もそう思う!」

「私は窓も何もないのが気になるけど、テスターの人たちは、そこまで気が回らないでしょうね……うん、いいんじゃないかしら」

 どうやらOKらしい三人の言葉に、内心でガッツポーズを取る。自画自賛とはまた違う達成感に、私は満面の笑みを浮かべた。



「よしっ! OKも出たことだし……これからどうしようっか? まだ4時だし」

 今日の学校が終わったのは3時だったので、下校にかかった時間も考えると、まだ四十分ほどしか経っていないことになる。まあ、改造した魔法とこの部屋を見せただけなので、それくらいが妥当だろうけど。



「ねえねえ、千春ちゃん。私、このまま異世界を探検してみたい!」

「お、いいねえ!」

 亜紀と奈津の言葉を受け、私は冬香に、どうする? という視線を向ける。そうすれば彼女も同意するように小さく頷いたので、私はそうだなあ、と考える。



「……えっとじゃあ、私が行ってた世界に行ってみない?」

「あ、行ってみたい!」

「ちいが美人だって言ってた……ルナさんだっけ? その人も見てみたいしね」

「……でも、王女でしょう? 簡単には見れないじゃないかしら?」

 三人の言葉に、首を傾げながら考える。彼女がどこにいるか判れば、酒場なんかに呼び出せると思うけど。それに、私も色々話したいことあるし。



「んー、わかんないけど、見るくらいなら出来るんじゃないかな。ただ、話したりは、一度、ルナさんに話を通しておかないと無理だろうし、私が話してるところを遠くで黙って見ることになると思うけど」

「それでもいいよー?」

 奈津が言う。亜紀も冬香を見れば、二人も同意見のようだ。



「じゃあ、ルナさんの顔を拝みに行きますか!」

「おー!」

 奈津が右手を上げて、嬉しそうな声を上げる。亜紀はそれを見て、同じようにおー! と手を上げた。

 冬香は小さく微笑んで、そんな私たちを見守っていた。

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